メディアの輪郭

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ウェブコンテンツ制作でますます重要になる「時短」と「時間を速くすること」

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「広告とコンテンツの融合に解決の糸口がある」

LINE株式会社 広告事業部 チーフプロデューサー・谷口マサト氏は広告が見てもらえないという課題解決のアプローチとして上記の言葉を掲げています。そんな谷口氏の著書広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門』を読みました。

これからのメディアに合ったコンテンツのサイズを考える

谷口氏が意識するのは、ソーシャルメディアでシェアされる、見たくなる、使いたくなる広告コンテンツ制作。たとえば、映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のプロモーションとして制作した以下の記事は事例としてわかりやすいかと思います。

静止画とテキストのみで成り立つユニークな記事フォーマットは、谷口氏が「フォト紙芝居」と表現するもの。スマホ時代のすきま時間にサクッと読めるような軽量さが特徴です。

これからのメディアに合ったコンテンツのサイズを考えることは重要なことのひとつ。LINEでニュースを制作するときのコンテンツサイズは、動画で1分以内、スマホ用ウェブページで数百字とのことで、当たり前ですが映画やテレビ番組のサイズとは大きく異なります。文字数が少ないコンテンツの場合、テキストで工夫するのもなかなか限界があるので、写真の見せ方や数で工夫していくことが求められそうです。

谷口氏はフォト紙芝居を用いて、広告とコンテンツの融合に挑んでいます。この一体化に向けては、「広告とコンテンツの共通キーワードを設定し、両者を結びつける」とのこと。前述の「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」という記事では、映画に出てくる「トラ」をキーワードにしてコンテンツでは「大阪のオバチャン」と結びつけています。共通キーワードの捉え方は以下のように書かれています。

共通キーワードは、商品を"褒める"ためだけではなく、ひとつの記事の中でコンテンツと広告が同時に掲載されている"理由"として設定する必要があります。そして、コンテンツが"主役"でないとシェアされませんので、商品はコンテンツを作るための情報またはツールといった"脇役という形で登場させた方が自然です"。(31ページ)

また、コンテンツのコストを抑える重要性についても書かれています。「目指しているのは『安く作る』ことではなく、『ムダをなくす』こと」と書かれており、スマホで見られることを念頭にシンプルにつくることが大切とのこと。かつての映画業界がテレビコンテンツをつくろうとしたときに、映画のコンテンツの質の基準にこだわったため、制作コストが回収できなかった話も紹介されています。 

コンテンツは「見るもの」から「使いやすい」ものへ

本書のなかでは、これまでのコンテンツは「見るもの」だったのがコミュニケーションの場で「使いやすい」ものがウケるようになっていると書かれています。印象的だったのは「使いやすい」コンテンツの最たる例であるLINEスタンプについて。LINE社のディレクターによれば、代表的なバリエーションがあるといいます。

大別するとポジティブ/ネガティブ系な喜怒哀楽の感情系、「いいね!」や「NO」などの回答系、風呂や買物などの生活シーン系、「おはよう」や「いってらっしゃい」などの挨拶系、そして「暑い」や「メリークリスマス」などの季節系に分類することができます。(48ページ)

コンテンツサイズは違いますがウェブの記事などにも生かせる部分がありそうな分類です。昨年から日本でも話題のネイティブ広告ですが、LINEのスポンサードスタンプはユニークな例として捉えられます。前述の記事「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」もネイティブ広告です。

谷口氏はネイティブ広告を活用できる企業について、「広告のタイプによってゴールと成果指標を分けている」「長く記憶に残る広告を作ろうとしている」「テレビCMは従来通りのクリエイティブで打ちつつ、ネットでは全く違った企画を展開している」などの傾向を記しています。

もちろんコンテンツの基本姿勢などについても書かれているのでご共有します。時間の話が多く出てくるのが興味深いです。

私はネットのコンテンツ制作の基本は「時短」だと考えています。伝えたい内容ごとに、最も短い時間で伝えられる表現手段(テキスト、写真、アニメGIF、イラスト、動画、音楽など)をその都度選び、一つの記事の中で組み合わせて提供することで、多くの情報をできるだけ短い時間で圧縮して伝えるようにしています。(35ページ)

Q: コンテンツを作る際に、最も大切なことはなんでしょうか?
「時間を速くする」ことが最も重要だと思います。というのは、ユーザーの視点になれとはよく言われますが、ユーザーは非常に速い速度でどの記事を読むかを取捨選択しています。よく考えていない、無意識に近い行動と言えます。
一方、記事を作る側は、時間をかけてじっくりと読んで精査します。そのため、考えれば考えるほど、考えていないユーザーと時間意識がズレてしまい、トンチンカンなモノができあがります。意識的であるほど、時間は遅くなってしまいます。(71ページ)

谷口氏は空手やヌンチャクなどを修行してきた武道家でもあるため、このような時間意識に触れることができるのだと思います。あとがきでは、「世間は生きている、理論は死んでいる」という言葉が紹介されていますが、自分も試行錯誤しながら、メディアやコンテンツづくりにかかわっていきたいと気が引き締まりました。

「ウェブコンテンツの文化が育っていないので、だれも正解がわからない」

最後に、先日、谷口氏とプロブロガー・イケダハヤト氏の対談を担当したので少しご紹介。谷口氏の問題意識やアプローチが伺えるかと思います。

谷口: ウェブ業界に15年以上いるなかで、ウェブコンテンツに制作費をかけられないことを実感しています。調整や地味なことも多いのに会社にいるのは、コンテンツ制作にちゃんとお金がまわる仕組みをつくりたいことも大きいです。テレビや映画だとコンテンツにお金かけることは当たり前なのに、ウェブだけコンテンツにお金をかけられていないことに強い問題意識をもっています。そこをクリアしないとネットが面白くならない。

(中略)

いま、「長い接触時間」と「深く読んでもらうこと」をテーマにいろいろと試しています。スマホ利用者はダラダラと読む傾向があるんですが、そうなると文学的な深みも出せるようになるかもしれません。これまでメインにしてきたお笑いコンテンツは極論、1ページでも笑わせることができますが、感動するコンテンツには読者の深いコミットが必要になります。

(中略)

まだ、ウェブコンテンツの文化が育っていないので、だれも正解がわからないと思うんです。もちろん、私もわかりません。バイラル動画もいいんですが、映像は歴史が長いしプロも多い。一方でウェブ記事は歴史がないからこそ、スマホにもっとも最適化したものを大胆につくりやすいと思っています。今後は、どう記事を長く、深みをもたせるのかというところに可能性があると思っています。

イケダハヤト×谷口マサト【前編】「これからのコンテンツの可能性は『長さ』と『深さ』にある。そしてスマホユーザーの感情を震わせたい」

谷口: PCユーザーが書き手目線でコンテンツを読む一方で、スマホユーザーは完全に読み手意識でかなり素直に読みます。PCユーザーが嫌うフィクションや妄想話も大丈夫です。

ずっとマスメディアに接していた人がスマホユーザーになりつつある境目のいま、チャンスがあると考えています。これまでオンラインメディアはPCユーザーの文化でコンテンツをつくってきました。そこを切り替える必要があると思います。スマホユーザーはタイアップ記事かどうかをあまり気にしないので、ちゃんとおもしろいものをつくるだけです。

イケダハヤト×谷口マサト【後編】「個人活動でスベる訓練をして、ユーザーの時間意識とつくるコンテンツの速さを合わせていく」