クチコミから流行を生み出す6原則とは? 感情や物語、トリガーなどをコンテンツに組み込む重要性
(photo credit: Olivia Chow's Community Art Project - Screwed Out of Our Share via photopin)
クチコミになり流行するもの・ことに共通する点はどのようなことなのか。ほかのモノと比較して優れているものや価格設定なども、特定のものが広まる要因としてありそうですが、『なぜ「あれ」は流行るのか?―強力に「伝染」するクチコミはこう作る!』という本を読んでみたところ、クチコミによる流行についてさまざまなヒントが書かれていました。
ペンシルバニア大学ウォートン・ スクールでマーケティング准教授を務めるジョーナ・バーガー氏が執筆した本書は、クチコミが生まれ、流行が起きる理由を6つの原則を紹介しながら説明しています。それぞれ、ソーシャル・カレンシー、トリガー、感情、人の目に触れる、実用的な価値、物語の6つです。
クチコミを促す希少価値と限定価値、感情の種類
1つめの「ソーシャル・カレンシー」は、取り上げる話題が、他者の目に映るその人の印象を左右するというもの。SNSの普及に一役買っているのが、自己共有や自己顕示といった要素ですが、実生活でも日常会話の4割が自分の経験談か人間関係に関する話という調査もあるそうです。
さらには自分の考えや経験を誰かに共有することが満足度が高いということがハーバード大学の研究チームの調査で判明していると紹介されています。つまり、自分をよく見せる、いい印象を打ち出すためにクチコミを使う人が多ければ、特定のもの・ことが流行する可能性が高まるのです。
ソーシャル・カレンシーの効果的な要素としては、①内に秘められた奇抜さを見つけ出す、②ゲーム・メカニクスを活用する、③インサイダー気分にさせる、といったことも挙げられています。①はこれまで当たり前だったパターンを打ち破った商品やアイデアが広まるというもの。②は航空会社のマイレージプログラムやNIKEのランニング支援アプリ「ナイキプラス」のようにゲーム的な要素が入っていることで利用が促進される事例が有名です。③については希少価値と限定価値がクチコミを促すとしています。
2つめは、「人々が関連するものを思い浮かべるきっかけとなる刺激要素」である「トリガー」。つまり、頭に思い浮かぶことが話題を呼び、行動につながるということです。目で見たり、匂いを嗅いだり、耳から聞こえたり、実際に使ってみたり、といった刺激は商品やアイデアを想起させる強いきっかけになるとのこと。
著者の調査では、頻繁に思い起こされる商品は、ほかのものよりも15%も多いクチコミを生み出すとの結果が出ています。また、そういった商品は即時的だけでなく、持続的なクチコミになるそう。トリガーを考えるうえでは、「思い起こすための刺激が頻繁であること」も重要であるとのことです。
3つめの「感情」は、バイラルメディアがそうであるように、伝染性のあるコンテンツはなにかしらの感情を呼び起こすということです。注意点としては、シェアを促進する感情もあれば、消極的にさせてしまうそれもあり、選別することが大切になります。
事例としてニューヨーク・タイムズの科学記事が最もメールされた記事に入っていたことが挙げられていたのが興味深かったです。おもしろい記事や役立つ記事が最もメールされた記事リストに入る率は平均より25〜30%高い一方で、あまり読まれなそうな科学関連の記事が入っていたことがあったとのこと。これは「畏敬の念」が理由だそうで、科学関連の記事も平均より30%高い確率という結果を示していました。
では、どんな感情がシェアにつながるのか。内容が前向き/後向きだとそれぞれシェアされる/されない、という分類がわかりやすそうですが、実際はそこまで単純ではないようです。カギとして挙げているのは、「生理的覚醒」という、体が活性化して行動する準備が整ったような状態をさす言葉でした。この覚醒状態は正と負の感情のどちらにもあるもので、正の感情では畏敬や興奮、楽しさ(ユーモア)、負の感情では怒りや不安がシェアを促進させるものとなっています。
購買と行動を後押しする観察可能性
4つめは「人の目に触れること」。本書ではスティーブ・ジョブズの例が紹介されていました。もともとアップルが販売していたノートパソコン「PowerBook G4」のデザインではリンゴマークはユーザー側から正しい向きで見えていたのを、ジョブズがほかの人から見たときに正しい向きに見えることも重要ではないかと問いを立てたそうです。第三者の目に触れる観察可能性(他人がやっていることを目にすると自分もやりたくなること)にジョブズが気付いていたのでは、と書かれていました。
観察可能性のあるものはクチコミになりやすく、購買と行動を後押しすることも強みになり、ウェブサービスを急成長させることにもつながるものです。たとえば、音楽ストリーミングサービスのSpotifyがフェイスブックのAPIを活用し、Spotifyでのユーザーの行動(サービス登録やどの曲を聴いたかなど)をフェイスブックの友人らにも通知することで、ユーザーが増加したことが紹介されています。
5つめの「実用的な価値」という点は、コンテンツマーケティングなどの文脈でも言われますが、ためになるコンテンツは広がりやすいということ。この点は、 1つめのソーシャル・カレンシーとも密接につながる話で、自分の見え方や評価にもつながるため、役立つコンテンツはシェアされることが多くなるのです。
最後の「物語」については、商品やアイデアについ話したくなるような物語を組み込むことが重要なのだとか。ストーリーやエピソードというものは、懐疑的になりにくいことを挙げています。その理由は、ある人の経験を経験していない自分が否定することは難しく、展開に夢中になっていれば異論を差しこむ余裕がなくなることが多いと著者は書いています。注意点としては、ブランドや商品にとってのメリットが物語と一体化したときにバイラルがはじめて最大の価値となるということ。つまり、意味のあるバイラルでなければならないことを強調していました。
シェアされるコンテンツをつくりたいときには、ソーシャル・カレンシー、トリガー、感情、人の目に触れる、実用的な価値、物語の6つを意識するとよいのかもしれません。同時に、すべて組み込むのではなく、コンテンツの種類や想定するターゲット、メディアによってどの点を意識するのかを変える技術も大事になってくるのでしょう。
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