Medium、5700万ドル調達――良質なブログプラットフォームはようやく収益化に向かうのか
ブログプラットフォーム「Medium」がアンドリーセン・ホロウィッツをリードインベスターとする資金調達を実施、その額は5700万ドルとのことです(Google VenturesやGreylock PartnersもシリーズAに続き参加)。Re/codeなどが報じています。増資前評価額は4億ドル。
アンドリーセン・ホロウィッツは2014年8月にバズフィードに対して5000万ドルの投資をおこないましたが、今回のものはそれ以上の規模となっています。
ページビューではなく読んだ時間に指標を置くMedium。毎週2万人以上が投稿し(意外と少ない)、2500万訪問数を記録しているようです。ミニマルなデザインのなかで良質なストーリーを読む場所としての完成度は高いので、あとは収益化の部分が課題でしょう。
すでにテックやトラベル、サイエンス、教育などさまざまな分野のメディア内メディアを立ち上げそのなかの一部は企業によるスポンサードとなっています。今年3月にはVox Mediaで広告営業のトップだったJoe Purzycki氏が参画。スポンサード広告のほか課金なども収益化の選択肢として考えているようです。
なお10月7日にはイベントを開き、新機能や新たなパートナーシップなどを発表するとのことで楽しみに待ちたいです。「メディアの輪郭」ではMediumについては編集者を入れていく動き(プラティッシャー化)や指標づくりなどに注目しており、いくつかブログを書いたことがありました。
ブログプラットフォーム「Medium」、編集を入れてジャンル特化の動き(2014年5月)
プラットフォームとパブリッシャーの中心にある「プラティッシャー」。メディアの「プラティッシャー化」はしばらくは注目の動きとなりそうです。
そんな中、Digidayの記事にTwitter共同創業者エヴァン・ウィリアムズとビズ・ストーンが立ち上げたブログプラットフォーム「Medium」のプラティッシャーの動きについて書かれていましたので紹介します。
日本語のでは、「新しいブログのプラットフォームMediumがその存在感をどんどん増している件」という記事にその特徴や思想がまとまっています。同記事で紹介されているMediumのラディカルさは以下の点です。
- 価値のある記事は、誰が書いたかは関係ない
- 価値のある記事は、いつ書いたかは重要ではない
- ひとりの最高の書き手の100の記事より、100の書き手の最高の記事のほうが価値がある
- 記事の価値は、共有された「数」などで計ることはできない
- ひとりの読み手は、限られた数の記事しか読むことはできない
この点を知るだけでも、十分おもしろいのですが、このたび編集を入れて、ジャンル特化の動きにも出ていくMedium。現状では、毎日1200本ほどの記事が投稿され、そのうちの90%が無償での投稿とのこと(つまり120本ほどが有償で書かれた記事)。
これまでも一部の寄稿者に報酬も支払っていたMediumですが、まずはスポーツに特化したメディア「The Cauldron」をつくり、50名ほどの編集者やライターを用いて、コンテンツをつくっていくようです。
良質なプラットフォーム上で、良質なコンテンツをパブリッシュしていく。スポーツ以外にも、様々なジャンルに進出するようです。ユーザー投稿型と、パブリッシャーの境界線の非常にあいまいなところにいるMedium。そのバーティカルメディア戦略には注目したいですね。
プラットフォームによる新しい指標づくりが重要ーー「Medium創業者エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」を読んで(2015年5月)
WIRED.jpに掲載されていた「Mediumをつくった男、エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓」という記事が非常におもしろかったです。月間MAU2500万人を超えるというこのプラットフォームでは「書き手と読み手のための最高のツールをつくること」を重視しているそう。
ここで挙げられている7つの教訓は、一つひとつ考えさせられるものでした。
- アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない
- 人々が互いに話しかけるのを助けるのは、思ったより難しい
- しかし、人々が互いに礼儀正しくするのを助けるのは、思ったより簡単だ
- オンラインでの礼儀正しい会話を生むためのカギは、ソーシャルツールを適切なものにすることだ
- プラティッシャー(platform+publisher)
- 人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く
- 書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ
プラティッシャー「Medium」が重視する指標
「アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」「プラティッシャー」「人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」の3つを取り上げてみます。
まずは、「アクセス解析は、最も知らなければいけないことを教えてくれない」ということ。Mediumでは、「TTR」(Total Time Reading)という指標を用いて、ページの閲覧時間を重視しています。
このようにページビュー以外の指標を掲げ、プラットフォームの世界観とセットで打ち出していくのは、いちメディアが滞在時間を重視します、ということよりだいぶインパクトのあることでしょう。そのため、メディアが新しい指標を設けていくことはもちろん、プラットフォーム側がルールを書き換えていく動きにも注目していきたいですね。
次に、パブリッシャーとプラットフォームと掛け合わせた造語「プラティッシャー」について。この考え方は、腑に落ちる部分もあるのですが、独立したパブリッシャーや独立したプラットフォームと比較すると意外と成功事例は少ないように思います。海外ではフォーブスが大量のブロガー活用をしたり、ヤフーがジャンル特化型のメディアをつくったり、さまざま動きがあります。実際、Mediumでも、いくつかのメディアを立ち上げています。
おそらく短期的にはプラットフォームがパブリッシャーに寄っていくのが目立つと思うのですが、逆のほうがインパクトがあるのではないかと考えています。はっきりと言語化はできていませんが、以前書いた記事にも通じるところがありそうです。
満足と期待に対する課金、そのバランス
「人々はより少ない読者に向けて発表するときに、より多くを書く」というのは、コミュニティとも結びつく発想です。ページビューを稼いで広告で稼ぐ、よりも小さく密な読者に向けてじわじわを広げていくようなモデル。
最大公約数というよりは、最小公倍数から攻めていく。ローカルやニッチ、専門性・・・ネット上の情報の切り貼りで完結しない、一次情報を発信するメディアはこのような考えが多くなっていくのではないでしょうか。特に課金においては、満足に対する課金、期待に対する課金、そのバランスが重要になるのではないかと思います。
エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓は、メディアにかかわる立場(ライター/編集者、メディア/プラットフォーム、コンテンツ/広告(営業))や、メディアのかたち(広告型/課金型など)によって強く共感したり、ピンとこなかったりするのだと思います。「書き言葉は、最も影響力のあるメディア形式だ」と言えるのはとても強いです。