メディアの輪郭

更新するだけ健康になれる気がしています

2015年以降の「メディア激変」を統括する

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 (内容とはまったく関係ありませんがお気に入りの写真です)

 

2015年以降の「メディア激変」を統括する、といった内容の短期連載がはじまりました。ブロガーのイケダハヤトさんのnoteマガジンに掲載されるものです(月1ペースで全4回くらいを想定しています)。

個人的にブログでやろうと思っていたテーマなのですが、なかなか今年に入ってからは更新できておらず、ちょうどよいタイミングで依頼を受けたので書いてみました(本当は2005年からのスマホSNSの普及を踏まえた統括がしたいのですが、時間的にむずかしく、いつかどこかでできたら……)。

第1回は2万字超になってしまいましたが、毎回1万字は超えるくらいになるだろうと思っています。メディアやコンテンツ、プラットフォームなどに関心のある方や、最近の潮流を一気に押さえておきたい方にとって少しでも参考になれば幸いです。

第一回:2016年の「メディア進化論」~プラットフォームのニュース争奪戦と伝統メディアの必死の抵抗

https://note.mu/ihayato/n/n13b60529f3bf

流通の勢力図が見えたメディア業界、2016年は「融合」がキーワード?

「いま、新聞などジャーナリズムが危機にあるのは、ユーザー体験を考え抜いたサービスがないからだ」

こんな声を聞いたのは、2015年8月にオランダに渡り、メディアを取材したときのこと。発言の主は、「Blendle(ブレンドル)」というプラットフォームの国際担当だ。どういうことか?

「若者はコンテンツにお金を払わない」を覆す

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(ブレンドルのトップページ)

端的にいえば、無料コンテンツが大量にあふれたとしても、ユーザーの利便性にかなったサービスがあれば、有料モデルは機能するということだ。

たとえば音楽をみたとき、多くの人がYouTubeを通じて無料で音楽を聴いている一方、聴き放題サービスの代表例「Spotify」には7500万人以上のアクティブユーザー、2500万人以上の有料ユーザー(月額9.99ドル)がいる。iTunesで音楽を買う人だっているだろう。

ブレンドルはまさにジャーナリズム業界に現れたiTunesだ。創業者含め20代中心のチームでつくられている。

若者はコンテンツにお金を払わない――。ブレンドルはそんな根強い定説をユーザー体験の考慮によって覆そうとしている。

すでにオランダの主要媒体がすべて参加しており、そこで記事を1本1本ワンクリックで購入できる仕組みを提供している。広告はブロックされる時代に少額の課金のハードルを設けるのはありだろう。

また、各新聞や雑誌のWeb版のペイウォールにいちいち登録するよりも、ひとつのプラットフォームで記事の購入や閲覧を済ませることができれば、それに越したことはない。

極め付けは、一度買った記事を「返品」できることだ。「どうせ返品できるなら、買ってみようかな」と思えれば、記事を買う体験ができる。最初からペイウォールで月1000円となれば、少しの思い切りが必要だ。

また、著名人やキュレーターが記事をおすすめし、友だちが買った記事もわかるため、ソーシャルの結びつきから記事の購入にもつながることがある。これは紙媒体ではできなかったことだろう。

ブレンドルのように、記者やジャーナリスト自身がユーザー体験の向上をカギとして、Web時代におけるジャーナリズムの持続可能性を考えることが重要になる。

実際、そうして運営されるブレンドルで購入される人気記事は調査報道やロングインタビューといった「ちゃんとした」ものなのだ。

流通をめぐる話題・議論が多かった2015年

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(Instant Articles参加メディアの一部)

2015年を振り返ると、「どう」届けていくのかという議論が盛んだった。要するに強大な力を持ちすぎたプラットフォームに引きずられた、流通をめぐる環境の話が多かったのだ。

フェイスブックの「Instant Articles」やSnapchatの「Discover」、アップルが「Apple News」のいずれも今年発表された。でも、そこにどんな「ニュース」が流れるのか、という話はほとんど上がらなかった。

2016年は、どう届けるのかという環境が整ったうえで、「だれが」「なにを」という議論が活性化するのではないかと思う。コンテンツの外側の議論はそれはそれでワクワクする。

しかしながら、なぜメディアをやるのか、なぜそれを伝えるのか。「広く浅く」のメディアから「狭く深く」もしくは「広く深く」のメディアが盛り上がり、よりメディアやジャーナリズムをめぐる本質な方向に動いていく年になるだろう。

2016年、さまざまな「合流」や「融合」が起きていくと思う。

大企業とスタートアップの協業や買収などによる人材やカルチャーの合流、マネタイズでいえば広告と課金、広告とイベント、課金とコミュニティなど手法の融合、紙とWebの融合……2015年に流通の勢力図の見通しが良くなったからこそ、2016年の具体的な中身をめぐる議論に注目したい。

 

スナップチャットはメディアをどう変えるのか?

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(photo credit: Snapchat via photopin (license)

今年8月にニュースレターをはじめました。まだたった5通ですが、500名弱の方々が受け取ってくださっているようです。改めていまだに多くの人が使うメールというメディアのおもしろさを実感しています。

今回はそんなニュースレターから「スナップチャットはメディアをどう変えるのか?」という4000字コラムを転載します。今後は徐々にニュースレターに移行していけたらなあ、と考えています(もちろんブログもゆるく続けていきますが)。 

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スナップチャットは(アメリカ)メディアをどう変えるのか?

これは個人的にいちばん気になっているトピックです。しかし、日本で流行ってないこともあるのか語られることがほとんどありません。スナップチャットは2011年にスタートした、写真や動画を送ることができるメッセージアプリ。送信者が10秒以内の閲覧時間を設定、受け手はその時間以上コンテンツを見ることができないのが特徴です(後述しますが「リプレイ」機能はあります)。

毎日1億人以上が利用し、月に40億回の動画再生がおこなわれるスナップチャットのCEO・エヴァン・シュピーゲルはなんと1990年生まれ(同じ年というのが恐ろしいです!)。今年は「Forbes 400」入りし、世界最年少のビリオネアとなっています。

そんな新世代がつくる革新的なサービスについてくるのはやはり若者です。comScoreの調査によれば、ユーザーの71%が18〜34歳。それでも少しずつ上の世代は増えているようです。こういったユーザー状況にも合わせるように、瞬間的なメッセージのやりとりに加えて、24時間だけ友人にコンテンツを公開できる「Stories」といった機能もできました。

1メディアに1日100万人が訪問

スナップチャットの概要を簡単に紹介しました。いまメディアが気にかけなければいけないのは「Discover」という機能でしょう。今年1月にはじまり、各メディアのコンテンツが24時間限定で閲覧できるページです。

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現状、バズフィードやCNN、ヴァイス、ナショナル・ジオグラフィックなどWebメディアや雑誌、放送ネットワークなど新旧かつ多様なジャンルから14媒体集まっています(フェイスブックによる記事のホスティングサービス「インスタント・アーティクルズ」は30媒体以上が契約。最近ではワシントン・ポストがすべての記事を載せることを発表)。

たまにDiscoverを使っているのですが、記事や動画を超えて新体験といった感じで、「記事とはなんだったのか」みたいなことを思ってしまいます。観ているとちょくちょく動画広告が入るので、すばやくスワイプでかわしていきましょう。

AdAgeによれば、Discoverのなかには1日平均2.5個の広告が入っているようです。リンク先の記事には、参加媒体のストーリー数と広告数のグラフがあるので関心ある方はぜひ見てみてください。媒体社のコンテンツは1日平均110本とのこと(各社で1日5〜17個と幅があります)。

1媒体あたりの訪問数は1日100万人ほどですが、チャンネルを見てみると媒体によって力の入れ具合がクオリティに良くも悪くも反映されていると感じます。これにはスナップチャットに特化したコンテンツを制作できる人材が(特に大手)メディア側にいないからでしょう。

バズフィードのアクセス、5分の1がスナップチャット経由

そのため、企業やメディアではまずはスナップチャットに慣れ、使いこなせるようにがんばっているようです。ツイッターフェイスブックにも効果的な使い方などについての講座や研修があるように、スナップチャットにも同じ流れが来ています。

チームがSnapchatを完全に理解することができるようになる方法について私は考えた。

そして思いついたのが、会社で「Snapchatデー」を開催することだった。1営業日のメール、IM、チャット、テキストメッセージ、Trelloでのコメント、Githubのバグ対応、更には電話も含め、全ての社内コミュニケーションを禁止した。代わりに、全ての社内コミュニケーションをSnapchatで行うのだ。

「Snapchatデー」の出だしは困難なものだった。Snapchatは、効率的な社内コミュニケーションツールとして設計されていないことは明らかだし、それを実感した。ただ、一日の半分が過ぎたころには、チームの全員、このプラットフォームでのメッセージの送受信が上手くなり、操作方法をある程度学ぶ必要のあるインターフェースの基本的な使い方を覚えていた。Snapchatでどのようにバグ対応を連絡するかって?コミット画面の写真を撮って送っていた。
(「Snapchatのような最新テクノロジーを理解できない大人がすべきこと」より)

いままでにないユーザー体験をもった「Snapchat」は、利用することでのみ理解を深めることができる。ニューヨーク・ブルックリンに本社をもつヒュージが「Snapchat」研修を従業員に課す理由も、そこにある。同社は今年の夏を「Snapchatに完全に対応するためのシーズン」だと位置付け、社内研修「夏の飛躍の日」に「Snapchat」講習を組み込んだ。また、ヒュージの「Snapchat」のアカウントで、休日の様子を投稿することを奨励した。

ハヴァスでも、同様の取り組みをしている。アプリ内で全米オープンゴルフの無料チケットを入手できる社内イベント「『Snapchat』トレジャーハント(宝探し)」を開催したのだ。

「マーケターとして、われわれは最新のプロダクツやテクノロジーに習熟しておかねばならない」と、ヒュージのソーシャル・ディレクターであるジョー・マカフィー氏は語る。「ソーシャルチームの全員が、すべてのプラットフォームの専門家になることを期待している」。

BBDOニューヨークでは、この夏にユニークなゲームに興じた。オフィスの全員を「Snapchat」に精通させようと、日々の日課に組み込ませたのだ。「Snapchat」の24時間消えない「ストーリーズ機能」を使って、毎日異なるお題に関する体験談やエピソードを投稿する試験を実施。このテストには100人超の従業員が参加し、最終的に「BBDOストーリーズ」と呼ばれた1本のハイライト映像にまとめあげられた。
(「『Snapchat』研修」を社員に課すエージェンシー。プラットフォーム攻略で主の心を掴む」より

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海外メディアのなかにはジャーナリストやデータアナリストに並んでスナップチャット用のコンテンツをつくれる人材を募集することが増えてきました(Mashableではすでにスナップチャット専任が10名ほどいるそう)。縦型のストーリーや動画への対応に備えて、先述のDiscoverにまだ参加していないメディア企業(たとえばVox Mediaなど)でも人材獲得が急務となっています。

スナップチャットの影響力が上がっていることは、バズフィードの流入経路を見ても明らかです。同メディアCEOのジョナ・ペレッティがRe/codeに明かしたところによれば、27%がフェイスブック動画、23%が直接もしくはアプリ、21%がスナップチャットという順番となっており(グーグル検索はたった2%)、トラフィックの5分の1がスナップチャット経由からなのです。

また、スナップチャットの縦型動画のほうが横型よりも9倍のエンゲージメント率を記録するなど、メディアにとって外せない存在となりつつあります(USA TODAYより)。

動画と若者に強み、収益化が課題

それでも課題はあります。たとえば、企業の動画広告がほぼゼロ秒でも再生カウントされていること。再生数に応じて料金が発生するメニューのため、このビューアビリティ基準については今後議論になるでしょう。ただ、「約70%のユーザーは3秒で動画広告をスキップしている」というデータもあり、個人的には10代を中心としたユーザーたちが3割も視聴完了しているのはすごいと思います。

エンタメ寄りだけでないコンテンツをどれだけ増やして存在感を出していくのかも課題のひとつ。スナップチャットのニュース部門トップには元CNN政治記者を引き抜き、「Live Stories」の動画ニュースを制作・配信に注力しているところです。

Live Storiesは1日に平均2000万回閲覧されるようで、多いときは4000万回再生されるシリーズもあったのだとか(音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」に関するもの)。動画に強く、若者にリーチできるプラットフォームとして、スナップチャットは徐々に社会性も帯びてきています。

ほかのメディアを振り返ってみても、たとえば、ネコのリスト記事やクイズなどで急成長してきたバズフィードは政治メディア・ポリティコ出身のベン・スミスを編集長に迎え、調査報道をはじめとする硬派な側面を強めてきました。フェイスブックのデータを用いて選挙と感情の関係性について特集記事を出していたこともあります。

スナップチャットは2016年の大統領選に向けてニュースチームを強化中です。いまのところ動画再生数でフェイスブック(4月に40億回超え。スナップチャットは9月に40億回超え)に次いでいますが、若者に政治・社会トピックを届けられる場所としてさらに価値は上がっていくでしょう。

ここまでメディアにどのような影響があるのかを見てきました。ただ、今後どのように収益化していくのかはとても大きな課題です。9月にはリプレイ機能を有料化し、さらなる売上を図ります。これまでも1日1回は無料でリプレイできましたが、これからは99セント支払うことで3回リプレイできるようになったのです。

ビジネスインサイダーによれば、年間1億ドルの売り上げも見えてきたとのこと。広告と課金による収益化と新しいストーリーテリングの発明に期待したいです。

Medium、5700万ドル調達――良質なブログプラットフォームはようやく収益化に向かうのか

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ブログプラットフォーム「Medium」がアンドリーセン・ホロウィッツをリードインベスターとする資金調達を実施、その額は5700万ドルとのことです(Google VenturesやGreylock PartnersもシリーズAに続き参加)。Re/codeなどが報じています。増資前評価額は4億ドル。

アンドリーセン・ホロウィッツは2014年8月にバズフィードに対して5000万ドルの投資をおこないましたが、今回のものはそれ以上の規模となっています。

ページビューではなく読んだ時間に指標を置くMedium。毎週2万人以上が投稿し(意外と少ない)、2500万訪問数を記録しているようです。ミニマルなデザインのなかで良質なストーリーを読む場所としての完成度は高いので、あとは収益化の部分が課題でしょう。

すでにテックやトラベル、サイエンス、教育などさまざまな分野のメディア内メディアを立ち上げそのなかの一部は企業によるスポンサードとなっています。今年3月にはVox Mediaで広告営業のトップだったJoe Purzycki氏が参画。スポンサード広告のほか課金なども収益化の選択肢として考えているようです。

なお10月7日にはイベントを開き、新機能や新たなパートナーシップなどを発表するとのことで楽しみに待ちたいです。「メディアの輪郭」ではMediumについては編集者を入れていく動き(プラティッシャー化)や指標づくりなどに注目しており、いくつかブログを書いたことがありました。

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ブログプラットフォーム「Medium」、編集を入れてジャンル特化の動き(2014年5月)

プラットフォームとパブリッシャーの中心にある「プラティッシャー」。メディアの「プラティッシャー化」はしばらくは注目の動きとなりそうです。

そんな中、Digidayの記事Twitter共同創業者エヴァン・ウィリアムズとビズ・ストーンが立ち上げたブログプラットフォーム「Medium」のプラティッシャーの動きについて書かれていましたので紹介します。

日本語のでは、「新しいブログのプラットフォームMediumがその存在感をどんどん増している件」という記事にその特徴や思想がまとまっています。同記事で紹介されているMediumのラディカルさは以下の点です。

  • 価値のある記事は、誰が書いたかは関係ない
  • 価値のある記事は、いつ書いたかは重要ではない
  • ひとりの最高の書き手の100の記事より、100の書き手の最高の記事のほうが価値がある
  • 記事の価値は、共有された「数」などで計ることはできない
  • ひとりの読み手は、限られた数の記事しか読むことはできない

この点を知るだけでも、十分おもしろいのですが、このたび編集を入れて、ジャンル特化の動きにも出ていくMedium。現状では、毎日1200本ほどの記事が投稿され、そのうちの90%が無償での投稿とのこと(つまり120本ほどが有償で書かれた記事)。

これまでも一部の寄稿者に報酬も支払っていたMediumですが、まずはスポーツに特化したメディア「The Cauldron」をつくり、50名ほどの編集者やライターを用いて、コンテンツをつくっていくようです。

良質なプラットフォーム上で、良質なコンテンツをパブリッシュしていく。スポーツ以外にも、様々なジャンルに進出するようです。ユーザー投稿型と、パブリッシャーの境界線の非常にあいまいなところにいるMedium。そのバーティカルメディア戦略には注目したいですね。

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プラットフォームによる新しい指標づくりが重要ーー「Medium創業者エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」を読んで(2015年5月)

WIRED.jpに掲載されていた「Mediumをつくった男、エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」という記事が非常におもしろかったです。月間MAU2500万人を超えるというこのプラットフォームでは「書き手と読み手のための最高のツールをつくること」を重視しているそう。

ここで挙げられている7つの教訓は、一つひとつ考えさせられるものでした。

  • アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない
  • 人々が互いに話しかけるのを助けるのは、思ったより難しい
  • しかし、人々が互いに礼儀正しくするのを助けるのは、思ったより簡単だ
  • オンラインでの礼儀正しい会話を生むためのカギは、ソーシャルツールを適切なものにすることだ
  • プラティッシャー(platform+publisher)
  • 人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く
  • 書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ

プラティッシャー「Medium」が重視する指標

アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」「プラティッシャー」「人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」の3つを取り上げてみます。

まずは、「アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」ということ。Mediumでは、「TTR」(Total Time Reading)という指標を用いて、ページの閲覧時間を重視しています。

このようにページビュー以外の指標を掲げ、プラットフォームの世界観とセットで打ち出していくのは、いちメディアが滞在時間を重視します、ということよりだいぶインパクトのあることでしょう。そのため、メディアが新しい指標を設けていくことはもちろん、プラットフォーム側がルールを書き換えていく動きにも注目していきたいですね。

次に、パブリッシャーとプラットフォームと掛け合わせた造語「プラティッシャー」について。この考え方は、腑に落ちる部分もあるのですが、独立したパブリッシャーや独立したプラットフォームと比較すると意外と成功事例は少ないように思います。海外ではフォーブスが大量のブロガー活用をしたり、ヤフーがジャンル特化型のメディアをつくったり、さまざま動きがあります。実際、Mediumでも、いくつかのメディアを立ち上げています。

おそらく短期的にはプラットフォームがパブリッシャーに寄っていくのが目立つと思うのですが、逆のほうがインパクトがあるのではないかと考えています。はっきりと言語化はできていませんが、以前書いた記事にも通じるところがありそうです。

満足と期待に対する課金、そのバランス

「人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」というのは、コミュニティとも結びつく発想です。ページビューを稼いで広告で稼ぐ、よりも小さく密な読者に向けてじわじわを広げていくようなモデル。

最大公約数というよりは、最小公倍数から攻めていく。ローカルやニッチ、専門性・・・ネット上の情報の切り貼りで完結しない、一次情報を発信するメディアはこのような考えが多くなっていくのではないでしょうか。特に課金においては、満足に対する課金、期待に対する課金、そのバランスが重要になるのではないかと思います。

エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓は、メディアにかかわる立場(ライター/編集者、メディア/プラットフォーム、コンテンツ/広告(営業))や、メディアのかたち(広告型/課金型など)によって強く共感したり、ピンとこなかったりするのだと思います。「書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ」と言えるのはとても強いです。

おわり。

YouTubeの戦略「スリーH」とは/Antennaがラジオに番組提供する理由――プラットフォーム群雄割拠のいま

毎週通っている池袋ジュンク堂の雑誌コーナーをのぞいていたら、ビデオリサーチが発行している雑誌『Synapse(シナプス)』を見つけたので買ってみました(ビビッドなピンクが目立っていました)。特集は「プラットフォーム群雄割拠」。

動画系プラットホームではHuluの船越雅史さんやdTVの村本理恵子さん、YouTubeの中村全信さん、GYAO!の半田英智さん、ネットメディアではNewsPicksの佐々木紀彦さん、Antennaの杉本哲哉さん、logmiの川原崎晋裕さんが登場しています。

YouTubeのコンテンツ戦略「スリーH」とは?

ネットフリックスのリリースもあり、盛り上がる動画やストリーミング市場。各インタビュイーに「気になるプレイヤーどこ?」的な質問も投げられていますが、それぞれの考え方や意識している部分の違いが印象に残りました。

たとえば、Hulu船越さんが語るレコメンド。「自分の尊敬する人や友だち、家族に"あれ見なよ"って言われること」が最大のレコメンドだと語り、さらには「スーパーのチラシが最大のレコメンド機能」と表現していました。現在は本国のレコメンドシステムを使用していて、日本では試行錯誤しているところだそうです。

この数年YouTuberの台頭で盛り上がるYouTubeでは、人気の動画をめぐるコンテンツストラテジーがあるとのこと。その名も「スリーH(ヒーロー、ハブ、ヘルプ)」。ヒーローは普遍的に持つ感情を刺激する動画、ハブは生活者と企業を結びつける動画、ヘルプは助け(課題解決)になる動画。YouTubeはグーグル検索に次ぐ検索エンジンでもあるため、このような傾向になっているそうです。

また、YouTubeの中村さんはトレンドとして動画の尺を挙げていました。「認知を高めるだけなら短くてもいいんです。一方でブランドとしてのあるべき姿を描く動画は長尺でも受け入れられている。例えば有名な『リアルビューティースケッチ』のような」。動画トレンドは来ているようですが、実際のところ視聴される尺の長さについての考察などはもっと読んでみたくなりました。

Antennaはなぜラジオ局に番組提供しているのか?

「デジタルメディアの新潮流」という第二特集では、ニューズピックス佐々木さんが雑誌が厳しい状況について「地下鉄でもスマホが通信できるようになり、雑誌の売り上げが去年ガクッと落ちましたよね。そもそも雑誌は、コアなファンと暇つぶしのふたつの需要があったと思うのですが、後者がその時点でなくなってしまいました」と発言しています。

以前書いた「完成物でなくプロセスを売ろう――コミュニティはメディアとエンタメ不況を救えるか」にも強く関係すると思いました。暇つぶしに関しては多種多様なアプリなどもあるので、前者(コアなファン)に対して何かしらのアプローチが必要になってくるのでしょう。

続いて登場するアンテナ杉本さんの話のなかでは、なぜ同サービスがラジオ番組に番組提供しているのか、という部分が印象的でした。

「ラジオはビジュアルがない分、親和性が高いと思っています。例えば、ウユニ塩湖のことをラジオで聞いたら、相当すごいのは分かるけれども、どんな景色なのか見たくなるじゃないですか。そんな時にAntennaに記事が出ていると、シナジーになりますよね」

J-WAVEで3つの提供番組があるそうです。Webメディアはテキストやビジュアルなど視覚先行ですが、ラジオは聴覚先行で視覚要素がない。そこを相互にカバーしようとしているのが腑に落ちました。

ログミーの川原崎さんはメディアの未来について「イメージはコンテンツ自体がどんどん裸になっていく感じです。昔は雑誌のなかにコンテンツがびしっと張り付いていて、コピー不可能だからそこから動かなかった」と語ります。

コピペによるコンテンツ増殖や外部プラットフォームでの閲覧など昨今のメディア環境では考慮するポイントが多いですが、読むだけでなく「使う」ことを視野に入れているログミーの進む方向には注目していたいです。

ところで『シナプス』は"テレビとメディアを応援するマガジン"を掲げているようです。ネットとは違う層に最先端の動向などの情報を届けることが狙いなのかもしれませんが、改めてこういうテーマを紙媒体にする意味やそのむずかしさをどことなく感じました。

日本上陸が発表された「バズフィード」ってどんなメディア? 特徴や強みをスライド100枚で知る

月間2億人以上が訪問する米国のニュースサイト「バズフィード」が、日本向けに創刊されるそうです。タッグを組むのはヤフージャパン。

報道やまとめ記事などを配信するだけでなく、「広告の領域においても、ソーシャルメディアへの最適化とテクノロジーに基づいたコンテンツ重視の制作方針を明確にし、新しい広告のあり方を提唱しています」という、バズフィードのあり方は魅力的です。

今回は「バズフィードって、どんなメディアなの?」という人のために、過去につくった2つのスライドを共有します。合計100ページを超えていますが、参考になれば嬉しいです。すでに知っている方は、復習にお使いください。

BuzzFeedとUpworthyのこれまでと現在からみるバイラル/キュレーションメディア

バズフィードはなにがすごいのか? 海外における新興・大手メディアの現状比較

英語でもバズフィードに関するスライドは多くあります。さらに知りたい方はご覧いただくと良いかと思います。

プラットフォーム優位の時代、コンテンツ側はどう考えればよいのか?

川上量生さんが書かれた『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波新書)を読みました。この本はネットとはなにか、その真の姿や未来について書かれたもの。特に印象的だったのは、コンテンツ側がいかにプラットフォーム側と付き合っていくのかという点です(ほかにもテレビの未来やビットコイン人工知能などについても述べられています)。

ネットのムーブメントも”まだ”テレビが起こす

まず前提として、ネット時代には紙媒体と違い、制作から流通までのすべてのプロセスを持つことができなくなりました。端的に、流通部分におけるネットやプラットフォームの影響力が大きくなってきたからです。

ネットで従来のマスメディアのビジネスが危機を迎えている根本的な理由は、独占していた情報の流通経路がネット企業に奪われ、情報の発信者としては個人とすら競争しなければいけないという完全自由競争のなかに放り込まれたからです(47ページ)

それでもSNSなどのプラットフォームやネットメディアは、プロモーション媒体としてまだマスメディアに負けているようです。本書では「Facebook発のヒット商品とかブームとかが生まれにくい、プロモーション媒体になりにくい」とも書かれており、いまだにマスメディアが重要だとしています。

ネットメディアにおいても口コミを喚起するための正当な宣伝手法はマスメディアを使うことなのです。そしてネットには、まだテレビほどの巨大な影響力のあるマスメディア的なものは存在していないのです。これが、いまだにネットのムーブメントを起こすのにもテレビがもっとも重要なメディアである理由ですし、また、テレビをまったく見ないような若い世代に対してはなかなか有効なプロモーション方法が存在しない理由です(62ページ)

コンテンツの価格は「依存度」で決まる

また、ネットコンテンツ無料論にも触れられています。川上さんは「複製費用が無料だからではなく、ネット利用者間においてコンテンツが無料になるのはいいことだという素朴な価値観が存在する」と指摘しています。では、どのようにネット上におけるコンテンツの価値や値段は規定されるのか。

納得度が高かった文章のひとつに、「コンテンツの価格は人間が持つそのコンテンツへの依存度で決まる」というものがありました。つまり、フリーミアムモデルであれば、無料コンテンツで顧客との接点を増やし、徐々に生活での依存度を高めたところで課金してもらう。ソーシャルゲームニコニコ動画、クックパッドなどを考えてみても、「依存度」との表現は腑に落ちました。

そこでこのエントリーで紹介したい、コンテンツとプラットフォームの関係について入っていきます。本書ではプラットフォームの役割を「形のないデジタルの世界でコンテンツをどのようにつくっていったらいいのか、その仕組み(フォーマット)を提供する」と表現し、具体的な役割として、ビジネスモデルの提供、ユーザベースの提供、プロモーション手段の提供、コンテンツの枠組み(フォーマット)の定義、コンテンツの品質の管理の5つを挙げています。

ネット時代、手離れの悪い地道な客商売が大切

現在の(ウェブ)コンテンツを考えるうえでは、アップルやアマゾン、グーグル、フェイスブックなどのプラットフォームの優位性について考えなければいけません。要するに、コンテンツ側がプラットフォーム側に搾取されないためには、どのような考えや戦略を持っておけばよいのか。

コンテンツをつくらないというのは、プラットフォームにとっては楽をする戦略であるともいえます。また、プラットフォームが並立している場合にはプラットフォーム間の競争のためにコンテンツが販促手段として犠牲にされがちな構造が先のようにあるわけです。ですからぼくは、コンテンツはつくらないと宣言するプラットフォームがフェアであるとも責任ある態度だとも思いません。任天堂ソニー・コンピュータエンタテインメントのように自らもコンテンツをつくり、コンテンツから利益をあげる家庭用ゲーム機のようなプラットフォームが、実はコンテンツが儲かる仕組みが維持されて、コンテンツのクリエイターにとって幸せな環境ではないかと思うのです(110ページ)

川上さんはプラットフォーム提供者がコンテンツもつくるモデルがクリエイターにとってよいのではないかと述べています。さらには「ネット時代のクリエイターだったり出版社だったりは、コンテンツ自体を独立したプラットフォームとして設計しなければいけない」「顧客接点の死守が重要なポイント」という言葉もあります。

プラットフォームが決めるレベニューシェアの比率や広告料金、そして規約などの変更。これらの主導権を握られていては、収益をあげることがむずかしい状況です。どのようにしてプラットフォームの協力を得ずにメディアを運営し、コンテンツをつくり広げていくのか。要するに、コンテンツ側がプラットフォームに依存せず、顧客に関するデータなどの情報を持つことが重要になるのです。

ネット版のファンクラブをつくって会員限定のサービスをすればいい、という提案もされています。「大量複製して大量販売するだけのコンテンツ側にとって夢のような黄金時代は終わって、ネット時代には昔のように手離れの悪い地道な客商売が大切になるのです」。まさに読者のコミュニティや読者とのコミュニケーションを意識したメディア設計がますます必要になってくるのではないでしょうか。コンテンツという言葉が連発してしまいましたが、『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』(NHK出版新書)もたくさんの発見がある本でした。

ラップ歌詞の脚注からはじまった「Genius」、対象をすべてのウェブページへ拡大

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2009年、ラップの歌詞に脚注をつけていくことからはじまった、Rap Genius(現Genius:ジーニアス)。サービス名のラップが取れたタイミングで、ニュースや歴史、映画、法律などさまざまコンテンツに脚注をつけることが可能になっていました。

2015年4月からは、新たな展開として、ベータ版の機能をスタートしています。これによって、インターネット上のあらゆるページに対して、脚注をつけることが可能になりました。つまり、ジーニアスのサイト内以外にも、外部サイトのページにコメントを加えることが可能になったのです。

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(ジーニアスの本サイトでの脚注)

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(ロサンゼルス・タイムズによるボブ・ディランのスピーチの書き起こし文章に対する脚注)

すべてのウェブページに注釈をつけることができるのは、ビジョンとしてとても壮大で、ある種ウィキペディアのような機能とも言えます。Google Chromeなどの拡張機能なども公開し、さまざまな場所で使えるように整えているところです。脚注にはテキストと画像、リンクなどを入れることができ、だれかのコメントに乗っかることもできるので、それなりに詳しく解説できます。

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(脚注が付けられているサイト一覧)

ところで、Geniusは2012年にはAndreessen Horowitzから1500万ドルの資金調達を実施しています。今回はベータ版のサービスと言えど、かなりぶち上げたものになりそうなので、さらなる調達もしていくのでしょうか。さまざまなネット記事にコンテキスト(文脈)を与えていく新種のメディアサービスの事例としても動向を追っていきたいですね。広く普及すれば、メディアが導入するコメントシステムに取って代わる可能性もあるかもしれません。

(参照)Genius Beta on Product Hunt

プラットフォームによる新しい指標づくりが重要ーー「Medium創業者エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」を読んで

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 WIRED.jpに掲載されていた「Mediumをつくった男、エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」という記事が非常におもしろかったです。月間MAU2500万人を超えるというこのプラットフォームでは「書き手と読み手のための最高のツールをつくること」を重視しているそう。

ここで挙げられている7つの教訓は、一つひとつ考えさせられるものでした。

  1. アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない
  2. 人々が互いに話しかけるのを助けるのは、思ったより難しい
  3. しかし、人々が互いに礼儀正しくするのを助けるのは、思ったより簡単だ
  4. オンラインでの礼儀正しい会話を生むためのカギは、ソーシャルツールを適切なものにすることだ
  5. プラティッシャー(platform+publisher)
  6. 人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く
  7. 書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ

プラティッシャー「Medium」が重視する指標

アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」「プラティッシャー」「人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」の3つを取り上げてみます。

まずは、「アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」ということ。Mediumでは、「TTR」(Total Time Reading)という指標を用いて、ページの閲覧時間を重視しています。

このようにページビュー以外の指標を掲げ、プラットフォームの世界観とセットで打ち出していくのは、いちメディアが滞在時間を重視します、ということよりだいぶインパクトのあることでしょう。そのため、メディアが新しい指標を設けていくことはもちろん、プラットフォーム側がルールを書き換えていく動きにも注目していきたいですね。

次に、パブリッシャーとプラットフォームと掛け合わせた造語プラティッシャー」について。この考え方は、腑に落ちる部分もあるのですが、独立したパブリッシャーや独立したプラットフォームと比較すると意外と成功事例は少ないように思います。海外ではフォーブスが大量のブロガー活用をしたり、ヤフーがジャンル特化型のメディアをつくったり、さまざま動きがあります。実際、Mediumでも、いくつかのメディアを立ち上げています。

おそらく短期的にはプラットフォームがパブリッシャーに寄っていくのが目立つと思うのですが、逆のほうがインパクトがあるのではないかと考えています。はっきりと言語化はできていませんが、以前書いた記事にも通じるところがありそうです。

満足と期待に対する課金、そのバランス

人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」というのは、コミュニティとも結びつく発想です。ページビューを稼いで広告で稼ぐ、よりも小さく密な読者に向けてじわじわを広げていくようなモデル。

最大公約数というよりは、最小公倍数から攻めていく。ローカルやニッチ、専門性・・・ネット上の情報の切り貼りで完結しない、一次情報を発信するメディアはこのような考えが多くなっていくのではないでしょうか。特に課金においては、満足に対する課金、期待に対する課金、そのバランスが重要になるのではないかと思います。

エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓は、メディアにかかわる立場(ライター/編集者、メディア/プラットフォーム、コンテンツ/広告(営業))や、メディアのかたち(広告型/課金型など)によって強く共感したり、ピンとこなかったりするのだと思います。「書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ」と言えるのはとても強いです。

フェイスブック、ViceやVox Mediaなど7メディアと提携——ブランド向け動画広告の拡充へ

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フェイスブックが動画広告まわりで新たな動きを見せました。毎日40億回ほど閲覧されるというフェイスブックにおける動画(1月の30億回から大幅アップ)。アメリカのフェイスブック利用者の8割近くが動画を観ようとフェイスブックを訪れるというデータもあり、さらにこういった傾向は強まっていきそうです。

発表は「Anthology: Helping Brands Tell Stories through Video Ad Content」というリンクで知りました。ミレニアル世代の支持を集めるVice Mediaや分野特化メディアを数多く持つVox Media、Oh My Disney(ディズニー)、グルメ動画サイトのTastemade、CollegeHumorという若者に人気のサイトを運営するElectus Digital、政治風刺サイトThe Onion、名前の通りおもしろい動画制作で知られるFunny Or Dieという、特に動画コンテンツに力を入れている7つの会社と提携。

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「Anthology」と名付けられたメディアの集まりであり広告プログラム。広告主(ブランド)がこの7つのメディア(動画制作を請け負う)を選び、動画広告を出稿できるというもの。売りは「Deliver highly relevant, insight-driven, storytelling」で、高い関連性やインサイト駆動、ストーリーテリングの3つの観点に強みをもつ動画広告を実現していくようです。

フェイスブックというプラットフォーム上で広告主のメッセージが最適なかたちで伝わり、結果として広告の高い成果を残すことを目指します。先日、ニューヨーク・タイムズやバズフィードとのオリジナルコンテンツ掲載についての報道もあったばかりなので、メディアを囲っていく動きがどんどん盛んになり、メディアが制作業ばかりになってしまう可能性もあるなあという印象です。

ただ、プラットフォームに合わせたクリエイティブの重要性が増していくことはたしかでしょう。Anthologyについては今後もパートナーを拡大していくようなので展開には注目していきます。

「これからのメディアはプロセスや共同体、生きる空間でもある」 佐々木俊尚さんとバズフィードが捉える未来のメディア像

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「LIFE MAKERS」トップページより)

メディアは単なる「情報を流す存在」ではなくなっている

先週末、佐々木俊尚さんの有料サロン「LIFE MAKERS」のオープニングプレイベントでスマートニュースでメディアコミュニケーションディレクターを務める松浦茂樹さんと佐々木さんのトークを聞いてきました(このブログ「メディアの輪郭」は賛同メディアとして参加しています)。

佐々木さんがイベント冒頭で「メディアはもはや媒体ではなく、プロセスであり、共同体であり、生きる空間・・・」と現在(そしてこれから)のメディアを表現していたのに共感しました。この言葉について取り上げてみます。

サロンのページではメディアについて以下のように書かれています。佐々木さんはメディアとライフスタイルと時代精神が結びついているものとして捉えていることはさすがです。

メディアは単なる「情報を流す存在」ではなく、私たちのコミュニケーションやコミュニティをすべて包み込んで、ひとつの大きな空間を作りあげようとしています。すなわち私たちが生きているこの世界そのものの写し絵になろうとしてきています。それが現在進行形のメディアイノベーションの本質なのです。

佐々木俊尚PRESENTS【LIFE MAKERS】

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「バズフィードはただのサイトではなく、流通までのプロセス全体」

「メディアはもはや媒体ではなく、プロセスであり、共同体であり、生きる空間・・・」という言葉を聞いて、思い浮かべたメディアは、バズフィードでした。なぜかというと、CEOのジョナ・ペレッティ氏が「バズフィードはただのサイトではなく、流通までのプロセス全体」という言葉を残しているからです。

「コンテンツがどこで生きるべきかについて、固定観念はもっておらず、アプリなのかウェブなのか、モバイルなのか、読者にとってなにがベストなのかをいちばん気にかけている」

「ただのサイトというよりは、ウェブやモバイル、アプリのうえでニュースや話題なもの、暮らしなどのコンテンツを流通させるプロセス全体」

「バズフィードはただのサイトではなく、流通までのプロセス全体」——創業者が語る - メディアの輪郭

月間訪問数が2億を超えるバズフィードは、脱中心・分散型メディアの例として挙げられることがあります。分散型メディアとは、これまでのメディアを束ねてポータル化する動きや自社サイトでコンテンツを見てもらうのではなく、各プラットフォーム上に最適化されたコンテンツを流すようなメディアのあり方です。

バズフィードであれば、フェイスブックやピンタレスト、ツイッターYouTube、最近では各種メッセンジャーアプリなどに合わせたコンテンツ開発・流通を考え抜いています(「BuzzFeed Distributed」という部門まである)。今回のイベントでは、自社サイトをなくした、短い動画ニュースメディア「NowThis」の名前も出ていました。

分散型については、テッククランチの「BuzzFeed CEO曰く『リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる』」という記事もかなり示唆に富む内容なので、ぜひチェックしてみてください。

ここでは記事(article)といった言葉ではなく、「コンテンツ」という言葉を使っているのがまさにバズフィードの強みだと感じました。記事をはじめ、テキスト、写真、GIF、映像、スライド・・・さまざまなコンテンツを揃え、流通経路に合わせて最適化できる体制があるのはすごいです。シェアするときのモチベーションに着目している点などとてもおもしろいのではないでしょうか。

コンテンツをシェアする際に付される文言を、BuzzFeedでは「Share Statement」(試訳:共有見出し)と呼んでいるそうだ。記事などをシェアする際に、自分で付加する文章のことだ。Peretti曰く、「Share Statement」は記事のもともとの見出しなどよりも重視すべきものだとのこと。この「Share Statement」の分析により、利用者が「なぜ」(なにを、ではなく)コンテンツをシェアしたのかを理解することができるからだ

BuzzFeed CEO曰く「リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる」 | TechCrunch Japan

メディアはいま、生活に溶け込もうとしている

佐々木さんはTABI LABOというモバイル×ソーシャルに特化したメディアの共同編集長を務めていることもあり、海外における最先端のメディアのトレンドを正確に噛み砕いているのでしょう。佐々木さんの場合はシェアリングエコノミーの文脈をはじめ、メディアのあり方がライフスタイル空間そのものといった印象をもち、この点が特徴的でした。

最後に、いまメディアは生活に溶け込もうとしている、そうでないと、メディアとしての役割や機能を果たすことがむずかしくなっているのではないかと思いました。たとえば新聞なんかは、パッケージの価値や編集の技術などは評価すべきですが、あれほど大きなサイズの紙束を広げて、めくって読まなければいけないメディアなので、手のひらでの情報消費が盛んな時代にはどんどん厳しくなっていくのでしょう。

いち編集者として、コンテンツづくりに目を向けることは変わらずですが、受け手が情報を閲覧する環境への意識や、暮らしへの自然な溶け込み方を考えないといけないなあと改めて思いました。

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新しいマスの発見か、濃い信者コミュニティか? これからのメディアが生き残るための2つの方向性

これからのメディアのあり方、生き残り方。スマートフォン時代にメディアが成立していたさまざま前提が変容しているなか、お金まわりを含めた(Web)メディアの持続可能性のようなことを最近考えたり、いろんな人と話すことが増えたような気がします。

先月、下北沢の本屋B&Bで若手編集者のトークイベントではバズフィードのような各プラットフォームへの最適化をしてネイティブ広告で収益を上げるメディアかコミュニティが支えるメディアであったり、有料サロンのようなものが有効なのではないか、といったことも話したりしました。

つい先日「佐藤詳悟×佐渡島庸平×古川健介×宇野常寛×【司会】高宮慎一 『クリエイティブの生存条件』」というヒカリエでのイベントを聴きにいったのですが、ここでは宇野さんが「これからのコンテンツはディズニーと地下アイドルに分かれていく」「カルトな固定客の共同体をいかに開くかのゲームをやるか、文化を趣味で消費する人を増やすしかない」と語っていました。

以下、メモの一部を記してみます。

インターネット時代、何に対してお金を払っているのか

インターネット時代、特にスマートフォンが普及してすきま時間にさまざまなエンターテイメントが消費されるようになり、コンテンツ自体へのマネタイズがむずかしくなってきました。一方、音楽業界ではCDよりもライブやフェスなどが好調で、体験にお金を払うようにはなっているのではないか、という視点もよく話題になっています。

佐渡島さんは「インターネット時代には何に対してお金を払っているのか」という問いを立てました。アマゾンのマーケットプレイスを例にとれば、価格ではなく便利さであったり。「『満足』というものに支払っているのではないか。ユーザーの実感値に応じてそれぞれが最大を払うということです」。

佐藤さんは「ネットでは課金のポイントがずれている。金払いが悪くなった部分、よくなった部分もあるのでは」と言っていました。「ソーシャルゲームが急成長して、ガムの売上が下がった」というエピソードから、スキマ時間の奪い合いには限界があるため、娯楽時間よりは、もっと生活に密着なところでの戦いが必要になるとの意見でした。

例に挙げられたのは「自己実現」。古川さんは海外でユーザー課金に成功しているメディアは自己実現を学ぶことができるようなサイトがあり、国内ではスクーがそういうポジションにあたると紹介しました。コンテンツ消費について佐渡島さんは(このメディアやコンテンツでなければいけないと)こだわりのある人は5%くらいで、残りの95%はなんとなく時間をつぶしていると捉えており、自己実現などで時間を奪っていくには参加型がカギだと述べました。「物販だけでは売れない。キャラクターのTシャツを売るなら、たとえば2種類用意して、みんなに投票してもらうなど物販自体を参加や応援、競争意識に変えていく必要がある」。

カルト的なコミュニティはメディアの突破口なのか

今回のイベントでは、「カルト的なコミュニティ」といった言葉が何度か聞かれました。つまり、クリエイターの信者が集まる濃いコミュニティにアウトプットを提供し、お金をもらう、といったマスメディアとは真逆の場所でしょうか。ただ、内輪化・タコツボ化してしまう恐れがあります。佐渡島さんは「タコツボ化したとしても時代のタイミングや普遍性をもってヒットしていくのではないか。その一回で顧客が生まれて、経済圏が発展していくこともありえる」との認識でした。

高宮さんからは、コンテンツをメディアに合わせて最適化する話が出ました。動画ではMCN(マルチチャンネル・ネットワーク)、グーグル時代の検索型の課題解決サイトではnanapiなど。ただ、高宮さんは「コンテンツをつくっても、またSNSごとにつくりかえないといけない」と指摘。サイト向けのコンテンツがそれぞれのSNSにとって最適なかたちでないことがあるからです。

古川さんは海外の動画ニュースサイト「ナウディス」が自社サイトを持たず、ほかのプラットフォームに最適化している事例を共有しました。「今後は1時間の動画をつくってもYouTubeVineに合わせて自動的に適応するようになると思う。コンテンツをつくった人がこう見せたいというのが通用しない時代になっている」。

「固定ファンを囲うことは作家の表現にとって不幸なこと」

いちばん頭に残ったのは、佐渡島さんがいまの出版社にはコンテンツに興味のある人が入ってきているが、ビジネスモデルをつくった人たちはいなくなっているという点。

新聞や雑誌は当時のライフスタイルに最適な媒体でありビジネスモデルだとしたら、現在版へとアップデートする必要が生まれてきます。しかし、長らく同じビジネスモデルが通用してきた業界では、しばらくの間は中身をつくる人ばかり集まり、時代に呼応するビジネスモデルを発明できなくなっているのです。スマホのタップさえも面倒な時代というと極端かもしれませんが、現代の暮らしに適応したビジネスモデルやメディアのかたちづくりが早急に必要になってきています。

宇野さんは「新しいパブリックをつくること」が必要と発言。佐渡島さんは「各作家のコミュニティをつくる。それ以上は出てきていない」とまだ答えを出せていないようでした。古川さんは「かなりのコンテンツがコミュニケーションにとられてしまった。すごくおもしろい映画と彼氏からのメールが同じくらいの価値になってきている。ニコ動みたいに文脈と文化が生まれることでコミュニティをつくることが必要」と述べました。

ただ、カルト的なコミュニティでは才能やクリエイティブをつぶす可能性があることも議論されました。宇野さんは「固定ファンを囲うことが作家の表現にとって幸せなのか。不幸なことだと思う」、佐渡島さんも「カルト的なコミュニティからは新しいものが生まれない。ヒット曲をここでも歌ってとか、あの続編を書いてと言うファンだけではダメ」、高宮さんは「一度フォーマットができると、劣化版や類似のものが生まれ続ける。そうなるとクリエイティブの源泉となる作家を前線に出し続けられるかが問われる」とそれぞれの意見を交換しました。

別の角度から佐渡島さんは「映画はもともとはオリジナルに撮影したものだったが、マンガや小説などを原作にするようになってしまった。新人から育てることやクリエイターに危機感を与えるようなことが減ってきている」と現状の課題を提示。たとえば、別の新人が生まれたら、ほかの才能が休んで新しいチャレンジをしたり。「サザンオールスターズが何年も休めていたのは、アミューズがほかの才能を見つけて育てていたから」。才能たちが休んだり非連続な活動、または違う分野の知見を身に付けたりする期間は必要なのかもしれませんね。

ブログはファッション、ニコ動はパッション

新しい才能の発見において、はてなやnoteなど日本のブログサービス/メディアプラットフォームの問題にもつながるという宇野さんは「固有名詞が出てきていない」とその共通点をまとめます。「作品や人物名など固有名詞を出せたのはニコニコ動画。ブログは人単位だが、ニコ動は動画にファンが付いてコンテンツ単位のコミュニケーションが生まれていた。これがヒントになる」。

佐渡島さんはこれに対して「ニコ動はエンタメ分野の発信だったからできていたが、個人単位で同じようなジャンルを発信できる場所があれば変わってくるのではないか」と反論。宇野さんの「人単位でやっている限りコンテンツは鍛えられない。ドワンゴはお客さん(具体的な新しい日本人像)が見えていたのがよかった」という発言を受け、佐渡島さんは「お客さんが見えていることは、コンテンツづくりにとって大きい」と同意。「昔の雑誌では編集長やほかの作家がもっている熱がコンテンツ制作に影響を与えていたが、最近では雑誌からも消えてきている(カラーが弱まっている)」と続けました。また、宇野さんはニコ動ではランキングによってクリエイターの競争意識が生まれていたことが重要だった、と述べました。

宇野さんは最終的に、「カルトな固定客の共同体をいかに開くかのゲームをやるか、文化を趣味で消費する人を増やすしかない」という結論を出しました。だからこそ、文化を求めていない人にマンガや音楽などのコンテンツとの接点をつくり、楽しんでもらうための施策をひたすら考え続けなければいけなくなってくるのでしょう。佐渡島さんは「世の中が便利になればなるほど、面倒なことや非効率的なことに対して幸せを求めたりする。極端に面倒くさいコンテンツをつくることが挑戦になる」と語りました。

全体を通して、宇野さんが「日本の雑誌は戦後のカルチャー、特に中流のサラリーマンの文化と結びついている。これからは、新しい日本人のライフスタイルに入れこむチャレンジが必要」という旨の話していたことが印象的でした。スマホでのスキマ時間消費がさまざまなメディアのあり方を問い直し、存在自体が揺らいでしまう時代の(ビジネスモデルを含めた)メディアを発明するためのヒントがこのイベントの随所にあったように思います。また、佐渡島さんが準備中の「どんなものにもデータを宿すことができる」新アプリのデモもとてもワクワクするものでした。リリースが楽しみです。

イベントのほぼ全容が気になる場合は以下のTogetterまとめなどに目を通してみるとさまざまな気付きや発見があるかもしれません。

スナップチャットにメディアと広告が集まる理由——米利用者の7割が18〜34歳、「Discover」は1メディアにつき100万人が閲覧

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(左:スナップチャットの「Discover」ページ、右:CNNの国際ニュース)

開封すると特定時間が経つと消える動画メッセージアプリ「スナップチャット」が1月末に発表した新サービス「Discover」。CNNやYahoo! NEWS、National Geographic、VICEなど影響力のあるメディアが参加したことでも話題となりました。

「Discover」の投稿は24時間は消滅しないというもので、メディアのアイコンをタップするだけで動画ニュースを閲覧できます。バズフィードは交渉中でまだ入っていないですが、参加となったらさらにおもしろい展開となりそうです。利用シーンについては公式のYouTube動画がアップされているので、ぜひご覧になってみてください。 

さて、スナップチャットにこれだけの有力メディアが集まるのには、その規模とユーザー層にあるかと思います。規模はすでに1.7億人のアクティブユーザーを抱えています。

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(出典:ComScoreより)

ユーザー層については、ComScoreのグラフが一覧性があってわかりやすいです。18〜24歳の割合は2位のインスタグラムの倍ほどの45%。25〜34歳の割合はインスタグラムと並びトップとなっており、若い利用者層をデータでも実感できます。

アメリカにおけるスナップチャット利用者の7割以上が18〜34歳というのは驚異的です。35歳以上の割合の少なさも強調されるべき点かもしれません。

ちなみに、ブルームバーグの記事によれば、「Discover」に配信される動画やニュースの閲覧者は1メディアにつき平均100万人。「Discover」の広告は1000回の閲覧数につき100ドルといった設定という話もあります。また、広告はレベニューシェアとなるようです(媒体側の広告の場合は収益の7割が媒体へ、スナップチャットが広告を出す場合は半分ずつ)。これらのようなことから、広告出稿の場としてもどんどん魅力的になっているのでしょう。

メディアや広告、ストーリーテリングの再発明が起きそうな予感がしますね。

ブログプラットフォーム「Medium」が新メディア「Bright」を公開——教育イノベーションを伝える

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ブログプラットフォーム「Medium」が3月31日、新メディア「Bright」を公開しました。テーマは「Innovation in Education」、教育におけるイノベーションです。

編集を担当するのは、課題解決型ジャーナリズムを提唱する「Solutions Journalism」に務めるSarika Bansal氏。ハーバード大学卒、マッキンゼー勤務やニューヨークタイムズでのインターンを経て現職という人物です。

ピンタレストが子どもたちの授業にもたらす革命、科学的にみた完璧な教室、戦争ゲームの影響で歴史専攻した人の話・・・など興味深い切り口のメディアが揃っています。このメディアでも、課題解決寄りのストーリーを提供していくようです。「The New Venture Fund」からの資金提供、ゲイツ財団のサポートなどを受けながら運営していくとのことで、教育に関心のある方は読んでみてはいかがでしょうか。

Mediumについてはこれまで何度か伝えてきましたが、当初のプラットフォーム戦略からどんどんと編集の色を強めています。いわゆるプラティッシャーという志向です。

Mediumの思想については、WIREDの「ミディアムは世界の何を変えるのか:Twitterをつくった男の次なる挑戦」という記事にくわしいです。「新しいアイデアを生み出す」、そして「イデアは交換したほうが、社会全体がより良い場所になる」ということだそう。

「いま、この世の中に生まれるメディアの量は多すぎる。それに比べて、新しいアイデアの創造は足りない。いまぼくらが暮らす世界を説明し、よりよい決断を下すための新しいアイデアを生み出すために、何ができるか、というところが起点になったんだ」

「ミディアムを立ち上げようと思ったときにもっていたヴィジョンは変わらない。そのヴィジョンを実行に移すための商品は大いに進化してきたけれど。立ち上げのときに実現したかったヴィジョンは、人がひとりで考えるアイデアよりも、人が集まったときのほうが良いアイデアを思いつくことができる、という考えが軸になっている。アイデアは交換したほうが、社会全体がより良い場所になる」

ミディアムは世界の何を変えるのか:Twitterをつくった男の次なる挑戦

実際のところ、Mediumが立ち上げている特定のジャンルに絞ったメディアは記事も強烈で濃いです。ジャーナルメディア「MATTER」(正確には買収してリニューアル)、テックメディア「Backchannel」、音楽メディア「Cuepoint」、 スポンサードメディアにはBMWをスポンサーに迎えた「Re:form」やホテル会社マリオット・インターナショナルがスポンサーについた「Gone」 などがあり、今回の「Bright」を加えると6つとなります。

今後どのようなジャンルを押さえていくのか、そしてBackchannelでは『グーグル ネット覇者の真実』『マッキントッシュ物語―僕らを変えたコンピュータ』などの著書でも知られるジャーナリスト、スティーブン・レヴィを起用したように人材の獲得にも目を向けていきたいですね。

クリエイティビティは作者ではなく環境に宿る? コンテンツから偶然の出会いを仕掛ける必要性

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(Photo by Lance Anderson/Creative Commons Zero

ソーシャルゲームにおいて最もクリエイティビティが注ぎ込まれているのは、「ユーザーにゲームをやめさせない」ためのシステム

ソーシャルメディアまとめサイトなど情報が半ば自動的に生成されるプラットフォームが隆盛する時代に、どのようなものがクリエイティブなコンテンツなのか。情報社会の情念―クリエイティブの条件を問う』を読むことで、その答えが少しわかりました。

プラットフォーム側のみならず、コンテンツ/クリエイター側からの視点も多く入っていることでバランスのよい書籍となっています。「流行っているものがあったら、同じようなものを作りまくるべきだ」というグリー・田中良和社長の言葉を軸に、ソーシャルゲームのプラットフォーム運営の思想に迫ります。UIやキャラクターなども重要な要素でありながら、データマイニングがなお重視されるとのこと。

オンラインで数千万人のユーザーを快適にプレイさせるには、ゲームのインターフェイスの背後にある、データベース設計やデータ分析といった「運営」の領域が最も重要なのである。(32ページ)

また、ユーザーがどこで離脱しているのかという原因を探り、改善していくということから、「ソーシャルゲームにおいて最もクリエイティビティが注ぎ込まれているのは、『ユーザーにゲームをはじめてもらう』ための方法ではなく、『ユーザーにゲームをやめさせない』ためのシステムなのである」という指摘がありました。

もちろん、ソーシャルゲームにかかわる人にとっては基本的なことなのかもしれませんが、現代のクリエイティビティは作者ではなく、環境に宿ることになりがち。つまりは、プラットフォームによって、コンテンツの性質が決定されるというのです。

パーソナライズされた環境は自分が抱いている疑問の解答を探すには便利だが、視野にはいってもいない疑問や課題を提示してはくれない」

良き設計者とは何か、また、誰なのか。本書ではこのような問いを立てています。コンテンツの作者ではなく、プラットフォームの設計者がクリエイティビティに大きくかかわることができる状況にあるからです。プラットフォーム主権の環境では、パーソナライゼーションをはじめ、課題が表に出てきます。

たとえば、Upworthy創業者のイーライ・パリサーは書籍『閉じこもるインターネット』のなかで、「パーソナライゼーションとは、既存の知識に近い未知だけで環境を構築することだ。(中略)パーソナライズされた環境は自分が抱いている疑問の解答を探すには便利だが、視野にはいってもいない疑問や課題を提示してはくれない」という言葉を残しています。過去のクリックが未来の選択を決定要因として影響を与えてしまうなら、新しいものに出会うことがなかなか難しくなってしまいそうです。そして、多様性は失われていきます。

不規則性やランダムなものが提案として挙げられていますが、ユーザー視点では快適なものではないので、解決策として機能するかというと難しいでしょう。しかし、本書では、プラットフォームの運営思想があったとしても、偶然の出会いをもたらすコンテンツの例を取り上げています。

ニコニコ動画初音ミクにおけるコミュニケーション消費(空間)もあれば、寺山修司の都市を舞台とした演劇「市街劇」における虚構というコンテンツと想像力によってプラットフォーム(この場合は街)に偶然性をもたらす取り組みもあります。

市街劇は政治色をもって生まれたものだそうですが、寺山氏の場合は現実と虚構を混在する状況をつくること自体を目的としていたとのこと。また、「出会いの偶然性を想像力によって組織すること」を演劇としています。作品(コンテンツ)のなかに「外部」や「他者」といった、快適な情報生活では出会わない要素を組み込み、出会うように仕掛けるという発想はかなり興味深いです。

自分が好きなもの、嫌いなもの。見たいもの、見たくないもの。そんな両極性をもった情報体験をどのように実現できるのか。情報社会の情念―クリエイティブの条件を問う』という本は、コンテンツから偶然性を仕掛ける可能性について考えるきっかけになるかと思います。