メディアの輪郭

更新するだけ健康になれる気がしています

Mediumが収益化に本腰か? Vox Mediaの広告営業トップが参画

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ブログプラットフォーム「Medium」が新メディア「Bright」を公開——教育イノベーションを伝える」という記事でMediumの最新の動きを伝えたばかりですが、関連してもうひとつ。

上記の記事でもスポンサードメディアを立ち上げていることを紹介していますが、Mediumというサービスで気になるのはどのように収益をあげていくのかという点。このたび、Vox Mediaで広告営業のトップだったJoe Purzycki氏の参画が発表されています。

AdAgeによれば、同氏の役職はブランドパートナーシップ担当。企業のスポンサー契約や広告モデルを確立することになるのでしょう。そういえば課金をやっていないのはMediumらしくていいなあと思います。

Mediumでは一部の寄稿者に原稿料も出しているという情報もあり、そういったコストを含めいろいろお金が出ていそうです。Digidayの記事では99%の投稿者にはなにも支払われていないとのこと。規模としては、Digidayの別の記事ではMedium側はユニークユーザー数を2500万だとしているそう(comScoreでは300万ほど)。

ちなみに、Purzycki氏はVox Mediaに5年在籍、広告営業チームを率いて、2014年の年間総売上は5,500万ドル(約65億円) という数字を出しています。プラットフォームとパブリッシャーの交差点を行くMediumが良質なコンテンツにお金が還元していくために、どのような収益化の取り組みをおこなっていくのか、ただただ注目しています。

 

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ブログプラットフォーム「Medium」が新メディア「Bright」を公開——教育イノベーションを伝える

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ブログプラットフォーム「Medium」が3月31日、新メディア「Bright」を公開しました。テーマは「Innovation in Education」、教育におけるイノベーションです。

編集を担当するのは、課題解決型ジャーナリズムを提唱する「Solutions Journalism」に務めるSarika Bansal氏。ハーバード大学卒、マッキンゼー勤務やニューヨークタイムズでのインターンを経て現職という人物です。

ピンタレストが子どもたちの授業にもたらす革命、科学的にみた完璧な教室、戦争ゲームの影響で歴史専攻した人の話・・・など興味深い切り口のメディアが揃っています。このメディアでも、課題解決寄りのストーリーを提供していくようです。「The New Venture Fund」からの資金提供、ゲイツ財団のサポートなどを受けながら運営していくとのことで、教育に関心のある方は読んでみてはいかがでしょうか。

Mediumについてはこれまで何度か伝えてきましたが、当初のプラットフォーム戦略からどんどんと編集の色を強めています。いわゆるプラティッシャーという志向です。

Mediumの思想については、WIREDの「ミディアムは世界の何を変えるのか:Twitterをつくった男の次なる挑戦」という記事にくわしいです。「新しいアイデアを生み出す」、そして「イデアは交換したほうが、社会全体がより良い場所になる」ということだそう。

「いま、この世の中に生まれるメディアの量は多すぎる。それに比べて、新しいアイデアの創造は足りない。いまぼくらが暮らす世界を説明し、よりよい決断を下すための新しいアイデアを生み出すために、何ができるか、というところが起点になったんだ」

「ミディアムを立ち上げようと思ったときにもっていたヴィジョンは変わらない。そのヴィジョンを実行に移すための商品は大いに進化してきたけれど。立ち上げのときに実現したかったヴィジョンは、人がひとりで考えるアイデアよりも、人が集まったときのほうが良いアイデアを思いつくことができる、という考えが軸になっている。アイデアは交換したほうが、社会全体がより良い場所になる」

ミディアムは世界の何を変えるのか:Twitterをつくった男の次なる挑戦

実際のところ、Mediumが立ち上げている特定のジャンルに絞ったメディアは記事も強烈で濃いです。ジャーナルメディア「MATTER」(正確には買収してリニューアル)、テックメディア「Backchannel」、音楽メディア「Cuepoint」、 スポンサードメディアにはBMWをスポンサーに迎えた「Re:form」やホテル会社マリオット・インターナショナルがスポンサーについた「Gone」 などがあり、今回の「Bright」を加えると6つとなります。

今後どのようなジャンルを押さえていくのか、そしてBackchannelでは『グーグル ネット覇者の真実』『マッキントッシュ物語―僕らを変えたコンピュータ』などの著書でも知られるジャーナリスト、スティーブン・レヴィを起用したように人材の獲得にも目を向けていきたいですね。

「メディアの輪郭」のつくりかた——リサーチをはじめた理由とこれまでを振り返る

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(Photo by Aleks Dorohovich/Creative Commons Zero

メディアの輪郭」というブログを開始してもう1年半ほどになるようです。はてなブログの管理画面を見ていたら、ブログ作成日が2013年10月22日。これまでに300本近くの投稿をしてきたとのこと。開始は同年11月12日。初日に以下にある3本を投稿していることから、どこか力が入っている気がします。せっかくなので、自分の整理も兼ねて1年半をざっくり振り返ってみます。

「メディアの輪郭」をはじめた3つの理由

もともとの経歴は2012年はNPO法人グリーンズが運営するgreenz.jpというメディアでライターインターン、企業のコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業で編集アルバイトを経験し、就活もせずどうしようかと思っていたときに、Wantedlyで求人を見つけた「現代ビジネス」で2013年6月からエディターをしているという流れです。

非営利/営利メディアのどちらも経験したことで、いろいろ考えたのがブログの開始時期に重なっているのかもしれません。大学は英語学科を出ているんですがなぜか編集の仕事をしているのには、いくつかの理由があり、それもブログをはじめたことにつながっています。

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(タイ最大の難民キャンプであるメーラキャンプで撮った写真

ひとつは新潟県佐渡島が出身であり、地方と都市の情報ギャップを感じたこと。ふたつは大学でミャンマーの難民研究をしていてタイとミャンマーの国境にある難民キャンプに行ったときに、先進国と途上国の情報ギャップを感じたこと。最後に大学後半でNPO/NGOの活動にも参加するなかで、社会課題に取り組む人は多いものの、課題やソリューションなどが思いのほか伝わってないと思ったこと。これらがメディアにかかわることになった主な理由です。

地方、途上国、NPO・・・どれも情報発信が遅れていたり、編集するものはあるものの編集する人がいなかったり。そんなことをひしひしと感じていました。まわりは就職で英語教師やホテル、航空・外資系企業などが多かったように思いますが、それでも編集を選んだのには情報発信におけるビハインドの実感が大きかったのでしょう。

ビハインドが大きいからこそ、メディアの最先端を知らないといけないのではないか。徹底的にリサーチをしてくわしくなって、そのなかで地方、途上国、NPOの情報発信で生かせることがなにかあるのではないか。そんな思いで開始し、いまもその思いの延長線上にいます。

メディアの輪郭をやっていると、ものすごいメディア好き(関心対象がメディアそのもの)な人と出会うことも多々ありますが、そのたびに自分は関心対象がメディアではなく、メディアというツールを使ってなにを実現するのかという方向に関心があるのだと再認識しています。メディアにあまり関心がなく勉強の意味合いが強いからこそ、リサーチを続けられているのです。

当初のテーマは「新興メディアの視点」と「大手メディアの実験」

「メディアの輪郭」というネーミングは、ただ自分がメディアについて本質的なことは書けないということや、そもそも意見や議論とかの発信が苦手なこともあり事例や取り組みを淡々と紹介するスタイルで長い目で多くの投稿を見ていったときに読者の方にとってなにか気付きがあればといった冗長でアバウトな由来です。

あと「メディアの本質」とかにしてしまうと、毎回ちゃんと書かないといけなくなる気がして、力を抜いていつでも書けていつでも辞めることができるように輪郭という言葉を選びました。独自ドメインをとっていないことやブログ専用のSNSアカウントをつくっていないことも上記の理由からです。ニッチなので無理せずじわじわと広がればいいなあと思っています。

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ブログをはじめるにあたり、次に決めたことは「なにを書くか」ということ。メディアの輪郭の場合、「新興メディアの視点」と「大手メディアの実験」という2つのテーマを掲げました(いまでは書評や取材後記のような使い方もしています)。新興メディアはたとえばバズフィード、大手メディアはニューヨーク・タイムズというと分かりやすいでしょうか。新興か大手かどちらかに絞ればもっとエッジが利いていたかもしれませんが、あくまで輪郭であり勉強であるので、まんべんなく取り扱う必要がありました。

新興メディアはテクノロジーを活用したり、SNSで流通を獲得したり、大手メディアにはできないメディアのあり方や未来を見つめていて、逆に大手メディアは資金や人員がいるからこそできるトライもあり、それぞれを見ることはいまでも非常に興味をそそるものです。

書くことを決めたあとは、いろいろと調べました。国内ではどんな人が海外メディアについて情報発信しているのか、海外ではどんなメディアや人がメディアについて情報発信しているのか。この2つについてざっくり調べた気がします。

前者は「海外メディアについて知りたい時に必ず読むブログ7選」という投稿で紹介。後者はツイッターのリスト(MEDIA INFOと 海外メディアが気になるときにサクッと見るリスト)とグーグルアラートで追うようにしています。グーグルアラートは50個ほど登録していて、主なものだと「BuzzFeed」「Vice Media」「Future of Media」「Audience Development」「Journalism startup」「Investigative Journalism」「Long Form」など。最近だと「Decentralized Web」とかも気になって登録しました。

グーグルアラートで1年間バズフィードの情報を追っていたこともあり、1万字を超えてしまった「収益1億ドル超え、ニュースアプリ開発、社長・発行人交代、新たな国際展開---米ニュースサイト『バズフィード』の2014年を振り返る」という記事を時系列順で書くこともできたりしました。また、ブログで情報収集・発信を続けるにつれて、ブログやメディアでも紹介いただくようになりました。

転載、イベント登壇、寄稿、連載について

外部転載がはじまったのは、2013年11月12日にブログをはじめて2週間後の11月27日。BLOGOSにて「ニッチな穴を狙え! ジャーナリスト、ネットニュース編集者らが語った『新しいネットメディアの可能性』」という記事がはじめてでした。BLOGOSがきっかけでいろんな人に知ってもらうことができました。その後、ハフィントンポスト日本版All About News DigFashionsnap.comなどに転載されています。今後もできるだけ外部配信は増やしていけたらと思っています。

また、メディア関連のイベントで登壇する機会もたまにいただくようになりました。国内外のバイラルメディアを初期の頃から追っていたこともあり、2014年夏ごろには「キュレーションメディアサミット」「バイラルメディア祭り」といったイベントに登壇。

これまでスライドを3つ公開しているのですが、以下のものは7万回閲覧されています。3つ合計では11万閲覧ほど。イベントとは別に友人・知人からメディア相談を受けたときに、気分でオリジナルのスライドを用意してカフェで話したりすることもあったりするので、情報をまとめるのは好きなのかもしれません。引き続き勉強も兼ねてスライドはつくっていきたいなあと思います。

メディアの輪郭をはじめてから、現代ビジネスでも編集の傍ら「デジタル・エディターズ・ノート」という連載をもたせていただいています。国内外のメディア動向を追っていて、海外はこのブログよりも長めに書き、国内においてはあまり取り上げられていないけれど自分が注目している人やメディアをじっくり紹介することを意識しています。国内はいくつか例を挙げると以下のあたり。

ブログの話に戻ると、転載以外にも寄稿なども増えました。紙媒体では、『新聞研究』 『事業構想』、ネットメディアではTechCrunch JapanやJapan In Depthなど。そのほか、個人や企業のメディア関する相談が増え、週に数回ほどヒアリングを受けたりアドバイスをする機会があります。多様なメディアの状況を聞くことで視野が広がるのでとても楽しいです。そういえば、朝日新聞の記事でコメントが掲載されたこともありました。

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地道に続けていると、読んでくださる方は増えるみたいで、「Feedly Subscribers Checker 2」で購読者を見てみたところ、1400人以上の方がFeedlyで購読しているようでした。ニッチなトピックにかかわらず、この数字はとても嬉しいです。引き続き、仕事以外の時間で地道にリサーチを続けていきたいと思います。

続けられた理由は先述の地方、途上国、NPOという3つの軸での情報発信に向けてということや、自分が気になったものをそのときの気分の文量でしか書いていないこと、意外と海外メディアを追っている人が少なくてもったいない気がすること、紙/Web/スマホなどメディアのあり方が大きく変わろうとしていること・・・などいろいろありそうです。グリーンズのインターンを卒業するときに共同編集長の鈴木菜央さんからもらった「どこでもいいから(情熱的な)ニッチナンバーワンになれ」という言葉も影響しているのかもしれません。

改めて振り返ってみると、ブログ開設してからは情報源の確保と執筆くらいしかしていないですね。海外メディア事情については上の世代の方々に解説や持論を発信している人はいるため、基本的に自分の意見は伝えず情報を提供するスタンスをとっています。そういう意味ではこのブログは楽なのかもしれません。今年は本もなんとか読めているので紹介したり、もっと内容のある決定的な記事も書いたりしたいです。

「狙ったターゲットに役立つ情報を届ける雑誌はWebに取って代わる」——紙雑誌生き残りのヒント

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『編集会議』2015年春号を読みました。マーケティングに活かす「編集者」的発想法という特集タイトルで、企業のコンテンツマーケティングから雑誌編集長の対談、編集者とライターの打ち合わせ公開、プロの書き手6名のインタビューなど盛りだくさんです。

なかでも紹介したいのは、『Harper's BAZAAR』編集長の森明子さんと『WIRED』編集長の若林恵さんの対談。それぞれハーストとコンデナストというグローバルメディア企業の雑誌としての立ち位置は同じです。二誌にまず共通していたのは、ネタの豊富さ。海外版もあるため、日本にいながら世界中の情報を得ることができるということです。WIREDのウェブ版をみると、おもしろい翻訳記事が多いですよね。

ローカライズする際の工夫として若林さんは1万字くらいあるロングフォームのインタビュー記事をそのまま掲載することを挙げています。「『海外では、こういうスタイルは普通なんだぜ』という、内容だけでなく雑誌としての見せ方も含めて伝えたいんです」という言葉がありました。一方、森さんは掲載時に写真を切り取ったりレイアウトを変えることが厳しい規則があり、結果として海外のものをそのまま伝えるようにしていると別の理由を語っています。

紙とWebの編集体制については、どちらとも同じチームでやっているそう。若林さんは「紙とWebの読者層は、意外とかぶらないんです。極端にいえば、Webで読んだ記事を、雑誌で読んでも同じだと認識しないこともあるんじゃないか」という重要な指摘を示しています。

さらには紙とWebでは期待するほどのシナジー効果はなく、別チャンネルとして割り切っているとのこと。ただ、広告に関してクライアントにとっては両媒体で見せ方を変えて効果を見込むという意味ではシナジーがあると述べています。

ターゲティングについては、「『WIRED』の読者は、『WIRED』に掲載されている情報に興味がある人」と若林さん。「ターゲットを決めてしまうと、誌面の情報が単なるノウハウになってしまう」「"狙ったターゲットに役立つ情報を届ける"という機能性だけの雑誌はWebに取って代わる」といった理由からだそうです。

偶然にも前のページの対談に登場する『SPA!』編集長の金泉俊輔さんも「人間って合理性の高いだけのものに関して、感動したり怒ったりしないんですよ。そのためにも情報コンテンツのつくり手は、常識だと思うものを徹底的に疑ってほしい。常識がひっくり返ったところに喜怒哀楽があります。これは機械にはできない、人間だからできることです」といった発言をしていました。

そのほかにも「読者を信用すること」「若者が雑誌を買わないのは、雑誌を読んだらおもしろかったという体験がないから」など興味深いキーワードが出てきている今号の『編集会議』はおもしろかったです。

 

この1年でスマホからの動画視聴は1000万人増/SNS利用は700万人増——国内のメディアやスマホの最新事情を知るためのデータ15選

年初に「2015年のメディアづくりに参考になりそうなスマホや動画に関するデータ10選」という記事を書きました。以降もメディアやスマホ、動画視聴、コマースなどさまざまな分野における調査が出ています。気になるものをメモしていたので、基本的な部分から具体的なものまで、簡単に紹介。なんとなく、スマホを中心とするメディア環境がざっくりつかめるのではないかと思います。

1. PCからのインターネット利用者数減少が約5000万人でストップ

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(出典:ニールセン

ニールセンが3月に発表した「Digital Trends 2014」。そのなかでは、PCとスマホのインターネット利用者の推移のデータがあり、PCからのインターネット利用者数は約5000万人で減少がストップしていることがわかります。一方のスマホは4500万人を超えるなど微増が続いています。

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(出典:ニールセン

ほかにも上の表にもあるPCの利用目的(とスマホ利用での目的)も興味深いです。PCでは「必要な知識・情報を得るため」「新しい知識・情報や面白い情報を得るため」「商品やサービスを購入するため」の3つが上位を占めています。スマホではそれらがトップ10には入っているもののギャップがあるのは媒体の特性を理解するうえでもおもしろいですね。

2. SNS利用の現状:スマホからのSNS利用者は4243万人(2014年に700万人以上増)

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(出典:ニールセン

ニールセンが1月末に出した調査によれば、「スマートフォン利用者の92%がSNSを利用」とのこと。PCからのSNS利用者が3442万人なのに対し、スマホでは4243万人と2014年に700万人以上増えています。

利用サービスについては、LINEとFacebookがそれぞれ3400万人前後の利用者を抱えているそう。2014年に最も利用者数を伸ばしたサービスはInstagram。広告も芸能人の利用が増えている気がするので、2015年もビジュアルコミュニケーションは注目ですね。

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(出典:ニールセン

3. 高校生のスマホ利用:女子高校生の1日の平均使用時間は7時間

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(出典:デジタルアーツ

さきほど小学生のスマートフォン利用を紹介しましたが、こちらの資料では高校生のデータに触れたいと思います。調査の母数が少ないものの、男女平均で96%。女子高校生の1日の平均使用時間は7時間、さらには女子高校生の約4人に1人が「0時から3時」に使用しているとのこと。この調査での女子高校生のインスタグラム利用率が35%である一方、男子高校生のそれが6%というのもおもしろいです。

4. 小学〜高校のネット利用:コミュニケーション目的が89%(高校生)

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(出典:内閣府

内閣府が2月中旬に出した、平成26年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」は満10歳から満17歳に対する調査。母数のケタは異なるものの、先述の資料とも重なる部分が多いです。

高校生の95.8%がインターネットを利用し、そのうち63.3%がスマートフォンで2時間以上ネットを利用しているとのこと。高校生に関してデバイスの利用目的は、コミュニケーションが89%、音楽/動画視聴が80%弱。小中学生になるとゲームの割合が多くなっています。また保護者のインターネット利用についてもデータを発表していて、スマホ利用は7割弱で、各デバイスでの平均利用時間は109.2分となっています。

小学生に関しては、ICT総研が1月末に発表した「小学生のスマートフォン利用実態調査」によれば、小学生の携帯電話利用者は3人に1人(スマホ利用者は6人に1人)とのこと。小学生のスマートフォン利用者数は2018年度末には144万人にまで増加すると予想され、全児童数の22.5%が利用することになるようです。

5. 10代のスマートフォンの接触時間が、PC、テレビを抜いてトップに

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(出典:ジャストシステム

ジャストシステムによる『モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査』(総集編)では、12月度調査において、10代のスマートフォンの接触時間が、PC、テレビを抜いてトップとなったという象徴的なデータが示されています。「11月度調査では、10代女性の1日あたりのスマートフォン利用時間は200分を越え、スマートフォンは通話のためのツールではなく、一つのメディアとしてポジションを獲得した年」との分析もあります。

6. ニュースキュレーションアプリ:スマホ上で「SNS」「ゲーム」「動画」アプリ利用が1日平均約2時間

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(出典:ジャストシステム

同じく『モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査』には、ニュースキュレーションアプリについての項目も存在します。2014年はスマートニュースやグノシー、アンテナ、ラインニュースなどが成長し、2015年にグノシーが上場と、盛り上がっている市場です。

全国の15歳から69歳の男女1,100名を対象の調査ですが、利用率はYahoo!ニュース、スマートニュース、ラインニュースという順。スマホ上では「SNS」「ゲーム」「動画」アプリに1日平均約2時間、10代では3時間以上使うというデータも出ており、2015年もさらなる時間の取り合いが繰り広げられていくことでしょう。

7. ニュース/ポータルサイト・企業サイトが購買に与える影響

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(出典:アドビ システムズ

アドビ システムズ日経BPコンサルティングに委託して実施した調査によれば、ニュース/ポータルサイトや企業のウェブサイト、ソーシャルメディアが購買行動に与える影響が大きくなっているという結果が出ています。逆にテレビや新聞、雑誌は軒並み激減しており、この傾向はしばらく続くことでしょう。

また、テレビ・新聞・雑誌を見て気になった商品の最新情報をWebサイトで調べる消費者が88.3%いるとのこと。つまり、テレビ・新聞・雑誌からすぐに行動に移らないという見方もできそうです。 

8. 動画視聴:ミュージックビデオが44%でトップ、「ながら視聴」は61%

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(出典:オプト

オプトによる「動画視聴行動調査2015」によれば、動画サイトで視聴した動画の分野のトップは「ミュージックビデオ」で調査対象1200名の44%となっており、昨年比12ポイント増です。そのほか、おもしろ、お笑い、映画、ニュースなどが続いています。

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(出典:オプト

また、ながら視聴に関しても"年末年始"限定のデータを出していて、61%となっています。そのときのデバイスは56%がノートパソコン、44%がスマホと回答。さらに上のグタフはながら視聴のシチュエーションを示しており、ノートパソコンではメールしながら、スマホではLINEをしながら、という違いが出ています。

9. この1年でスマホから動画視聴が約1000万人増加

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(出典:ニールセン

動画についてはニールセンの「ビデオ/映画」カテゴリの最新利用動向をチェックしてみましょう。この1年でPCからの動画視聴が減少し、2015年1月時点でスマホが3701万人、PCは2682万人となり、スマホから動画視聴が1000万人近く増えていることがわかります。

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(出典:ニールセン

各スクリーンからの「YouTube」「ニコニコ動画」「GYAO!」という箇所では、GYAO!のみPCからの視聴が増加しています。共通点は、一訪問あたりの利用時間はスマートフォンよりもPCの方が長いということでした(ニコニコ動画では、スマホからの利用時間がの3分、PCからは27分で約9倍の差がある)。

3サービス全てにおいて、「PCは男性、スマホは女性」の割合が高くなっていることも興味深いポイントだと思います。

10. 音楽視聴:「動画アプリ」からの視聴が56.1%とトップ

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MMD(モバイル・マーケティング・データ)研究所はスマホでの音楽視聴についてのデータを発表しています。iOSユーザーの32.9%、Androidユーザーの20.2%が「ほぼ毎日」スマートフォンで音楽を聴いているとのこと。また、視聴方法については「動画アプリ」が56.1%、「無料音楽配信アプリ」が33.2%、「購入したCDからスマートフォンに取り込んでいる」が32.7%という結果に。有料/定額はまだまだ少ないようです。

11. スマホ広告:2014年のスマホ広告市場規模が3,008億円(2015年は3,903億円との予測)

 

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(出典:CyberZ

サイバーエージェント子会社CyberZの調査では、2014年のスマホ広告市場規模が3,008億円で、前年比162%と高成長だったことが分かっています(前年予想時は2,304億)。この背景には、「スマートフォンの特性を活かした広告媒体や広告フォーマットの登場により、スマートフォン向け広告商品の多様化が進み、広告主のスマートフォンにおけるプロモーション環境は大きく改善」といったことがあるようです。

ちなみに、2015年にはスマホ広告市場は3,903億円と予測されています。ニュースアプリやキュレーションメディアのマネタイズとしても運用されることが多いスマホのネイティブ広告市場も右肩で上がっていくとのことです。

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(出典:CyberZ

12. アプリ経済:2013年度は約8200億円規模、年次90%成長

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(出典:Google Japan

グーグルと野村総合研究所NRI)がまとめた「インターネット経済調査報告書」2014年度版は、インターネットが日本経済全体にどのように貢献しているかを把握することができる貴重な資料です。

調査では、スマホから生まれたビジネス領域を新しく「アプリ経済」と捉え、2013年度における規模は約8200億円という数字を発表。2014年時点で56.5 万人分の雇用創出をしており、アプリ経済が2011~2013年度にかけて、年平均成長率90%と高成長を遂げていると分析しています。

13. コンテンツマーケティング動向:実施理由の67%がブランド認知、半数以上がアウトソース

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(出典:エコンテ

エコンテによる「コンテンツマーケティング調査レポート(2015年版)」が、コンテンツマーケティングの現状をつかむのに最適な資料です。まずは実施理由。ブランド認知がもっとも多く67%、顧客獲得が50%となり、そのほか見込み客の育成やエンゲージメントが続いています。

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(出典:エコンテ

実際にどのような手法でアプローチしているかというと、ソーシャルメディアや自社ブログが多い結果となっています。ソーシャルメディアのなかでは、コンテンツマーケティングにフェイスブック取り組むという回答が7割という結果に。6割がフェイスブックの効果を感じているとのことです。

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(出典:エコンテ

また、おもしろかったのが、コンテンツをアウトソースしているかどうかというもの。半々くらいとなっていて、デザインを外部に手がけてもらうことがいちばん多い結果となっています。

そのほかにもコンテンツマーケティングのむずかしさ、過去の情報発信/今後の情報発信、実施効果をどういう軸でおこなっているのか。「コンテンツマーケティング調査レポート2015年版」はこれからコンテンツマーケティングを導入する際の説明や提案に向けても有益な資料になると思います。

14. ハッシュタグ:約4割が利用経験あり、気になる商品や情報を検索するため

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(出典:アライドアーキテクツ株式会社)

アライドアーキテクツ株式会社が発表した「女性のハッシュタグ利用状況と利用しているSNSについての実態調査」はこれまでのデータよりも切り口が具体的なものですが、非常に興味深いです。36%がハッシュタグ利用経験があり、利用SNSツイッターが83%とトップ。

「気になる商品や情報を検索するため」が6割を超えていることから、ECなどでももっと活用されるようになるのでしょうか。実際、食品や化粧品の検索を経験している人は4割を超えているとのことです。

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(出典:アライドアーキテクツ株式会社)

理由については、「検索が簡単なため」(28%)、「情報が整理されているため」(19%)、「リアルタイムで情報を得られるため」(16%)、「見ているだけで時間が潰せるため」という順になっています。

15. スマホからのEC利用:「キーワード検索を利用」は77%

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(出典:ゼロスタート

ロスタートが3月に発表した「スマートフォンでのEC利用調査」によれば、消費者の62%がインターネット上のショッピングモールを利用しており、40%がECサイトのアプリやスマートフォン向けサイトを利用しているとの結果。

スマホからのEC利用にともない、「スマートフォンでの購入頻度が上がった」(42%)、「商品情報の比較頻度が上がった」(35%)、「店舗に行く前・店舗内でスマートフォンで商品検索してから購入」(20%)というデータも出ています。サイト内での行動では、「キーワード検索を利用」が77%との結果も注目です。

おまけ:雑誌広告の広告注目率は45%、精読率は約30%

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(出典:ビデオリサーチ

最後におまけとして、紙媒体のトピックをひとつ。ビデオリサーチによる第2回雑誌広告効果測定調査「M-VALUE」の結果を紹介(21社36誌、合計646素材の広告を対象に調査)。

掲載された広告に「注目」した(確かに見た)人の割合を示す「広告注目率」は、36誌646素材平均で44.7%でした。
また、読者のうち、広告を「確かに見」て「内容まで読んだ/じっくり見た」人の割合を示す「広告精読率」の平均は28.9%でした。

広告に注目した読者の66.6%が広告商品・サービスに「興味関心」を抱き、53.0%が「購入・利用意向」を示しているとのこと。ウェブ広告でもこのような調査を探してみたいですね。 

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ひとつひとつのデータをバラバラに見ることはあっても、なかなかまとめて見ることは少ないのではないでしょうか。まとめて見ることで、意外な関連が見つかったり、全体感の理解につながったり、次のトレンドを読むことにつながると考えています。なにか参考になれば嬉しいです。

 

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「本を楽しんでいる時間は共有しづらい」——新しい本との多様な出会いをつくるということ

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今年に入ってからブログで本を紹介することが増えたのですが、先日、本と出会うiPhoneアプリ「Stand」について取材することができました。StandはiOSアプリで、非常にシンプルな設計の本のアプリ。

バーコードスキャンかワード検索でどんどん本を投稿していくことができます。開くたびにタイムラインが表紙だらけなので、本好きの方はヘビーに使えるかもしれません。同じ本を投稿したユーザーが紐づけられたりとソーシャルな機能もおもしろいです。

現在は、Webサービスエンジニアの井上隆行さんとブック・コーディネイターの内沼晋太郎さんがこのアプリを手がけています。内沼さんの本屋講座に参加した井上さんがアプリを見せたことで、内沼さんはまさに新しい「本屋」のあり方だと感じたそう。

 「最初に話を聞いた段階では、ほかの本棚アプリや読書管理サービスとの違いが明確ではないと感じました。でも実際に画面を見たり、モックアップを触るなかで、ひょっとしたらこれは全然違うものになるんじゃないかと思ったんです」(内沼氏)

「理想はいろんな本好きが共存できる状態」---井上隆行氏と内沼晋太郎氏に聞く、シンプルなアプリ「Stand」だから生まれる本との出会い

シンプルでフラットに投稿が並ぶことがとてもいい点だなと思っています。基本的には本の紹介と発見という2つの楽しみ方だありますが、さまざまな状態にある、さまざまなユーザーが投稿できる場所なのです。

ぼくは本を読んでも読書管理サービスを使うことがあまりありません。でも、ツイッターやインスタグラム、時にはブログに本を買ったことや読んだこと、考えたことなどを投稿することはあります。それはたぶん、普段づかいしているサービスだからでしょうか。

Standには欲しい本も買った本も、これから読む本、読んでいる途中の本、読み終わった本・・・いろんなタイミングで本を気軽に投稿できるのが心地いいです。もちろんコミックや雑誌好きの方なども投稿されていて、先述の記事タイトルの「いろんな本好きが共存」ということを実感できます。コメントもできますし、しなくてもいいのでとりあえず自分の本棚的に使うことも可能です。

さきほど「さまざまなユーザー」と言いましたが、ユーザーは読者のみならず、本屋や編集者、出版社などの本の中心でありまわりにいるプレイヤーも利用していくことでしょう。一般ユーザーと同じく表紙とコメントでの投稿がフラットに並ぶなかで、どのような使い方ができるのか楽しみです。

たぶんしばらくはシンプルなままで、どこかのタイミングでもっとコミュニケーションできるようになったり、アマゾンなどECとも紐付けしたりするのではないかと思います。ぼくは新潟の佐渡島というど田舎出身で本屋もほとんどなく、本との出会いがほとんどなかったので、地方の人の活用が増えたり、でいなかった人が発見にしたらよりアプリの可能性が広がるのではないかと思います。

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ぼくがStandを知ったのは、「本のためのインターネット? Standとそのこれから」というイベントにたまたま参加したときこと。StandがTwitterのように時系列が並ぶのではなく、おもしろい人やコンテンツが繰り返しピックアップされるTumblr的だよね、という話を覚えています。

ほかにもアマゾンのほしいものリストを読み込んで、誰かがリストにある本を投稿すると通知が来るのはどうかというのもおもしろかったです。Twitterのお気に入りもそうですが、ほしいものリストもとりあえず入れているものが多く掘り返すことがないので、こういった機能がついてくると、これまでになかった本の出会いが生まれる気がします。

あとは「本を楽しんでいる時間(瞬間)は共有しづらい」という言葉も出ていました。そういう意味で、Standを使うなかで、自分が最近読んだ本を別の人がずっと前に読んでいることを知ったり、いろんな瞬間で投稿できるのは本の楽しみを多様な時間軸で切り取ることにもつながります。また、たとえ投稿しなくても、いろんなの人の思考や価値観の源泉みたいなものを本からたどることもできたりするのでおもしろいと思います。

standbk.co

 

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個人サイトとしてはじまった「ViralNova」の躍進——20名体制で月間訪問数「1億」超え

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2013年の終わりに「立ち上げ半年で3000万PVのメディア『ViralNova(バイラルノバ)』は1人体制らしい」という記事を書いたことがあります。バズフィードやアップワーシーなどバイラル/キュレーションメディアが注目を集め、その後追いサイトが多くでてきたころで、バイラルノバもその一つでした。

最近、このサイトにフォーチュンなどの海外メディアが再び焦点を当てています。先述の記事では「運営1人/月間3000万PV」ということで十分キャッチーでしたが、その後も成長を続け、月間1億訪問数とのこと(ちなみにバズフィードは2億)。

2013年冬には売り先を探していたようですが、いまでは外部からCEOも雇い、メディア企業として生まれ変わりました。個人で運営していたときのオハイオからニューヨークに移動し、オフィスを開設。20名以上のスタッフが加わり、規模拡大に成功しました(バズフィードは900名弱)。スタッフはTumblrYouTubeReddit、Imgur、Twitterなどに張り付いて話題を拾っているとフォーチュンの記事でも言及されています。

バイラルノバはネイティブ広告に本腰を入れ、さらなる収益化に向かいます。トップ画像においても右下の記事はスポンサードコンテンツとなっているように、ところどころ広告が入っていることを確認できます。昨年は1000万ドル(12億円)の売上を記録したようですが、今年は倍増を計画しているとのこと。

メディアの規模としてもさらなる飛躍を目指します。DIYやサイエンス、動物など特定のジャンルも強化しており、それぞれにフェイスブックページを開設。バイラルノバのメインのフェイスブックページには200万以上のいいね!が集まっていますが、それぞれのジャンルでも潜在的なファンを囲っていくのはバズフィードなどもやってきたやり方でもあるので、今後の伸びも楽しみです。

 

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新鋭ビジネスメディア「Quartz」、アフリカ版開設へ

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アトランティックメディア傘下のビジネスメディア「Quartz(クオーツ)」がアフリカ進出を発表しました。オープンは6月で、ゼネラル・エレクトリック(GE)社がスポンサーとのこと。

エディターは、フィナンシャル・タイムズでライター、ロイターで特派員などの経験を持つYinka Adegoke氏。クオーツは2014年夏にインド版も運営していますが、今回のアフリカ展開からも、グローバルな市場を狙っているのではないかと思います。

特にアフリカではモバイル人口が急増しており、世界銀行によれば、2011年時点で6.5億人のモバイル人口がいるとの調査結果を出しています。2000年には1600万人ほどだったので、11年で40倍に激増しているのです。

公式ブログでは、地域のコンテンツとターゲットが定まったネイティブ広告を展開、と書かれています。全読者のうち40%がアメリカ国外からのアクセスだというクオーツ。現状アフリカからのアクセスは月間10万ほど。

しかし、インド版という前例はいまは月間130万人の読者を集めている(8ヵ月で500%成長)ことから、アフリカでの成長も期待されます。ツイッターアカウントも開設されているので、情報を追いつつ、オープンを待ちたいです。

 

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Webコンテンツの収益化には「多対多の関係性」が求められる? コンテンツではなく場に課金するという考え方

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先日、有料会員制のオンラインサロン・プラットフォーム「Synapse(シナプス)」を展開する田村健太郎さんにお話を伺いました。シナプスのサロンはフェイスブックグループでの主宰者や参加者とのコミュニケーションを体験できるというもの。月額1000円程度のものから1万円を超えるものまでさまざまなサロンが存在します。

コンテンツ単体での課金よりコアなファンに多く払ってもらうモデル

取材・執筆するなかで興味深いキーワードが出てきましたのでいくつか紹介。たとえば以下のような言葉が印象に残っています。

  • 体験型コンテンツ消費と、場にお金を支払うという感覚がカギ
  • 単価を上げ、少数のファンからお金をもらう仕組みのほうがうまく回るのではないか
  • ユーザーの熱量を最大化するためにちゃんとアクティブな仕組みをつくることがいちばん大切
  • 広く支持されるコンテンツと、熱心なファンが求めるものは必ずしも一致しない
  • 一対多から多対多の関係性に移行しているサロンはうまくいっている
  • 主宰者はコンテンツづくりに集中、シナプスがマネタイズの最適化を図る

「体験型コンテンツ消費」というのはコンテンツだけを楽しむというよりは、コンテンツを軸としたコミュニケーションを消費すること。サロンであれば、投稿とコメントでコミュニケーションでき、その人だけでなく参加者も含めた場にお金を支払う感覚が強いこともあるようです。

「単価を上げ、少数のファンからお金をもらう仕組みのほうがうまく回るのではないか」というのは、田村さんが過去にマンガや電子書籍関連サービスを手がけているなかで感じたこと。先ほどの話とつながりますが、コンテンツ単体での課金はむずかしく、コアなファンに多く払ってもらうモデルのほうがよいと考えオンラインサロンのプラットフォームを運営しています。

これはサロンのみならず、ほかのプラットフォームでも見られること。たとえば、音楽ユニット「UQiYO」がnoteを活用して4つの有料プランを用意していることがCINRAのインタビューで掲載されていました。ライブの撮影や録音ができるメニューがとても魅力的ですし、地方のファンに向けたプランもあることがいいですね。

月額500円で動画やブログやYuqiさん作の漫画などがウェブ上で見られる「コト」、月額2,000円でライブの撮影や録音ができたり楽屋の秘蔵映像が見れたりしてライブをより楽しめるサービスが含まれている「ナマ」、同じく月額2,000円でポストカードやスペシャルギフトが郵送で届く「モノ」、そして月額10,000円の「ササエ」という4つのプランに分かれている

UQiYOと加藤貞顕に学ぶ、ネット時代の作り手とファンの繋がり方 - 音楽インタビュー : CINRA.NET

コミュニケーション消費において、一対多から多対多の関係性への移行が重要になる

田村さんにインタビューするなかで、「一対多から多対多の関係性に移行しているサロンはうまくいっている」ということがとても興味深く、これからのオンラインでの小さなコミュニケーションを収益につなげるヒントになると思いました。これまで紙メディアであれば一方方向の情報発信でした。ウェブでもインフルエンサーなどのあり方を見ると分かりますが、一対多の関係が強いです。

しかし、たとえば美容師の方のサロンでは参加者がカットの画像を投稿してフィードバックし合うようなこともあると聞いて、多対多がポイントであることがよくわかりました。場にお金を払うこととも関連しますが、サロンの主宰者を目的に入ることはもちろんですが、そこにどんな人が集まり、どんなコミュニケーションが生まれる場になるのか。そういったことが重要なのでしょう。 

多対多の意味するところは、参加者がそのコミュニティ内で発信者にも受信者にもなり、コミュニケーションを楽しむことができることなのかもしれません。一対多の場合は、どうしても主宰者の投稿が多くなり、予想を超えたり、多様な体験を継続的に提供することはよほど工夫しないとむずかしいのではないかと思いました。

今年中にサロン数を500まで増やすとのことなので、地方コンテンツやニッチな領域含めどこまでこの仕組みの裾野が広がっていくのか。メディア関係者は追いかけるべき、プラットフォーム(とその背景哲学)であると思います。

バズフィードの新動向:ネコ写真共有アプリ「Cute or Not」公開、デーヴィッド・キャメロン英首相インタビュー

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少し前の話題ですが、バズフィードが新アプリを出したことについてさまざまな海外メディアが取り上げていました。昨年からニュースキュレーションアプリを開発している噂がありましたが、なんとリリースされたのはネコのアプリでした。

Cute or Not」はiOSアプリで、Tinder風にかわいいかそうでないかをスワイプで決めていくもの。ネコやイヌの画像を投稿することも可能です。これまでネコというのはバズフィードのキーワードであったので納得はいくものの、実験的なアプローチであり、メディアとしてはユニークな事例となりそうです。

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2012年にバズフィードにおいて動物カテゴリーをつくったときから着想はあったとのこと。人気の画像なども記事に活用するということで楽しみですし、もちろん、2015年内にリリースされる予定のニュースアプリにも期待したいです。

*****

今年に入って「米ニュースサイト『バズフィード』、オバマ大統領インタビュー実施へ」という記事でビッグイベントを紹介しましたが、今度はイギリスで話題がありました。デーヴィッド・キャメロン英首相を月曜日インタビューするとのことで、イギリス版のフェイスブックページにてライブ中継が実施されるとのこと(内容がアップされたらまたご共有したいです)。

バズフィードはイギリス版にもエディターを積極的に採用し、力を入れている国のひとつです。いまでは60名ほどの体制でメディア運営に取り組みます。

これでアメリカとイギリスの首相をインタビューしたことになり、新興ネットメディアとしてさらに抜きん出た存在との認識が広まることでしょう。メディアとしてのブランド強化にもつながることで、今後、さらに大型のネイティブ広告が入ってくることに注目したいです。

以前、バズフィードの2014年の主な動向をまとめた記事を出しました。もし同メディアの戦略の流れや次を予測したい人は読んでみてください。

ニューヨーク・タイムズ、Instagramアカウント開設——伝統メディアの読者開発として注目

昨年、「イノベーション」と題したレポートを通じて、新興メディアの分析や自社の課題を明らかにしたニューヨーク・タイムズ。以来、読者開発がひとつのテーマとなっており、それに特化した部署も設置され、さまざまなプラットフォームに対してどのように最適なかたちやボリュームで情報を発信していくのか試行錯誤しているかと思います。

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そんななか、インスタグラムのアカウントを開設しています。まだ投稿が3つですが、Beginnings(はじまり)」をテーマに更新されています。おそらく毎週テーマを決めて更新していくのだと思いますが、連載みたいな使い方はおもしろいです。

ニューヨーク・タイムズは過去に、1分動画ニュース「The New York Times Minute」をおこなっていた時期もありますし、短い動画も実験的に投稿していくのでしょう。また、昨年はいくつかのニュースアプリをリリースしたものの、若い読者の獲得に苦労していました。インスタグラムの利用開始がこれからのニューヨーク・タイムズの読者開発にあたり、どのような効果を生むのか注目です。

これからの報道に自社サイトは必要なくなるのか? 脱中心・分散型メディアの可能性」という記事で、外部プラットフォームに最適化したコンテンツ流通を目指すメディアの事例や取り組みを紹介しました。読者開発と合わせて分散型の流れもチェックしていきたいですね。

動画キュレーションメディア「Upworthy」の年間売上は1,000万ドル超え——通常記事より閲覧・反応されるネイティブ広告プログラム

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動画キュレーションメディア「Upworthy」のネイティブ広告プログラム「Upworthy Collaborations」がうまくいっているようです。Adweekによれば、2014年の広告売上はプログラム開始9ヵ月で1,000万ドル(約12億円)を超えたとのこと。

バイラルやキュレーション文脈で昨年あたりによく並べられたバズフィードは1億ドル超えなので、10分の1程度の売上です。Upworthyはオリジナルの記事制作はほとんどおこなわず、キュレーションとネイティブ広告プログラムに徹しているので、そこまで人件費などはかからないのかもしれません。

ただ、「海外メディア『BuzzFeed』と『Upworthy』のルーツとは?」という記事で紹介したように、アルゴリズムエッジランクなどによって一面的な情報しか取得しなくなってしまうような「フィルターバブル」を問題意識として持っています。そのため、ニューヨーク・タイムズ編集次長を獲得するなど、硬派な人材獲得にも力を入れています。

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Upworthyのネイティブ広告は通常のコンテンツよりも3.5倍閲覧され、2.9倍もアテンション時間を獲得しているというデータは興味深いです。また、ブランドイメージが15〜25%ほどポジティブになったという見方もあるのだとか。ネイティブ広告の多くが50万閲覧数、10万いいね!/シェア/コメントを獲得しているというのも広告の広がりを裏付けます。ユニリーバの「The Project Sunlight」が有名な事例なのでのぞいてみるとどのようなページ、コンテンツの置き方をしているのか分かると思います。

単価であったり、Upworthyの広告チームがどのような体制なのか、気になる点はいくつもあります。独自のコンテンツ評価の指標づくりや社会的なコンテンツ発信など積極的におこなう姿勢はますます注目されていくのではないかと思います。

Upworthyは感情を軸にコンテンツを広げていますが、クチコミをもとに流行を生み出す方法はいくつか確立されています。関心のあるかたはぜひ、「クチコミから流行を生み出す6原則とは? 感情や物語、トリガーなどをコンテンツに組み込む重要性」という記事も読んでみてください。 

「答えを押し付けない」「関心外にも目を向けさせる」——メジャーに挑むクリエイターたちのマーケティング論

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(Photo by Rayi Christian Wicaksono/Creative Commons Zero

『メジャー』を生みだす マーケティングを超えるクリエイターたち」という本を読みました。概要は以下の文章の通りですが、特定のニッチ層だけでなくメジャーの担い手である若く、ふつうの人を対象にした考え方やアプローチをインタビュー中心で紹介している本です。

“若く、普通の人々"を相手にしなければならないエンタメ業界の「メジャー」市場。そこで闘い続ける、優れた創作者の体内で実践されている「マーケティング」は深い!プロの時代観をベストセラー編集者が徹底取材!

「今の時代は選択肢が多すぎるんですよ。しかもその選択肢がみんな見えてしまう」

ロックバンドや漫画家の方々が多く登場する本書では、キーワードとして自己承認欲求を挙げています。ゆとり世代や覇気がないといった言葉で片付けられがちな若者世代において、自己肯定や自己承認が求められていることをリアリティとして受け止めることで新しい可能性が生まれる、としています。

ロックバンド「OverTheDogs」の恒吉豊さんはマス向けでは同じような表現を再生産されていて、言葉の力が弱くなり、「より少数の人の内面に目を向ける分野が台頭してきているのではないか」と述べます。テレビにテロップが多用されることも、そうまでしないと言葉が伝わらないほど現代人は余裕がなくなってきているのでは、と分析。

歌詞を考えるなかで、「すべての物事には裏表がある以上、"答えはこれだ"などとは歌えない」と語っているのはなんとも象徴的です。ソリューションの提示も重要ですが、やはりそれぞれの抱える課題や環境も異なるため、問題提起くらいにとどめるアプローチということでしょうか。

ロックバンド「AJISAI」の松本俊さんは「今の時代は選択肢が多すぎるんですよ。しかもその選択肢がみんな見えてしまう」と語っています。そんな選択肢を選ぶことよりも、捨てることのほうが大切かもしれない。そんななかで答えにたどり着くことはむずかしい状況です。だからこそ、ここでも自分の正解を押し付けないこと、という前述と同じような言葉が発せられています。

また、漫画家・浅野いにおさんも登場しています。印象に残ったのは、創作の初動について語った、「物語を描く時に自分の内面から出てくる創作衝動でどんどん描いていくというタイプではなく、なにか構想する時に自分の外にある"軸"が必要になる」という言葉。現代のエンタメ消費について、現実にないきれいなファンタジーを勢いよく消費していて、若者が自分たちの環境を肯定してくれるものを求めている、との指摘もおこなっています。

紙媒体にあった「横の参照軸」がウェブの世界では機能していない

読者目線というのは大事なことですが、たとえば、読者の求めているものが分かっている時にその通りにコンテンツをつくるかどうか。漫画家・宮城理子さんは「みんなが疲れていて甘いお菓子がほしい」状態でも、あえてはずして作品をつくることがあるとのこと。自分たちの世界だけで終わらずに、別の世界があることへの想像力を育むきっかけとしてのメッセージもあるそうです。

ちょっとお砂糖でコーティングして。甘いものを入れつつも、それにつられてきていただいた方にちょっと岩塩がありますけど。というつくり方を意識しているんです。

居心地のいいところにとどまるだけでなく、自分から意識して世界を広げること。メディアを通じてそういった後押しがどのようにできるのか。ますます考えるに値することになっているでしょう。

別の章では、総合誌よりも明らかにそこでしか読めない記事が多い専門誌が出版不況でも強いことを挙げながら、ユーザーの近くにいることの強さや専門性が高いことが支持される要因になっているのではなにかという話も出てきます。

本書では、自分が興味あるコンテンツ以外にも目を向ける(ことができる)ことを「横の参照軸」という言葉で表現しているのも分かりやすいです。紙雑誌であれば、そのパッケージによってほかのコンテンツにも目を向ける可能性がある一方、ウェブではそもそもクリックしなければ、関心のないものを見なくても済みます。

以前、「クリエイティビティは作者ではなく環境に宿る? コンテンツから偶然の出会いを仕掛ける必要性」という記事でも紹介しましたが、現在はプラットフォーム設計者の思想によってコンテンツのあり方が規定されることも多い状況にあります。そんななか、潜在的に関心のあるようなコンテンツとの出会いをいかに演出していくことができるのか、考え続けたいですね。

 

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ページめくりからスクロールへ——紙と電子を行き来する人物が語るデジタルコンテンツ体験の課題

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ぼくらの時代の本』を上梓した作家・デザイナーのクレイグ・モドさん、家計簿アプリ「Zaim」代表の閑歳孝子さんが登壇したイベント「ぼくらの時代のデザインと技術」に参加してきました。

クレイグさんはもともと自分で出版社を立ち上げ、できるだけ美しい本をつくりたいとの想いで活動してきた人物。デジタルの時代になってからは、スタートアップにかかわることが増え、新興企業のなかにライターや編集者の考え方や魂と入れ込めないかと考えてきたとのこと。

フリップボードでデザイナーを務めたり、現在ではスマートニュースのUIアドバイザーとしても活動されています。『ぼくらの時代の本』では明確な形態のないコンテンツと明確な形態を伴うコンテンツという2つの分け方でこれからの本について考えています。イベントでも電子書籍に関する議論は多くなされていました。

たとえば、ハイライト機能などを盛り込み他人の気になった箇所を見ることができるソーシャルリーディングもないことや、どのページの滞在時間が多いのかデータをとって公開するのはどうか、といった話が出ました。名著であれば、多くの人が気になった箇所や読むべき部分にハイライトしてあったり、滞在時間の長いページを読んだりすることができたら便利に思うことでしょう。

閑歳さんは、スマートフォンでは紙のようなページめくりよりスクロールの時代だから、スクロールの電子書籍が出てくればと提案しました。実際、マンガアプリではcomicoのような縦スクロールでの読書体験ができるものもでています。

たしかに、スマホ時代はフィードやタイムラインなど縦に流れるものが身近になったので、個人的には縦スクロールで読み続けられるものがほしいです。となると、これからはあまりページという単位の存在感も薄くなるのか気になるところですね。

また、クレイグさんは、ストーリーを進めるために小さなアクションや仕掛けを伴う本があれば、と述べました。仕掛け絵本のようなものがヒントになり、読者がアクションしないと次に進まないという、ストーリーに参加している体験が得られる本のかたちもありなのかもしれません。

電子書籍キンドルが多くを占めますが、プラットフォーム依存に関しても議論されました。アプリの世界でそういった状況にある閑歳さんは、プラットフォームに則ったほうがユーザーが使いやすい一方で、個性が出しにくいと発言。クレイグさんは、アマゾンは読者よりも消費者を向いているから、と笑っていました。

当日の模様はスクーでもご覧になれますし、スライドも以下に共有します。関心ある方はぜひ。『ぼくらの時代の本』の感想などはまた別の機会に書きたいと思います。

クリエイティビティは作者ではなく環境に宿る? コンテンツから偶然の出会いを仕掛ける必要性

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(Photo by Lance Anderson/Creative Commons Zero

ソーシャルゲームにおいて最もクリエイティビティが注ぎ込まれているのは、「ユーザーにゲームをやめさせない」ためのシステム

ソーシャルメディアまとめサイトなど情報が半ば自動的に生成されるプラットフォームが隆盛する時代に、どのようなものがクリエイティブなコンテンツなのか。情報社会の情念―クリエイティブの条件を問う』を読むことで、その答えが少しわかりました。

プラットフォーム側のみならず、コンテンツ/クリエイター側からの視点も多く入っていることでバランスのよい書籍となっています。「流行っているものがあったら、同じようなものを作りまくるべきだ」というグリー・田中良和社長の言葉を軸に、ソーシャルゲームのプラットフォーム運営の思想に迫ります。UIやキャラクターなども重要な要素でありながら、データマイニングがなお重視されるとのこと。

オンラインで数千万人のユーザーを快適にプレイさせるには、ゲームのインターフェイスの背後にある、データベース設計やデータ分析といった「運営」の領域が最も重要なのである。(32ページ)

また、ユーザーがどこで離脱しているのかという原因を探り、改善していくということから、「ソーシャルゲームにおいて最もクリエイティビティが注ぎ込まれているのは、『ユーザーにゲームをはじめてもらう』ための方法ではなく、『ユーザーにゲームをやめさせない』ためのシステムなのである」という指摘がありました。

もちろん、ソーシャルゲームにかかわる人にとっては基本的なことなのかもしれませんが、現代のクリエイティビティは作者ではなく、環境に宿ることになりがち。つまりは、プラットフォームによって、コンテンツの性質が決定されるというのです。

パーソナライズされた環境は自分が抱いている疑問の解答を探すには便利だが、視野にはいってもいない疑問や課題を提示してはくれない」

良き設計者とは何か、また、誰なのか。本書ではこのような問いを立てています。コンテンツの作者ではなく、プラットフォームの設計者がクリエイティビティに大きくかかわることができる状況にあるからです。プラットフォーム主権の環境では、パーソナライゼーションをはじめ、課題が表に出てきます。

たとえば、Upworthy創業者のイーライ・パリサーは書籍『閉じこもるインターネット』のなかで、「パーソナライゼーションとは、既存の知識に近い未知だけで環境を構築することだ。(中略)パーソナライズされた環境は自分が抱いている疑問の解答を探すには便利だが、視野にはいってもいない疑問や課題を提示してはくれない」という言葉を残しています。過去のクリックが未来の選択を決定要因として影響を与えてしまうなら、新しいものに出会うことがなかなか難しくなってしまいそうです。そして、多様性は失われていきます。

不規則性やランダムなものが提案として挙げられていますが、ユーザー視点では快適なものではないので、解決策として機能するかというと難しいでしょう。しかし、本書では、プラットフォームの運営思想があったとしても、偶然の出会いをもたらすコンテンツの例を取り上げています。

ニコニコ動画初音ミクにおけるコミュニケーション消費(空間)もあれば、寺山修司の都市を舞台とした演劇「市街劇」における虚構というコンテンツと想像力によってプラットフォーム(この場合は街)に偶然性をもたらす取り組みもあります。

市街劇は政治色をもって生まれたものだそうですが、寺山氏の場合は現実と虚構を混在する状況をつくること自体を目的としていたとのこと。また、「出会いの偶然性を想像力によって組織すること」を演劇としています。作品(コンテンツ)のなかに「外部」や「他者」といった、快適な情報生活では出会わない要素を組み込み、出会うように仕掛けるという発想はかなり興味深いです。

自分が好きなもの、嫌いなもの。見たいもの、見たくないもの。そんな両極性をもった情報体験をどのように実現できるのか。情報社会の情念―クリエイティブの条件を問う』という本は、コンテンツから偶然性を仕掛ける可能性について考えるきっかけになるかと思います。