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Vice Mediaはなぜ「ハリウッドインサイダー」になれたのか? 急成長を支えたもうひとりの立役者、Tom Frestonの数奇な運命

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(photo credit: Stream London 9 November 2011 via photopin (license)

この記事は、橋本英明さん(フジテレビジョン コンテンツ事業局)によるMediumへの投稿「Tom Frestonの数奇な運命とViceの成長」の転載です。ジャーナリズムやCEOのパンクさが注目されがちなVice Mediaがいかにして、巨大メディアエンターテイメント企業に成りえたのか。その影の立役者についての7000字以上のレポートです。

Vice Mediaはいかにしてハリウッドインサイダーになれたのか

Vice Mediaを語る時、過激な描写・危険な地域からのレポート、あるいはShane Smithの言動がなにかと表に出てきがちです。しかし、当たり前ですが、それだけではありません。

ここで注目しなければならないのは、モントリオールから生まれたパンク雑誌が、どのようにしてここまで大きなメディアエンターテイメント企業になれたか。この点が重要だと思っています。

それは、もちろんCEOのShane Smithの手腕もあると思いますが、個人的に注目したいのは、Vice Mediaがどうやってハリウッドインサイダーになれたのかということです。

ご存知の通り、Vice MediaはShane Smithだけによって創り上げられたわけではありません。それは、彼が3人の共同創業者のひとりであるという意味だけでなく、Vice Mediaがハリウッドインサイダーになれた立役者がいるということ。

そしてその人物こそが、今回注目したいTom Freston(以下Freston)という人物なのです。

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(左:Shane Smith、右:Tom Freston/Getty Images

もしTom Frestonを知っているとしたら、メディアエンターテイメントビジネスにかなり詳しい人だと思います。なぜなら、彼はケーブルテレビ黎明期に音楽専門チャンネルMTVの立ち上げに関わり、CEOを務めた後には、親会社のViacomのCEOも歴任した人物だからです。

そして、その後Vice Mediaにアドバイザーとして関わったことが、Vice Media躍進の大きなキッカケになったのではないかと思っています。それは例えるなら孫正義にとっての笠井和彦の関係のように。FrestonもShane Smithの参謀として、重要な局面で色んな助言をしたことが、今のViceの成長を支えたのではないか。そういう風に思っています。

そんなTom Frestonの数奇な運命とViceの成長について、書いてみます。

カブールからケーブルへ

Tom Frestonは、いきなりメディアエンターテイメント業界で働き始めたわけではありませんでした。MTVに関わる前に、実はメディアエンターテイメントと関係ない仕事をしていたというのも面白いです。

Frestonはニューヨーク大学MBAを取得後、Benton&Bowlesという広告代理店のアカウントエグゼクティブになりました。しかし、24歳で突然辞めてしまい、放浪した末にカリブ海の周辺でバーテンダーとして働き始めます。そして、その後インドに旅立ち、ニューデリでアパレルビジネスを立ち上げたところ、経営の才覚があったのか、インドやアフガニスタンの衣服を米国・ヨーロッパ・南アフリカの小売店へ卸す事業は好調だったようです。

しかし1970年代、貿易法の改正によって、自ら立ち上げた会社を強制的に閉鎖しなくてはならなくなり、米国への帰国を余儀なくされてしまいます。そして、彼はビルボード誌に掲載されていたミュージックビデオを放送する音楽チャンネルを立ち上げる人材の募集広告を目にします。つまり、これがMTVの採用広告でした(正確にはMTVを立ち上げようとしていたWarner-Amex Satellite Entertainment Company:WASEC)。

1980年、FrestonはMTVのマーケティング担当ディレクターに起用され、MTVの認知拡大のために奔走します。全米を駆け巡って放送してくれるケーブルテレビ局を開拓し、放送するためのミュージックビデオをレコード会社から調達していました。そして1981年にいよいよMTVが放送開始、ご存知の通り若者からの絶大な支持を獲得していきます。

伝説となったI Want My MTVキャンペーン 1984 I Want My MTV Commercial (1) from David Hale on Vimeo

Frestonは、その後営業担当・編成担当となって引き続きMTVの事業拡大に貢献。1984年にはMTVの親会社であるWASECは、好調だったMTVを主軸に自らをMTV Networksとしてリブランド/スピンオフ化し、同じくWASECが立ち上げた子ども向けチャンネルのNickelodeon(1979年開設)や音楽専門チャンネルVH1(85年開設)を束ねていきます(このタイミングでAmexはこの事業から手を引くことになり、親会社はWarner Cableとなります)。

しかし、好調に推移していた世の中のイメージとは裏腹に、80年代半ばには売上が減少に転じてしまいます。その結果、1987年にWarner CableはMTV NetworksをViacomに売却、ケーブルテレビ事業に注力することになります(ちなみにWarner Cableの末裔がTime Warner Cableであり、今Charter Communicationsに買収されるという話が出ています)。

Viacom傘下になった後もMTV Networksに残った数少ない役員だったFrestonは、1987年にMTV NetworksのCEOに就任します。そして就任するなり広告営業部門を改組、自ら営業部門と編成部門の橋渡し役となり、翌年40%以上売上を伸ばします。

その後、FrestonはMTVの海外戦略も加速させ、2003年にはMTVの全売上の80%以上が海外という比率まで高めることになります。これに加えてMTV Networksの事業の多角化も積極的に推進。具体的にはアニメーション製作(『Beavis and Butt-head』『SpongeBob SquarePants』『South Park』『Rugrats』など)や劇場映画製作、デジタル事業などを推進しました。また、編成のセンスも研ぎすまされていて、2002年にオジー・オズボーン一家を起用したリアリティ番組The Osbournes』の立ち上げを承認して、後にMTVのドル箱番組へと成長させていきます。

そして前任者の退任を機に、Frestonは遂にViacomのCo-President & Co-COOに就任(2006年にViacomCBSが分離したのを機にViacomのCEOに就任)し、MTV Networksだけでなく、Paramount Picturesなどを含めたマネジメントを担当していくことになります。

しかし、順調にメディアエンターテイメント界でのキャリアを積んできたと思いきや、数奇な運命はまだ続くのでした。

MySpace買収失敗、そしてViacomからの追放

まだ、FacebookTwitterInstagram、Snapchatがなかった時代。

Tom Frestonは急成長中だったMySpaceを買収しようと動いていました。しかし、ご存知の通り、MySpaceはRupert Murdoch率いるNews Corporationに5.8億ドルで最終的に買収されてしまいます。このことは、2005年7月の話です。

実はMySpaceの買収はViacomが話をかなり進めていて、世の中的にはViacomが5億ドルで買収するんだろうという風に思われていました。実際のところ、Viacomが抱える若者向けのメディアとMySpaceという組み合わせは相性も良く、Frestonの中のシナリオとしても、MySpaceを中心に据えてViacomの存在を再定義しようとしていました。

そんな中、抜け目ないRupert Murdochは、ある週末Frestonが休暇でハワイに訪れている隙に、MySpaceを運営するIntermixをある部屋に缶詰にして交渉を重ね、土壇場で契約を結んでしまったのです。すごい話ですね。

その顛末としてFrestonはViacom会長でメディアエンターテイメント界の重鎮Sumner Redstoneに解雇されてしまいました。もっとも、Viacomはこの時にMySpaceを買収しなかったおかげで大きな損失を出さなくて済んだとも言えますが。もちろん、歴史に「もし」はないのですが。しかしながら、休暇中にこんなことが起きるなんて、なんという悲劇でしょうか・・・。

ちなみにSumner Redstoneは、現在91歳にして、今なおViacomCBSの会長。つまり読売新聞グループ本社代表取締役会長の渡邉恒雄よりも年上で、もしかしたら世界のメディアエンターテイメント企業の現役エグゼクティブで最も高齢なひとりかもしれません。

Viceの動画事業の礎となった共同出資会社VBS

この解任劇が起きる少し前に、Tom FrestonはViceが動画事業に参入したいということを耳にします。

2005年にYouTubeが創業、2007年にHuluが立ち上がり、各社が動画配信プラットフォームに投資している中で、ViceのShane Smithらは「動画プラットフォームが普及したタイミングで、必ずコンテンツが必要なる」と考えていました。そしてTom Frestonはこの発言に共鳴します。というのも、Freston自身もケーブルテレビ黎明期に、土管はあっても流すものがない時代を知っており、その流れに乗ってMTVが爆発的に広がったことを知っていたからでした。

“Everyone was spending all their money on platforms but none of it on what you put in the pipe. So we said, Okay, eventually the market’s going to catch up, and everyone's going to need content.”(Shane Smith)

今後5年でウェブ対応のテレビの世帯普及率が50%を超える。そうなった時に、また流すものが必要になる時代が来る。

Viacomは、2007年の時点で売上が2800万ドルだったViceと共同出資会社を設立し、VBS.tvというオンライン動画ネットワークを立ち上げ、短尺のドキュメンタリーやルポタージュを、世界でもっとも危険な場所で撮影して届けることを考えます。

そしてクリエイティブディレクターにはSpike Jonzeを起用し、VBS.tvで初となるドキュメンタリーシリーズ『The Vice Guide to Travel』の製作を進めます。キャストはShane Smithも自ら出演する中で、『Jackass』でおなじみのJohnny Knoxvilleらも出演し、北朝鮮アフガニスタンなど、世界の危険地帯からストーリーを届けていきます。つまり、今のVice Mediaの動画のイメージは、すべてこれを起点にして作られたものになるんです。

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The Vice Guide to Travelより)

ちなみにこれは推測ですが、Shane SmithとSpike Jonzeを引き合わせたのは、MTV時代からSpike Jonzeと付き合いの多かったTom Frestonだったんじゃないかなという気がしています。Spike Jonzeは、まさにMTVの申し子。Beastie BoysChemical BrothersFatboy Slimなどのミュージックビデオを撮り、世界でもっとも面白い番組(と私が思う)『Jackass』を撮っています。そして前述のJohnny Knoxvilleも『Jackass』が放送されてブレイクした人物。この辺のキャスティングは、Tom Frestonの人脈の為せる業なんじゃないかなと思います。たぶんですが。

リベンジ、そしてハリウッドインサイダーへ

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(VBS.tv via Freebord_photos’s Bucket)

VBSでメディア企業として先進的な動きをしているなかで、前述の通りFrestonに悲劇が起き、後にSumner Redstoneに解雇されてしまいます。しかしおもしろいのはここから。このタイミングに合わせて、ViceはVBSの株式をViacomから買い取り(金額非公開)、なんとFrestonがViceのアドバイザーに着任したのです。

MySpaceの買収失敗があったとしても、それを帳消しにできるくらい、Tom Frestonはメディアエンタテイメント界で最も経験豊富な経営者のひとりだったと思います。そんな人が他のメディアエンターテイメント企業のCEOに就くのではなく、Viceのアドバイザーになることを選ぶということは、ちょっと普通じゃないような気もします。それだけ、Viceの未来が見えていたのかもしれません。実際FrestonはViceのその後の戦略作りに大きな役割を果たしていきます。

VBS.tvは、その後Viceland.comと統合されてVice.comとなり、今私たちが知るViceの動画事業の土台となります。これにより、Viceはバーティカルな動画チャンネルを次々と立ち上げていくことができました。例えば音楽に特化したNoisey、テクノロジーに特化したMotherboard、アートに特化したThe Creators Projectが立ち上がり、それぞれに1社から4社ほどのスポンサーがつきました。

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旧来型のマーケティング手法だと若年層に届かないというクライアント側の課題があり、その一方ではVice.comに広告掲載されてエログロなコンテンツと一緒になって困るというメディア側の課題もありました。そこで前述の通り、Vice.comと付かず離れずのバーティカルメディアを作り上げました。これはまさにケーブルテレビの専門チャンネルの立ち上げ方とまったく同じことで、Frestonがケーブルテレビ黎明期以降ずっとやってきたことなんです。

そして2011年、Frestonは自らViceに資本参加し、世界最大規模の広告代理店WPPとThe Raine Group(Goldman SachsUBSの元パートナーが立ち上げたメディアエンターテイメントに特化した投資グループ)からの調達をお膳立てし、ハリウッドの4大エージェンシーで最古のWilliam Morris Endeavor(WME)と代理契約を締結します。これがまさにVice Mediaが「ハリウッドインサイダー」になった瞬間だと言えるかもしれません。

米国のメディアエンターテイメント界は、よくも悪くもハリウッドを中心とした狭いコミュニティーですべてのディールが決められていきます。脚本はハリウッドに集まり、それを撮る人も出る人も、スタジオもエージェンシーも、それをサポートする保険会社も投資会社も法律事務所も、人材育成拠点としてのフィルムスクールも、全部南カリフォルニアに集中しています。このコミュニティーに入らないと、良いディールにありつけることが難しいといっても過言ではありません。

大型調達、共同出資会社設立、快進撃はつづく

さて、この調達以降、2012年にYouTubeが1億ドルを用意して始めたOriginal Channel Initiativeに採択され(ここからMaker StudiosやFullscreenやTastemadeが一気に立ち上がります)、2013年にHBOと契約して番組の提供を開始。同じく2013年にはTom FrestonをViacomから追いやるキッカケを作ったRupert Murdoch率いる21世紀FOXが、Viceの株式の5%を7000万ドルで取得します。

2014年、A&E(DisneyとHearstの合弁会社)から2.5億ドル調達、カナダ通信大手Roger Communicationsと1億ドルの共同出資会社を設立、21世紀FOXとVice Filmsを共同設立して劇場公開作品の製作を推進、HBOとデイリーのニュース番組の製作を発表、A&E傘下のケーブルチャンネルをリブランド化してViceの名前を冠した新しいチャンネルの立ち上げ。そんなに風に快進撃が続きます。

そして、そのキッカケを作った人、それがTom Frestonだったんです。何か大きな動きがある時、強烈な個性を持った人の影でそれを支える人がいる。そんなお話でした。

 

<参考>

http://www.forbes.com/sites/jeffbercovici/2012/01/03/tom-frestons-1-billion-revenge-ex-viacom-chief-helps-vice-become-the-next-mtv/

http://www.hollywoodreporter.com/news/vices-shane-smith-tom-freston-434990

http://www.referenceforbusiness.com/biography/F-L/Freston-Tom-1945.html

http://www.theguardian.com/media/2013/aug/17/rupert-murdoch-vice-magazine-stake

http://en.wikipedia.org/wiki/MTV

http://en.wikipedia.org/wiki/Warner-Amex_Satellite_Entertainment

<橋本さんのMediumはこちら>

<お知らせ>

メディアの輪郭では、国内外のメディアや編集(Web/紙問わず)に関する寄稿や転載(単発/連載)などを募集しています。ご興味ある方は、ツイッターフェイスブック、メール(ke12nny@gmail.com)などでお気軽にご相談いただけたらと思います。

これからの「いい情報」とは何か? 共有・アクセスできないような情報に漂う色気

情報に溺れないためには、「欲しい情報は何か」を知ること

真似のできない仕事術を特集した『BRUTUS』2015年6月1日号を読みました。漫画家の小山宙哉さんやジャーナリストの田原総一朗さん、俳優の山田孝之さん、建築家の藤村龍至さんなど10名以上が取り上げられていました。

インタビューで重要なことについて田原さんが「想像を超える発言を引き出せるか」と言っているのはいつも体現していると思いつつ、情報術について語っている箇所も印象的でした。

どうでもいい情報に振り回されると情報に溺れてしまう。溺れないようにするには、まずは、"欲しい情報は何か"を知ることなのでは。そして、一次情報をたぐり寄せる。これに尽きる。(中略)一次情報を捕まえるのはいつも命懸け。だから面白いんです。(31ページ)

「共有できない、アクセスできない、意識的に閉じていく情報に色気を感じている」

高城剛さんらを教え子にもつことでも知られるメディア美学者の竹邑光裕さんは、いい情報について語っていました。いい情報とは色気がある。ただ、情報の色気を感じるには、感度が求められます。 

人は受信装置。求める人だけに、不思議とピッと入ってくるのが情報で、感度を高めるというのは、自分が何を求めているかはっきりさせることですね。(中略)あらゆる情報がオープンでコモンズになりつつある時代だからこそ、共有できないとか、アクセスできないとか、意識的に閉じていく情報に色気を感じています。(32ページ)

情報収集には、人が欠かせないとも発言しており、人を介した情報の確度やコンテクストがあることで色気を帯びてくるのではないかとしています。

圧倒的に刺激を受けるのは何かのために作られていないもの

また、音楽家の渋谷慶一郎さんの「いい情報とはなにか」に対する返答も本質的でした。

圧倒的に刺激を受けるのは何かのために作られていないものです。ただそれだけで存在しているもの。アートでも音楽でもそういうものが減ってきているけど、僕自身はそこしか反応しない。だから情報は良いも悪いもなくて、自分との距離と濃度だけが問題なんですよね。(41ページ)

Webメディアなんかにおいても、過度に読者(の環境)に寄り添いすぎていたり、マーケットインで考えられすぎているようなコンテンツも溢れるようになっているなかで、「ただそれだけで存在しているもの」という考えは少し意識したいところでした。

何かのためにつくっていないから、受け手の能動性や感受性が求められる。そんなコンテンツが増えると、いち読者としても情報収集が楽しくなりそうです。個人的に、今年はネットからの情報収集を意識的に減らし(正確には受動的でも入ってくる状態を整えた)、書店や紙媒体、人づてなどを通じた情報収集のほうが多くを占めるようになりました。さらに後者を強めていきたいと考えています。

 

プラットフォームによる新しい指標づくりが重要ーー「Medium創業者エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」を読んで

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 WIRED.jpに掲載されていた「Mediumをつくった男、エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」という記事が非常におもしろかったです。月間MAU2500万人を超えるというこのプラットフォームでは「書き手と読み手のための最高のツールをつくること」を重視しているそう。

ここで挙げられている7つの教訓は、一つひとつ考えさせられるものでした。

  1. アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない
  2. 人々が互いに話しかけるのを助けるのは、思ったより難しい
  3. しかし、人々が互いに礼儀正しくするのを助けるのは、思ったより簡単だ
  4. オンラインでの礼儀正しい会話を生むためのカギは、ソーシャルツールを適切なものにすることだ
  5. プラティッシャー(platform+publisher)
  6. 人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く
  7. 書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ

プラティッシャー「Medium」が重視する指標

アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」「プラティッシャー」「人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」の3つを取り上げてみます。

まずは、「アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」ということ。Mediumでは、「TTR」(Total Time Reading)という指標を用いて、ページの閲覧時間を重視しています。

このようにページビュー以外の指標を掲げ、プラットフォームの世界観とセットで打ち出していくのは、いちメディアが滞在時間を重視します、ということよりだいぶインパクトのあることでしょう。そのため、メディアが新しい指標を設けていくことはもちろん、プラットフォーム側がルールを書き換えていく動きにも注目していきたいですね。

次に、パブリッシャーとプラットフォームと掛け合わせた造語プラティッシャー」について。この考え方は、腑に落ちる部分もあるのですが、独立したパブリッシャーや独立したプラットフォームと比較すると意外と成功事例は少ないように思います。海外ではフォーブスが大量のブロガー活用をしたり、ヤフーがジャンル特化型のメディアをつくったり、さまざま動きがあります。実際、Mediumでも、いくつかのメディアを立ち上げています。

おそらく短期的にはプラットフォームがパブリッシャーに寄っていくのが目立つと思うのですが、逆のほうがインパクトがあるのではないかと考えています。はっきりと言語化はできていませんが、以前書いた記事にも通じるところがありそうです。

満足と期待に対する課金、そのバランス

人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」というのは、コミュニティとも結びつく発想です。ページビューを稼いで広告で稼ぐ、よりも小さく密な読者に向けてじわじわを広げていくようなモデル。

最大公約数というよりは、最小公倍数から攻めていく。ローカルやニッチ、専門性・・・ネット上の情報の切り貼りで完結しない、一次情報を発信するメディアはこのような考えが多くなっていくのではないでしょうか。特に課金においては、満足に対する課金、期待に対する課金、そのバランスが重要になるのではないかと思います。

エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓は、メディアにかかわる立場(ライター/編集者、メディア/プラットフォーム、コンテンツ/広告(営業))や、メディアのかたち(広告型/課金型など)によって強く共感したり、ピンとこなかったりするのだと思います。「書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ」と言えるのはとても強いです。

編集やメディアの役割は「発信」ではなく「媒介」ーー出版の限界を超えるために必要なこと

未来の出版に必要なものは、「これまでになかった新鮮な空気」

「書き手のなか、あるいは実際に書かれたものから、いまだ書かれぬ何かを感じ、企画をたて、それを、読み手に届ける」

これは、ミシマ社代表の三島邦弘さんの著書『失われた感覚を求めて 地方で出版社をするということ』の「はじめに」にあった言葉です。本社を東京・自由が丘に置きながら、京都にもオフィスを開設。地方で出版社をおこすこと、震災後の意識や意思決定、そして、編集やメディアとは、出版を救うヒントや実践などについて読み入ることができた本でした。

ミシマ社が2006年に自由が丘にオフィスを構えた際の理由のひとつに出版社がない場所だから、という点を挙げています。おしゃれやスイーツなどのイメージがある自由が丘ではなく、「生活者の町」としての場所で出版社を営むことができた実感から、「メディアの活動は生活感覚に近いところですべし」という考えになったそうです。

そして、"出版不毛の地"(京都府城陽市)でもオフィスを開設。「未来の出版に必要なものは、『これまでになかった新鮮な空気』であることは明らかなのだから(41ページ)」。生活者の町で出版をおこなうことに加え、東京以外でも出版社がある状態をつくることで、出版の限界を超え、新しい可能性を切り開きたい、としています。

関連して、本書で特に頭に残っているのは、「脱記号」と題した項目。さまざまな要素を削り落とし、ひとことでまとめてしまったり、単純化・画一化を促すこともある記号化。まだ記号化されていないところで出版社を立ち上げることで、これまでになかった体験もできたとのこと。

それは、ミシマ社の本屋さんという小さな書店も運営していたので、読者に本が届いていることを目にできたことです。改めて、編集者として、つくるだけでなくしっかり届けることまでを意識するようになったと書かれています。

「メディア=道、コンテンツ=芸」という捉え方

本書にたびたび登場するデザイナーの寄藤文平さんと三島さんのやりとりも印象的です。

「(茶道は)おいしいものを飲むという当初の目的に直結しない行為に価値を見いだし、おいしさが置いてけぼりにされることだってある。もともとは、おいしいものを飲みたいという思いだけだったはずなんです」

「なるほど。おいしさの追求が満たされたあと、そういう具体的な目的のない行為、ゴールのない行為である『道』が起きると」

(中略)

「デザインは『道』になっちゃいけないと思うんですよ」

(124〜125ページ)

この点、将棋の電脳戦などの例も挙げられていましたが、AIやロボットの時代にはあらゆるものが道と化していくかもしれません。これについては、『情報はつねに広がりたがる』とは? メディアの成熟とコンテンツづくりの行方」という記事で紹介したメディアとコンテンツの関係を「芸道」と見立てることにも共通しそうです。

メディアというものを紐解いていくためのキーワードとして、芸能・技芸を日本独自のかたちで体系化したものを指す「芸道」が挙げられました。芸がコンテンツ、道がメディアといったかたちで、芸と道がつながるとカルチャーになるという捉え方です。

バイラルメディアの問題では、コンテンツ(芸)をないがしろにして、メディア(道)という名のスタイル/体系/システムのほうにかなり重心を傾けているため、たかくらさんは「道の暴走」と表現していました。

また、新しいメディアづくりについて、道をつくってもフォロワーがいないと意味がないけれど、どんなコンテンツでもルートができれば行き場がなくなる。

「消費者によるベストセラーではなく、読者によるベストセラーを」

三島さんは寄藤さんの話を聞くまでは編集者は「見えないものを映す鏡」と考えていたそうですが、いまでは「何もしないを全身全霊で」という「編集=念」という考え方に落ち着きます。ほかにもユニークな考えを披露しています。

たとえば、出版産業の成長はいかにして可能なのか。三島さんは「時間軸を持ち込むこと」を提示しています。それは、短期的に売れるベストセラーではなく、毎年毎年じわじわと売れていくような本のことを指しているのです(Webメディアにも共通しそう)。「消費者によるベストセラーではなく、読者によるベストセラーを(242ページ)」という力強い言葉もみられます。

また、終盤では、メディアや編集とは、という部分についても書き残しています。メディアをやっていると、情報発信の部分に意識がいきすぎることもありそうですが、あくまでも媒介が役割ということは本質だと再認識しました。

「編集やメディアの役割は、よく誤解されがちなのだが、『発信』ではない。くり返すが、あくまでも『媒介』である。自分発信に走ればかえって主体は遠ざかる。自力で全てを動かしてやろう、そういう自意識ほど自然からはるか遠い行為はない。編集者的身体とは、揺れ動く生の日々のなかにあって、なお主体をけっして手離さないでいるための感覚だ(257ページ)」  

「グッズ販売」「個人を全面に」「そもそも体制や目的が・・・」 Webメディアのブランド化に関するいくつかの考え方

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(本文とは関係ない、ニコニコ超会議でのラジオ体操の図)

ニコニコ超会議でのWebメディアに関するトークのなかのトピックを拾い、「Webメディアはスマホ時代にどのようにブランド構築していけばよいのだろうか?」という記事を書いたところ、いろんな反応が寄せられ、とても勉強になりました。

上記のエントリーでは①ロゴの露出、②連載/特集、③コピーできないもの(イベント体験やコミュニティ/コミュニケーションなど)をアイデアとして挙げました。今回はさまざまな反応のなかからいくつか紹介してみます。

なんのためにブランドを構築するの?」

クックパッドニュース編集長の草深由有子さんはNewsPicksで「なんのためにブランドを構築するのか。そしてそのブランドとは、コンテンツなのか読後体験なのかはたまたUIなのか。これからの大きな課題です」とコメント。ブランドづくりの目的とそもそも何をもってブランドなのか、ということを課題としています。

「雑誌メディアから得られる知見が多そう」

フェイスブックでは「ロゴ露出と似ているが、グッズを販売はどうか。『ロゴ付きグッズが売れるメディアを目指すべき』と誰かが言っていた」といったコメントもあり、この延長線上にあるのはほぼ日手帳などもそうだと思いました。雑誌メディアもいろんなブランドとコラボして商品づくりもしているなあ。

「足りないのは、良質なライターやデザイナーを抱え込む体制

たしかに、Webメディアにはいい人材を抱え込めているところは少ないなあと思います。収益化の問題にもつながりますし、紙媒体の人もあまり積極的にWebに進出していませんね。

「『個人』を前面に押し出した記事は媒体名と合わせて印象に残る

人軸というのは重要ですね。トークの際にも人軸の話は出ましたが、雑誌編集長が変わると雑誌やブランドまで落ちていくこともありえるので、そのへんをうまくやらないとなあという印象です。さまざまなプラットフォームが出て、アルゴリズムとメディアが接近し、効率化や自動化が進めばすすむほど、人の感覚(特にトリッキーさや逆張り)は生きてきていると思います。

今の時代、ブランドとか信頼って言葉はどれだけ意味を持つのか

この点もすごい重要だなあと。現在進行形でメディアのブランドづくりがむずかしくなっているので、解体された先になにがあるのか、もしくは再構築の手法を編み出すのか、さまざまな選択が迫られそうです。差別化を図り、リピーター率向上からの長期的なファン獲得につながっていくのでしょう。ブランドの求心力がないと、低価格競争ではないですが、効率化であり、ムダを省いていくようなかたちになりそうです。

このほかにも「耳が重要。発音できない言葉は忘れる」「とがった記事を書く」といったコメントなども見られました。実際、Webメディアではブランドづくりがかなりむずかしい状況になりつつあるので、確立手法を摸索しつつも、紙媒体の編集者やプロデューサーの方などにヒントを求めてみたいですね。

メディアのブランド化というと、LINE社で上級執行役員を務める田端信太郎さんの著書『MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体』にもある「FTの紙はなぜピンク色なのか」ということにもつながりそうです。

ブランドがブランドたり得るためには、消費者が、作り手に対して、底の見えない深い井戸を覗きこんだように、得体のしれない尊敬や信頼を感じさせることが理想的です。メディア業の提供物は、手にとって触れたり、匂い嗅いだり、出来ないわけなので、読者から見た「メディアの品質」とはつまりは「その作り手を信頼できるかどうか。リスペクトできるかどうか?」問題とイコールになります。

そして、この文脈で言えば、日本のWebメディアが、クリック幾らインプレッション幾らの焼畑ビジネスになってしまっていて、ブランド化できていない原因は、根本的には、メディアの作り手である、編集者やライターが、読者や広告主から獲得している畏怖の念にも似たリスペクトの量が足らないことが根本の原因ではないのだろうか、と私は思っています。

FTの紙はなぜピンク色?-ネットメディアがブランド化するために必要なもの | AdverTimes(アドタイ)

「メディアの品質=作り手を信頼できるか、リスペクトできるかどうか」というのはとてもシンプルで分かりやすいです。

 

Webメディアはスマホ時代にどのようにブランド構築していけばよいのだろうか?

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先日、ニコニコ超会議2015に初参加してきました。きっかけは超言論エリアのミニブースでKAI-YOUさん企画のトークセッションに出ることになったからです。「Webメディアはニコニコ動画をどう捉えるか」「最近のWebメディアってどうなってるの?」という2つのテーマがあり、ぼくは後者に参加させていただきました。

「最近のWebメディアってどうなってるの?」というテーマでは、株式会社LIG 編集長の朽木誠一郎さん、株式会社CINRA代表取締役の杉浦太一さん、はちま起稿アドバイザーの清水鉄平さん、KAI-YOU代表取締役の米村智水さんとご一緒しました。

ぼくだけ(企業としての)メディアをもっていない身なので、タイアップ記事に関する姿勢や実情などについては話せませんでしたが、それぞれの媒体の違いなどおもしろかったです。ぼくはメディア(とそのビジネスモデル)が多様になってきていることや分散型メディア、編集者の職能の変化などについて少しお話した記憶があります。

なぜWebメディアはブランドづくりがむずかしいのか

それぞれの媒体の話を聞く中で、特にスマートフォン時代のメディアのブランディング(の構築と認知向上)については課題を抱えているようでした。

どういうことか。たとえば、Web時代にはポータルサイトにメディアの記事を配信するようなことがふつうになりました。同様にスマホ時代にはニュースアプリへの配信が盛んです。

そういったときに、そのメディアの記事というよりは、配信先のポータルサイトやニュースアプリの記事だと勘違いすることがあるそうです。となると、記事をつくったもとのメディアのブランドではなく、配信先のブランドにつながるのかもしれません。

また、検索サイトやソーシャルメディアが普及したこともあり、パッケージではなく、1本1本の記事がバラバラに読まれるようになっています。タイトルやサムネイルに惹かれて読まれた記事がどのメディアのものなのか気付くことはむずかしいという状況です。

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KAI-YOUの米村さんは、「KAI-YOU」というブランドを広めていきたいと言っていましたが、課題を抱えているとのことでした。PCで訪問するととても印象に残りますが、スマホ経由やほかの配信先で読むとブランド認知拡大は厳しそうです。

では、スマートフォン経由でどのようなブランドづくりが考えられそうなのか。いくつかの方法を考えてみたいと思います。

3つの方法:ロゴ露出、連載/特集、場づくり

1つ目には、ブランドの軸でもあるロゴを露出させることを挙げます。ソーシャルメディアなど各プラットフォームに最適なかたちでコンテンツを配信しているバズフィード。特に動画では冒頭または最後にロゴを出すことで、フェイスブックで自動再生で目にしてもバズフィードのコンテンツだと気付くことができます。

ほかにも、自社サイトをなくしてしまった、動画ニュースサイト「NowThis」もプラットフォームによっては動画においてロゴを出すこともしています。このようなロゴの掲出は、記事に使う写真にロゴを入れるなどの工夫により応用できるのかもしれません。

2つ目は、スマホ時代だからこそ連載や特集のようなパッケージに向かうことがある程度求められてくると思っています。たとえば、NewsPicksは連載の予告をしたり、長いストーリーを何回かに分けていたり。ほかにもこれからの暮らしを考える情報ウェブメディア「灯台もと暮らし」は地方特集をはじめ連載というくくりで記事を展開していることが多いように見えます。

加えて、Blog @narumiで見られるような「次回予告」などもヒントになりそうです。雑誌であれば1ページ読んだ読者が次のページもめくりたくなるように。次の記事を読んでもらったり、また訪れてもらえるような工夫をするなど、読んでいる記事の満足とともに次の期待を感知できる仕組みが必要になりそうです。

最後に3つ目は、コピーできないなにか、ということ。たとえば、定期的なイベントや、最近であればサロンのようなコミュニケーションできる場などオンライン/オフラインの場があるのかなと思います。

ニコニコ超会議もその最たる例と言えるかもしれません。2015年は「会場来場者数は15万1,115人、ネット来場者数は794万495人」とのことで、圧倒的です。

これまで、KADOKAWA・DWANGO代表取締役会長・川上量生さんは超会議について「ユーザーの盛り上がりを世の中に出すことをちゃんと作ろう(参照)」「ネットの盛り上がりがリアルを突き動かす、それを見せつけること(参照)」「今は“無駄なことが不足している状態”なんだと思うんです。であるなら,今は逆に無駄なことに価値が生まれている状況(参照)」などなど、とても印象的な言葉を残しています。まだ読み途中なのですが、新著『コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと』にもヒントを求めることができるでしょう。

Webメディアとそのブランドづくりについてとりあえず3つの方法を挙げてみました。もちろんこれだけが答えではないので、それぞれがメディアのブランド認知や構築についてどんな工夫をしているのかいろんな人に聞いてみたいです。「こんなのどう?」というアイデアありましたら、ぜひ教えてください。

 

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ニューヨーク・タイムズのブランドコンテンツに関する調査から分かること

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自社の広告制作チーム vs 広告主の制作チーム

ニューヨーク・タイムズの広告部門「T Brand Studio」とリアルタイムアクセス解析のChartbeatが2014年のニューヨーク・タイムズのブランドコンテンツに関する調査をまとめたようです。

「Paid Posts」と呼ばれる、ニューヨーク・タイムズブランドコンテンツ。ページの訪問数やアクティブ時間、フェイスブックツイッター、グーグルなどからの訪問などの指標をもとに分析、広告主とT Brand Studioが制作する記事について比較もされています。

T Brand Studioが制作した記事のほうが、広告主が制作する記事よりも訪問数が361%、滞在時間も526%多かったとのことで、自社の広告制作チームが優れていることを示しています。

また、T Brand Studioの制作記事は、広告主の記事よりもフェイスブックからの流入は1613%、ツイッターは504%、グーグル検索での流入は632%上回っていたとのこと。調査のなかで10人に6人くらいの割合で、スポンサードコンテンツが媒体の信頼性を傷つける、との印象をもっていることも発表されています。

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ネイティブ広告費、2018年に210億ドル規模へ

ニューヨーク・タイムズの主なブランドコンテンツ一覧はこちらから確認できますが、クライアントにはトヨタボルボ、ネットフリックスなど有名企業が並びます。コンテンツはワンカラムで写真や動画、そして読ませる文章が印象的で、ドキュメンタリータッチの没頭できる広告が多いです。

オンライン広告業界団体の「The Interactive Advertising Bureau」によればネイティブ広告は2018年までに210億ドルもの広告費を生み出すと予測され(2013年比で4倍)、しばらくは成長していく商品となりそうです。今回紹介したようなメディアがブランドコンテンツに関する調査をおこなうというのもおもしろいですね。今後も、広告を中心にメディアのビジネスモデルがどのように変わっていくのか情報を拾っていきたいです。

(参照)Research from The New York Times T Brand Studio and Chartbeat Shows That Branded Content Can Generate Significant Audience Engagement

フェイスブック、ViceやVox Mediaなど7メディアと提携——ブランド向け動画広告の拡充へ

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フェイスブックが動画広告まわりで新たな動きを見せました。毎日40億回ほど閲覧されるというフェイスブックにおける動画(1月の30億回から大幅アップ)。アメリカのフェイスブック利用者の8割近くが動画を観ようとフェイスブックを訪れるというデータもあり、さらにこういった傾向は強まっていきそうです。

発表は「Anthology: Helping Brands Tell Stories through Video Ad Content」というリンクで知りました。ミレニアル世代の支持を集めるVice Mediaや分野特化メディアを数多く持つVox Media、Oh My Disney(ディズニー)、グルメ動画サイトのTastemade、CollegeHumorという若者に人気のサイトを運営するElectus Digital、政治風刺サイトThe Onion、名前の通りおもしろい動画制作で知られるFunny Or Dieという、特に動画コンテンツに力を入れている7つの会社と提携。

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「Anthology」と名付けられたメディアの集まりであり広告プログラム。広告主(ブランド)がこの7つのメディア(動画制作を請け負う)を選び、動画広告を出稿できるというもの。売りは「Deliver highly relevant, insight-driven, storytelling」で、高い関連性やインサイト駆動、ストーリーテリングの3つの観点に強みをもつ動画広告を実現していくようです。

フェイスブックというプラットフォーム上で広告主のメッセージが最適なかたちで伝わり、結果として広告の高い成果を残すことを目指します。先日、ニューヨーク・タイムズやバズフィードとのオリジナルコンテンツ掲載についての報道もあったばかりなので、メディアを囲っていく動きがどんどん盛んになり、メディアが制作業ばかりになってしまう可能性もあるなあという印象です。

ただ、プラットフォームに合わせたクリエイティブの重要性が増していくことはたしかでしょう。Anthologyについては今後もパートナーを拡大していくようなので展開には注目していきます。

「これからのメディアはプロセスや共同体、生きる空間でもある」 佐々木俊尚さんとバズフィードが捉える未来のメディア像

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「LIFE MAKERS」トップページより)

メディアは単なる「情報を流す存在」ではなくなっている

先週末、佐々木俊尚さんの有料サロン「LIFE MAKERS」のオープニングプレイベントでスマートニュースでメディアコミュニケーションディレクターを務める松浦茂樹さんと佐々木さんのトークを聞いてきました(このブログ「メディアの輪郭」は賛同メディアとして参加しています)。

佐々木さんがイベント冒頭で「メディアはもはや媒体ではなく、プロセスであり、共同体であり、生きる空間・・・」と現在(そしてこれから)のメディアを表現していたのに共感しました。この言葉について取り上げてみます。

サロンのページではメディアについて以下のように書かれています。佐々木さんはメディアとライフスタイルと時代精神が結びついているものとして捉えていることはさすがです。

メディアは単なる「情報を流す存在」ではなく、私たちのコミュニケーションやコミュニティをすべて包み込んで、ひとつの大きな空間を作りあげようとしています。すなわち私たちが生きているこの世界そのものの写し絵になろうとしてきています。それが現在進行形のメディアイノベーションの本質なのです。

佐々木俊尚PRESENTS【LIFE MAKERS】

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「バズフィードはただのサイトではなく、流通までのプロセス全体」

「メディアはもはや媒体ではなく、プロセスであり、共同体であり、生きる空間・・・」という言葉を聞いて、思い浮かべたメディアは、バズフィードでした。なぜかというと、CEOのジョナ・ペレッティ氏が「バズフィードはただのサイトではなく、流通までのプロセス全体」という言葉を残しているからです。

「コンテンツがどこで生きるべきかについて、固定観念はもっておらず、アプリなのかウェブなのか、モバイルなのか、読者にとってなにがベストなのかをいちばん気にかけている」

「ただのサイトというよりは、ウェブやモバイル、アプリのうえでニュースや話題なもの、暮らしなどのコンテンツを流通させるプロセス全体」

「バズフィードはただのサイトではなく、流通までのプロセス全体」——創業者が語る - メディアの輪郭

月間訪問数が2億を超えるバズフィードは、脱中心・分散型メディアの例として挙げられることがあります。分散型メディアとは、これまでのメディアを束ねてポータル化する動きや自社サイトでコンテンツを見てもらうのではなく、各プラットフォーム上に最適化されたコンテンツを流すようなメディアのあり方です。

バズフィードであれば、フェイスブックやピンタレスト、ツイッターYouTube、最近では各種メッセンジャーアプリなどに合わせたコンテンツ開発・流通を考え抜いています(「BuzzFeed Distributed」という部門まである)。今回のイベントでは、自社サイトをなくした、短い動画ニュースメディア「NowThis」の名前も出ていました。

分散型については、テッククランチの「BuzzFeed CEO曰く『リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる』」という記事もかなり示唆に富む内容なので、ぜひチェックしてみてください。

ここでは記事(article)といった言葉ではなく、「コンテンツ」という言葉を使っているのがまさにバズフィードの強みだと感じました。記事をはじめ、テキスト、写真、GIF、映像、スライド・・・さまざまなコンテンツを揃え、流通経路に合わせて最適化できる体制があるのはすごいです。シェアするときのモチベーションに着目している点などとてもおもしろいのではないでしょうか。

コンテンツをシェアする際に付される文言を、BuzzFeedでは「Share Statement」(試訳:共有見出し)と呼んでいるそうだ。記事などをシェアする際に、自分で付加する文章のことだ。Peretti曰く、「Share Statement」は記事のもともとの見出しなどよりも重視すべきものだとのこと。この「Share Statement」の分析により、利用者が「なぜ」(なにを、ではなく)コンテンツをシェアしたのかを理解することができるからだ

BuzzFeed CEO曰く「リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる」 | TechCrunch Japan

メディアはいま、生活に溶け込もうとしている

佐々木さんはTABI LABOというモバイル×ソーシャルに特化したメディアの共同編集長を務めていることもあり、海外における最先端のメディアのトレンドを正確に噛み砕いているのでしょう。佐々木さんの場合はシェアリングエコノミーの文脈をはじめ、メディアのあり方がライフスタイル空間そのものといった印象をもち、この点が特徴的でした。

最後に、いまメディアは生活に溶け込もうとしている、そうでないと、メディアとしての役割や機能を果たすことがむずかしくなっているのではないかと思いました。たとえば新聞なんかは、パッケージの価値や編集の技術などは評価すべきですが、あれほど大きなサイズの紙束を広げて、めくって読まなければいけないメディアなので、手のひらでの情報消費が盛んな時代にはどんどん厳しくなっていくのでしょう。

いち編集者として、コンテンツづくりに目を向けることは変わらずですが、受け手が情報を閲覧する環境への意識や、暮らしへの自然な溶け込み方を考えないといけないなあと改めて思いました。

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Yahoo!ニュースはどのように記事の価値を判断するのか? ソーシャル&スマホ普及がもたらす「ニュースの変容」

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ヤフートップには1日100本のニュースを掲出

先日、スクーにて「何が『ニュース』なのか Yahoo!ニュースに学ぶ価値判断と『見出し力』」という授業が開講されていました。登場したのはヤフーのニュース編集部リーダーの伊藤儀雄さん。編集部の体制やトピックス編集方針・判断基準のみならず、ニュースとはなにか、といったことを改めて考えるきっかけになる授業でした。

Yahoo!ニュースのトップは1日約100本の記事が掲載されるそうです。300以上の提携メディアから毎日4000本以上のニュースが届くなかで、人が読めるものは限られているため、記事の重要性と本数のバランスがとれているのが現状100本程度とのこと。

1996年7月にスタートし、いまでは月間約100億PV超え、スマホからのトラフィックが半数。2014年のブラジルW杯がきっかけで、スマホ経由が伸びていったのは興味深いことです。東京、北九州、大阪、八戸の4ヵ所体制・4交代制(24時間シフト)の編集部は約25名で構成されているそう。トップの編成は30分に1回(1〜3本)ほど変更され、約2時間でトップ記事8本がすべて変わるといったやり方。

見出しの閲覧だけで、政治知識の学習に効果

やはりエンタメとスポーツがよく読まれるそうですが、硬派なニュースも掲載しているYahoo!ニュース。ヤフーと国立情報学研究所による共同調査によれば、見出しを閲覧するだけでも、政治知識の学習に効果的という結果が出ています。

  • Yahoo! JAPANのトップページに掲載される「Yahoo!ニュース」のトピックス見出しを閲覧するだけで、個別の見出しをクリックして記事自体を読まなくても、政治に関する知識の学習効果が認められました。これは、「Yahoo!ニュース」が政治に関する知識を社会に広く伝達するという重要な役割を担っていることを示しています。
  • Yahoo!ニュース」の閲覧は、政治的関心の高い層と低い層の、政治に関する知識差の縮小に効果があります。特に、政治に関心の低い層が政治的リーダーのパーソナリティについて学習する場として機能しました。
  • これらの結果は、ニュースをタイムリーに整理・選定し、バランス良く掲載することで新たな価値を生んできた「Yahoo!ニュース」とその特性、および編集姿勢がもたらした結果であるといえます。

「Yahoo!ニュース」は政治に関する知識の学習に効果的
~ トピックス見出しの閲覧が有権者の知識差の縮小に貢献 ~

編集方針は、公共の利害にかかわる重要な出来事である「公共性」と世の中の多くの人が知りたいと思っている事象「社会的関心」の2つのバランスを重要とし、7つの観点からニュースの価値を判断しているとのことでした。

7つとは、1. 速報性/時事性/今日性、2. 真実性/信頼性、3. 新奇性、4. 公益性、5. 認知度、6. 表現力、7. 品位。どんなニュースが価値があるんだろう、と思ったときに、こういったポイントで考えてみるのは有用だと感じました(もちろん価値あるニュースだからといってすべてのポイントが含まれるというわけではないです)。

ニュースを変える「ソーシャルとスマホ

また、伊藤さんはニュースの変容について「ソーシャル&スマホ化」という点を挙げ、発信者、受信者、環境という3つに対して変化が起きていると説明していました。

  • 発信者の変容:担い手の爆発的増加、ニュースの種類や質が多様化
  • 受信者の変容:メディア接触回数の増加、情報ニーズの多様化
  • 環境の変容:情報消費のサイクルが加速、確度や質の高い情報が流通拡散

新聞雑誌テレビなどマスメディア全盛の時代に比べて、現在のスマートフォンソーシャルメディアが普及する時代においては、友人からの通知などのほうがニュースといったことも言えそうです。そういう意味では、メディアの役割のひとつであるアジェンダセッティング(議題設定)をどのように機能させていくのかは大きな課題になるなと思いました。

Yahoo!ニュースによる授業はこれ以外にもあるようですので、メディアにかかわる方はチェックされるとよいかもしれません。伊藤さんが書かれている「ソーシャル時代の『ニュース』と格闘する」というコラムも合わせて読むとさらなる理解につながるのではないかと思います。

Yahoo!ニュースによるNewsHack術(全5回) - schoo WEB-campus(スクー)

男性ライフスタイルメディア「Thrillist」創業メンバーがパパ向けメディア「Fatherly」開始

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今週、Thrillistの創業メンバー2名が新しいメディアを立ち上げたというニュースが多くの海外にメディアによって報じられていました。Thrillistについては以前その成り立ちや収益化について書いたことがあります。

立ち上がった「Fatherly」という洗練されたデザインのサイトは、名前の通りパパ向けであり、Thrillistのようにメディアとコマースの融合を目指しているようです。

Thrillistではもっと若く、独身男性向けであるため、年上をターゲットにしているように見えます。最近、200万ドルを調達しているのですが、レーラーベンチャーズがやはり入っていました。代表のケン・レーラーはハフィントンポスト会長から現在はバズフィード会長、マネジング・ディレクターでありケン氏の息子のベン・レーラーはThrillistの代表なので当然の流れなのかもしれません。

サイトの工夫としては、子どもの年齢や自分の年齢がタグとして設置されていること。その年齢ならではのコンテンツをすぐ見つけることができそうです。日本ではキュレーションメディアなどで女性ファッションやママ向けメディアというのはありますが、なかなかパパ向けとなると少なそうです。日本でもこういった流れが来るのか注目していきましょう。

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またThrillistについてDigidayで紹介されていたのおまけ的に取り上げます。メディアであり、コマースサイトでもあるThrillistが注力するブランドコンテンツ。「The CoLab」という研究部門に16名のチームが集まり、ブランドや競合などの調査・研究をおこなっているとのことです。

調査からはいろんなことが分かり、1記事に30個のブランド名を入れることが購買意向を最大にさせるといった編集面のデータはおもしろそうです。編集、デザイン、広告などでデータドリブンの意思決定をするためのラボというかリサーチ機関があるのはうらやましいなあと思います。

新しいマスの発見か、濃い信者コミュニティか? これからのメディアが生き残るための2つの方向性

これからのメディアのあり方、生き残り方。スマートフォン時代にメディアが成立していたさまざま前提が変容しているなか、お金まわりを含めた(Web)メディアの持続可能性のようなことを最近考えたり、いろんな人と話すことが増えたような気がします。

先月、下北沢の本屋B&Bで若手編集者のトークイベントではバズフィードのような各プラットフォームへの最適化をしてネイティブ広告で収益を上げるメディアかコミュニティが支えるメディアであったり、有料サロンのようなものが有効なのではないか、といったことも話したりしました。

つい先日「佐藤詳悟×佐渡島庸平×古川健介×宇野常寛×【司会】高宮慎一 『クリエイティブの生存条件』」というヒカリエでのイベントを聴きにいったのですが、ここでは宇野さんが「これからのコンテンツはディズニーと地下アイドルに分かれていく」「カルトな固定客の共同体をいかに開くかのゲームをやるか、文化を趣味で消費する人を増やすしかない」と語っていました。

以下、メモの一部を記してみます。

インターネット時代、何に対してお金を払っているのか

インターネット時代、特にスマートフォンが普及してすきま時間にさまざまなエンターテイメントが消費されるようになり、コンテンツ自体へのマネタイズがむずかしくなってきました。一方、音楽業界ではCDよりもライブやフェスなどが好調で、体験にお金を払うようにはなっているのではないか、という視点もよく話題になっています。

佐渡島さんは「インターネット時代には何に対してお金を払っているのか」という問いを立てました。アマゾンのマーケットプレイスを例にとれば、価格ではなく便利さであったり。「『満足』というものに支払っているのではないか。ユーザーの実感値に応じてそれぞれが最大を払うということです」。

佐藤さんは「ネットでは課金のポイントがずれている。金払いが悪くなった部分、よくなった部分もあるのでは」と言っていました。「ソーシャルゲームが急成長して、ガムの売上が下がった」というエピソードから、スキマ時間の奪い合いには限界があるため、娯楽時間よりは、もっと生活に密着なところでの戦いが必要になるとの意見でした。

例に挙げられたのは「自己実現」。古川さんは海外でユーザー課金に成功しているメディアは自己実現を学ぶことができるようなサイトがあり、国内ではスクーがそういうポジションにあたると紹介しました。コンテンツ消費について佐渡島さんは(このメディアやコンテンツでなければいけないと)こだわりのある人は5%くらいで、残りの95%はなんとなく時間をつぶしていると捉えており、自己実現などで時間を奪っていくには参加型がカギだと述べました。「物販だけでは売れない。キャラクターのTシャツを売るなら、たとえば2種類用意して、みんなに投票してもらうなど物販自体を参加や応援、競争意識に変えていく必要がある」。

カルト的なコミュニティはメディアの突破口なのか

今回のイベントでは、「カルト的なコミュニティ」といった言葉が何度か聞かれました。つまり、クリエイターの信者が集まる濃いコミュニティにアウトプットを提供し、お金をもらう、といったマスメディアとは真逆の場所でしょうか。ただ、内輪化・タコツボ化してしまう恐れがあります。佐渡島さんは「タコツボ化したとしても時代のタイミングや普遍性をもってヒットしていくのではないか。その一回で顧客が生まれて、経済圏が発展していくこともありえる」との認識でした。

高宮さんからは、コンテンツをメディアに合わせて最適化する話が出ました。動画ではMCN(マルチチャンネル・ネットワーク)、グーグル時代の検索型の課題解決サイトではnanapiなど。ただ、高宮さんは「コンテンツをつくっても、またSNSごとにつくりかえないといけない」と指摘。サイト向けのコンテンツがそれぞれのSNSにとって最適なかたちでないことがあるからです。

古川さんは海外の動画ニュースサイト「ナウディス」が自社サイトを持たず、ほかのプラットフォームに最適化している事例を共有しました。「今後は1時間の動画をつくってもYouTubeVineに合わせて自動的に適応するようになると思う。コンテンツをつくった人がこう見せたいというのが通用しない時代になっている」。

「固定ファンを囲うことは作家の表現にとって不幸なこと」

いちばん頭に残ったのは、佐渡島さんがいまの出版社にはコンテンツに興味のある人が入ってきているが、ビジネスモデルをつくった人たちはいなくなっているという点。

新聞や雑誌は当時のライフスタイルに最適な媒体でありビジネスモデルだとしたら、現在版へとアップデートする必要が生まれてきます。しかし、長らく同じビジネスモデルが通用してきた業界では、しばらくの間は中身をつくる人ばかり集まり、時代に呼応するビジネスモデルを発明できなくなっているのです。スマホのタップさえも面倒な時代というと極端かもしれませんが、現代の暮らしに適応したビジネスモデルやメディアのかたちづくりが早急に必要になってきています。

宇野さんは「新しいパブリックをつくること」が必要と発言。佐渡島さんは「各作家のコミュニティをつくる。それ以上は出てきていない」とまだ答えを出せていないようでした。古川さんは「かなりのコンテンツがコミュニケーションにとられてしまった。すごくおもしろい映画と彼氏からのメールが同じくらいの価値になってきている。ニコ動みたいに文脈と文化が生まれることでコミュニティをつくることが必要」と述べました。

ただ、カルト的なコミュニティでは才能やクリエイティブをつぶす可能性があることも議論されました。宇野さんは「固定ファンを囲うことが作家の表現にとって幸せなのか。不幸なことだと思う」、佐渡島さんも「カルト的なコミュニティからは新しいものが生まれない。ヒット曲をここでも歌ってとか、あの続編を書いてと言うファンだけではダメ」、高宮さんは「一度フォーマットができると、劣化版や類似のものが生まれ続ける。そうなるとクリエイティブの源泉となる作家を前線に出し続けられるかが問われる」とそれぞれの意見を交換しました。

別の角度から佐渡島さんは「映画はもともとはオリジナルに撮影したものだったが、マンガや小説などを原作にするようになってしまった。新人から育てることやクリエイターに危機感を与えるようなことが減ってきている」と現状の課題を提示。たとえば、別の新人が生まれたら、ほかの才能が休んで新しいチャレンジをしたり。「サザンオールスターズが何年も休めていたのは、アミューズがほかの才能を見つけて育てていたから」。才能たちが休んだり非連続な活動、または違う分野の知見を身に付けたりする期間は必要なのかもしれませんね。

ブログはファッション、ニコ動はパッション

新しい才能の発見において、はてなやnoteなど日本のブログサービス/メディアプラットフォームの問題にもつながるという宇野さんは「固有名詞が出てきていない」とその共通点をまとめます。「作品や人物名など固有名詞を出せたのはニコニコ動画。ブログは人単位だが、ニコ動は動画にファンが付いてコンテンツ単位のコミュニケーションが生まれていた。これがヒントになる」。

佐渡島さんはこれに対して「ニコ動はエンタメ分野の発信だったからできていたが、個人単位で同じようなジャンルを発信できる場所があれば変わってくるのではないか」と反論。宇野さんの「人単位でやっている限りコンテンツは鍛えられない。ドワンゴはお客さん(具体的な新しい日本人像)が見えていたのがよかった」という発言を受け、佐渡島さんは「お客さんが見えていることは、コンテンツづくりにとって大きい」と同意。「昔の雑誌では編集長やほかの作家がもっている熱がコンテンツ制作に影響を与えていたが、最近では雑誌からも消えてきている(カラーが弱まっている)」と続けました。また、宇野さんはニコ動ではランキングによってクリエイターの競争意識が生まれていたことが重要だった、と述べました。

宇野さんは最終的に、「カルトな固定客の共同体をいかに開くかのゲームをやるか、文化を趣味で消費する人を増やすしかない」という結論を出しました。だからこそ、文化を求めていない人にマンガや音楽などのコンテンツとの接点をつくり、楽しんでもらうための施策をひたすら考え続けなければいけなくなってくるのでしょう。佐渡島さんは「世の中が便利になればなるほど、面倒なことや非効率的なことに対して幸せを求めたりする。極端に面倒くさいコンテンツをつくることが挑戦になる」と語りました。

全体を通して、宇野さんが「日本の雑誌は戦後のカルチャー、特に中流のサラリーマンの文化と結びついている。これからは、新しい日本人のライフスタイルに入れこむチャレンジが必要」という旨の話していたことが印象的でした。スマホでのスキマ時間消費がさまざまなメディアのあり方を問い直し、存在自体が揺らいでしまう時代の(ビジネスモデルを含めた)メディアを発明するためのヒントがこのイベントの随所にあったように思います。また、佐渡島さんが準備中の「どんなものにもデータを宿すことができる」新アプリのデモもとてもワクワクするものでした。リリースが楽しみです。

イベントのほぼ全容が気になる場合は以下のTogetterまとめなどに目を通してみるとさまざまな気付きや発見があるかもしれません。

ニューヨーク・タイムズのApple Watch対策は「1行ストーリー」

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photo credit: Apple Watch via photopin (license)

2015年4月10日の予約、24日の発売が近づきそわそわしている方もいるかもしれない「Apple Watch」。各メディアも少しずつウェアラブルデバイスへの対応が求められてくるかもしれません。

近々アプリをアップデートするというニューヨーク・タイムズでは、Apple Watch対策は「1行ストーリー」を用意するとのことです。ほぼタイトルというか要約のようなものですね。

通知や行動促進といった意味合いが強くなりそうなウェアラブルデバイスなので、どのような工夫があるのか楽しみではあります。パッと見で理解できるようなタイトル編集が求められてきそうです。以下のような表示になるとのこと。

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テキストはもちろん絵文字のようなものも見受けられます。フォントの種類や大きさもさまざまテストしていくようです。Google Nowにおけるメディア提携なども合わせて注視したい動向になりそうですね。

Android端末の「Google Now」に、Googleサービス以外のアプリ(インストールしているもの)からのカードが表示されるようになる。まずはクックパッドやスマートニュース、Airbnb、Lyft、Ebayなど30以上のアプリが参加した。

「Google Now」で外部アプリのカード表示へ クックパッドやスマートニュースも - ITmedia ニュース 

米ニュースサイト「バズフィード」が将来有望なライターのためのフェローシップ開始

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月間訪問数が2億人を超えるアメリカの大手ニュースサイト「バズフィード」が将来有望なライターを育成するためのフェローシップ開始するようです。サイト上で発表しています。「BuzzFeed Emerging Writers Fellowship」と名付けられたフェローシップは、次世代を担うライターの発掘や育成のために設けられました。

4ヵ月のプログラムでは、ライティングや編集スキルについてはもちろん、キャリアに関するメンタリング、金銭的なサポートまであるようです。エッセイライティングやカルチャーに関するルポなどを集中的に学び、ライティングワークショップやメディア業界で働く編集者やライターとのディスカッション、フリーランスとしての食い方なども用意。

選出されたライターはBuzzFeed Newsのシニアエディターとともにニューヨークで働くことになるそうです。金銭面については1万2000ドルを給付予定。フェローシップから生まれた記事はバズフィードでも掲載される予定とのことです。スキルや姿勢を学び、実際にバズフィードという巨大メディアで記事も掲載される、駆け出しのライターなどにとっていい条件な気がします。

フェローシップの合格者は10月に決定し、それから4ヵ月の2016年の1月までフルタイムで働く予定。志願者はアメリカでの労働認可を受けている人でなければないといけないそうです。

今回の募集記事を投稿しているのは、バズフィードでLGBTを立ち上げ、現在はLiterary Editorを務める方。2013年秋には「ブックエディター」という役職も設置していたバズフィードが文学・文芸にもぐっと力を入れていくようです。Electric Literatureのインタビューによれば、2016年3月には文芸カテゴリーを設けるとのこと。

今回のフェローシップは考えていることのはじまりにすぎず、文学・文芸のムーブメントを同メディアにもってきたい、という発言もあるため、楽しみな動きになりそうです。21世紀の文芸誌のあり方を見つけることを目標に据えながら、まずは短いフィクションや詩、エッセイなどを届けていくことを目指します。フィクションもノンフィクションも読み物がバズフィードで息を吹き返すとしたら、出版業界にも大きなインパクトを与えるのではないでしょうか。

ところでバズフィードは昨年10月、ジャーナリズムの名門であるコロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールが共同で調査報道のフェローシップを開始しています。こちらはメディア機関にマイノリティの人材が少ないことを問題意識として置いていたようですが、今回のフェローシップと合わせてメディア業界の課題にチャレンジしていることは評価できるのではないでしょうか。

またハフィントンポストも同様に、「米ハフポストがクラウドファンディング実施ーー『ファーガソンの暴動』の継続的報道に向け」という投稿で紹介した通り、クラウドファンディングを通じたライター育成をおこなったことがありました。

Webメディアは紙媒体と違い、基礎を学ぶ機会があまりなかったり、原稿料が安かったり、じっくり時間をかけた原稿がなかなか出せないこともあります。新聞や出版社などが力を落としている海外において、「ライター育成」というのは大きな課題のひとつでしょう。また、あまり収益にはつながらないけれどエンターテイメントとしてはニーズがありそうな文芸コンテンツの拡充を新興メディアが進めていくというのも重要なポイントだと思いました。

ぼく自身がWebメディアしかやったことがなく、編集やライティングをじっくり学んだことがないため、国内外のWebメディアがどのように実力のあるライターを育てていくのかはとても気になるところです。 

スナップチャットにメディアと広告が集まる理由——米利用者の7割が18〜34歳、「Discover」は1メディアにつき100万人が閲覧

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(左:スナップチャットの「Discover」ページ、右:CNNの国際ニュース)

開封すると特定時間が経つと消える動画メッセージアプリ「スナップチャット」が1月末に発表した新サービス「Discover」。CNNやYahoo! NEWS、National Geographic、VICEなど影響力のあるメディアが参加したことでも話題となりました。

「Discover」の投稿は24時間は消滅しないというもので、メディアのアイコンをタップするだけで動画ニュースを閲覧できます。バズフィードは交渉中でまだ入っていないですが、参加となったらさらにおもしろい展開となりそうです。利用シーンについては公式のYouTube動画がアップされているので、ぜひご覧になってみてください。 

さて、スナップチャットにこれだけの有力メディアが集まるのには、その規模とユーザー層にあるかと思います。規模はすでに1.7億人のアクティブユーザーを抱えています。

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(出典:ComScoreより)

ユーザー層については、ComScoreのグラフが一覧性があってわかりやすいです。18〜24歳の割合は2位のインスタグラムの倍ほどの45%。25〜34歳の割合はインスタグラムと並びトップとなっており、若い利用者層をデータでも実感できます。

アメリカにおけるスナップチャット利用者の7割以上が18〜34歳というのは驚異的です。35歳以上の割合の少なさも強調されるべき点かもしれません。

ちなみに、ブルームバーグの記事によれば、「Discover」に配信される動画やニュースの閲覧者は1メディアにつき平均100万人。「Discover」の広告は1000回の閲覧数につき100ドルといった設定という話もあります。また、広告はレベニューシェアとなるようです(媒体側の広告の場合は収益の7割が媒体へ、スナップチャットが広告を出す場合は半分ずつ)。これらのようなことから、広告出稿の場としてもどんどん魅力的になっているのでしょう。

メディアや広告、ストーリーテリングの再発明が起きそうな予感がしますね。