メディアの輪郭

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日本ではなぜWeb専業のジャーナリズムメディアが生まれないのか?

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最近、「日本ではなぜWeb専業のジャーナリズムメディアが生まれないのか」と聞かれる機会がありました。難問というか、答えられたらこんなブログはやっていないわけですが、いろいろ考えてしまいました。

ただよくよく考えてみると、海外でもピューリッツァー賞を獲得したことがあるのは、ハフィントンポストやプロパブリカ、InsideClimate News、The Center for Public Integrityあたり。それ以外の有力なオンラインジャーナリズムメディアというと、ポリティコやテキサストリビューン、ファーストルックメディアなどはありますが、意外と少ない印象です。

Webかジャーナリズム、どちらかしか知らないバランスの悪さ

こういうアメリカのメディア状況と見ると、テクノロジー企業とメディア企業の近さと、紙とWebメディア間での人材移動、ジャーナリズムや調査報道への理解などはポイントになるのかなと思います。また、テクノロジーやメディア企業とジャーナリズム業界がお互いに理解して、協働することも重要になりそうです。

ウェブメディアやソーシャルメディア時代の情報発信をわかっていてもジャーナリズム(の意義や価値)を知らない、逆にジャーナリズムをわかっていてもウェブを知らないという状況のバランスの悪さは日本にはあると思います。

たとえば、ハフィントンポストはアリアナ・ハフィントンという政治や経済界に強いパイプをもつアイコンと、バイラルの専門家であるジョナ・ペレッティ、SEOやシステムに力を入れたポール・ベリー、現在は投資家やバズフィード会長としても影響力をもつケネス・レラーなど、新旧の人材がうまく混ざっています。もちろん、ハフィントンポストが存在感を表すことができたのには、保守系のアグリゲーションサイト「ドラッジレポート」の逆が空いていたという市場の関係もあるでしょう。

ジョナ・ペレッティとケネス・レラーが率いるバズフィードでも、編集長はポリティコ出身のベン・スミスがいる一方、パブリッシャーにはグロースを担当してきたDao Nguyenがいるなど、新旧の強みが合わさったチームとなっています。

生活動線に沿ったところで、ジャーナリズムは存在すべき

では、日本ではどうか。やはり紙メディアがまだ強いことや、Webメディアでジャーナリズムをやるとしたら、儲かるモデルがないことは冒頭の問いに対して大きなハードルになっているかもしれません。海外ではハフィントンポストもバズフィードも清濁を併せ呑み、ライトな記事でお金を稼いでから、速報ニュースや調査報道に投資してきました。

日本だとライトな記事で収益化に成功している媒体は多くあると思いますが、そこでは別にジャーナリズムをやろうと思っていなかったり、そういうライトな印象がある媒体にジャーナリストが参加しない(しづらい)ような感じもあります。

ただ、堅いニュースでもWebメディアやSNS上で消費されるようになっています。今春のピューリサーチによる調査ではミレ二アル世代の6割がフェイスブック経由で政治ニュースを得ているという結果も出ています。新聞や雑誌などの紙よりも、WebメディアやSNSのほうが生活動線に沿っているいま、Web専業のジャーナリズムメディアが生まれる必要はやはり感じるところです。

垂直統合型か分野特化型のメディア

とはいえ、実際どうすればいいのか考えてみても、採算度外視でオンラインジャーナリズムをやるのは限界があります(やるならプロパブリカのような財団をバックに抱えるようなかたち?)。

ちゃんとジャーナリズムと収益ともに成立するメディアを目指すのであれば、バズフィードがメディアではなく「プロセス全体」を取ろうとしているように、垂直統合型(開発、制作、販売、流通)のメディアビジネスを展開するか、気候変動だけに振り切ったInsideClimate Newsのように分野特化を攻めるかのどちらかになる気がしています。答えは出ないですが、引き続き、考えていきたいトピックです。

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最近、これからのメディアのあり方を考えるために、「ぼくらのメディアはどこにある?」というメディアの編集をはじめました。メディア業界の外にあり、生活に溶け込むメディアをどんどん取り上げていきます。

分散型の報道メディア「reported.ly」がWebサイトを開設した理由

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イーベイ創業者が創業した「First Look Media」が2014年末に公開した分散型の報道メディア「reported.ly」。ツイッターフェイスブック、レディットなどのソーシャルメディアを活用するメディアであり、「グローバル・ニュース・コミュニティ」としての運営が続いていましたが、ここでひとつの変化がありました。 

それは、自社サイトを持つようになったことです。

分散型といえば、各プラットフォームに最適なコンテンツを流し、それぞれの利用者がいるところにコンテンツそのものを届けていくような考え方でした。では、reported.lyのサイトを見てみましょう。各ソーシャルメディアのタイムラインが一覧で確認できる「reported.ly now」やその日のニュースダイジェスト、そしてアーカイブがあるというくらいです。

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reported.ly nowでは各ソーシャルメディアでの発信が時系列で閲覧できる

サイト開設を発表した記事では、当初からサイトを持ちたいと考えていたことを明らかにしています。ほぼソーシャルメディアのみでスタートしましたが、ツイートなどでは瞬時に消費して終わるので、時間をかけてさまざまなトピックを追ったとしてもなかなか読者側にはわかってもらえないことが課題でもあります。

続報を届けたり、ニュースの文脈まで汲み取って伝えていくには、やはりアーカイブも兼ねた自社のサイトが必要になったのでしょう。コンテンツ単体で消費されてしまいがちな分散型メディアならではの課題も徐々に見え始めていて改めてサイトの意義も問い直されそうです。今回のサイトはあくまでベータ版ということなので、今後の活用にも注目していきます。

「フェイスブックでは1日40億回閲覧」「ネット上のトラフィックの6割が動画」 モバイル動画という大波は来ているのか?

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「モバイル動画」という大波は来ているのでしょうか?

たとえば、フェイスブックでは1日40億回閲覧(うち75%がモバイル)、スナップチャットでは1日20億回閲覧という数字があります。

このあたりのプラットフォームがYouTubeを超えたとき、広告主の大移動が起き、本当の意味でモバイル動画の大波がきたということになるのでしょう。YouTubeはモバイル比率は明らかではありませんが、1日70億回の閲覧数、2015年中には80億回となる予測だそう。

フェイスブックが発表した、同サービス上でそのまま記事が読める「Instant Articles」やスナップチャットがメディアと協業した「Discovery」では、縦長サイズでの動画閲覧なので、PC時代の横長サイズの動画を視聴するという習慣に変化が起き、急速にスマホ時代にフィットした動画視聴が当たり前になりそうです。

また、毎年恒例となっているアナリスト、メアリー・ミーカー氏によるレポート「Internet Trends」2015年版でもトレンドのひとつとしてモバイル動画が挙げられています。

トラフィックの内容では、動画の増加が著しい。2014年のインターネット・トラフィックの64パーセント、モバイル・トラフィックの55パーセントを動画が占めていたという。特にFacebookには現在、高度に進化した動画サーヴィスがあり、1日に40億ヴューを獲得しているとミーカーは指摘する。
なお、IT企業のCiscoが同日に出した年次報告書にも、同じようなことが書かれている。「今後5年で、インターネット全体の80パーセントがオンライン動画になる」と予測しているのだ。

いま、ネット市場は飽和しつつある──2015年版インターネットレポート « WIRED.jp

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How Technology Is Changing Mediaより)

月間2億人以上が訪問するニュースサイト「バズフィード」でも2014年夏から動画部門を立ち上げるなど、動画への投資が盛んです。「How Technology Is Changing Media」という広告関連資料にて、2013年と2014年の比較をしていますが、閲覧数は8倍、購読者は9倍となっています。閲覧数は2015年に入り、すでに月間10億回を超えているのでさらに伸びていきそうです。

ただ、モバイルでの動画閲覧については先述のフェイスブックやスナップチャットが圧倒的なので、サイト内ではなく、プラットフォーム上へとこれまで以上に溶け込んでいくのでしょう(だから分散型が起きているのですが)。

どうやら動画の総量や視聴トレンドという意味では、モバイル動画の波が来ているようです。では、ビジネスという意味で、モバイル広告についても少しだけ見てみましょう(以下に紹介するものは、モバイル「動画」広告に特化したものではない)。

e-Marketerによれば、広告費についてもモバイルが急伸しているようです。2014年時点の米メディアにおいて、テレビの広告費が占める割合が約4割。一方でモバイルは1割ほどです。しかし、2018年の予測で見ると、前者が4割弱、後者が3割弱となり、その差は10%ほどに縮むようです。

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The Bad News About the News | Brookings Institution

The Bad News About the News」というレポートでは、テレビや新聞、ラジオ、ネット、モバイルなどのメディアでの時間消費と広告費の割合をグラフにしているのですが、とても興味深いです。たとえば、真ん中の紙媒体は時間消費が少ないのに、広告費が高い。一方で、モバイルは時間消費が多いにもかかわらず、広告費が少ない。このあたりがちゃんと釣り合ってくると、モバイルに特化したメディアが適切に力を持っていくのだと思います。

個人的な興味からいくつかの海外メディアに尋ねたことがあるのですが、まだまだ動画広告の売り上げが売上全体のうちの多くを占めるまでには至ってないようです。単価は高いものの、視聴トレンドだけではなく、広告を含めた市場という意味ではあと1〜2年ほどはかかるのかもしれません。

だからこそ、海外ではバズフィードやヴァイス、ヴォックスなどの有力な新興メディアが2014年から動画に注力し、市場の成熟を待つための体制を整えているのでしょう(一方の伝統メディアは・・・)。

最後に、国内では2013年から2014年にかけて、スマホからの動画視聴が約1000万人増えています。今年に入ってからもC CHANNELなどが新しい文化とルールを生み出そうとしており、モバイル動画ならではの視聴習慣や広告のあり方にも注目していきたいです。 

AppleがiOS9発表、ニュースアプリ提供へ

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Appleが「iOS9」の発表をおこないましたが、ニューススタンドの代わりになるニュースアプリの提供も発表しました。フリップボードのようなものになるようで、ニューヨーク・タイムズやバズフィード、CNN、ヴォックスメディアの各媒体など紙やWeb問わず多くの媒体がパートナーとして参加するようです。

最初からiPhoneApple独自のニュースアプリが入っていてそれなりの媒体が囲われているので、サードパーティによるニュースアプリとどのように住み分け、既存のニュースアプリユーザーがどのように動くのかは注目になります。ニュースアプリ先進国(?)の日本でも提供されることがあれば、メディア関係者は大きな関心を寄せることになるのかもしれません。

媒体社は広告を100%受け取ることができるので、この点はフェイスブックのInstant Articlesなどにも似ています(もちろんこれまで通り、App Storeにおけるサブスクリプション課金は30%)。実際、重複している媒体もあるので、AppleFacebook(やSnapchat)などの企業による媒体の囲い込みが、どのような影響をもたらすのか。独自フォーマットがどのようなものになるのか、パーソナライゼーションの強弱も含め、リリースが楽しみです。 

ノンフィクション・メディアが生き残るために必要なもの:流通への意識や新しい習慣・単位

先日、『ネットと愛国』などの著書で知られ、最近では大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されたジャーナリストの安田浩一さんとお話する機会がありました。ノンフィクション誌『G2』講談社)が今回の19号目をもって休刊するとのことで、同号に原稿を書いている2人で対談を実施したというものです。 

ぼくは本誌では、休刊に合わせて(?)「ノンフィクションを読まない24歳Web編集者がノンフィクション・メディアの未来について考えてみた」という"暴論"を12ページにわたって書きました。このなかでは、第19号の編集人にヒアリングをしたうえで、現状のノンフィクションの課題とこれからのノンフィクションの生き残りについて、コンテンツの製作と流通、そしてメディアの収益化という3点から掘り下げています。

そして対談では、ぼく自身がノンフィクションの書き手の方とお話しするのが初めてだったので、Webメディアとはかなり異なる部分が多く勉強になりました。

「読者目線を続けることで、媒体は信頼性を獲得していくことができるのか」

安田さんがWebメディアについて懸念し、紙媒体のノンフィクションのほうにまだ意義が残っているとした理由は、Webメディアが稼げていないために取材費や原稿料が出せない(だから取材しない記事が多い)のではないかということがメインだったと思います。

加えて、紙媒体ならではの体制(編集+校閲)がWebメディアではなかなか組めていないこともあります。また、読者目線はメディアにとっていいことなのか、ということも論点のひとつとなりました。

安田:たとえば、週刊誌時代の読者アンケートでトップに来ていたのは、決まってショッキングな話題、スキャンダラスな話題、衝撃的なグラビアだったりする。こういった読者の反応を意識し続けてしまった場合、地味な告発型のノンフィクションなどは切り捨てられてしまうという危機感を感じる。果たして、読者目線を続けることで、媒体は信頼性を獲得していくことができるのか。読者を意識しながら、コンテンツのクオリティをどのように維持できるのか、または高めていけるのかを考えざるをえないと思います。

「取材をしないネットメディアには、匂いや身体性がない」 安田浩一×佐藤慶一対談「ノンフィクション・メディアの意義・課題・希望」【前編】

「出版業界エコシステムが崩壊しつつある以上、その中でどう生き延び自分の伝えたいことを広めていくのかという手法はもはや変わらざるをえない」

しかしながら、2008〜2009年にかけての相次ぐノンフィクション誌休刊、そして今回のG2の休刊。現実として、ノンフィクションが売れない、読者に届かないという課題はあるように思いました。対談記事を読んでくださったジャーナリストの佐々木俊尚さんは以下のようなツイートを残しています。

このような状況のもと、書き手や編集者はますます流通を意識しなければならなくなるのかもしれません。そこで、ノンフィクションというジャンル全体との接点をもっと増やし、ノンフィクションに触れる習慣を生み出すべきであり、ネットで積極的にコンテンツを展開していくならば新しい単位(文量や書き方など)が必要になってくると思います。

有料サロン活用で原稿料という仕組みから脱却

日頃メディアにかかわっていて思うのは、原稿料という仕組みは古くなっていくのかもしれないということ。これは、ノンフィクション・メディアのひとつの突破口になるのではないかと考えています(といっても想像の域を出ませんが)。

イメージでは、有料サロンが近いです。つまり、原稿を書いていないときにもお金が入ってくる仕組みがきっとノンフィクションには必要になるのだろうと思っています。たとえば、ビッグイシューのサロンは注目の事例のひとつ。

こういうところがノンフィクションの未来に向けたヒントを与えてくれるのでしょう。ノンフィクションライターでサロンを開きたい人がいたら、編集者としてそういう人のサポートをできたらいいなあと思います。

ノンフィクションには実験と実践が求められる

そんなことを考えていたときに、ビジネスジャーナルが芥川賞作家・柳美里さんに対するインタビュー記事を公開していました。安田さんとの対談に続いて、書き手の実情を知ることができました。

「書くことだけで食べている作家は30人ぐらいではないか」「(年収は)多かったときは1億円以上、少ないときは400~500万円」「かつてはノンフィクションであれば執筆前に取材費が出ていましたが、今は自腹です」など赤裸々な発言がみられ、現在のノンフィクションの側面を知るうえで重要だと思います。

長期間の取材を要するコンテンツや企業・事件報道などが生きていくには、どんな媒体や体制が必要なのか。出版社はいま、実験と実践が多々求められてくるのではないでしょうか。今後はこういった媒体の実験的な取り組みにもかかわれるようになりたいと思いました。

 

バズフィード、2016年大統領選に向け"ファクトチェック"チーム立ち上げへ

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バズフィードが2016年大統領選に向けて、政治家の過去の発言や政策のアーカイブを掘り起こし、ファクトチェックをおこなうチームを立ち上げたことをポリティコなどが伝えています。このチームの指揮をとるのは、12万人近くのツイッターフォロワーを抱える、1989年生まれの政治記者Andrew Kaczynski氏。Kaczynskiのもと4名のチームを結成し、うち2人が社員、2人がインターンということです。2016年選挙の候補者に関して、あらゆる情報を探すためにつかう体系化したシステムを持っているとのこと。

Kaczynski氏についてはウィキペディアに詳しいですが、大学生時代から政治家の発言のアーカイブを参照しながら、現在の立場との整合性をチェックするなどしていたそう。特に選挙時には動画やツイートが話題となり、さまざまな媒体からアワードを受賞しています。

バズフィードでは過去の選挙戦についても、編集長のベン・スミス氏を中心に政治ニュースチームで都度報道をおこなっていたり、フェイスブックと共同で候補者に関する印象をデータとして発表しています。今回のチーム結成については、これまでのバズフィードによる政治報道から大きな一歩を踏み出すものになりそうです。バズフィードが政治家や選挙ついて独自の調査部隊を抱える動きは硬派なニュースを正しく伝えるという意味で、重要なことになるでしょう。

さらにバズフィードでは今夏、CEOのジョナ・ペレッティを中心に「BuzzFeed Open Lab For Journalism Technology and the Arts」という研究開発機関を設立します。新技術がジャーナリズムになにをもたらすのか、テクノロジーとアートの交差点を探る動きとして成果にも目を向けていきたいですね(GEなどスポンサーが付いていることも注目です)。2014年8月の大型資金調達のあとに設立した、各プラットフォームへのコンテンツの流し方を考える流通部門にもつながる話なのかなと思いました。

バズフィードについては、先日80ページほどの資料をつくりました。関心ある方はぜひご覧になってみてください。

ラップ歌詞の脚注からはじまった「Genius」、対象をすべてのウェブページへ拡大

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2009年、ラップの歌詞に脚注をつけていくことからはじまった、Rap Genius(現Genius:ジーニアス)。サービス名のラップが取れたタイミングで、ニュースや歴史、映画、法律などさまざまコンテンツに脚注をつけることが可能になっていました。

2015年4月からは、新たな展開として、ベータ版の機能をスタートしています。これによって、インターネット上のあらゆるページに対して、脚注をつけることが可能になりました。つまり、ジーニアスのサイト内以外にも、外部サイトのページにコメントを加えることが可能になったのです。

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(ジーニアスの本サイトでの脚注)

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(ロサンゼルス・タイムズによるボブ・ディランのスピーチの書き起こし文章に対する脚注)

すべてのウェブページに注釈をつけることができるのは、ビジョンとしてとても壮大で、ある種ウィキペディアのような機能とも言えます。Google Chromeなどの拡張機能なども公開し、さまざまな場所で使えるように整えているところです。脚注にはテキストと画像、リンクなどを入れることができ、だれかのコメントに乗っかることもできるので、それなりに詳しく解説できます。

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(脚注が付けられているサイト一覧)

ところで、Geniusは2012年にはAndreessen Horowitzから1500万ドルの資金調達を実施しています。今回はベータ版のサービスと言えど、かなりぶち上げたものになりそうなので、さらなる調達もしていくのでしょうか。さまざまなネット記事にコンテキスト(文脈)を与えていく新種のメディアサービスの事例としても動向を追っていきたいですね。広く普及すれば、メディアが導入するコメントシステムに取って代わる可能性もあるかもしれません。

(参照)Genius Beta on Product Hunt

Vice Mediaはなぜ「ハリウッドインサイダー」になれたのか? 急成長を支えたもうひとりの立役者、Tom Frestonの数奇な運命

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(photo credit: Stream London 9 November 2011 via photopin (license)

この記事は、橋本英明さん(フジテレビジョン コンテンツ事業局)によるMediumへの投稿「Tom Frestonの数奇な運命とViceの成長」の転載です。ジャーナリズムやCEOのパンクさが注目されがちなVice Mediaがいかにして、巨大メディアエンターテイメント企業に成りえたのか。その影の立役者についての7000字以上のレポートです。

Vice Mediaはいかにしてハリウッドインサイダーになれたのか

Vice Mediaを語る時、過激な描写・危険な地域からのレポート、あるいはShane Smithの言動がなにかと表に出てきがちです。しかし、当たり前ですが、それだけではありません。

ここで注目しなければならないのは、モントリオールから生まれたパンク雑誌が、どのようにしてここまで大きなメディアエンターテイメント企業になれたか。この点が重要だと思っています。

それは、もちろんCEOのShane Smithの手腕もあると思いますが、個人的に注目したいのは、Vice Mediaがどうやってハリウッドインサイダーになれたのかということです。

ご存知の通り、Vice MediaはShane Smithだけによって創り上げられたわけではありません。それは、彼が3人の共同創業者のひとりであるという意味だけでなく、Vice Mediaがハリウッドインサイダーになれた立役者がいるということ。

そしてその人物こそが、今回注目したいTom Freston(以下Freston)という人物なのです。

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(左:Shane Smith、右:Tom Freston/Getty Images

もしTom Frestonを知っているとしたら、メディアエンターテイメントビジネスにかなり詳しい人だと思います。なぜなら、彼はケーブルテレビ黎明期に音楽専門チャンネルMTVの立ち上げに関わり、CEOを務めた後には、親会社のViacomのCEOも歴任した人物だからです。

そして、その後Vice Mediaにアドバイザーとして関わったことが、Vice Media躍進の大きなキッカケになったのではないかと思っています。それは例えるなら孫正義にとっての笠井和彦の関係のように。FrestonもShane Smithの参謀として、重要な局面で色んな助言をしたことが、今のViceの成長を支えたのではないか。そういう風に思っています。

そんなTom Frestonの数奇な運命とViceの成長について、書いてみます。

カブールからケーブルへ

Tom Frestonは、いきなりメディアエンターテイメント業界で働き始めたわけではありませんでした。MTVに関わる前に、実はメディアエンターテイメントと関係ない仕事をしていたというのも面白いです。

Frestonはニューヨーク大学MBAを取得後、Benton&Bowlesという広告代理店のアカウントエグゼクティブになりました。しかし、24歳で突然辞めてしまい、放浪した末にカリブ海の周辺でバーテンダーとして働き始めます。そして、その後インドに旅立ち、ニューデリでアパレルビジネスを立ち上げたところ、経営の才覚があったのか、インドやアフガニスタンの衣服を米国・ヨーロッパ・南アフリカの小売店へ卸す事業は好調だったようです。

しかし1970年代、貿易法の改正によって、自ら立ち上げた会社を強制的に閉鎖しなくてはならなくなり、米国への帰国を余儀なくされてしまいます。そして、彼はビルボード誌に掲載されていたミュージックビデオを放送する音楽チャンネルを立ち上げる人材の募集広告を目にします。つまり、これがMTVの採用広告でした(正確にはMTVを立ち上げようとしていたWarner-Amex Satellite Entertainment Company:WASEC)。

1980年、FrestonはMTVのマーケティング担当ディレクターに起用され、MTVの認知拡大のために奔走します。全米を駆け巡って放送してくれるケーブルテレビ局を開拓し、放送するためのミュージックビデオをレコード会社から調達していました。そして1981年にいよいよMTVが放送開始、ご存知の通り若者からの絶大な支持を獲得していきます。

伝説となったI Want My MTVキャンペーン 1984 I Want My MTV Commercial (1) from David Hale on Vimeo

Frestonは、その後営業担当・編成担当となって引き続きMTVの事業拡大に貢献。1984年にはMTVの親会社であるWASECは、好調だったMTVを主軸に自らをMTV Networksとしてリブランド/スピンオフ化し、同じくWASECが立ち上げた子ども向けチャンネルのNickelodeon(1979年開設)や音楽専門チャンネルVH1(85年開設)を束ねていきます(このタイミングでAmexはこの事業から手を引くことになり、親会社はWarner Cableとなります)。

しかし、好調に推移していた世の中のイメージとは裏腹に、80年代半ばには売上が減少に転じてしまいます。その結果、1987年にWarner CableはMTV NetworksをViacomに売却、ケーブルテレビ事業に注力することになります(ちなみにWarner Cableの末裔がTime Warner Cableであり、今Charter Communicationsに買収されるという話が出ています)。

Viacom傘下になった後もMTV Networksに残った数少ない役員だったFrestonは、1987年にMTV NetworksのCEOに就任します。そして就任するなり広告営業部門を改組、自ら営業部門と編成部門の橋渡し役となり、翌年40%以上売上を伸ばします。

その後、FrestonはMTVの海外戦略も加速させ、2003年にはMTVの全売上の80%以上が海外という比率まで高めることになります。これに加えてMTV Networksの事業の多角化も積極的に推進。具体的にはアニメーション製作(『Beavis and Butt-head』『SpongeBob SquarePants』『South Park』『Rugrats』など)や劇場映画製作、デジタル事業などを推進しました。また、編成のセンスも研ぎすまされていて、2002年にオジー・オズボーン一家を起用したリアリティ番組The Osbournes』の立ち上げを承認して、後にMTVのドル箱番組へと成長させていきます。

そして前任者の退任を機に、Frestonは遂にViacomのCo-President & Co-COOに就任(2006年にViacomCBSが分離したのを機にViacomのCEOに就任)し、MTV Networksだけでなく、Paramount Picturesなどを含めたマネジメントを担当していくことになります。

しかし、順調にメディアエンターテイメント界でのキャリアを積んできたと思いきや、数奇な運命はまだ続くのでした。

MySpace買収失敗、そしてViacomからの追放

まだ、FacebookTwitterInstagram、Snapchatがなかった時代。

Tom Frestonは急成長中だったMySpaceを買収しようと動いていました。しかし、ご存知の通り、MySpaceはRupert Murdoch率いるNews Corporationに5.8億ドルで最終的に買収されてしまいます。このことは、2005年7月の話です。

実はMySpaceの買収はViacomが話をかなり進めていて、世の中的にはViacomが5億ドルで買収するんだろうという風に思われていました。実際のところ、Viacomが抱える若者向けのメディアとMySpaceという組み合わせは相性も良く、Frestonの中のシナリオとしても、MySpaceを中心に据えてViacomの存在を再定義しようとしていました。

そんな中、抜け目ないRupert Murdochは、ある週末Frestonが休暇でハワイに訪れている隙に、MySpaceを運営するIntermixをある部屋に缶詰にして交渉を重ね、土壇場で契約を結んでしまったのです。すごい話ですね。

その顛末としてFrestonはViacom会長でメディアエンターテイメント界の重鎮Sumner Redstoneに解雇されてしまいました。もっとも、Viacomはこの時にMySpaceを買収しなかったおかげで大きな損失を出さなくて済んだとも言えますが。もちろん、歴史に「もし」はないのですが。しかしながら、休暇中にこんなことが起きるなんて、なんという悲劇でしょうか・・・。

ちなみにSumner Redstoneは、現在91歳にして、今なおViacomCBSの会長。つまり読売新聞グループ本社代表取締役会長の渡邉恒雄よりも年上で、もしかしたら世界のメディアエンターテイメント企業の現役エグゼクティブで最も高齢なひとりかもしれません。

Viceの動画事業の礎となった共同出資会社VBS

この解任劇が起きる少し前に、Tom FrestonはViceが動画事業に参入したいということを耳にします。

2005年にYouTubeが創業、2007年にHuluが立ち上がり、各社が動画配信プラットフォームに投資している中で、ViceのShane Smithらは「動画プラットフォームが普及したタイミングで、必ずコンテンツが必要なる」と考えていました。そしてTom Frestonはこの発言に共鳴します。というのも、Freston自身もケーブルテレビ黎明期に、土管はあっても流すものがない時代を知っており、その流れに乗ってMTVが爆発的に広がったことを知っていたからでした。

“Everyone was spending all their money on platforms but none of it on what you put in the pipe. So we said, Okay, eventually the market’s going to catch up, and everyone's going to need content.”(Shane Smith)

今後5年でウェブ対応のテレビの世帯普及率が50%を超える。そうなった時に、また流すものが必要になる時代が来る。

Viacomは、2007年の時点で売上が2800万ドルだったViceと共同出資会社を設立し、VBS.tvというオンライン動画ネットワークを立ち上げ、短尺のドキュメンタリーやルポタージュを、世界でもっとも危険な場所で撮影して届けることを考えます。

そしてクリエイティブディレクターにはSpike Jonzeを起用し、VBS.tvで初となるドキュメンタリーシリーズ『The Vice Guide to Travel』の製作を進めます。キャストはShane Smithも自ら出演する中で、『Jackass』でおなじみのJohnny Knoxvilleらも出演し、北朝鮮アフガニスタンなど、世界の危険地帯からストーリーを届けていきます。つまり、今のVice Mediaの動画のイメージは、すべてこれを起点にして作られたものになるんです。

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The Vice Guide to Travelより)

ちなみにこれは推測ですが、Shane SmithとSpike Jonzeを引き合わせたのは、MTV時代からSpike Jonzeと付き合いの多かったTom Frestonだったんじゃないかなという気がしています。Spike Jonzeは、まさにMTVの申し子。Beastie BoysChemical BrothersFatboy Slimなどのミュージックビデオを撮り、世界でもっとも面白い番組(と私が思う)『Jackass』を撮っています。そして前述のJohnny Knoxvilleも『Jackass』が放送されてブレイクした人物。この辺のキャスティングは、Tom Frestonの人脈の為せる業なんじゃないかなと思います。たぶんですが。

リベンジ、そしてハリウッドインサイダーへ

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(VBS.tv via Freebord_photos’s Bucket)

VBSでメディア企業として先進的な動きをしているなかで、前述の通りFrestonに悲劇が起き、後にSumner Redstoneに解雇されてしまいます。しかしおもしろいのはここから。このタイミングに合わせて、ViceはVBSの株式をViacomから買い取り(金額非公開)、なんとFrestonがViceのアドバイザーに着任したのです。

MySpaceの買収失敗があったとしても、それを帳消しにできるくらい、Tom Frestonはメディアエンタテイメント界で最も経験豊富な経営者のひとりだったと思います。そんな人が他のメディアエンターテイメント企業のCEOに就くのではなく、Viceのアドバイザーになることを選ぶということは、ちょっと普通じゃないような気もします。それだけ、Viceの未来が見えていたのかもしれません。実際FrestonはViceのその後の戦略作りに大きな役割を果たしていきます。

VBS.tvは、その後Viceland.comと統合されてVice.comとなり、今私たちが知るViceの動画事業の土台となります。これにより、Viceはバーティカルな動画チャンネルを次々と立ち上げていくことができました。例えば音楽に特化したNoisey、テクノロジーに特化したMotherboard、アートに特化したThe Creators Projectが立ち上がり、それぞれに1社から4社ほどのスポンサーがつきました。

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旧来型のマーケティング手法だと若年層に届かないというクライアント側の課題があり、その一方ではVice.comに広告掲載されてエログロなコンテンツと一緒になって困るというメディア側の課題もありました。そこで前述の通り、Vice.comと付かず離れずのバーティカルメディアを作り上げました。これはまさにケーブルテレビの専門チャンネルの立ち上げ方とまったく同じことで、Frestonがケーブルテレビ黎明期以降ずっとやってきたことなんです。

そして2011年、Frestonは自らViceに資本参加し、世界最大規模の広告代理店WPPとThe Raine Group(Goldman SachsUBSの元パートナーが立ち上げたメディアエンターテイメントに特化した投資グループ)からの調達をお膳立てし、ハリウッドの4大エージェンシーで最古のWilliam Morris Endeavor(WME)と代理契約を締結します。これがまさにVice Mediaが「ハリウッドインサイダー」になった瞬間だと言えるかもしれません。

米国のメディアエンターテイメント界は、よくも悪くもハリウッドを中心とした狭いコミュニティーですべてのディールが決められていきます。脚本はハリウッドに集まり、それを撮る人も出る人も、スタジオもエージェンシーも、それをサポートする保険会社も投資会社も法律事務所も、人材育成拠点としてのフィルムスクールも、全部南カリフォルニアに集中しています。このコミュニティーに入らないと、良いディールにありつけることが難しいといっても過言ではありません。

大型調達、共同出資会社設立、快進撃はつづく

さて、この調達以降、2012年にYouTubeが1億ドルを用意して始めたOriginal Channel Initiativeに採択され(ここからMaker StudiosやFullscreenやTastemadeが一気に立ち上がります)、2013年にHBOと契約して番組の提供を開始。同じく2013年にはTom FrestonをViacomから追いやるキッカケを作ったRupert Murdoch率いる21世紀FOXが、Viceの株式の5%を7000万ドルで取得します。

2014年、A&E(DisneyとHearstの合弁会社)から2.5億ドル調達、カナダ通信大手Roger Communicationsと1億ドルの共同出資会社を設立、21世紀FOXとVice Filmsを共同設立して劇場公開作品の製作を推進、HBOとデイリーのニュース番組の製作を発表、A&E傘下のケーブルチャンネルをリブランド化してViceの名前を冠した新しいチャンネルの立ち上げ。そんなに風に快進撃が続きます。

そして、そのキッカケを作った人、それがTom Frestonだったんです。何か大きな動きがある時、強烈な個性を持った人の影でそれを支える人がいる。そんなお話でした。

 

<参考>

http://www.forbes.com/sites/jeffbercovici/2012/01/03/tom-frestons-1-billion-revenge-ex-viacom-chief-helps-vice-become-the-next-mtv/

http://www.hollywoodreporter.com/news/vices-shane-smith-tom-freston-434990

http://www.referenceforbusiness.com/biography/F-L/Freston-Tom-1945.html

http://www.theguardian.com/media/2013/aug/17/rupert-murdoch-vice-magazine-stake

http://en.wikipedia.org/wiki/MTV

http://en.wikipedia.org/wiki/Warner-Amex_Satellite_Entertainment

<橋本さんのMediumはこちら>

<お知らせ>

メディアの輪郭では、国内外のメディアや編集(Web/紙問わず)に関する寄稿や転載(単発/連載)などを募集しています。ご興味ある方は、ツイッターフェイスブック、メール(ke12nny@gmail.com)などでお気軽にご相談いただけたらと思います。

これからの「いい情報」とは何か? 共有・アクセスできないような情報に漂う色気

情報に溺れないためには、「欲しい情報は何か」を知ること

真似のできない仕事術を特集した『BRUTUS』2015年6月1日号を読みました。漫画家の小山宙哉さんやジャーナリストの田原総一朗さん、俳優の山田孝之さん、建築家の藤村龍至さんなど10名以上が取り上げられていました。

インタビューで重要なことについて田原さんが「想像を超える発言を引き出せるか」と言っているのはいつも体現していると思いつつ、情報術について語っている箇所も印象的でした。

どうでもいい情報に振り回されると情報に溺れてしまう。溺れないようにするには、まずは、"欲しい情報は何か"を知ることなのでは。そして、一次情報をたぐり寄せる。これに尽きる。(中略)一次情報を捕まえるのはいつも命懸け。だから面白いんです。(31ページ)

「共有できない、アクセスできない、意識的に閉じていく情報に色気を感じている」

高城剛さんらを教え子にもつことでも知られるメディア美学者の竹邑光裕さんは、いい情報について語っていました。いい情報とは色気がある。ただ、情報の色気を感じるには、感度が求められます。 

人は受信装置。求める人だけに、不思議とピッと入ってくるのが情報で、感度を高めるというのは、自分が何を求めているかはっきりさせることですね。(中略)あらゆる情報がオープンでコモンズになりつつある時代だからこそ、共有できないとか、アクセスできないとか、意識的に閉じていく情報に色気を感じています。(32ページ)

情報収集には、人が欠かせないとも発言しており、人を介した情報の確度やコンテクストがあることで色気を帯びてくるのではないかとしています。

圧倒的に刺激を受けるのは何かのために作られていないもの

また、音楽家の渋谷慶一郎さんの「いい情報とはなにか」に対する返答も本質的でした。

圧倒的に刺激を受けるのは何かのために作られていないものです。ただそれだけで存在しているもの。アートでも音楽でもそういうものが減ってきているけど、僕自身はそこしか反応しない。だから情報は良いも悪いもなくて、自分との距離と濃度だけが問題なんですよね。(41ページ)

Webメディアなんかにおいても、過度に読者(の環境)に寄り添いすぎていたり、マーケットインで考えられすぎているようなコンテンツも溢れるようになっているなかで、「ただそれだけで存在しているもの」という考えは少し意識したいところでした。

何かのためにつくっていないから、受け手の能動性や感受性が求められる。そんなコンテンツが増えると、いち読者としても情報収集が楽しくなりそうです。個人的に、今年はネットからの情報収集を意識的に減らし(正確には受動的でも入ってくる状態を整えた)、書店や紙媒体、人づてなどを通じた情報収集のほうが多くを占めるようになりました。さらに後者を強めていきたいと考えています。

 

プラットフォームによる新しい指標づくりが重要ーー「Medium創業者エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」を読んで

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 WIRED.jpに掲載されていた「Mediumをつくった男、エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」という記事が非常におもしろかったです。月間MAU2500万人を超えるというこのプラットフォームでは「書き手と読み手のための最高のツールをつくること」を重視しているそう。

ここで挙げられている7つの教訓は、一つひとつ考えさせられるものでした。

  1. アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない
  2. 人々が互いに話しかけるのを助けるのは、思ったより難しい
  3. しかし、人々が互いに礼儀正しくするのを助けるのは、思ったより簡単だ
  4. オンラインでの礼儀正しい会話を生むためのカギは、ソーシャルツールを適切なものにすることだ
  5. プラティッシャー(platform+publisher)
  6. 人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く
  7. 書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ

プラティッシャー「Medium」が重視する指標

アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」「プラティッシャー」「人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」の3つを取り上げてみます。

まずは、「アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」ということ。Mediumでは、「TTR」(Total Time Reading)という指標を用いて、ページの閲覧時間を重視しています。

このようにページビュー以外の指標を掲げ、プラットフォームの世界観とセットで打ち出していくのは、いちメディアが滞在時間を重視します、ということよりだいぶインパクトのあることでしょう。そのため、メディアが新しい指標を設けていくことはもちろん、プラットフォーム側がルールを書き換えていく動きにも注目していきたいですね。

次に、パブリッシャーとプラットフォームと掛け合わせた造語プラティッシャー」について。この考え方は、腑に落ちる部分もあるのですが、独立したパブリッシャーや独立したプラットフォームと比較すると意外と成功事例は少ないように思います。海外ではフォーブスが大量のブロガー活用をしたり、ヤフーがジャンル特化型のメディアをつくったり、さまざま動きがあります。実際、Mediumでも、いくつかのメディアを立ち上げています。

おそらく短期的にはプラットフォームがパブリッシャーに寄っていくのが目立つと思うのですが、逆のほうがインパクトがあるのではないかと考えています。はっきりと言語化はできていませんが、以前書いた記事にも通じるところがありそうです。

満足と期待に対する課金、そのバランス

人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」というのは、コミュニティとも結びつく発想です。ページビューを稼いで広告で稼ぐ、よりも小さく密な読者に向けてじわじわを広げていくようなモデル。

最大公約数というよりは、最小公倍数から攻めていく。ローカルやニッチ、専門性・・・ネット上の情報の切り貼りで完結しない、一次情報を発信するメディアはこのような考えが多くなっていくのではないでしょうか。特に課金においては、満足に対する課金、期待に対する課金、そのバランスが重要になるのではないかと思います。

エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓は、メディアにかかわる立場(ライター/編集者、メディア/プラットフォーム、コンテンツ/広告(営業))や、メディアのかたち(広告型/課金型など)によって強く共感したり、ピンとこなかったりするのだと思います。「書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ」と言えるのはとても強いです。

編集やメディアの役割は「発信」ではなく「媒介」ーー出版の限界を超えるために必要なこと

未来の出版に必要なものは、「これまでになかった新鮮な空気」

「書き手のなか、あるいは実際に書かれたものから、いまだ書かれぬ何かを感じ、企画をたて、それを、読み手に届ける」

これは、ミシマ社代表の三島邦弘さんの著書『失われた感覚を求めて 地方で出版社をするということ』の「はじめに」にあった言葉です。本社を東京・自由が丘に置きながら、京都にもオフィスを開設。地方で出版社をおこすこと、震災後の意識や意思決定、そして、編集やメディアとは、出版を救うヒントや実践などについて読み入ることができた本でした。

ミシマ社が2006年に自由が丘にオフィスを構えた際の理由のひとつに出版社がない場所だから、という点を挙げています。おしゃれやスイーツなどのイメージがある自由が丘ではなく、「生活者の町」としての場所で出版社を営むことができた実感から、「メディアの活動は生活感覚に近いところですべし」という考えになったそうです。

そして、"出版不毛の地"(京都府城陽市)でもオフィスを開設。「未来の出版に必要なものは、『これまでになかった新鮮な空気』であることは明らかなのだから(41ページ)」。生活者の町で出版をおこなうことに加え、東京以外でも出版社がある状態をつくることで、出版の限界を超え、新しい可能性を切り開きたい、としています。

関連して、本書で特に頭に残っているのは、「脱記号」と題した項目。さまざまな要素を削り落とし、ひとことでまとめてしまったり、単純化・画一化を促すこともある記号化。まだ記号化されていないところで出版社を立ち上げることで、これまでになかった体験もできたとのこと。

それは、ミシマ社の本屋さんという小さな書店も運営していたので、読者に本が届いていることを目にできたことです。改めて、編集者として、つくるだけでなくしっかり届けることまでを意識するようになったと書かれています。

「メディア=道、コンテンツ=芸」という捉え方

本書にたびたび登場するデザイナーの寄藤文平さんと三島さんのやりとりも印象的です。

「(茶道は)おいしいものを飲むという当初の目的に直結しない行為に価値を見いだし、おいしさが置いてけぼりにされることだってある。もともとは、おいしいものを飲みたいという思いだけだったはずなんです」

「なるほど。おいしさの追求が満たされたあと、そういう具体的な目的のない行為、ゴールのない行為である『道』が起きると」

(中略)

「デザインは『道』になっちゃいけないと思うんですよ」

(124〜125ページ)

この点、将棋の電脳戦などの例も挙げられていましたが、AIやロボットの時代にはあらゆるものが道と化していくかもしれません。これについては、『情報はつねに広がりたがる』とは? メディアの成熟とコンテンツづくりの行方」という記事で紹介したメディアとコンテンツの関係を「芸道」と見立てることにも共通しそうです。

メディアというものを紐解いていくためのキーワードとして、芸能・技芸を日本独自のかたちで体系化したものを指す「芸道」が挙げられました。芸がコンテンツ、道がメディアといったかたちで、芸と道がつながるとカルチャーになるという捉え方です。

バイラルメディアの問題では、コンテンツ(芸)をないがしろにして、メディア(道)という名のスタイル/体系/システムのほうにかなり重心を傾けているため、たかくらさんは「道の暴走」と表現していました。

また、新しいメディアづくりについて、道をつくってもフォロワーがいないと意味がないけれど、どんなコンテンツでもルートができれば行き場がなくなる。

「消費者によるベストセラーではなく、読者によるベストセラーを」

三島さんは寄藤さんの話を聞くまでは編集者は「見えないものを映す鏡」と考えていたそうですが、いまでは「何もしないを全身全霊で」という「編集=念」という考え方に落ち着きます。ほかにもユニークな考えを披露しています。

たとえば、出版産業の成長はいかにして可能なのか。三島さんは「時間軸を持ち込むこと」を提示しています。それは、短期的に売れるベストセラーではなく、毎年毎年じわじわと売れていくような本のことを指しているのです(Webメディアにも共通しそう)。「消費者によるベストセラーではなく、読者によるベストセラーを(242ページ)」という力強い言葉もみられます。

また、終盤では、メディアや編集とは、という部分についても書き残しています。メディアをやっていると、情報発信の部分に意識がいきすぎることもありそうですが、あくまでも媒介が役割ということは本質だと再認識しました。

「編集やメディアの役割は、よく誤解されがちなのだが、『発信』ではない。くり返すが、あくまでも『媒介』である。自分発信に走ればかえって主体は遠ざかる。自力で全てを動かしてやろう、そういう自意識ほど自然からはるか遠い行為はない。編集者的身体とは、揺れ動く生の日々のなかにあって、なお主体をけっして手離さないでいるための感覚だ(257ページ)」  

「グッズ販売」「個人を全面に」「そもそも体制や目的が・・・」 Webメディアのブランド化に関するいくつかの考え方

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(本文とは関係ない、ニコニコ超会議でのラジオ体操の図)

ニコニコ超会議でのWebメディアに関するトークのなかのトピックを拾い、「Webメディアはスマホ時代にどのようにブランド構築していけばよいのだろうか?」という記事を書いたところ、いろんな反応が寄せられ、とても勉強になりました。

上記のエントリーでは①ロゴの露出、②連載/特集、③コピーできないもの(イベント体験やコミュニティ/コミュニケーションなど)をアイデアとして挙げました。今回はさまざまな反応のなかからいくつか紹介してみます。

なんのためにブランドを構築するの?」

クックパッドニュース編集長の草深由有子さんはNewsPicksで「なんのためにブランドを構築するのか。そしてそのブランドとは、コンテンツなのか読後体験なのかはたまたUIなのか。これからの大きな課題です」とコメント。ブランドづくりの目的とそもそも何をもってブランドなのか、ということを課題としています。

「雑誌メディアから得られる知見が多そう」

フェイスブックでは「ロゴ露出と似ているが、グッズを販売はどうか。『ロゴ付きグッズが売れるメディアを目指すべき』と誰かが言っていた」といったコメントもあり、この延長線上にあるのはほぼ日手帳などもそうだと思いました。雑誌メディアもいろんなブランドとコラボして商品づくりもしているなあ。

「足りないのは、良質なライターやデザイナーを抱え込む体制

たしかに、Webメディアにはいい人材を抱え込めているところは少ないなあと思います。収益化の問題にもつながりますし、紙媒体の人もあまり積極的にWebに進出していませんね。

「『個人』を前面に押し出した記事は媒体名と合わせて印象に残る

人軸というのは重要ですね。トークの際にも人軸の話は出ましたが、雑誌編集長が変わると雑誌やブランドまで落ちていくこともありえるので、そのへんをうまくやらないとなあという印象です。さまざまなプラットフォームが出て、アルゴリズムとメディアが接近し、効率化や自動化が進めばすすむほど、人の感覚(特にトリッキーさや逆張り)は生きてきていると思います。

今の時代、ブランドとか信頼って言葉はどれだけ意味を持つのか

この点もすごい重要だなあと。現在進行形でメディアのブランドづくりがむずかしくなっているので、解体された先になにがあるのか、もしくは再構築の手法を編み出すのか、さまざまな選択が迫られそうです。差別化を図り、リピーター率向上からの長期的なファン獲得につながっていくのでしょう。ブランドの求心力がないと、低価格競争ではないですが、効率化であり、ムダを省いていくようなかたちになりそうです。

このほかにも「耳が重要。発音できない言葉は忘れる」「とがった記事を書く」といったコメントなども見られました。実際、Webメディアではブランドづくりがかなりむずかしい状況になりつつあるので、確立手法を摸索しつつも、紙媒体の編集者やプロデューサーの方などにヒントを求めてみたいですね。

メディアのブランド化というと、LINE社で上級執行役員を務める田端信太郎さんの著書『MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体』にもある「FTの紙はなぜピンク色なのか」ということにもつながりそうです。

ブランドがブランドたり得るためには、消費者が、作り手に対して、底の見えない深い井戸を覗きこんだように、得体のしれない尊敬や信頼を感じさせることが理想的です。メディア業の提供物は、手にとって触れたり、匂い嗅いだり、出来ないわけなので、読者から見た「メディアの品質」とはつまりは「その作り手を信頼できるかどうか。リスペクトできるかどうか?」問題とイコールになります。

そして、この文脈で言えば、日本のWebメディアが、クリック幾らインプレッション幾らの焼畑ビジネスになってしまっていて、ブランド化できていない原因は、根本的には、メディアの作り手である、編集者やライターが、読者や広告主から獲得している畏怖の念にも似たリスペクトの量が足らないことが根本の原因ではないのだろうか、と私は思っています。

FTの紙はなぜピンク色?-ネットメディアがブランド化するために必要なもの | AdverTimes(アドタイ)

「メディアの品質=作り手を信頼できるか、リスペクトできるかどうか」というのはとてもシンプルで分かりやすいです。

 

Webメディアはスマホ時代にどのようにブランド構築していけばよいのだろうか?

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先日、ニコニコ超会議2015に初参加してきました。きっかけは超言論エリアのミニブースでKAI-YOUさん企画のトークセッションに出ることになったからです。「Webメディアはニコニコ動画をどう捉えるか」「最近のWebメディアってどうなってるの?」という2つのテーマがあり、ぼくは後者に参加させていただきました。

「最近のWebメディアってどうなってるの?」というテーマでは、株式会社LIG 編集長の朽木誠一郎さん、株式会社CINRA代表取締役の杉浦太一さん、はちま起稿アドバイザーの清水鉄平さん、KAI-YOU代表取締役の米村智水さんとご一緒しました。

ぼくだけ(企業としての)メディアをもっていない身なので、タイアップ記事に関する姿勢や実情などについては話せませんでしたが、それぞれの媒体の違いなどおもしろかったです。ぼくはメディア(とそのビジネスモデル)が多様になってきていることや分散型メディア、編集者の職能の変化などについて少しお話した記憶があります。

なぜWebメディアはブランドづくりがむずかしいのか

それぞれの媒体の話を聞く中で、特にスマートフォン時代のメディアのブランディング(の構築と認知向上)については課題を抱えているようでした。

どういうことか。たとえば、Web時代にはポータルサイトにメディアの記事を配信するようなことがふつうになりました。同様にスマホ時代にはニュースアプリへの配信が盛んです。

そういったときに、そのメディアの記事というよりは、配信先のポータルサイトやニュースアプリの記事だと勘違いすることがあるそうです。となると、記事をつくったもとのメディアのブランドではなく、配信先のブランドにつながるのかもしれません。

また、検索サイトやソーシャルメディアが普及したこともあり、パッケージではなく、1本1本の記事がバラバラに読まれるようになっています。タイトルやサムネイルに惹かれて読まれた記事がどのメディアのものなのか気付くことはむずかしいという状況です。

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KAI-YOUの米村さんは、「KAI-YOU」というブランドを広めていきたいと言っていましたが、課題を抱えているとのことでした。PCで訪問するととても印象に残りますが、スマホ経由やほかの配信先で読むとブランド認知拡大は厳しそうです。

では、スマートフォン経由でどのようなブランドづくりが考えられそうなのか。いくつかの方法を考えてみたいと思います。

3つの方法:ロゴ露出、連載/特集、場づくり

1つ目には、ブランドの軸でもあるロゴを露出させることを挙げます。ソーシャルメディアなど各プラットフォームに最適なかたちでコンテンツを配信しているバズフィード。特に動画では冒頭または最後にロゴを出すことで、フェイスブックで自動再生で目にしてもバズフィードのコンテンツだと気付くことができます。

ほかにも、自社サイトをなくしてしまった、動画ニュースサイト「NowThis」もプラットフォームによっては動画においてロゴを出すこともしています。このようなロゴの掲出は、記事に使う写真にロゴを入れるなどの工夫により応用できるのかもしれません。

2つ目は、スマホ時代だからこそ連載や特集のようなパッケージに向かうことがある程度求められてくると思っています。たとえば、NewsPicksは連載の予告をしたり、長いストーリーを何回かに分けていたり。ほかにもこれからの暮らしを考える情報ウェブメディア「灯台もと暮らし」は地方特集をはじめ連載というくくりで記事を展開していることが多いように見えます。

加えて、Blog @narumiで見られるような「次回予告」などもヒントになりそうです。雑誌であれば1ページ読んだ読者が次のページもめくりたくなるように。次の記事を読んでもらったり、また訪れてもらえるような工夫をするなど、読んでいる記事の満足とともに次の期待を感知できる仕組みが必要になりそうです。

最後に3つ目は、コピーできないなにか、ということ。たとえば、定期的なイベントや、最近であればサロンのようなコミュニケーションできる場などオンライン/オフラインの場があるのかなと思います。

ニコニコ超会議もその最たる例と言えるかもしれません。2015年は「会場来場者数は15万1,115人、ネット来場者数は794万495人」とのことで、圧倒的です。

これまで、KADOKAWA・DWANGO代表取締役会長・川上量生さんは超会議について「ユーザーの盛り上がりを世の中に出すことをちゃんと作ろう(参照)」「ネットの盛り上がりがリアルを突き動かす、それを見せつけること(参照)」「今は“無駄なことが不足している状態”なんだと思うんです。であるなら,今は逆に無駄なことに価値が生まれている状況(参照)」などなど、とても印象的な言葉を残しています。まだ読み途中なのですが、新著『コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと』にもヒントを求めることができるでしょう。

Webメディアとそのブランドづくりについてとりあえず3つの方法を挙げてみました。もちろんこれだけが答えではないので、それぞれがメディアのブランド認知や構築についてどんな工夫をしているのかいろんな人に聞いてみたいです。「こんなのどう?」というアイデアありましたら、ぜひ教えてください。

 

 【関連記事】 

ニューヨーク・タイムズのブランドコンテンツに関する調査から分かること

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自社の広告制作チーム vs 広告主の制作チーム

ニューヨーク・タイムズの広告部門「T Brand Studio」とリアルタイムアクセス解析のChartbeatが2014年のニューヨーク・タイムズのブランドコンテンツに関する調査をまとめたようです。

「Paid Posts」と呼ばれる、ニューヨーク・タイムズブランドコンテンツ。ページの訪問数やアクティブ時間、フェイスブックツイッター、グーグルなどからの訪問などの指標をもとに分析、広告主とT Brand Studioが制作する記事について比較もされています。

T Brand Studioが制作した記事のほうが、広告主が制作する記事よりも訪問数が361%、滞在時間も526%多かったとのことで、自社の広告制作チームが優れていることを示しています。

また、T Brand Studioの制作記事は、広告主の記事よりもフェイスブックからの流入は1613%、ツイッターは504%、グーグル検索での流入は632%上回っていたとのこと。調査のなかで10人に6人くらいの割合で、スポンサードコンテンツが媒体の信頼性を傷つける、との印象をもっていることも発表されています。

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ネイティブ広告費、2018年に210億ドル規模へ

ニューヨーク・タイムズの主なブランドコンテンツ一覧はこちらから確認できますが、クライアントにはトヨタボルボ、ネットフリックスなど有名企業が並びます。コンテンツはワンカラムで写真や動画、そして読ませる文章が印象的で、ドキュメンタリータッチの没頭できる広告が多いです。

オンライン広告業界団体の「The Interactive Advertising Bureau」によればネイティブ広告は2018年までに210億ドルもの広告費を生み出すと予測され(2013年比で4倍)、しばらくは成長していく商品となりそうです。今回紹介したようなメディアがブランドコンテンツに関する調査をおこなうというのもおもしろいですね。今後も、広告を中心にメディアのビジネスモデルがどのように変わっていくのか情報を拾っていきたいです。

(参照)Research from The New York Times T Brand Studio and Chartbeat Shows That Branded Content Can Generate Significant Audience Engagement

フェイスブック、ViceやVox Mediaなど7メディアと提携——ブランド向け動画広告の拡充へ

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フェイスブックが動画広告まわりで新たな動きを見せました。毎日40億回ほど閲覧されるというフェイスブックにおける動画(1月の30億回から大幅アップ)。アメリカのフェイスブック利用者の8割近くが動画を観ようとフェイスブックを訪れるというデータもあり、さらにこういった傾向は強まっていきそうです。

発表は「Anthology: Helping Brands Tell Stories through Video Ad Content」というリンクで知りました。ミレニアル世代の支持を集めるVice Mediaや分野特化メディアを数多く持つVox Media、Oh My Disney(ディズニー)、グルメ動画サイトのTastemade、CollegeHumorという若者に人気のサイトを運営するElectus Digital、政治風刺サイトThe Onion、名前の通りおもしろい動画制作で知られるFunny Or Dieという、特に動画コンテンツに力を入れている7つの会社と提携。

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「Anthology」と名付けられたメディアの集まりであり広告プログラム。広告主(ブランド)がこの7つのメディア(動画制作を請け負う)を選び、動画広告を出稿できるというもの。売りは「Deliver highly relevant, insight-driven, storytelling」で、高い関連性やインサイト駆動、ストーリーテリングの3つの観点に強みをもつ動画広告を実現していくようです。

フェイスブックというプラットフォーム上で広告主のメッセージが最適なかたちで伝わり、結果として広告の高い成果を残すことを目指します。先日、ニューヨーク・タイムズやバズフィードとのオリジナルコンテンツ掲載についての報道もあったばかりなので、メディアを囲っていく動きがどんどん盛んになり、メディアが制作業ばかりになってしまう可能性もあるなあという印象です。

ただ、プラットフォームに合わせたクリエイティブの重要性が増していくことはたしかでしょう。Anthologyについては今後もパートナーを拡大していくようなので展開には注目していきます。