良質な情報消費が良質なメディアコンテンツをつくる? バイラルの先のメディアに問われること
毎号購入しているハイパーローカルなシティカルチャーガイド『TOmagazine』。つい最近発売されたばかりの墨田区特集号も読みました。自分が住んでいない区について独特のアングルで切り取られるディープな内容が好きなのですが、今回はメディアのトピックが掲載されていたのでご紹介します。
KAI-YOUの元ディレクター・武田俊さんの「UPDATE TOKYO」という連載にて、ニューヨーク在住ライターの佐久間裕美子さんと「(バイラルの先の)メディアの未来はどこにある?」というテーマで対談がおこなわれています。
「雑誌は家に届くもので、新聞の延長」
武田さんは先日「『情報はつねに広がりたがる』とは? メディアの成熟とコンテンツづくりの行方」という記事で模様を紹介したイベントでも登壇されており、このときの話ともつながる部分がありました。
記事は矜持を持った編集者が丹念に雑誌をつくり、それが文化を生み出すという武田さんの話からはじまり、佐久間さんは雑誌について「見たことのない世界を見せてくれる窓」と表現。
しかし、雑誌のマネタイズが広告主導になるにつれ、クライアントの方を向いてしまい、読者が置き去りになったとしています。広告モデルが進行しすぎた昨今では『KINFOLK』のような小さなコミュニティに向けた雑誌が出てきたことを紹介。たしかに特定のターゲットに向けた雑誌やウェブメディアは増えているように感じます。
ニューヨーク在住の佐久間さんは日米の違いとして、地理的な問題もあることから、アメリカのほうが定額購読モデルが普及しており、本文では「雑誌は家に届くもので、新聞の延長」とも語っています。
「読者や消費者もその消費の仕方でものづくりに加担している、しないといけない」
その後、話題はバイラルメディアに移り、武田さんはバイラルメディアのシーンは3年で淘汰されるけれども、それらがもたらすディストピアを防ぎたいと言います。
ただ3年の間に、15歳のスポンジみたいな感性の少年が18歳の青年になっちゃうんですよ。その間に触れた情報がバイラルメディアやニュースアプリ経由のものばかりだったら、コンテンツの価値自体がさらに無視される方向にぶれちゃう。(167ページ)
佐久間さんもこのような受動的な情報消費のスタイルでは、プッシュ通知やレコメンド、サジェスチョンのなかにとどまり、新しいものや素敵なものと出会うことができない、と語っています。実社会では「賢い消費者(スマートコンシューマー)」という言葉が叫ばれた時期もありましたが、バイラルメディアやニュースアプリを対象としてもこの言葉は当てはまりそうです。
しかしながら、ウェブメディアでもマネタイズは広告モデルが先行しているので、そこにどのように編集者がかかわっていくのかということもテーマのひとつ。佐久間さんは「Webとコマーシャルの世界に対して、うまく立ち回らないといけない」、武田さんは「メディアコンテンツに携わる人間がもっとコマーシャルの世界をハックすべき」とそれぞれ語っています。
バナーやネイティブ広告だけでなく、コミュニティ、ひいては新しい文化をつくりながら、定額購読でメディアを運営するモデルが理想的なのではないかと思いました。現状のメディアコンテンツの流通や消費の仕方の揺り戻しとして、定額購読に挑戦するメディアや編集者は増えていくのでしょう。
対談の最後のほうには、佐久間さんは「読者や消費者もその消費の仕方でものづくりに加担している、しないといけない」という言葉を、武田さんは「メディアを通して僕は粋な消費者を増やしたい」という言葉を残しています。
バイラルやソーシャルがコンテンツ流通のひとつのルールにもなりつつあるなかで、ここをどのようにうまく使っていくのか、もしくは完全に逆張りでコンテンツづくりをしていくのか。あらためて、メディアコンテンツにかかわる人の立ち位置や姿勢が問われているように感じました。
さて、TOmagazineの墨田区特集に関係のない部分を紹介してしまいましたが、メディアに興味がなくとも、先日、歴代最多優勝記録を更新した白鵬関のインタビューや、「祭りが生まれる時」「欲しくなる、墨田区。」といったページもたいへんおすすめです。