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ニッチな穴を狙え! ジャーナリスト、ネットニュース編集者らが語った「新しいネットメディアの可能性」

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11月25日(月)に行われたネットメディア関連のセミナーに参加してきました。ウェブ編集者として参考になる部分が多かったので、そのメモを残しておきたいと思います。

【登壇者】

奥村倫弘氏 ワードリーフ株式会社代表取締役社長 (元ヤフー株式会社・メディア編集本部長)

亀松太郎氏 弁護士ドットコムトピックス編集長 (元ニコニコニュース編集長)

藤代裕之氏 法政大学社会学部准教授 関西大学総合情報学部特任教授 日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員

伝統メディア出身の3人がこれからのネットメディアの可能性について語るというこのイベント。藤代さんがモデレーターを務め、セミナーがスタートしました。

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ヤフーニュースから解説メディア立ち上げへ

藤代:まずは奥村さんの自己紹介を含め、「THE PAGE(ザ・ページ)」のお話などしていただけたらと思います。

奥村:まずセミナー名ですが、"ヤフーニュースらザ・ページへ"というのは、私の個人的な異動ということですね。自己紹介ですが、1992年読売新聞入社、その後7年いましたが、1998年10月にヤフーに転職しました。

ヤフーでは、ヤフーニュースのトピックスにたずさわり、その後、2013年3月にヤフー子会社の株式会社ワードリーフを設立し、4月に動き出し、5月に「ザ・ページ」のサイトをオープンしました。

既存のニュースサイトにないものをつくっていくことが目的で、"気になるニュースを分かりやすく"をスローガンに掲げています。問題意識は、新聞やテレビのニュースが難しすぎるということ。速報中心になっていて、日々の出来事は伝えられるけれど、連続性が説明されていません。

元々いたヤフーニュースにも解説ものを扱ったニュースがなかったです。ヤフーニュースはアグリゲーションでやっていますが、理想のものがなかったので、ザ・ページをつくりました。 

ネットメディアは「流通」に重きを置いている

藤代:ありがとうございます。伝統メディアとネットメディアの違いやそれぞれの特徴はなんでしょうか?

奥村:いまあるネットニュースは「生産」することは強調されていません。どちらかと言うと「流通」に重きを置いているように感じます。ヤフーニュースでやっていることは、世の中のニュースを集めてきて、どう見せるかということです。ニュースの流通の場。書くのではなく、編成する、というところが一つの違いだと思います。

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新聞で落ちこぼれでも、ネットではそうでもない?

藤代:次に亀松さん、お願いします。

亀松:最初は朝日新聞に入ったのですが、3年で逃げ出しました。新聞記者としては落ちこぼれでしたし、特ダネも書いていません。その後会社を辞めて1年間は無職で過ごしていたんですが、ネットと出会って変わりました。

そんなこんなで、去年まではニコニコニュースの編集長、現在は「弁護士ドットコム トピックス」の編集長を務めています。新聞で落ちこぼれでも、ネットではそうでもないということですね(笑)。

ネットと伝統メディアの違いですが、ネットは双方向を意識していますよね。ユーザーとのコミュニケーションができることが一つの違いです。

ネットの魅力の一つは「小よく大を制す」

藤代:奥村さんは、なんで転身したんですか?良かったところなどを教えてください。

奥村:新聞社時代に福井の県政まわりを担当していたときに、ネットカフェができたんです。そこでアメリカの原発などに関する状況が見れたのが、きっかけでした。つまり、これまで足をかせいで取っていた情報が、取材しなくても情報にアクセスできるようになったことに衝撃を受けました。

亀松:あと、ネットの魅力の話ですが「小よく大を制す」というのがありますね。小さいチームで大きいところと競争できること、これがやっぱりネットの魅力です。1999年の春にネットに出会ったんですが、とある人に出会ってホームページの作り方を見せてもらったことで変わりましたね。その時、ネットだったら全世界に発信できるということを実感したんです。

藤代:ぼくの場合は、徳島新聞に10年いたんですが、ネットが出てきてブログがおもしろいと思いました。徳島新聞は世帯普及率80%を占めているんですが、若者向けの記事を担当した時に、若者は新聞を読んでないという事実にぶち当たりました。自分がつくっているものが、読まれていなかったことがとてもショックだったんです。

こういうネットメディアのイベントとなると、「新聞は終わった」とか言いがちですが、お二人は新聞についてはどう思っていますか?

新聞社の取材力やノウハウはネットにはない

奥村:新聞は終わっているとは思っていません。新聞は取材力があり、良くも悪くもコストをいとわないし、体力が強いです。新聞は3行くらいのファクトを取ってくるのに3日くらいも取材するなんてこともザラにあります。

一方、ネットは1人でできるのがよいけれど、やっぱり新聞社は組織取材力がすごいです。全国47都道府県にもいて、通信部もいて、全国で一斉に取材をすることができますから。あとは、新聞は締切があるので、無理矢理まとめなければいけないときもあるので、鍛錬されましたね。

亀松:やっぱり、新聞社の伝統組織がもっているノウハウや人脈、そして余裕がありますよね。ネットにはそこがないと思います。新聞社は人を育ててくれるところもあるのが強みだと思います。

「より使われる記事」を提供するようになってきている

藤代:話が変わりますが、ヤフーニュースにおける既存メディアの割合はどれくらいですか?

奥村:ヤフーニュースは、すべて記事配信を受けていますが、既存メディアが大半ですね。雑誌社や新聞社がなければヤフーニュースはないといっても過言ではありません。

藤代:時代を経て何か変化はありましたか?

奥村:たとえば、野球の勝ち負けの記事がなくなったということが挙げられます。なんでかというと、ネットが出てきた今、わざわざ速報を記事にする必要がなくなってきたんですよね。

藤代:配信を使う側からすると、速報でなくて記事になってきた、と。

奥村:朝刊や夕刊にあわせて、(速報)記事がくることが多かったんですが、「より使われる記事」を提供するようになってきていることが近年の変化ですね。

小さなメディアはニッチで勝負!

藤代:やたらとヤフートピックスに掲載されているネットメディアの一つが亀松さんが編集長の「弁護士ドットコム トピックス」です。すごいなあといつも思っています。

亀松:弁護士ドットコムのトピックスコーナーでは、時事と法律を絡めた記事をつくっています。数字で言うと、月間100本ほど発信していますが、ヤフートピックスには15本(だいたい10本前後)掲載されているという感じです。自信がある記事だけど載らないこともあります。

特に意識していることは、新聞社のようなところは速報重視で、小さなメディアはそこではかなわないので、速報以外の選択肢を考えてニッチなところを攻めているということです。

弁護士ドットコムで言えば、時事問題に関して弁護士のコメントを入れた構成になっていますが、 事実が3分の1、弁護士のコメントが3分の2の割合にしています。新聞の法律関係の記事にも弁護士のコメントがのりますが、すごく短くて、ただの権威付けになっているだけでした。もちろん、記事をすぐ出すためには、それはしょうがないのですが。。

ヤフトピを見るとニッチな穴が見えてくる?

藤代:既存のメディアのやっていないところに、ニッチなマーケットがあるということですね。では、どこにそのマーケットがあると思いますか?

奥村:トピックスが過去2年くらい意識してきたのは、ストレートニュース以外も取り上げていきたいということでした。なので、トピックスを見ると何がないかというようなニッチな穴が見えてくると思います。

ザ・ページもそうです。例えば、尖閣諸島の問題で領海という言葉がでてきたら、領海について解説するコンテンツを出して、図表をつかって一目で分かるようにしています。つまり、世の中のイシューに合わせた分かりやすいコンテンツを出していくことを、ニッチなマーケットと捉えているんです。

「ニコニコニュース」「TOMONEWS」に注目

藤代:最近面白いサイトは何かありますか?

亀松:グノシーやスマートニュースなどのキュレーションも注目されていますが、「ニコニコニュース」をあえて紹介します。 ここに載っているニュースは、ヤフトピと違うので、トピックスによって色々と方針などの違いがあるという面白さがあります。

奥村:ネットらしい、ということに共通しますが、新聞の紙面上で写真は展開できるけど、動画はできない。テレビはフルのテキストではできない。ネットは写真も動画もテキストもできるのが特徴です。

そのようなことをふまえた上で、台湾にある「TOMONEWS」が動画ニュースを真剣にやっているので注目しています。例えば、南海トラフに関しては、テキストや写真で理解は難しいけれど、動画で見ると分かったりします。 テキストでもなく、画像でもなく、動画だと分かるコンテンツを精力的に制作している動画ニュースサイトです。

亀松:台湾で日本人向けにつくっているというところが面白いですよね。コンテンツ制作者が国境を越えているので、日本で制作する必要がなくなるという未来も考えられます。

藤代:なんかユニクロみたいですね。その流れがネットニュースにも来ていて、クラウドソーシング的な流れで、ライターの原稿料も安くなってくのでしょう。

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藤代:個人的には、株式会社LINEが運営している「AM(アム)」に注目しています。ダメ男スパイラルなんかを自社メディアとしてやっていて、ニュースのかたちも広がってきていることを感じるんです。

さて、先ほど動画ニュースの話もありましたが、写真についてはなにかありますか?

奥村:ザ・ページは写真を主に使っていきたいと思っているのですが、権利フリーなどで手に入るものを活用して、本文と関係ある写真を使っています。

藤代:NAVERまとめとかでも、本文と関係なくてもアイキャッチがついているだけで読まれ方が違ったりしますもんね。

亀松:弁護士ドットコムは記事すべてに写真は入れていますが、全部フリー素材ですね。

新聞的なカラーがヤフーニュースの強さ

藤代:あと、ネット記事に関して、細切れになっているイメージですが、パッケージ型というのはありえますか?

奥村:どういうパッケージをつくるかというところで、ヤフーニュースでは世の中大事なことありますよという面と、堅苦しい面だけではなくスポーツやエンタメ系も入れるパッケージの仕方をしています。

亀松:ポータルサイトって、非常に堅いですよね。その堅さというか、ある種の新聞的なカラーがヤフーの強さだと思います。

ネット記事は入り口になるようにつくることが大事

藤代:ネットのニュースが増えてきましたが、これからニュースの世界はどうなっていきますか?

奥村:硬派なニュースの存在感はなくなっていって、身近な生活に関連したニュースが増えていくと思います。

亀松:多くの人は、もちろん自分の興味のあるニュースを知りたいけど、同時に、堅いニュースも知っておきたいと思っているじゃないかと思います。

ただ、関心がないテーマだと拒絶してしまう。そこで、入り口になるようなニュースが大事になるのではないでしょうか。ネットは新聞のようにパッケージ化されていないので、1本の記事ごとに入り口をつくることが大事です。そして、記事のゴールは堅いところ、という感じですかね。

奥村:ヤフトピは8つのジャンルがあって、トップの10本の枠に均等にジャンルを入れていますが、スポーツとエンタメが圧倒的にPVが多いです。

儲かったお金を調査報道などに回すことが大事

会場質問:既存メディアも衰退していて海外では調査報道機関などもでてきていますが、そのあたりはどう考えていますか?

奥村:切実な問題だと思っています。新聞社は人的なリソースがあるので、できないはずはないです。ザ・ページでは解説コンテンツを出していますが、スポーツやエンタメがよく読まれています。

つまり、非採算部門を補うだけの儲かる部門をちゃんをやるということ。儲かる部分だけをやるということは少し違っていて、そのお金を硬派なニュースや調査報道などを行うことに回していくことが重要だと思います。

亀松:既存メディアには余力があるから、リソースの配分を変えれたらいいですよね。できれば、ゼロベースで。 内部に人材がいなければ、外部に求めればいいですし、引退した優秀な人材を活用するのも一案だと思います。

いまこそ新聞社はベンチャーになってほしい

藤代:アメリカがどうしてつぶれているかというと、企業グループで上場して、キャッシュを使っているからですよね。いま、日本の新聞社はリソースとお金があり、チャレンジが問われている状況です。

ビジネスモデルがあってのジャーナリズムではなく、ジャーナリズムのためにビジネスモデルだと捉えてほしいです。既存メディアの人材をネットに近づける部分でもっと工夫ができます。100年前、新聞はベンチャーでした。いまこそ新聞社は、ベンチャーになってほしいと思っています。

亀松:やっぱり、新聞社は紙を持っていることが強いです。だから現状では新聞社はネットに期待していないし、あまり儲けようとも思っていません。紙のルートを持っていることがうらやましいと思うことはあります。

しかしながら、ネットにアクセスできる人にとっては、新聞に速報性を求めていません。編成、パッケージとしての新聞を期待するならば、朝刊をなしにすることも一つのアイデアだと思います。

奥村:ネットと新聞の取材力は(まだ)競争していないですね。ネットメディアが取材力を持っていないとも言えます。新聞社の取材力を凌駕するようなネットメディアが出てきてほしいと思います。

本物のエンタメやスポーツ、分かりやすい記事を届けていく

会場質問:ザ・ページでは、文末でコラボしているライターが明記していますが、どういったパートナーに価値を見いだして、組んで記事を生み出しているんですか?

奥村:ザ・ページでは、みんなが理解できないことを咀嚼して記事の形にしていくことが重要です。編プロを探していますが、健康は書けるけれど、医療は書けなかったり。「だいたい1000字で書いてください」と言っても、なかなかまとめてくれなかったり。なので、コンパクトにまとめてくれるところを探しています。

またザ・ページで取り組みたいことになりますが、「本物のエンターテイメント、スポーツを届ける」ということをやっていきたいです。エンタメ記事はテレビやブログを見て書くなどのフォーマットが決まってきています。

そんな中だからこそ、お金を稼ぐコンテンツとして、足を使って取材して記事をつくっていきたいです。本物のエンターテイメントやスポーツを届け、硬いニュースを分かりやすく、ということを目指していきます。

公共の情報だけはお金になりにくい

会場質問:課金などの有料ニュースの可能性についてはどう思いますか?

奥村:情報の3分類として、投資する情報、消費する情報、そして公共の情報とあります。日経などは投資する情報として成功していますし、小説や映画は消費する情報です。

唯一、公共の情報だけはお金になりにくいのが現状です。しかし、自治体の広報は、紙の広報誌をやめるつもりはなかったりします。なぜなら、有無を言わさず届けられるのが紙だからなんです。届いていることの強みがあります。そこにARを埋め込んだりといった工夫もしているので、紙の可能性も摸索されているところですね。

藤代:公共をどう担保していくのかは問題意識としてあります。例えば、公共の情報に関しては、ライト(右寄り)が売れて、レフトは売れない、といった傾向があるようです。

ネットニュースの世界はこれからどんどん面白くなる

藤代:最後に、今後はどこにチャレンジしていきたいですか?

奥村:半年やってきましたが、引き続き、知ってるつもりだけど、よく知らないところを解説していきたいです。さらに穴を埋めていくようなコンテンツを出していきたいと思います。

亀松:人が足りていませんが、弁護士ドットコムとかの方が面白くなるということだけは言えます。ネットのニュースの世界にどんどん入ってきてほしいですね。ちなみに、トピックス編集スタッフを募集中です。

藤代:やはり人材は課題ですよね。

奥村:記者がずっと移動せず、流動していないことが問題です。

亀松:そうですね。あとはさきほどもありましたが、儲かる部分をつくることが大事ですよね。

弁護士ドットコムはトピックスでニュースを発信していますが、他の部分で弁護士紹介もやっていますし、ヤフーもいろんなサービスがあって、ニュースをできています。

儲かる部分をつくり、調査報道などの非採算かつ意義のある記事を発信できる体制作りが大事になりそうですね。

 

【参考】

 

【過去記事】

 

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*一部、亀松氏の発言部を修正致しました(①2013年11月27日16時50分、②2013年11月28日22時54分)

①修正前:「弁護士ドットコムで言えば、時事問題に関して弁護士のコメントを入れた構成になっていますが、 事実が3分の1、弁護士のコメントが3分の2の割合にしています。既存の法律コンテンツはただの権威付けになっているだけでした」

①修正後:「弁護士ドットコムで言えば、時事問題に関して弁護士のコメントを入れた構成になっていますが、 事実が3分の1、弁護士のコメントが3分の2の割合にしています。新聞の法律関係の記事にも弁護士のコメントがのりますが、すごく短くて、ただの権威付けになっているだけでした」

 

②修正前:ニュースは堅いですよね。もちろん自分の興味のあるニュースを知りたいけど、堅いニュースを知っておきたいと思っているじゃないかと思います。

関心ないと拒絶してしまうけれど、そういうところで入り口のようなニュースが大事になるのではないでしょうか。ネットは1本の記事ごとに入り口をつくることが大事で、記事のゴールは堅いところ、という感じですかね。

②修正後:多くの人は、もちろん自分の興味のあるニュースを知りたいけど、同時に、堅いニュースも知っておきたいと思っているじゃないかと思います。

ただ、関心がないテーマだと拒絶してしまう。そこで、入り口になるようなニュースが大事になるのではないでしょうか。ネットは新聞のようにパッケージ化されていないので、1本の記事ごとに入り口をつくることが大事です。そして、記事のゴールは堅いところ、という感じですかね。