メディアの輪郭

更新するだけ健康になれる気がしています

完成物でなくプロセスを売ろう――「コミュニティ」はメディアとエンタメ不況を救えるか

「『良いものをつくれば売れる(読まれる)』という時代が終わり、読者・ユーザーに『どう届けるか』という"コミュニケーションを編集する力"が問われる」

メディア関係者であれば手に取った方もいるかもしれない、雑誌『編集会議』の「編集2.0」特集扉ページでこのようなことが書かれていました。これからの編集とはどういうものなのかが、いろんな方の視点で語られていました。

濃いファンに濃い場所で濃いコンテンツを届ける

このなかでまず気になるのは、「読者・ユーザー」という言葉。これがまさに延々と語られてきた紙とWebの違いでしょう。紙媒体(有料パッケージ)の場合は基本的に対象が読者だったのに対し、Web(無料かつアンバンドル)では純粋な読者もいれば数え切れないほどのユーザーもいます。

コンテンツをどんどん消費してくれる人がいれば、大量のPVを獲得し広告による収益化を行うことが普通だと思います。その一方で、純粋な読者や熱烈なファンがいるのであれば、無料コンテンツに触れるだけでなく、もっと深い部分でつながりコミュニケーションを交わすことで、そこを収益化のポイントにできそうです。

つまり、濃いファンには濃い場所で濃いコンテンツやそこから生まれるコミュニケーションを提供することで、コンテンツの金額を引き上げることが可能になるのかもしれません。

クリエイターとファンの1対1の関係がコンテンツ価格を上げる

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以前、コルク代表の佐渡島庸平さんに同じく代表を務めるマグネットについて取材した際、作家とファンが1対1の関係でつながることができれば、コンテンツの価格を上げることができると語っていました。顔が見え、近く、温度のある関係は、コンテンツが無料で買いたたかれるなかでひとつの足がかりとなりそうです。 

「インターネットの一番の強みは人と人を瞬間的につなぐところ」と佐渡島氏。作家とファンが1対1の関係でつながれるとしたら、コンテンツの価格は上がるのではないかという。

「売り場に並べて勝負するのではなく、ファンと直接つながり、手渡しするような関係で売る。でも、そういうコンテンツの発表の場や売り場がないから、マグネットが作るのです。ぼくが代表を務めている『コルク』の社名の由来は、ワインのコルクのように、(作品を)世界に運び、後世に残すこと。ワインって、『だれ』が『いつ』つくったのかという中身によって値段が決まるんです。同じように、コンテンツの値段も、『だれ』が『いつ』作ったのかによって、決まるようにしたい」(佐渡島氏)

商品よりも“作品”を、売り方の話よりも作家とファンの接点を——23歳CTOとマンガ編集者の挑戦

佐渡島さんは特集「編集2.0」のトップに登場。これからの編集を考えるキーワードとして「コミュニティ」を挙げていました。コミュニティをつくった先にはなにがあるのでしょうか。

コミュニティ内の熱量が上がるほど、自然とお金を払わないと得られないようなものが求められる。そのため、満足度に応じて課金をしていくシステムをつくっています。(43ページ) 

作品外のところで、作品を楽しんでもらう仕組みをつくることが、これからのモデルとして必要なのだと思います(44ページ)

コミュニティをつくり、コンテンツによってコミュニケーションを活性化させることで、一段とコミュニティの熱量が高まる。そういうサイクルがエンタメ業界全体の光になるのかもしれません。

体験価値をサービスとして提供する編集力が必要

コミュニティといえば、オンラインサロンプラットホームのシナプスは注目のプレイヤーです。メディアやコンテンツ、広くエンタメ業界がどんどん目を向け、利用するようになると思います。

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シナプス代表・田村健太郎さんに取材させていただいたことがあるのですが、次のような発言が印象に残っています。

「広く支持されるコンテンツと、熱心なファンが求めるものは必ずしも一致しない」

「一対多から多対多の関係性に移行しているサロンはうまくいっています。主宰者からの一方的な情報を受け取るのではなく、同じ関心をもつユーザー同士で集まってオフ会や勉強会を開いたり、いっしょに事業を興したり、仲間づくりができる場にお金を支払うという感覚がカギではないでしょうか」

「少人数向け有料サロンは、良質なコンテンツづくりと収益化の両立を実現する」---シナプス代表・田村健太郎氏に聞く、体験型コンテンツ消費の可能性と課題

シナプスは『編集会議』にも登場していますが、COO/プロデューサーの稲着達也さんの発言は「コピー可能なパッケージコンテンツの価格は、限りなくゼロに近づいていきます」などパンチラインが多く一読することをおすすめします。

「良質なコンテンツをつくれる人はたくさんいますが、コンテンツを一つのパッケージとして捉えるのはもう古い。一方向的な視聴で完結するパッケージコンテンツではなく、コミュニティなどを通じて生まれるインタラクションまで含めた一連の体験価値をサービスとして提供する。そうした編集力こそが、必要なのではないかと考えています」(54ページ)

完成物の販売から「プロセスの販売」へ

個人的にコミュニティというのは、コンテンツ業界によくあるアウトプット重視を解消してくれるのではないかと期待しています。つまり、出版であれば本という完成されたアウトプットを商品として売っていますが、「プロセスを売る」ことへの転換が求められるのです。

2015年5月に発売された講談社のノンフィクション誌『G2』最終号に寄稿した際、以下のようなことを書きました。

 紙媒体では、いったんブランドづくりに成功すれば、コアなファンが生まれ購読に結びついていたが、これからは完成されたプロダクト(雑誌)を受け取る前後のコミュニケーションの重要性が増していく。

「コミュニケーションを消費するためにコンテンツを消費する」かたちが拡大していくとすれば、多様なコミュニケーションを楽しむためには多様なコンテンツが必要になる。つまり、コンテンツの作り手にとっては絶好の機会でもあるのだ。(中略)コミュニケーション消費にヒントを求めるならば、読者をコンテンツの完成まで巻き込むことが必要ではないだろうか。

コンテンツの作り方が変わると同時に、お金の回り方も変わるべきでしょう。出版不況のなかでは、広告も販売も厳しいなかで、原稿料という謝礼のかたちも変化すべきだと思っています。

紙媒体では原稿を書いてからお金が入り、Webメディアのアドセンスなどの広告であれば1ページ分(PVに応じた)金額が支払われる−−。そういった従来のモデルはいずれ崩れていくと思います。

以前、下北沢B&Bで開催された「若手編集者たちが語る“編集者2.0”」 というイベントに登壇した、もっと「余白」にお金が払われる仕組みが必要になる、とコメントしました。オンラインサロンであれば、原稿を書いていないときにお金が入る環境が生まれ得るので、ジャーナリストによる活用も今後増えていくと思います(すでに作家の猪瀬直樹さんらがシナプスを利用しています)。

最適化・効率化よりも手間暇や泥臭さが大切?

そんなシナプスは、2015年10月から独自のプラットホームでの展開を進めていくとのことでした。フェイスブックグループと違いさまざまなデータを取れることで、コミュニティの熱量や盛り上がりなどがロジカルに把握できるようになると思うととても楽しみです。

また、「月次流通総額は2000万円を突破、運営するサロンの種類も政治やスポーツ、エンタメなど100件を超えた」とTHE BRIDGEで報じられています。ジャンルを横断できるプラットホームのため、展開の可能性が未知数で、今後もどんどん伸びていくでしょう。

サロン主宰者といっしょにコンテンツやコミュニケーションを設計する仕事はまさにこれからの編集者の役割です。「プロセスを売る」ことについて言及しましたが、インターネットやWebサービスは最適化・効率化・省略の文化を浸透させ、暮らしを便利にしてきましたが、コンテンツに関しては豊かな状態をなかなか生み出せていません。

これからはもっと手間暇かけたり、泥臭い地道なコンテンツづくりが求められ、その受け皿としてコミュニティの必要性が生まれているのです。コミュニティを主戦場にする編集者には、体験や熱量、感情など目に見えないものまで編集の対象になり得るでしょう。改めてシナプスなどのオンラインサロン=コミュニティには、「編集2.0」のひとつのあり方があると思いました。 

日本上陸が発表された「バズフィード」ってどんなメディア? 特徴や強みをスライド100枚で知る

月間2億人以上が訪問する米国のニュースサイト「バズフィード」が、日本向けに創刊されるそうです。タッグを組むのはヤフージャパン。

報道やまとめ記事などを配信するだけでなく、「広告の領域においても、ソーシャルメディアへの最適化とテクノロジーに基づいたコンテンツ重視の制作方針を明確にし、新しい広告のあり方を提唱しています」という、バズフィードのあり方は魅力的です。

今回は「バズフィードって、どんなメディアなの?」という人のために、過去につくった2つのスライドを共有します。合計100ページを超えていますが、参考になれば嬉しいです。すでに知っている方は、復習にお使いください。

BuzzFeedとUpworthyのこれまでと現在からみるバイラル/キュレーションメディア

バズフィードはなにがすごいのか? 海外における新興・大手メディアの現状比較

英語でもバズフィードに関するスライドは多くあります。さらに知りたい方はご覧いただくと良いかと思います。

プラットフォーム優位の時代、コンテンツ側はどう考えればよいのか?

川上量生さんが書かれた『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波新書)を読みました。この本はネットとはなにか、その真の姿や未来について書かれたもの。特に印象的だったのは、コンテンツ側がいかにプラットフォーム側と付き合っていくのかという点です(ほかにもテレビの未来やビットコイン人工知能などについても述べられています)。

ネットのムーブメントも”まだ”テレビが起こす

まず前提として、ネット時代には紙媒体と違い、制作から流通までのすべてのプロセスを持つことができなくなりました。端的に、流通部分におけるネットやプラットフォームの影響力が大きくなってきたからです。

ネットで従来のマスメディアのビジネスが危機を迎えている根本的な理由は、独占していた情報の流通経路がネット企業に奪われ、情報の発信者としては個人とすら競争しなければいけないという完全自由競争のなかに放り込まれたからです(47ページ)

それでもSNSなどのプラットフォームやネットメディアは、プロモーション媒体としてまだマスメディアに負けているようです。本書では「Facebook発のヒット商品とかブームとかが生まれにくい、プロモーション媒体になりにくい」とも書かれており、いまだにマスメディアが重要だとしています。

ネットメディアにおいても口コミを喚起するための正当な宣伝手法はマスメディアを使うことなのです。そしてネットには、まだテレビほどの巨大な影響力のあるマスメディア的なものは存在していないのです。これが、いまだにネットのムーブメントを起こすのにもテレビがもっとも重要なメディアである理由ですし、また、テレビをまったく見ないような若い世代に対してはなかなか有効なプロモーション方法が存在しない理由です(62ページ)

コンテンツの価格は「依存度」で決まる

また、ネットコンテンツ無料論にも触れられています。川上さんは「複製費用が無料だからではなく、ネット利用者間においてコンテンツが無料になるのはいいことだという素朴な価値観が存在する」と指摘しています。では、どのようにネット上におけるコンテンツの価値や値段は規定されるのか。

納得度が高かった文章のひとつに、「コンテンツの価格は人間が持つそのコンテンツへの依存度で決まる」というものがありました。つまり、フリーミアムモデルであれば、無料コンテンツで顧客との接点を増やし、徐々に生活での依存度を高めたところで課金してもらう。ソーシャルゲームニコニコ動画、クックパッドなどを考えてみても、「依存度」との表現は腑に落ちました。

そこでこのエントリーで紹介したい、コンテンツとプラットフォームの関係について入っていきます。本書ではプラットフォームの役割を「形のないデジタルの世界でコンテンツをどのようにつくっていったらいいのか、その仕組み(フォーマット)を提供する」と表現し、具体的な役割として、ビジネスモデルの提供、ユーザベースの提供、プロモーション手段の提供、コンテンツの枠組み(フォーマット)の定義、コンテンツの品質の管理の5つを挙げています。

ネット時代、手離れの悪い地道な客商売が大切

現在の(ウェブ)コンテンツを考えるうえでは、アップルやアマゾン、グーグル、フェイスブックなどのプラットフォームの優位性について考えなければいけません。要するに、コンテンツ側がプラットフォーム側に搾取されないためには、どのような考えや戦略を持っておけばよいのか。

コンテンツをつくらないというのは、プラットフォームにとっては楽をする戦略であるともいえます。また、プラットフォームが並立している場合にはプラットフォーム間の競争のためにコンテンツが販促手段として犠牲にされがちな構造が先のようにあるわけです。ですからぼくは、コンテンツはつくらないと宣言するプラットフォームがフェアであるとも責任ある態度だとも思いません。任天堂ソニー・コンピュータエンタテインメントのように自らもコンテンツをつくり、コンテンツから利益をあげる家庭用ゲーム機のようなプラットフォームが、実はコンテンツが儲かる仕組みが維持されて、コンテンツのクリエイターにとって幸せな環境ではないかと思うのです(110ページ)

川上さんはプラットフォーム提供者がコンテンツもつくるモデルがクリエイターにとってよいのではないかと述べています。さらには「ネット時代のクリエイターだったり出版社だったりは、コンテンツ自体を独立したプラットフォームとして設計しなければいけない」「顧客接点の死守が重要なポイント」という言葉もあります。

プラットフォームが決めるレベニューシェアの比率や広告料金、そして規約などの変更。これらの主導権を握られていては、収益をあげることがむずかしい状況です。どのようにしてプラットフォームの協力を得ずにメディアを運営し、コンテンツをつくり広げていくのか。要するに、コンテンツ側がプラットフォームに依存せず、顧客に関するデータなどの情報を持つことが重要になるのです。

ネット版のファンクラブをつくって会員限定のサービスをすればいい、という提案もされています。「大量複製して大量販売するだけのコンテンツ側にとって夢のような黄金時代は終わって、ネット時代には昔のように手離れの悪い地道な客商売が大切になるのです」。まさに読者のコミュニティや読者とのコミュニケーションを意識したメディア設計がますます必要になってくるのではないでしょうか。コンテンツという言葉が連発してしまいましたが、『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』(NHK出版新書)もたくさんの発見がある本でした。

文章が書けない理由は「遅い」「まとまらない」「伝わらない」――ナタリーに学ぶ、"完読される"ライティング術

「書くことはあとからでも教えられるが、好きになることは教えられない」

とても久々にライティングの本を読みました。手に取ったのは『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』。著者はナタリー運営のナターシャ取締役の唐木元さん。コミックナタリーやおやつナタリー(現在は終了)、ナタリーストアなどを編集長として立ち上げ、現在はメディア全体のプロデュースを担当されています。

「書くことはあとからでも教えられるが、好きになることは教えられない」というナタリーの採用ポリシーがあることから、ライティングや記者経験のない人も多くいるのだとか。そういった新人に向けて唐木さんは「唐木ゼミ」という社内での新人向けトレーニングを繰り返してきました。

書けない理由は、「遅い」「まとまらない」「伝わらない」のどれか、もしくはそのすべて、と説く本書を読むことで「書く前の準備」の大切さを改めて実感することができます。

この本では「完読される文章が良い文章」であるとしています。

たとえば、「適切な長さで、旬の話題で、テンポがいい文章。事実に沿った内容で、言葉づかいに誤りがなく、表現にダブりがなく変化の付けられた文章。読み手の需要に即した、押し付けがましくない、有用な文章」(17ページ)。ここではラーメンを例にとり、食べきれないラーメンってなんだろう、という身近な話題から完食(完読)を考えています。

構造シートをもとに伝わる文章を書く

そもそも文章は、事実→ロジック→言葉づかいの3つの層から積み上げられています。特にロジックについては、書き始める前に「主眼」と「骨子」を立てることを強調しており、テーマ(主眼)についてなにを(要素)、どれから(順番)、どれくらい(軽重)書くかを決める。主眼と骨子を持つことを、構造的記述と呼んでいます。

本書で紹介されている「構造シート」はぼくも取り入れようと思ったことのひとつ。長いインタビューなどを書いていると、どうしても要素にダブりが生じたり、構成で迷ってしまうことが多かったからです。

構造シートでは、手書きで話題を列挙し、主眼を見定め、順番を考えて番号を振ります。次に別の紙にあらためて決まった主眼を書き、話題を順番に並べ、それぞれに優先度をつけていくというもの。本書ではナタリーの文章を例に紹介・説明されているので、実物を読んでみると良いかと思います。

また、推敲については、意味、字面、語呂の3つの観点でブラッシュアップ、さらには単語、文節、文型、段落、記事レベルで重複チェック。文章のソリッドさについては、「という」と代名詞を削るのが、自分には必要だと思いました。

このほかにもいくつか削るべき言葉や冗長になりがちな表現が挙げられています。「インタビューの基本は『同意』と『深堀り』」(188ページ)の項目も印象的でした。

自分のクセを再確認し、徹底する

ぼくは文章チェックをしてもらうと、ほとんどの場合「〜すること」が多い、と指摘を受けます。これは完全にクセになってしまっているのですが、164ページに「便利な『こと』『もの』を減らす努力を」として書かれていたので、できるだけ具体的な名詞で書くように心がけたいです。

なぜ「〜すること」を多用してしまうのかというと、おそらく英語学科出身で翻訳文体に慣れていたためかなと感じています(これも100ページに「翻訳文体にご用心」という項目があります)。

新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』では、基礎的なことが淡々と書き記されています。ただ、本書で挙げられているすべての項目を徹底できているWebメディアは多くないのではないかと思います。

「特別なことはひとつもありません」と書かれたまえがきは、そのとおりでした。文章力の低いぼくにとって、目を背けたい項目もありましたが、それでも一つ一つ向き合っていこうと前向きな気持ちで読み終えました。

唐木さんの経歴や仕事、ナタリーの運営哲学については、「ナタリーがニッチ分野で成長し続ける理由、唐木元さんに全部聞きました。」という記事でよく知ることができます。あわせてご覧になってみてください。

これまで閉じていた「ものづくりの内側」を体験! 毎年1万人が来場する「工場の祭典」はメディア化する場所の好例

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新潟県燕三条地域で10月に開催される「工場の祭典」。金属加工の産地として知られる同地域でものづくりが体験できるというまちぐるみのイベントです。ちょっと前になりますが、7月にEDITORY神保町でおこなわれた新潟県三条市 國定勇人市長の話を聞き、とても興味をもちました。

工場開放で意識した2つのこと

「外から人が来たくなる街の魅力の見つけ方、育て方、PRの方法」と題した講演は、まず神保町(本)と三条(金物)のどちらも有名な地域資源があるなどの共通点が語られました。

しかし、三条を訪れた國定さんは、ものづくりのまちにもかかわらず、その匂いを感じなかったといいます。工場が住宅街にあることや、郊外への移転者の多さも、その状態をつくっていた要因になっていたのだとか。

そこで、ものづくりというアイデンティティを再認識してもらい、誇りに思い、人を呼び込もうと考えた市長。一般に開かれていない工場を開放して見せてみるのはどうかと考えたそうです。そんな工場の祭典ではいくつか意識したことがあったようです。

67の工場を解放する上で意識したことの一つとして、期間中はどこでもいつでも体験できることです。時間の制約を付けないことで人を多く受け入れました。二つ目は、工場の目印として、鉄の赤らんだ色と真っ暗な場をイメージしてピンクとグレーピンクのテープを斜めに貼ることで安価にアイコン化を図りました。

これだけ豊かな社会ゆえに人それぞれの価値観があるので、ニッチでディープなファンを大切にすることが、万人受けを目指すより、スピーディに、質のある結果が得られます。結果、オランダ、イタリアからも注目を集め、見に来る人の賞賛の声によりミラノサローネや伊勢、蔦屋への出店に繋がりました。

第10回記念講演 『まちに人を呼ぶこむためには〜「燕三条 工場の祭典」を例に』より)

1万人が来場、半数は県外から

神保町であれば、書店が多く、エンドユーザーが訪れますが、三条では製造者(職人)が多く、エンドユーザーが来る機会や場がありませんでした。そんなエンドユーザーが来場できる工場の祭典。初年度は59の工場が参加し、予約なしで工場見学ができるように設計しました。

しかし、はじめて来た人にとっては住宅街に溶け込んだ工場がどこか、特に祭典に参加している工場の場所はわかりません。そこで、まち全体で来場者を歓迎する意味も込め、グレーとピンクのしましまを目印にしたそうです。写真で見ましたが、まちぐるみで統一しているのが素敵でした。

これらのさまざまな工夫もあり、1年目と2年目どちらも1万人以上が来場、県外からの来場者が5割程度となっていることもすばらしいです(単純計算で1つの工場を150人近くが訪問)。3回目となる今年(10月1〜4日)は、62もの工場が参加するそうです。 

新メディア「ぼくらのメディアはどこにある?」を立ち上げてからよく考えるようになった「メディア化する場所」。今回取り上げた工場の祭典はその好例であると感じています。地元・新潟でこんないい取り組みがあることを知れてよかったです。ぜひプロモーション動画もご覧ください。

Tsubame-Sanjo Factory Festival / 燕三条 工場の祭典 from 工場の祭典 - KoubaFes on Vimeo.

紙でもウェブでも見出しが似ている? ニューヨーク・タイムズのタイトル研究がおもしろい

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コロンビア・ジャーナリズム・レビューより)

ニューヨーク・タイムズのタイトルに関するデータを、コロンビア・ジャーナリズム・レビューがまとめています。紙面とデジタルのタイトルを分析したものが、上のようなチャートでまとめられています。

見てみると、意外なことに、「新しい」「米国」「記録」など10個中9つが同じになっています。紙では「one」、デジタルでは「dies」がそれぞれ入っているだけの違いです。ウェブでも紙でも、結局使われる言葉がほとんど同じ、というのは興味深いですね(こういったタイトル付けがデジタル時代にベストなのか、編集部がデジタルに対応できていないから紙と似通っているのかはわかりません)。

また、検索経由でどんな単語が多いかについてもまとめられています。「本」「結婚」「音楽」といった言葉がランクイン。タイトルの長さ(使われる単語数)については、紙がいちばん短く、ウェブのほうが長いことがわかっています(ただし2011年くらいまでは同じくらいの長さ)。

ウェブはグーグルのアルゴリズムフェイスブックのエッジラング、ツイッターカードなど、意識する要素も多かったりするので、タイトルの長さにもいろいろと影響しているのかもしれません。バズフィードなんかは、読者がどんな文言をつけてシェアしているのか、といったデータを分析しているので、そういったデータがどんな結果なのか気になります。

意外とタイトルに関するデータはオープンにされることが少ないですが、国内でもヤフーニュース編集部が「Yahoo!ニュースで起こった『ダルビッシュ論争』~編集とデータ活用の現場から」といったブログ記事を出しています。データがどのようにタイトル編集を最適化しているのか、このような現場から出てくる苦悩と工夫はぜひ一読しておきたいものです。今回のコロンビア・ジャーナリズム・レビューの記事もグラフだけでもチェックしてみてください。

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「Yesterday's Resources」という小さなニュースレターをはじめました

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今日、「Yesterday's Resources」という小さなニュースレターをはじめました。

なんで今さら、と自分でも思うのですが、メディアの輪郭というブログを2年近くやっているなかで、ひとつ悩みがあったからです。

それは海外メディアの動向(「海外」といっても9割以上は米国のそれ)について、書けないことが多かったのです。1日に数十から数百の英文記事に目を通し、そこから数個をピックアップしてブログに書いていましたが、そのほかの多くはどこにも出ることなくスルーされていました。

以前から、自分が目を通した動向はすべてブログに書きたいなあ、と思っていました。もちろん無理ですが。そこで、ニュースレターであれば――自分と近い人やメディアにより関心のある人が購読してくれた場合――多少は可能になるのではないかと考えました。

Yesterday's Resourcesというのは、直訳すれば昨日(過去)の源泉。メディアの輪郭では追いつけなかった、取りこぼしまくっていた海外の動向を共有していきます。読んだ海外記事の紹介をメインに、自分の国内外の取材活動(最近であればオランダ取材の裏話)、買った本(ブログだと読んだ本しか紹介できていないので)なども淡々と力を抜いて書いていけたらと思います。

第一回目は「海外メディアの動向を調べるときの参考メディアとキーパーソンたち」といったテーマで、今日中にはお送りする予定です。この小さなニュースレターから、仮説や違和感をはじめ一見くだらないことを受発信していきたいと思います(更新は不定期です)。もしご関心ある方は、以下より登録ください。

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コンテンツで儲けるためには――12のビジネスモデルとメディア編集力から考える

すでにメディアに関心のある方は目を通しているかもしれませんが、「メディアの未来」という特集を組んだ『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2015年7/01号』がおもしろかったです。いまさらながらですが、人選がよかったです。

「コンテンツで儲ける可能性を探る」という副題のもと、編集工学研究所所長の松岡正剛さんやチームラボ社長の猪子寿之さん、電通コンサルティング取締役の森裕治さんらが登場します。一部を取り上げてみます。

アテンション・エコノミー」に沿ったメディアばかり

最初に登場する松岡さんは、コンテンツビジネスの変化を次のように整理します。これまで、良質なコンテンツ制作→広く流通→顧客満足、という3段階があったけれど、現在では特にプラットフォームなどにおいてはまずは顧客満足(しながら継続的な利用者を集め)、そこにコンテンツを投下し広げていく流れになっていると分析しています。

これはキュレーションメディアなどがイメージしやすいですが、雑誌のように高いお金をかけたコンテンツを最初からつくるのではなく、消費しやすいライトなコンテンツをつくり、ユーザーを集めて規模拡大を図っていくようなことを指しているのでしょう。

ただ、松岡さんは顧客やユーザーよりも確固たるコンテンツが先にあるべきだといいます。いまのメディアやそこに乗っかるコンテンツには偶然性や複雑性、知識や教養がなく、まずは振り向いてもらえるバイラル系が人の目に触れることが多くなっているような状況を、締めの言葉で表しています。

世の中は「アテンション・エコノミー」(関心の経済)と「インテンション・エコノミー」(意思の経済)の二つが絡み合ってできている。しかし、前者のメディアばかりが溢れて、いまのところ後者のメディアが逼塞したままになっている。なんともお寒いことである。(32ページ)

12通りのメディアビジネスモデル

次に登場する森さんは、メディアとコンテンツの機能を見直すことで、メディアの未来像にアプローチしています。ここではコンテンツとは「共有されたがるもの」と定義して話を進めています。以下の過去記事にも通じるところがありそうなので、参考まで。

森さんはメディアのビジネスモデルを図表付きで紹介(本誌を見てもらうとわかりやすいです)。メディアの種類を、メディア一体型(新聞など) 、クロスメディア型(メディアミックスなど)、オープンメディア型(だれでも情報発信できる・つかえる)という3つにまとめ、収益モデルは課金、補完(コンテンツから派生するサービスなど)、広告・データ、互酬(寄付や支援)の4つに分け、全12通りとしています。

このほかメディア編集力についても触れているのも勉強になります。この力に関して3つのポイントが挙げられています。ひとつは生活者の参加者度合い。これはCGMなどがそれにあたります。二つ目は、流通に最適なコンテンツのかたちを考慮するモダリティ、そして最後はいつ・どのように消費してもらうかという消費形態です。

たとえば、本誌でも例として取り上げられているバズフィードは、分散型メディアといえるほどモダリティを考え抜いていることに加え、タイトルをA/Bテストで決めていくなど良くも悪くもユーザーに寄り添った消費形態をとるメディアです。このように、自分のメディアがどのビジネスモデルをとるべきか、どんなメディア編集力が必要なのか、照らし合わせることができるコラムになっています。

グローバルならハイクオリティ、ローカルならロークオリティ?

最後に紹介する猪子さんについては、以前から繰り返し語っているネットの世界では、「グローバル・ハイクオリティ」と「ローカル・ロークオリティ」に二分されていく話をしています。ぼくは地方出身なので、どうしても後者に関心がいってしまうのですが。

「ローカル・ロークオリティ」は、コミュニティ型であることが前提です。(中略)コミュニティという価値によってクオリティやコストが無視される世界が、いますごい勢いで発達している。また、コミュニティにおいてはクオリティが高すぎると逆にダメ。(60ページ)

メディア業界は、ハイクオリティなコンテンツをつくるならグローバルへ、ローカル(「ニッチな分野」「濃いめの同じ価値観」とか言い換えてもよさそう)だけに必要とされるようなコンテンツであればコミュニティに向かうのが自然だとしています。

おそらく、前者は高い技術力や流通、グロースハックなどが、後者は適当なコミュニティマネジメントやイベント運営などが重要になるのかなあと思いました。ただ、ローカルメディアといってもローカルに根ざさず、あえて都会向けに発信する場合もあります。そういう場合はハイクオリティがむしろ必要だったりするので、さらに発展したカテゴライズもできそうです。

というわけで、今号のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの内容は、コンテンツにかかわる幅広い層にとって、参考になる寄稿やインタビューが集まっていると感じました。 

日本ではなぜWeb専業のジャーナリズムメディアが生まれないのか?

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最近、「日本ではなぜWeb専業のジャーナリズムメディアが生まれないのか」と聞かれる機会がありました。難問というか、答えられたらこんなブログはやっていないわけですが、いろいろ考えてしまいました。

ただよくよく考えてみると、海外でもピューリッツァー賞を獲得したことがあるのは、ハフィントンポストやプロパブリカ、InsideClimate News、The Center for Public Integrityあたり。それ以外の有力なオンラインジャーナリズムメディアというと、ポリティコやテキサストリビューン、ファーストルックメディアなどはありますが、意外と少ない印象です。

Webかジャーナリズム、どちらかしか知らないバランスの悪さ

こういうアメリカのメディア状況と見ると、テクノロジー企業とメディア企業の近さと、紙とWebメディア間での人材移動、ジャーナリズムや調査報道への理解などはポイントになるのかなと思います。また、テクノロジーやメディア企業とジャーナリズム業界がお互いに理解して、協働することも重要になりそうです。

ウェブメディアやソーシャルメディア時代の情報発信をわかっていてもジャーナリズム(の意義や価値)を知らない、逆にジャーナリズムをわかっていてもウェブを知らないという状況のバランスの悪さは日本にはあると思います。

たとえば、ハフィントンポストはアリアナ・ハフィントンという政治や経済界に強いパイプをもつアイコンと、バイラルの専門家であるジョナ・ペレッティ、SEOやシステムに力を入れたポール・ベリー、現在は投資家やバズフィード会長としても影響力をもつケネス・レラーなど、新旧の人材がうまく混ざっています。もちろん、ハフィントンポストが存在感を表すことができたのには、保守系のアグリゲーションサイト「ドラッジレポート」の逆が空いていたという市場の関係もあるでしょう。

ジョナ・ペレッティとケネス・レラーが率いるバズフィードでも、編集長はポリティコ出身のベン・スミスがいる一方、パブリッシャーにはグロースを担当してきたDao Nguyenがいるなど、新旧の強みが合わさったチームとなっています。

生活動線に沿ったところで、ジャーナリズムは存在すべき

では、日本ではどうか。やはり紙メディアがまだ強いことや、Webメディアでジャーナリズムをやるとしたら、儲かるモデルがないことは冒頭の問いに対して大きなハードルになっているかもしれません。海外ではハフィントンポストもバズフィードも清濁を併せ呑み、ライトな記事でお金を稼いでから、速報ニュースや調査報道に投資してきました。

日本だとライトな記事で収益化に成功している媒体は多くあると思いますが、そこでは別にジャーナリズムをやろうと思っていなかったり、そういうライトな印象がある媒体にジャーナリストが参加しない(しづらい)ような感じもあります。

ただ、堅いニュースでもWebメディアやSNS上で消費されるようになっています。今春のピューリサーチによる調査ではミレ二アル世代の6割がフェイスブック経由で政治ニュースを得ているという結果も出ています。新聞や雑誌などの紙よりも、WebメディアやSNSのほうが生活動線に沿っているいま、Web専業のジャーナリズムメディアが生まれる必要はやはり感じるところです。

垂直統合型か分野特化型のメディア

とはいえ、実際どうすればいいのか考えてみても、採算度外視でオンラインジャーナリズムをやるのは限界があります(やるならプロパブリカのような財団をバックに抱えるようなかたち?)。

ちゃんとジャーナリズムと収益ともに成立するメディアを目指すのであれば、バズフィードがメディアではなく「プロセス全体」を取ろうとしているように、垂直統合型(開発、制作、販売、流通)のメディアビジネスを展開するか、気候変動だけに振り切ったInsideClimate Newsのように分野特化を攻めるかのどちらかになる気がしています。答えは出ないですが、引き続き、考えていきたいトピックです。

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最近、これからのメディアのあり方を考えるために、「ぼくらのメディアはどこにある?」というメディアの編集をはじめました。メディア業界の外にあり、生活に溶け込むメディアをどんどん取り上げていきます。

分散型の報道メディア「reported.ly」がWebサイトを開設した理由

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イーベイ創業者が創業した「First Look Media」が2014年末に公開した分散型の報道メディア「reported.ly」。ツイッターフェイスブック、レディットなどのソーシャルメディアを活用するメディアであり、「グローバル・ニュース・コミュニティ」としての運営が続いていましたが、ここでひとつの変化がありました。 

それは、自社サイトを持つようになったことです。

分散型といえば、各プラットフォームに最適なコンテンツを流し、それぞれの利用者がいるところにコンテンツそのものを届けていくような考え方でした。では、reported.lyのサイトを見てみましょう。各ソーシャルメディアのタイムラインが一覧で確認できる「reported.ly now」やその日のニュースダイジェスト、そしてアーカイブがあるというくらいです。

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reported.ly nowでは各ソーシャルメディアでの発信が時系列で閲覧できる

サイト開設を発表した記事では、当初からサイトを持ちたいと考えていたことを明らかにしています。ほぼソーシャルメディアのみでスタートしましたが、ツイートなどでは瞬時に消費して終わるので、時間をかけてさまざまなトピックを追ったとしてもなかなか読者側にはわかってもらえないことが課題でもあります。

続報を届けたり、ニュースの文脈まで汲み取って伝えていくには、やはりアーカイブも兼ねた自社のサイトが必要になったのでしょう。コンテンツ単体で消費されてしまいがちな分散型メディアならではの課題も徐々に見え始めていて改めてサイトの意義も問い直されそうです。今回のサイトはあくまでベータ版ということなので、今後の活用にも注目していきます。

「フェイスブックでは1日40億回閲覧」「ネット上のトラフィックの6割が動画」 モバイル動画という大波は来ているのか?

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「モバイル動画」という大波は来ているのでしょうか?

たとえば、フェイスブックでは1日40億回閲覧(うち75%がモバイル)、スナップチャットでは1日20億回閲覧という数字があります。

このあたりのプラットフォームがYouTubeを超えたとき、広告主の大移動が起き、本当の意味でモバイル動画の大波がきたということになるのでしょう。YouTubeはモバイル比率は明らかではありませんが、1日70億回の閲覧数、2015年中には80億回となる予測だそう。

フェイスブックが発表した、同サービス上でそのまま記事が読める「Instant Articles」やスナップチャットがメディアと協業した「Discovery」では、縦長サイズでの動画閲覧なので、PC時代の横長サイズの動画を視聴するという習慣に変化が起き、急速にスマホ時代にフィットした動画視聴が当たり前になりそうです。

また、毎年恒例となっているアナリスト、メアリー・ミーカー氏によるレポート「Internet Trends」2015年版でもトレンドのひとつとしてモバイル動画が挙げられています。

トラフィックの内容では、動画の増加が著しい。2014年のインターネット・トラフィックの64パーセント、モバイル・トラフィックの55パーセントを動画が占めていたという。特にFacebookには現在、高度に進化した動画サーヴィスがあり、1日に40億ヴューを獲得しているとミーカーは指摘する。
なお、IT企業のCiscoが同日に出した年次報告書にも、同じようなことが書かれている。「今後5年で、インターネット全体の80パーセントがオンライン動画になる」と予測しているのだ。

いま、ネット市場は飽和しつつある──2015年版インターネットレポート « WIRED.jp

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How Technology Is Changing Mediaより)

月間2億人以上が訪問するニュースサイト「バズフィード」でも2014年夏から動画部門を立ち上げるなど、動画への投資が盛んです。「How Technology Is Changing Media」という広告関連資料にて、2013年と2014年の比較をしていますが、閲覧数は8倍、購読者は9倍となっています。閲覧数は2015年に入り、すでに月間10億回を超えているのでさらに伸びていきそうです。

ただ、モバイルでの動画閲覧については先述のフェイスブックやスナップチャットが圧倒的なので、サイト内ではなく、プラットフォーム上へとこれまで以上に溶け込んでいくのでしょう(だから分散型が起きているのですが)。

どうやら動画の総量や視聴トレンドという意味では、モバイル動画の波が来ているようです。では、ビジネスという意味で、モバイル広告についても少しだけ見てみましょう(以下に紹介するものは、モバイル「動画」広告に特化したものではない)。

e-Marketerによれば、広告費についてもモバイルが急伸しているようです。2014年時点の米メディアにおいて、テレビの広告費が占める割合が約4割。一方でモバイルは1割ほどです。しかし、2018年の予測で見ると、前者が4割弱、後者が3割弱となり、その差は10%ほどに縮むようです。

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The Bad News About the News | Brookings Institution

The Bad News About the News」というレポートでは、テレビや新聞、ラジオ、ネット、モバイルなどのメディアでの時間消費と広告費の割合をグラフにしているのですが、とても興味深いです。たとえば、真ん中の紙媒体は時間消費が少ないのに、広告費が高い。一方で、モバイルは時間消費が多いにもかかわらず、広告費が少ない。このあたりがちゃんと釣り合ってくると、モバイルに特化したメディアが適切に力を持っていくのだと思います。

個人的な興味からいくつかの海外メディアに尋ねたことがあるのですが、まだまだ動画広告の売り上げが売上全体のうちの多くを占めるまでには至ってないようです。単価は高いものの、視聴トレンドだけではなく、広告を含めた市場という意味ではあと1〜2年ほどはかかるのかもしれません。

だからこそ、海外ではバズフィードやヴァイス、ヴォックスなどの有力な新興メディアが2014年から動画に注力し、市場の成熟を待つための体制を整えているのでしょう(一方の伝統メディアは・・・)。

最後に、国内では2013年から2014年にかけて、スマホからの動画視聴が約1000万人増えています。今年に入ってからもC CHANNELなどが新しい文化とルールを生み出そうとしており、モバイル動画ならではの視聴習慣や広告のあり方にも注目していきたいです。 

AppleがiOS9発表、ニュースアプリ提供へ

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Appleが「iOS9」の発表をおこないましたが、ニューススタンドの代わりになるニュースアプリの提供も発表しました。フリップボードのようなものになるようで、ニューヨーク・タイムズやバズフィード、CNN、ヴォックスメディアの各媒体など紙やWeb問わず多くの媒体がパートナーとして参加するようです。

最初からiPhoneApple独自のニュースアプリが入っていてそれなりの媒体が囲われているので、サードパーティによるニュースアプリとどのように住み分け、既存のニュースアプリユーザーがどのように動くのかは注目になります。ニュースアプリ先進国(?)の日本でも提供されることがあれば、メディア関係者は大きな関心を寄せることになるのかもしれません。

媒体社は広告を100%受け取ることができるので、この点はフェイスブックのInstant Articlesなどにも似ています(もちろんこれまで通り、App Storeにおけるサブスクリプション課金は30%)。実際、重複している媒体もあるので、AppleFacebook(やSnapchat)などの企業による媒体の囲い込みが、どのような影響をもたらすのか。独自フォーマットがどのようなものになるのか、パーソナライゼーションの強弱も含め、リリースが楽しみです。 

ノンフィクション・メディアが生き残るために必要なもの:流通への意識や新しい習慣・単位

先日、『ネットと愛国』などの著書で知られ、最近では大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されたジャーナリストの安田浩一さんとお話する機会がありました。ノンフィクション誌『G2』講談社)が今回の19号目をもって休刊するとのことで、同号に原稿を書いている2人で対談を実施したというものです。 

ぼくは本誌では、休刊に合わせて(?)「ノンフィクションを読まない24歳Web編集者がノンフィクション・メディアの未来について考えてみた」という"暴論"を12ページにわたって書きました。このなかでは、第19号の編集人にヒアリングをしたうえで、現状のノンフィクションの課題とこれからのノンフィクションの生き残りについて、コンテンツの製作と流通、そしてメディアの収益化という3点から掘り下げています。

そして対談では、ぼく自身がノンフィクションの書き手の方とお話しするのが初めてだったので、Webメディアとはかなり異なる部分が多く勉強になりました。

「読者目線を続けることで、媒体は信頼性を獲得していくことができるのか」

安田さんがWebメディアについて懸念し、紙媒体のノンフィクションのほうにまだ意義が残っているとした理由は、Webメディアが稼げていないために取材費や原稿料が出せない(だから取材しない記事が多い)のではないかということがメインだったと思います。

加えて、紙媒体ならではの体制(編集+校閲)がWebメディアではなかなか組めていないこともあります。また、読者目線はメディアにとっていいことなのか、ということも論点のひとつとなりました。

安田:たとえば、週刊誌時代の読者アンケートでトップに来ていたのは、決まってショッキングな話題、スキャンダラスな話題、衝撃的なグラビアだったりする。こういった読者の反応を意識し続けてしまった場合、地味な告発型のノンフィクションなどは切り捨てられてしまうという危機感を感じる。果たして、読者目線を続けることで、媒体は信頼性を獲得していくことができるのか。読者を意識しながら、コンテンツのクオリティをどのように維持できるのか、または高めていけるのかを考えざるをえないと思います。

「取材をしないネットメディアには、匂いや身体性がない」 安田浩一×佐藤慶一対談「ノンフィクション・メディアの意義・課題・希望」【前編】

「出版業界エコシステムが崩壊しつつある以上、その中でどう生き延び自分の伝えたいことを広めていくのかという手法はもはや変わらざるをえない」

しかしながら、2008〜2009年にかけての相次ぐノンフィクション誌休刊、そして今回のG2の休刊。現実として、ノンフィクションが売れない、読者に届かないという課題はあるように思いました。対談記事を読んでくださったジャーナリストの佐々木俊尚さんは以下のようなツイートを残しています。

このような状況のもと、書き手や編集者はますます流通を意識しなければならなくなるのかもしれません。そこで、ノンフィクションというジャンル全体との接点をもっと増やし、ノンフィクションに触れる習慣を生み出すべきであり、ネットで積極的にコンテンツを展開していくならば新しい単位(文量や書き方など)が必要になってくると思います。

有料サロン活用で原稿料という仕組みから脱却

日頃メディアにかかわっていて思うのは、原稿料という仕組みは古くなっていくのかもしれないということ。これは、ノンフィクション・メディアのひとつの突破口になるのではないかと考えています(といっても想像の域を出ませんが)。

イメージでは、有料サロンが近いです。つまり、原稿を書いていないときにもお金が入ってくる仕組みがきっとノンフィクションには必要になるのだろうと思っています。たとえば、ビッグイシューのサロンは注目の事例のひとつ。

こういうところがノンフィクションの未来に向けたヒントを与えてくれるのでしょう。ノンフィクションライターでサロンを開きたい人がいたら、編集者としてそういう人のサポートをできたらいいなあと思います。

ノンフィクションには実験と実践が求められる

そんなことを考えていたときに、ビジネスジャーナルが芥川賞作家・柳美里さんに対するインタビュー記事を公開していました。安田さんとの対談に続いて、書き手の実情を知ることができました。

「書くことだけで食べている作家は30人ぐらいではないか」「(年収は)多かったときは1億円以上、少ないときは400~500万円」「かつてはノンフィクションであれば執筆前に取材費が出ていましたが、今は自腹です」など赤裸々な発言がみられ、現在のノンフィクションの側面を知るうえで重要だと思います。

長期間の取材を要するコンテンツや企業・事件報道などが生きていくには、どんな媒体や体制が必要なのか。出版社はいま、実験と実践が多々求められてくるのではないでしょうか。今後はこういった媒体の実験的な取り組みにもかかわれるようになりたいと思いました。

 

バズフィード、2016年大統領選に向け"ファクトチェック"チーム立ち上げへ

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バズフィードが2016年大統領選に向けて、政治家の過去の発言や政策のアーカイブを掘り起こし、ファクトチェックをおこなうチームを立ち上げたことをポリティコなどが伝えています。このチームの指揮をとるのは、12万人近くのツイッターフォロワーを抱える、1989年生まれの政治記者Andrew Kaczynski氏。Kaczynskiのもと4名のチームを結成し、うち2人が社員、2人がインターンということです。2016年選挙の候補者に関して、あらゆる情報を探すためにつかう体系化したシステムを持っているとのこと。

Kaczynski氏についてはウィキペディアに詳しいですが、大学生時代から政治家の発言のアーカイブを参照しながら、現在の立場との整合性をチェックするなどしていたそう。特に選挙時には動画やツイートが話題となり、さまざまな媒体からアワードを受賞しています。

バズフィードでは過去の選挙戦についても、編集長のベン・スミス氏を中心に政治ニュースチームで都度報道をおこなっていたり、フェイスブックと共同で候補者に関する印象をデータとして発表しています。今回のチーム結成については、これまでのバズフィードによる政治報道から大きな一歩を踏み出すものになりそうです。バズフィードが政治家や選挙ついて独自の調査部隊を抱える動きは硬派なニュースを正しく伝えるという意味で、重要なことになるでしょう。

さらにバズフィードでは今夏、CEOのジョナ・ペレッティを中心に「BuzzFeed Open Lab For Journalism Technology and the Arts」という研究開発機関を設立します。新技術がジャーナリズムになにをもたらすのか、テクノロジーとアートの交差点を探る動きとして成果にも目を向けていきたいですね(GEなどスポンサーが付いていることも注目です)。2014年8月の大型資金調達のあとに設立した、各プラットフォームへのコンテンツの流し方を考える流通部門にもつながる話なのかなと思いました。

バズフィードについては、先日80ページほどの資料をつくりました。関心ある方はぜひご覧になってみてください。

ラップ歌詞の脚注からはじまった「Genius」、対象をすべてのウェブページへ拡大

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2009年、ラップの歌詞に脚注をつけていくことからはじまった、Rap Genius(現Genius:ジーニアス)。サービス名のラップが取れたタイミングで、ニュースや歴史、映画、法律などさまざまコンテンツに脚注をつけることが可能になっていました。

2015年4月からは、新たな展開として、ベータ版の機能をスタートしています。これによって、インターネット上のあらゆるページに対して、脚注をつけることが可能になりました。つまり、ジーニアスのサイト内以外にも、外部サイトのページにコメントを加えることが可能になったのです。

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(ジーニアスの本サイトでの脚注)

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(ロサンゼルス・タイムズによるボブ・ディランのスピーチの書き起こし文章に対する脚注)

すべてのウェブページに注釈をつけることができるのは、ビジョンとしてとても壮大で、ある種ウィキペディアのような機能とも言えます。Google Chromeなどの拡張機能なども公開し、さまざまな場所で使えるように整えているところです。脚注にはテキストと画像、リンクなどを入れることができ、だれかのコメントに乗っかることもできるので、それなりに詳しく解説できます。

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(脚注が付けられているサイト一覧)

ところで、Geniusは2012年にはAndreessen Horowitzから1500万ドルの資金調達を実施しています。今回はベータ版のサービスと言えど、かなりぶち上げたものになりそうなので、さらなる調達もしていくのでしょうか。さまざまなネット記事にコンテキスト(文脈)を与えていく新種のメディアサービスの事例としても動向を追っていきたいですね。広く普及すれば、メディアが導入するコメントシステムに取って代わる可能性もあるかもしれません。

(参照)Genius Beta on Product Hunt