約4万人が有料購読するオランダ新興メディア「De Correspondent」が英訳開始へ
4万人近くの有料購読者によって独自のジャーナリズムを展開するオランダ新興メディア「De Correspondent(コレスポンデント)」が新展開を見せました。英訳をはじめるというのです。
コレスポンデントは立ち上げにあたり、8日間で100万ユーロを集めたことや、デザイン事務所とコラボした洗練されたウェブデザインでも話題になり、2013年9月にスタートしたメディア。年間購読料は60ユーロ(8,000円)という設定ながらも、多くの読者を集めています。
2014年3月時点では、29000個のコメント、 記事は180万回閲覧といった規模感です。また、毎日5本程度更新、うち1本がフィーチャー記事というスロージャーナリズムを実践しています。
これまではオランダ語のみでの展開でしたが、まもなく2週間に1本のストーリーが英訳されていくとのこと。じっくり取材した記事や深い掘り下げの記事などが、英語圏にどのように受け止められるのかという反応や有料購読者も増えるのか楽しみです。
We'll soon start translating our best @decorrespondent stories to EN and publish one every 2 weeks. Subscribe here: http://t.co/yNg6jSB9Tt
— Ernst-Jan Pfauth (@ejpfauth) 2015, 2月 3
最近、コレスポンデントのブログが更新されており、「Links are broken. These three alternatives have improved our readers’ reading experience.」というエントリーでリンクの工夫について紹介していました。
3つ紹介されているのですが、どれもリンクを踏んでも新しいウィンドウで開くことをしないタイプ。たとえば「Info card」というものでは、クリックすると詳細がその場で開く仕組みで、人名であったり簡単な解説を要する事柄に使えそうです。
リンクの工夫を見ただけでも読者のことをよく考えているメディアであることはわかります。その他にも多くの工夫がなされていて、小林恭子さんの「記者と読者の関係を変える、オランダの『コレスポンデント』」という記事にもくわしいです。
コレスポンデントのようなスローな記事更新、読者参加、そしてコミュニティがサポートするメディアのかたちは、少しずつ増えてくるような気がします。
ニュースの新しい遊び方・使い方とは? BBCがストーリー実験のプラットフォーム「Taster」公開
BBCが最近、「Taster(テイスター)」というプラットフォームを立ち上げました。「味見する人/味きき役」を意味する名前の通り、実験やコラボレーション、新しいプロジェクトの感触を見るような場として活用するものです。
テクノロジーを活用することで、ストーリーをどのように伝えられるのか。オンライン、ラジオ、テレビなどBBC社内からさまざまなアイデアを探し、横断的なコラボレーションの実現を目指すようです。たしかに種類の違う媒体の人材やアイデアが交わることで、新しい伝え方の可能性は出てくるのかもしれません。
この新表現の実験基地とも言えるようなテイスターのページを見ると、すでに20個近くのアイデアが掲載され、試してみることができます(イギリスのみでしか利用できない場合もあります)。
たとえば、「Body Language」は、ボディーランゲージを用いて詩を伝えるもの。「Kneejerk」は、最新の話題をGIFやVine、ツイートなどのかたちでジョークに変えるというもの。こちらはすでにいくつか作品がアップされています。
「BBC Big Voice Hack 」は、音声認識で利用者がなにか尋ねるとニュースを教えてくれるサービスで、新しいニュースとの出会いを演出できそうです。サイト上では、「ハンズフリーのBBC」と表現しています。
さらには、「BBC Weather Bot」というツイッターのBotもアイデアのひとつ。場所と時間をBotに向けてツイートすると天気予報を伝えてくれるというもの。また、「Your Story」はフェイスブックアカウントと連携することで、自分の成長と合ったタイムラインでその当時のニュースをテキストや写真、動画などで照らし合わせてくれます。
たとえば、ぼくは1990年生まれなのですが、トップにはネルソンマンデラの写真が表示されました。27年間を刑務所で過ごしたあと、1990年に釈放された出来事を知らせてくれます。スクロールしていくと、生まれたときから最近にいたるまで、世界中のニュースと関連づけられていました。イギリスの出来事と多く結びつけられてはいましたが、ニュースとの新しい出会い方、関心をもってもらう方法としては興味深いと思いました。
引き続き、テイスターにはニュースや話題のトピックを身近にしたり、目を向けてもらうための多くの実験的なアイデアが集まるのでしょう。試してみた後に評価することもできます。評価の高いものが実装されたり継続的なブラッシュアップの対象になることに期待したいです。
いまのところアップされているアイデアはどれもサービス的でした。ニュースというものを一度解体してみることで、ニュースの新しい遊び方/使い方/出会い方を演出することにつながり、さらには自分ごとにするためのアプローチが生まれていくのかもしれません。
「自分のコアな部分を高純度でマスに向けて打ち出せるかが表現のキーポイント」 気鋭の写真家の言葉
「読む人の意識を止まらせる誌面を作りたい」
雑誌『BRUTUS』2月15日号の特集は「みんなの写真」。写真は取材での撮影や、普段の記録をインスタグラムに残しておく程度でしたが、買ってしまいました。
写真家のホンマタカシさんが11人の写真家らと写真について語るというもの。冒頭には1991年生まれで広告・雑誌・CDジャケットなどで活躍する気鋭の写真家・奥山由之さん。編集者としても刺激になる言葉が並んでいました。
雑誌というページ数の多い媒体の中では、読む人の意識を止まらせる誌面を作りたいといつも思います。ページをめくるその手を止められなければ、服にすら目が届かない。写真の選び、並び、配置にはとても気を使います。
(中略)
自分のコアな部分を、いかに純度が高いままマスに向けて打ち出せるかが表現のキーポイントでもある。(34ページ)
「読む人の意識を止まらせる」「自分のコアな部分を高純度でマスに打ち出す」といった言葉がウェブメディアではどのように生かせるのか。そんなことを考えています。
また、『POPEYE』のファッションディレクターである長谷川昭雄さんはホンマさんからの「世界的にいわゆる格好いいファッション写真ってもういらないのかな?」という問いかけに対して、以下のように答えていたことも印象的でした。
『ポパイ』でやっているのは、"明日着たい服"を見せることなので、外国のような場所でモデルが格好つけて写るよりも、東京なら東京のままで日常的なことが撮れればいいかなと思っています。(38ページ)
コンテンツづくりでもそうですが、日常風景というか、自然に溶け込ませることで想起させることが大事なのかなと思いました。
「インスタグラムは雑誌に似ている」
川島小鳥さんとホンマさんの対談に加わった銀杏BOYZの峯田和伸さんはさまざまなパンチラインを残していました。たとえば、写真の力について語るところで、動画はその人のリアルを映し出す一方で、写真は声や動きがないのでいくらでも想像することができると発言。「写真のほうが強い」論を唱えました。
最後に紹介するのは、元マガジンハウスの編集者・岡本仁さん。インスタグラムは雑誌に似ていると言います。「写真が大きくフィーチャーされていて、それにキャプションがついていて、本文との組み合わせを楽しんでいくような雑誌」。
そのほかにも、ハッシュタグによるテーマ性のある投稿については"連載"という言葉を充てているなど、インスタグラムは個人の写真共有SNSであるとともに現代のブログであり、日記であり、日常であり、フォローしている人の投稿とフィードを彩ることで雑誌的になるのでしょう。
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「コンテンツとは、わかりそうで、わからないもの」——人を惹きつけるコンテンツのつくり方とは?
「コンテンツとは、わかりそうで、わからないものである」
KADOKAWA・DWANGO代表取締役会長の川上量生氏が2013年に出した『ルールを変える思考法』という本を読みました。主にメディアやコンテンツにかかわる、第3章「人を惹きつけるコンテンツのつくり方」から紹介したいと思います。
本書のなかで、川上氏はコンテンツとはなにかという問いを考え続けた末に、「コンテンツとは、わかりそうで、わからないもの」という定義にたどりついたことを紹介。わかりそうで、わからないものだから気になり、記憶にとどめるという仮説を立てています。
これはコンテンツづくりに絶妙なバランスが求められることを示唆します。わかりやすく簡単なものでは、感情や知性をコミットする余白がなく、逆にわからなすぎるものでは、無関心となるからです。どのポイントにコンテンツが位置されるかで「コンテンツの大衆性」が決まると言います。
また、時代を超える普遍的な名作がなかなか存在しないことについても、時代によって「わかりそうで、わからないもの」の基準が変化するとの理由を挙げています。ニコニコ動画の価値や意味もこの定義に当てはめると説明可能です。
「コンテンツとは、わかりそうで、わからないものである」と定義すれば、そうであろうとする行為自体が、"コンテンツの目的"にもなり得るということです。(96ページ)
物語や作品を手がける作者が、コンテンツの正解や先の展開を知らないまま、創作をおこなう際には、もちろん読者もわからない状態です。これを自覚的におこなうことで、コンテンツに感情移入もできるのでしょう。
「購入後にもダイナミックに中身が変わっていくようにできるのが未来の電子書籍の姿」
コンテンツ以外にも印象的な点がいくつかありました。
まずはニコニコ動画が世の中にとっていいサービスなのかどうか確信がもてなかった時期についても触れている部分。「人間中心のサービスをつくる」というテーマを掲げてきたからこそ、コンテンツ産業の破壊や国の活力を損なうという側面について悩んだものの、ニコニコ超会議などでユーザーと実際に会うことでその熱量や活気、愛を実感できたとのこと。
また、「ブロマガ」というサービス開始にあたっては、電子書籍に可能性を感じていると記しています。静的なコンテンツ状態ではコピーされてしまうため、「購入後にもダイナミックに中身が変わっていくようにできるのが未来の電子書籍の姿」としています。
関連して、プラットフォームが優位の状態では、コンテンツホルダーにユーザー情報があまり共有されないので、結果としてコンテンツ産業の衰退を招くという問題意識も表明。そのため、ブロマガではコンテンツホルダーがユーザーとダイレクトにつながることができるよう設計したと言います。
『ルールを変える思考法』の第3章「人を惹きつけるコンテンツのつくり方」を読むことで、改めてコンテンツとは何かということを考え直す機会になりました。以前、「新しいメディアが人間や環境にもたらす影響を考えるためのキーワードとは?」という記事で紹介したマクルーハンの言うところの「人間が情報で満たされていることを願うという前提がある」といった言葉もリンクするところがあったように思います。
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ヴァイス・ニュースがはじめる「VR(仮想現実)」を活用したジャーナリズム
「世界35ヵ国に展開するVice Media:2016年に売り上げ10億ドル&IPOも?」という記事で紹介したことのある米ヴァイス・メディアが「VR(仮想現実)」を活用したジャーナリズムをはじめます。
昨夏に起きてしまった白人警官が黒人少年を射殺したマイク・ブラウン事件に関して白人警官が不起訴となったことを受け、昨年11月末あたりから反対運動が盛り上がっています。
今回のヴァイスのもつニュースサイト「ヴァイス・ニュース」では、約6万人が参加したと言われるニューヨークでの運動をVRコンテンツとして発表。デジタルアーティストと映像作家、そしてヴァイスのクリエイティブディレクターとヴァイス・ニュースで制作したとのことです。
「VICE News VR: Millions March」という作品名で、VRSEというアプリで閲覧できます。ただ、ヴァイスは映像にかなり強みをもつメディアのため、動画でも良いのかなと思う部分はあると感じます。
また、ヴァイス・ニュースは世界中でなかなか拾われないトピックを継続的にインパクトのあるかたちで報じることもありますが、どのようなトピックが相性が良いのかはひたすら試行錯誤していくしかないのだと思います。
映像の次のストーリーテリングを目指すヴァイス。VRコンテンツの活用シーンは限られるものの、ジャーナリズムや報道にどのような効果的な使い方があるのか。摸索しがいがありそうです。
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良質な情報消費が良質なメディアコンテンツをつくる? バイラルの先のメディアに問われること
毎号購入しているハイパーローカルなシティカルチャーガイド『TOmagazine』。つい最近発売されたばかりの墨田区特集号も読みました。自分が住んでいない区について独特のアングルで切り取られるディープな内容が好きなのですが、今回はメディアのトピックが掲載されていたのでご紹介します。
KAI-YOUの元ディレクター・武田俊さんの「UPDATE TOKYO」という連載にて、ニューヨーク在住ライターの佐久間裕美子さんと「(バイラルの先の)メディアの未来はどこにある?」というテーマで対談がおこなわれています。
「雑誌は家に届くもので、新聞の延長」
武田さんは先日「『情報はつねに広がりたがる』とは? メディアの成熟とコンテンツづくりの行方」という記事で模様を紹介したイベントでも登壇されており、このときの話ともつながる部分がありました。
記事は矜持を持った編集者が丹念に雑誌をつくり、それが文化を生み出すという武田さんの話からはじまり、佐久間さんは雑誌について「見たことのない世界を見せてくれる窓」と表現。
しかし、雑誌のマネタイズが広告主導になるにつれ、クライアントの方を向いてしまい、読者が置き去りになったとしています。広告モデルが進行しすぎた昨今では『KINFOLK』のような小さなコミュニティに向けた雑誌が出てきたことを紹介。たしかに特定のターゲットに向けた雑誌やウェブメディアは増えているように感じます。
ニューヨーク在住の佐久間さんは日米の違いとして、地理的な問題もあることから、アメリカのほうが定額購読モデルが普及しており、本文では「雑誌は家に届くもので、新聞の延長」とも語っています。
「読者や消費者もその消費の仕方でものづくりに加担している、しないといけない」
その後、話題はバイラルメディアに移り、武田さんはバイラルメディアのシーンは3年で淘汰されるけれども、それらがもたらすディストピアを防ぎたいと言います。
ただ3年の間に、15歳のスポンジみたいな感性の少年が18歳の青年になっちゃうんですよ。その間に触れた情報がバイラルメディアやニュースアプリ経由のものばかりだったら、コンテンツの価値自体がさらに無視される方向にぶれちゃう。(167ページ)
佐久間さんもこのような受動的な情報消費のスタイルでは、プッシュ通知やレコメンド、サジェスチョンのなかにとどまり、新しいものや素敵なものと出会うことができない、と語っています。実社会では「賢い消費者(スマートコンシューマー)」という言葉が叫ばれた時期もありましたが、バイラルメディアやニュースアプリを対象としてもこの言葉は当てはまりそうです。
しかしながら、ウェブメディアでもマネタイズは広告モデルが先行しているので、そこにどのように編集者がかかわっていくのかということもテーマのひとつ。佐久間さんは「Webとコマーシャルの世界に対して、うまく立ち回らないといけない」、武田さんは「メディアコンテンツに携わる人間がもっとコマーシャルの世界をハックすべき」とそれぞれ語っています。
バナーやネイティブ広告だけでなく、コミュニティ、ひいては新しい文化をつくりながら、定額購読でメディアを運営するモデルが理想的なのではないかと思いました。現状のメディアコンテンツの流通や消費の仕方の揺り戻しとして、定額購読に挑戦するメディアや編集者は増えていくのでしょう。
対談の最後のほうには、佐久間さんは「読者や消費者もその消費の仕方でものづくりに加担している、しないといけない」という言葉を、武田さんは「メディアを通して僕は粋な消費者を増やしたい」という言葉を残しています。
バイラルやソーシャルがコンテンツ流通のひとつのルールにもなりつつあるなかで、ここをどのようにうまく使っていくのか、もしくは完全に逆張りでコンテンツづくりをしていくのか。あらためて、メディアコンテンツにかかわる人の立ち位置や姿勢が問われているように感じました。
さて、TOmagazineの墨田区特集に関係のない部分を紹介してしまいましたが、メディアに興味がなくとも、先日、歴代最多優勝記録を更新した白鵬関のインタビューや、「祭りが生まれる時」「欲しくなる、墨田区。」といったページもたいへんおすすめです。
ジャーナリズムのiTunesを目指す「Blendle」がもうすぐ20万ユーザー到達ーー北欧にも展開
ニューヨーク・タイムズやドイツ最大の新聞社、アクセル・シュプリンガーが投資していることでも知られるオランダ発のメディアサービス「Blendle(ブレンドル)」。現在、19.5万ユーザーであること、収益化のために北欧への海外展開を予定しているとjournalism.co.ukが伝えています。
ブレンドルは2014年4月に生まれた「ジャーナリズムのiTunes化」を目指すサービス。27歳のジャーナリスト2名が創業、政府からの助成金と自分たちで集めた資金40万ユーロ(5,000万円)でスタートしました。
サービスについては、加入後2.50ユーロ(350円)分まで無料であり、記事は1本0.1ユーロ〜0.8ユーロ(10〜100円)あたりがメインの価格帯。理由を明記さえすれば返金可能という特徴もあります。記事価格の約70%が出版社側に行き、ブレンドルは30%を受け取るというモデルです。
また、友人やキュレーター(著名人ら)が買った記事がわかることも特徴の一つ。ソーシャルのつながりをうまく購買意欲にむすびつけています。オランダでは意外とうまくいっている記事単体で購入できるプラットフォームですが、海外ではどうなるのか注目ですね。北欧のメディア事情なども気になります。
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バズフィード初となるテレビCMのテーマはやはり「ネコ」だった
ニュースサイト「BuzzFeed(バズフィード)」がはじめてテレビCMを打ちました。スーパーボウルのテレビ中継のなかで流れたもので、ペットフード「ピュリナ」のブランド広告です。
もともと「Dear Kitten」という約3000万回再生のシリーズ動画があり、また、バズフィードの初期はネコ画像のまとめも多かったこともあり、今回のCMもネコがテーマとなっています。実際に放映されたのは60秒バージョンですが、3分を超えるフルバージョンもアップされていました。
今回放映されたこのCMは、バズフィードの動画制作部門「BuzzFeed Motion Pictures」の成果のひとつとも言えます。バズフィードはネイティブ広告のみで収益化を図っていますが、さらに動画広告には注力していくのでしょう。新しいメディアとして注目することはもちろん、どのように広告を展開していくのかにも目を向けていきたいです。
スーパーボウルに際して、バズフィードのほかにもVox Mediaが運営するテックメディアThe VergeもCMをおこなったとのこと。ウェブメディアがCMを展開してどのようにブランディングやユーザー増につながるのかなどは気になるところですね。
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ビル・ゲイツ氏がテックメディア「The Verge」初となるゲストエディターに就任
(The Vergeの動画より)
新興メディアテクノロジー企業「Vox Media」の運営するテックメディア「The Verge」が初となるゲストエディターとしてビル・ゲイツ氏を招聘することを発表しました。
2月限定でゲストエディターとしてかかわるゲイツ氏とThe Verge編集長との対談動画もさっそくアップされています。ゲイツ氏はこれまでもテクノロジーやサイエンスが人々の暮らしをどれだけ変えていくのか、とくに世界の貧富の格差をどれだけ改善したのかに関心を寄せていました。
具体的には、編集スタッフらといっしょにゲイツ財団で毎年発行している年次書簡の2015年版のテーマである健康、教育、食、銀行などに関するものを取り上げていく予定。どれも途上国の課題にかかわることなので、テクノロジーやサイエンスがどのように現状を変えているのか知ることができることでしょう。
また、「The Big Future」という未来志向の映像特集の一部のナレーションも担当するとのことで、編集以外のコミットの仕方も興味深いです。
過去には雑誌『WIRED』のゲストエディターも務め、途上国の諸問題を解決に導くイノベーションを特集したこともあります。日本でもさまざまなウェブメディアがゲストエディターを設置する動きが増えるとメディアの姿勢を色濃く見せたり、特集を遠くまで届かせることができるのかもしれません。
コンテンツの質と目的を失わないために——まとめを「Publications」と言い換えるMediumのこだわり
ブログプラットフォームのミディアムには、Collectionという、ミディアム上の記事をまとめることができる機能があります。それにはフォロー機能がついていたり、ほかのユーザーといっしょにまとめをつくることができるのですが、最近、呼び方が変わったとのこと。公式アカウントで書かれています。
新しい名称は「Publications」となったようです。以前のCollectionでは記事を集めるという印象を強く受けますが、Publicationsでは(再度)記事を公開する、というくらいの意味合いを感じます。
当初の意図が薄まったと書かれているので、いろんなユーザーが多くCollectionしたものの質があまりよくなかったり機能していなかったのか。Publicationsと呼び変えることで、ユーザーの姿勢やある種の緊張感を生み出すことにもつながりそうです。その先に、質の高い記事まとめがつくられていくことを狙っているのでしょう。
(直感的なページデザインが秀逸です)
Publicationsは、まとめというものに焦点があったもので、目的のあるものとしています。これまでは誰でもどんな記事をもCollectionに追加できていましたが(その承認はCollectionの編集者がおこなう)、これからはある記事をPublicationに追加/公開するにはその記事を書いたライターも該当するPublicationに追加される必要があるとのこと。Publicationをつくるときにあらかじめライターや編集者を招待することもできます。
以前紹介した、テックメディア「Backchannel」をはじめミディアム上のメディアもPublicationとして挙げられているのが興味深いです。この機能をうまく使えば、ミディアム上にそれとなくメディアっぽいものがつくれてしまいそうですね。
日本では哲学は違うものの、似たプレイヤーにnoteがありますが、noteでは「マガジン」という言い方をしています。メディア/プラットフォームにおける機能の呼称のようなちょっとしたこだわりにも目を向けていきたいですね。
ミディアムについてはGQのエヴァン・ウィリアムズに関する記事でも「Mediumでは、訪問者数よりも実際に文章が読まれた時間(トータル・タイム・リーディング、TTR)を重視している」という一方で、「読者に長い時間を過ごさせるのが本当のゴールではない」「読者に無駄な時間を使わせては、印象を残そうというゴールとは正反対の結果になりかねない」という発言もあり、本質的かつバランスのとれた考えかたを実践しているなあという印象を受けました。最注目のメディア/プラットフォームのひとつであることは間違いないでしょう。
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読者が絞り込まれた価値あるメディアづくりには、「声なき声」に耳を傾けることが大切
「Chikirinの日記」というブログを書かれているちきりんさんの『「自分メディア」はこう作る! 大人気ブログの超戦略的運営記』という本を読みました。
「考えたこと、書いたことをそのまま受け止めてほしい」
インプットよりアウトプットが好きで紙の日記帳を書いていたちきりんさんがブログをはじめたのは2005年のこと。行動の記録ではなく、思考の記録として日々書き記しているようです。また、匿名での活動を選んだ理由については以下のようなことからとのこと。
私としては、そんな先入観を持つことなく、ぜひ私の考えたこと、書いたことをそのまま受け止めてほしいと考えていました。肩書きによる信用補強がなくても、読む価値がある文章だと思ってもらえるのかどうか、それが知りたかったのです。(36ページ)
賞味期限の長い記事を書くことでも知られるブロガーのRootportさんも「ネットでは『誰が言ったか』よりも『何を言ったか』/匿名主義の信条」と書かれていたことを思い出しました。Rootportさんは「ブログは共感と代弁のメディアだから」「ネットでは『誰が言ったか』よりも『何を言ったか』が大切だと信じているから」という理由を挙げています。
価値あるメディアとは「読者ができるだけ似通っているメディア」
また、ちきりんさんがブログを書くときには「1エントリにつき1メッセージ」ということを心がけているとのこと。文章だけなら30分、図表や写真修正・加工などがあればさらに30分ほどかけて書いていると紹介されています。
ブログの起点は、「これについて書く」とか「この本を紹介する」ではなく、「このことを伝えたい!」というメッセージの発生なのです。(46ページ)
伝えたいメッセージを決めて、そのための論理構成を決め、必要な情報を集め、書く、という流れで作業しているそうです。ちきりんさんは自身のブログのゴールを「価値あるメディアに育てたい」と設定。本書のなかでは、その定義を「読者ができるだけ似通っているメディア」「何らかの共通点を持って、読者が絞り込まれているメディア」としています。
また、ちきりんさんの掲げる自分メディアをつくるための5か条も参考になる部分でした。それぞれ「コンテンツを散逸させない」「ネットの中の人にはならない」「つながる世界でつながらない」「オープンな場所に居続ける」「信用力を売らない」というものです。
これらの項目をくわしく読むと、個人的な日記としてブログをはじめていますが、きわめて読者の目線を大事にされていると強い印象を受けました。その後の項目でも、ブログに反応する読者ではなく、とくにひっそりと読んでくれているサイレントマジョリティを気にしていることも書かれています。
これまで紹介してきたことは本書の前半の内容なのですが、後半にはベストエントリ集も収録されているので、いろんな読み方ができます。ちきりん年表やこれまで43社から出版依頼があったというタイムラインも表で見ることができておもしろかったです。
また、この本が『「Chikirinの日記」の育て方』という電子書籍をもとにした「電子書籍の紙化」ということも興味深いと思いました。
「情報はつねに広がりたがる」とは? メディアの成熟とコンテンツづくりの行方
先週末、渋谷のloftwork Labで開催された「Prophet(プロフェット)未来について」というイベントに参加してきました。これはサザエBotを運営するナカノヒトヨさんがさまざまなジャンルのゲストを招いて「未来」について語り合うイベントシリーズ。
初回は、アート・ディレクター/クリエイティブ・ディレクターの重冨健一郎さん、イラストレーターのたかくらかずきさん、メディアプロデューサー/元KAI-YOU.LLC.代表の武田俊さんをゲストに迎え、「メディア」について語るというものでした。
ゲスト3名とも独自の問題意識やアプローチをとっている方々で、メディアのメインストリームからあえてはずれています。そのため、以下のツイートのように、いろいろとメモを取りたくなるようなパンチラインが多かったです。多分野を横断していったのでたいへん刺激的でした。
「情報は広がりたがる」「どんなコンテンツでもメディアが成熟すれば行き場がなくなる」「AIや動物と比べたとき、人間の特権はエラーを起こすこと(ふざけられること)」「GoProはプロセスをコンテンツ化するのがおもしろい」「飽和したものは世界を変えられない」
— 佐藤慶一|Keiichi SATO (@k_sato_oo) 2015, 1月 17
情報はつねに広がりたがる性質を持っている
最初に、昨年はじめから日本でも拡散/流通に強いバイラルメディアが目立つことから、ナカノさんの「情報は広がりたがる」という言葉が紹介されました。自身のコラムでは以下のように表現しています。
バイラルメディアの出現が意味する通り、情報はつねに(ときに作者を置き去りにしてでも)広がりたがる性質を持っているから、あなたは身体から離れて拡散され続けることばを追いかけ回しては、欠け続けるなにかの穴埋めに必死だ。しかも「質」ではなく「量」で。
武田さんはバイラルメディアについて「存在そのものはありだけれど、コンテンツの扱い方が悪い」と発言。重冨さんからは、現在のメディアがPVやリーチなど計測可能な数値がマーケットに対する影響力となっているという問題意識もシェアされました。
メディアは成熟するとすぐに答えに直結させたくなる
そして、そもそものメディアというものを紐解いていくためのキーワードとして、芸能・技芸を日本独自のかたちで体系化したものを指す「芸道」が挙げられました。芸がコンテンツ、道がメディアといったかたちで、芸と道がつながるとカルチャーになるという捉え方です。
バイラルメディアの問題では、コンテンツ(芸)をないがしろにして、メディア(道)という名のスタイル/体系/システムのほうにかなり重心を傾けているため、たかくらさんは「道の暴走」と表現していました。
また、新しいメディアづくりについて、道をつくってもフォロワーがいないと意味がないけれど、どんなコンテンツでもルートができれば行き場がなくなる、といった言葉も印象的でした。
メディアが成熟するとすぐに答えに直結させたくなるようなこともそのひとつだそう。いまソーシャル上に「〜するための〜の方法」といった答えの安売りが流行っていることからも共感するところです。
このようにメディア/システム/体系/ルールは成熟の末に朽ちていく性質を帯びていくため、コンテンツの質を上げつづけるしかないという発言もありました。たとえば人気ゲームのキャラクターは、ゲーム以外にも映画やアニメ、おもちゃ、スタンプなどメディアを問わず展開されることも珍しくありません。
「人間の特権はエラーを起こすこと」
メディア論とは違うトピックも話されました。ナカノさんはTEDxTokyoをはじめさまざまなところでAI(人工知能)について話をしています。そこで、人間がAI(道でありルールでありシステム側)に勝つにはなにが必要なのかという議論もありました。
結論としては、ふざけることやはずれること、ギャグ、サプライズなどの要素が挙げられ、「人間の特権はエラーを起こすこと」がAIに勝つ方法ではないかと議論されました。
イベント全体を通してはこのほかにも、ツイッターとフェイスブックというメディアの違いや、メディアが成熟したときにはアップデートを促すものが必要だということなど、ジャンル横断的な話がおもしろかったです。
このイベントシリーズは全12回あるのですが、個人的にはメディアアーティスト・落合陽一さんがゲストの「魔法×未来」、ピースオブケイク代表・加藤貞顕さんがゲストの「コンテンツ×未来」の回もおもしろそうだなあと思います。
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BuzzFeedがメッセージアプリ「Viber」にチャンネル開設——SNS以上のコンテンツ流通の場となるか
バズフィードが無料通話・メッセージアプリ「Viber」のチャンネル活用を始めました。Viberがリリースを発表しています。
Viberが昨年11月に発表した「Public Chat」という機能を使うとのことです。この機能は有名人や企業などがおこなうチャットを読む(見る)ことができるというもの。
バズフィードはすでにWeChatとは提携し、アカウントを開設しています(参考)。また、Snapchatのアカウントを開設するかどうかで話し合いをしているという噂もあるようです。WeChatでは4億人、Snapchatでは2億人ほどのユーザーがいるので、メッセージアプリでのコンテンツ発信にも本腰を入れるフェーズがきているのでしょう。
記事リンクや動画の投稿、ディスカッションの場として使っていくとのこと。新しいコンテンツ流通のプラットフォームとして各メディアがどのように動いていくのかは2015年の注目のトピックとなると考えています。
今回はバズフィードのメッセージアプリ活用でしたが、ほかのメディア、たとえばBBCではLINE活用をスタートしており、すでに50万人ほどがこのアカウントを友だち追加しています(日本からもID検索から@bbcnewsで追加可能)。
まだまだソーシャルメディア時代のメディアやジャーナリズムの議論は続いていますが、メッセージアプリ時代のメディアのありかた、ジャーナリズムの意義や手法などはどんどん問われていくのではないでしょうか。
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2014年、ニューヨーク・タイムズでもっとも多くの訪問数を記録した記事とは?
2014年、ニューヨーク・タイムズにおいて、どんな記事が多くの訪問数を記録したのか。そんなことを知ることができるデータが公開されていました。
ウェブやマルチプラットフォーム、ソーシャルメディア、アプリ、動画などについて、もっとも訪問数が多かったコンテンツを以下のリンクから確認できます。
結果から言うと、「Forty Portraits in Forty Years」という記事がいちばんとなっています。ある4姉妹が40年間ポートレイトを残していて、それをストーリーとともに記事としてまとめているもの。
ニューヨーク・タイムズといえども、ジャーナリズム的なコンテンツがよく読まれるというのではないのは意外でした。ストーリーはもちろん、画像や引きのあるタイトルも合わさり、ソーシャルからの流入もいちばん多かった記事ともなっています。
また、動画では「Surviving An ISIS Massacre」という、イスラム国の大虐殺から生き延びた男性に迫る短いドキュメンタリーのほか、エボラ関連など時事的/社会的なトピックがトップ10入り。iPhoneやGoogleなどテクノロジーネタも人気のようです。
ニューヨーク・タイムズという大手新聞社、伝統メディアにおいて、どのようなコンテンツが人気なのか。タイトルをざっと見るだけでもおもしろいと思います。
米新聞社のペイウォール導入は500社超え——海外メディアが有料購読に踏み出すいくつかの背景
定額制読み放題やペイウォール(月に〜本以上読むには有料)、コミュニティ型課金、寄付型、記事ごとの課金など、海外メディアでは読者が有料課金をするためのさまざまな選択肢があります。アメリカだけでもペイウォールを採用する新聞社が500以上あるそうですので、その背景をいくつか紹介します。
①フリーミアムの普及
フリーミアムとは、「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」の造語で、基本サービスを無料で提供することで顧客を広く集め、その何割かに有料で高機能のプレミアム版に移行してもらうビジネスモデル。
最近では音楽ストリーミングサービスのSpotifyなどが有名かもしれません。ちょうど今週、課金ユーザー1500万人、アクティブユーザー6000万人を超えたことが発表されました。20%以上が有料会員というのはものすごい数字です。
(出典:Statistic)
いまでは楽曲数3000万曲を超え、1日2万曲が追加され、プレイリスト数は15億個を数えるほど。200億ドル(収益の70%)を権利保有者への使用料として支払っているそうです。Facebookに誰がどの曲を聴いているのかというフィードを流したことでグロースしていったことも有名ですね。
②紙媒体の売上不調
(出典:journalism.org)
アメリカにおけるニューススタンド での雑誌売上(1号あたり)を示したデータ。タイムやエコノミストなどの有名誌でさえ、部数が半数程度に落ち込んでいることがわかります。
こちらのデータは有名紙の広告と販売の収益比率を示したものです。どの媒体も2003年年にくらべて2013年のほうが広告費が減っていることがわかります(あくまでも額ではなく割合)。
こちらのデータはアメリカにおける、メディア別の広告費と時間消費の割合を比較したもの。紙媒体の広告費の高さと時間消費の少なさを一目で実感することができそうです。
③オンライン広告効果の減少
「2018年には米広告費の26%を占めるモバイル広告、半分以上が表示されないディスプレイ広告」という記事でも紹介しましたが、2014年にグーグルが「ディスプレイ広告の*インプレッションの56.1%は目視不能 」というデータを出しています(*スクリーン上に広告の50%以上が画面に1秒以上(動画は2秒以上)露出するインプレッション)。
もっと前の2010年にはテッククランチが、インターネット広告(バナー+検索連動型)は63%の人に無視されているとの記事を出しています。
3つの背景を紹介しました。海外メディアでは有料課金/継続的な課金で読者やコミュニティが支え豊かにするところが増えているように思います。実際、読者からお金を集める割合は増えているようです。
(出典:Pew Research Center's Journalism Project)
具体的な事例についてはまた別の機会に取り上げたいと思います。