メディアの輪郭

更新するだけ健康になれる気がしています

「君は編集者じゃない」「存在感が薄い」に向き合った人の1年

「君は編集者じゃないよ」

「佐藤くんはさあ、編集者じゃないよね。全然なりきれていないよ」

数年前に上司からこう言われたことがある。

この言葉と向き合いながら、これまでの期間を(なりきれていない)編集者として走ってきた。

ぼくは編集者には向いていないと思いつつ、また、ネットでの発信にも性格や体質(?)が合っていないと感じつつ、なんとか走りきることができた。 

2017年は、300以上の記事を企画・編集(執筆は数本)。できなかったこともあるが、できたことも非常に多かった。うれしいこともあったが、くやしいことが多々。年末に「あ〜よく悩んだな、考えたな」と思った1年だった。 

ぼくに近い人は知っているけれど、ふだん食欲がなく、基本的に甘いものを食べて生活している。以下、2017年を振り返るつもりだが、ちょいちょい甘いものの写真が本文を邪魔してくるかもしれない。 

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2017年に意識していたこと

いちばん意識していたのは、先にも触れた量と質。月20(年240)記事くらいの企画・編集をなんとなくの目安にしていたつもりでいたが、それを上回る量になっていた。

そのほかには、ざっくり以下のあたりを気にしていたと思う。

アーカイブとして残る決定版をつくる

ネットにおけるコンテンツ消費の早さには以前からどうにか対抗できないかと思っていたが、いまだに答えが出ないところ。

ニュースに対応する記事も多く担当したが、アーカイブというか決定版となるようなものをしっかりつくることも意識していた。必然的に原稿の文字数も多めになっている。

(例)

・当たり前(そもそも)を疑う

ネットに残る記事として意味のあるものとは何かを考えていると、ここにも行き着いた。読んだ後に「風景が変わる」ような記事をどんどん出していきたい。 

(例)

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・同世代と一緒に発信する

これに関しては、2017年後半くらいから意識していたので、これから本気で取り組みたい領域。社会問題からインターネット、エモめな文章まで掲載した。

いまでは同世代の方々の思いが乗った原稿を読み、発信できるのは大きなやりがいのひとつになっている。

(例)

昨年から準備していて新年一発目に出した以下の記事も大きな反響があってよかった。

・編集者としてジャンルを横断する

これは自分の強みでもあり弱みでもあるところ。得意分野や専門領域がないため(泣けますが……)、興味をもった分野や書き手の方にどんどんお願いするように心がけている。

これによって、編集者としては知らないことや驚くような情報に日々接することができる。とても刺激的である。

以上のようなことを主に意識していた。

ただ、媒体の特性もあり、何かを問うたり、危機を煽ったりすることも多いので、もう少しポジティブな切り口やあたたかい読後感のあるものを増やしたい。今後の大きな課題かもしれない。

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「最近すっかり存在感薄いよね」

「編集者は黒子」という言葉が嫌いだ。

こういう出版社で言い伝えられていそうな言葉って、けっこうたくさんある。こういう言葉で自分を守ったり肯定したりする人も多くいて、そういう人には憧れることがない。

黒子しか選択肢がないのは窮屈だし、バランスが悪い。できるなら、伝統的な編集者とは違う役回りやふるまいをしたい。

化石のような、都市伝説のような、よくわからない言葉には常に立ち向かいたいと思っている。それでも、編集者をしていると、黒子になりがちである。

仲のいい同業者との飲み会で「佐藤くんって、最近すっかり存在感なくなったよね」と言われたことがある(最近では「年取ったね」とも言われることが増えた)。ドキッとした。その通りである。本音を言い合える数少ない人たちに感謝申し上げたい(その代わり、ぼくもトゲのある言葉を言うことがある笑)。

たしかに昔(といっても3〜4年前だが)、国内外のメディアを調査したり取材したりして、メディアの世界の最前線を発信していたころは、業界の人にはよく名前を知ってもらえていた。このブログ「メディアの輪郭」もぼくの存在を多くの人につなげてくれた、ひとつの大事な場であった。

個の時代とはこういうことか。発信の可能性の大きさを感じた時期でもあった。

「いつも見てますよ」

「めっちゃ参考にしてます」

「どうやって情報収集してるんですか?」

「こんどイベント出てよ、講演してよ」……

なんて言われることもたびたび。個として発信していたことで、メディアにくわしい若者として知られ、かけがえない経験が多くできた。

そのころと比べると、存在感は薄くなっている気がする。やっていることや考えていることが外に伝わりづらい気がする。

「編集者として」どう存在感を出していくのか、2018年以降の課題にしたい。存在感を出す前に、基礎的な力をつけなければいけないのは言うまでもないが……。

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そもそも、なんでメディアにかかわっているの?と聞かれることがよくある。新潟県佐渡島というド田舎からひょっこりでてきて、編集者になった。

自分の幼少期から編集者になるまでの思考や経験については、『dm』というリトルプレスに数万字くらい綴ったことがある。

田舎出身であること、国際関係や途上国に関心を持ったこと、非営利団体NPO)にコミットしていたこと、そうした要素を悩み考えたときに、延長線としてたまたま編集者という仕事があった。

もともとメディアの世界に関心がなかったし、視界にも入らない仕事だったので、業界(に身を置くとよく耳にする)の内側の論理や言葉にはまったく興味がない。

メディアや編集者のあり方に、ほとんどこだわりもないので致命的だが、それがぼくらしさでもあるのかもしれない。

メディアに関する専門性は、「若くてメディアにくわしいヤツ」というわかりやすいレッテルを生み出した。その恩恵はいまでも受けている。

ただ、別にメディアが好きなわけでも、メディアにくわしくなりたいというわけでもない。メディアは媒体・媒介であり、あくまで手段。紙やウェブに限らず、かたちのないものでもいい。

メディアになりうるものは暮らしにたくさん溶け込んでいる。食べ物でもいいし、お店でもいいし、人だってメディアだ。それでもいまは、ウェブメディアの編集者として情報の媒介や発信にかかわっている。(『dm』No.02より)

学生時代に非営利メディア「greenz.jp」でインターンをしていたときに、「ニッチナンバーワンになれ!」という言葉をもらったことがある。「メディアの輪郭」を必死に更新していたころは、だいぶこの言葉に意識的だったように思う。

メディアにくわしいことはいまでも武器になることがあって、ブログをやっていてよかった瞬間でもある。それでも、それ以外には武器がない手ぶら編集者なので、どうにかしなければ、と思う。

ぼくは、恥ずかしがりだし、負けず嫌いだし、あまのじゃくだ。

人と会ったり喋ったり飲み会に参加したりすることが苦手だし、編集者としてはヤバいなと思う。基本的に眠そうだし、ゆるすぎるので、それは人としてどうかしている気がする。がんばろう。

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超えられない、敵わない人たち

いま働いている「現代ビジネス」という媒体には、書籍や雑誌など紙媒体で長い経験を積んだ、どうやっても超えられないような編集者が集まっている。

「なんで佐藤くんのようなネットメディアの最前線を知っている人が、現代ビジネスなの?」と問われることもけっこうあるけれど、理由は人しかない。

仕事ぶりを見るだけで、感じるだけで、敵わないなあと思う人がいる。パワー(?)も技術もものすごいから、焦る焦る。

どうしたら編集者として超えられるか、負けない力をつけることができるか、自分の価値は何か。そうしたことを日々考えさせられる場所である。

だから、量も質も自然と意識し、ジャンルも横断的にならざるをえない。ミーハーでありあまのじゃくであるのは、自分のよさのひとつなのだろう。全方位からモチベートされる職場はほんとうに刺激的でおもしろい。

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2018年に意識したいこと

2018年、意識したいことややりたいことはいくつもある。

当たり前のことを当たり前にやる。

自分の直感や違和感に忠実に動く。

選択と集中と言わずぜんぶをやる。 

同世代や年下の方々ともっと一緒に発信したい。

あとはやっぱり、本をつくりたい(これだ!という企画はたくさんメモ帳にあるが、自分の力不足や環境のせいにしてしまってなかなか実現していない。とてもくやしい)。

と、言いつついまから進めても2018年内にかたちになるのはむずかしそうだ。それでももがいてみようと思う。

ふだんとても静かでぼそぼそ喋り、ひたすら眠そうにしているぼくが熱をもって働ける環境で、もう少し試したいし試されたい。健康はだいぶ犠牲にしているけれど……。

そうそう、冒頭の言葉から数年が経った昨年、同じ人からまた言葉をもらったのを覚えている。

 「佐藤くんは編集者として成長したと思う。自分でもわかるでしょ?」

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