メディアの輪郭

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「テレビ局はインターネットをマス的にしか使ってこなかった」ーーメディア仕掛け人たちが語る「テレビの未来」

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テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略」という記事でも書いた、メディア・シンポジウム「『テレビ・イノベーション』~テレビの歴史が変わる日~」の内容の続きです。

メディア人3名によるパネルディスカッションの様子を紹介します。登壇者は、氏家夏彦氏(TBSメディア総合研究所社長)、倉又俊夫氏(NHK報道局報道番組センター チーフ・プロデューサー)、佐々木紀彦氏(東洋経済オンライン編集長)です。

タイムフレームで見ると、テレビもネットも似ている

テレビのこれからに対して倉又氏は、「テレビの共通プラットフォームをつくる際、全局がそろわないと意味がない(NHKだけしか視聴できないアプリなど)。ユーザーは煩雑さに対して敏感だ」と答えました。

ここでも全局で新しいプラットフォームを生まないとネット発の動画プラットフォームにはなかなか勝てないということと、視聴者ではなくユーザーという捉え方で発言。

基本的にはこれまでずっとビジネスモデルが変化していないテレビ。視聴率取るということが大きな命題だったため、それほど経営は必要なかったという。いまになってようやく経営が必要になったと氏家氏。佐々木氏は、テレビの外から見たテレビの未来について語りました。

「これからテレビで起きようとしている未来は、新聞や雑誌とほとんど同じ。いまは雑誌が特に苦しんでいるだけであって、テレビにも近いうちに来る。『プラットフォーム』はキーワード。ヤフーが活字メディアについて影響力をもっていた時代だったが、コンテンツをつくるためのお金をまわすエコシステムはつくれなかった(佐々木氏)」

このようなこともあり、いいコンテンツよりも軽いコンテンツが増えてしまったきらいがあるのかもしれません。では、より深い、濃いコンテンツをつくることができる環境やエコシステムをどのようにつくっていくのでしょうか。

佐々木氏は「プラットフォームは技術が必要になるので、コンテンツを創っていた人がプラットフォーム側にいく必要がある」と述べた(自身も7月からはユーザーベース社にてNewsPicksに関わる)。

ネットメディアのエコシステムについては、まだまだ不十分なのですが、一方でテレビはどうなのでしょうか?

「タイムフレームで見ると、テレビもネットも似ている。テレビは昔、海外の映画を買って流していたし、オリジナルのコンテンツをずっとつくっていたわけではない。戦うためのツールやプラットフォームをつくらないといけない時代(倉又氏)」

テレビの広告、ネットのバナーは、メディアに最適化した広告ではない?

話は変わり、動画の話題に。今年は動画元年や動画広告元年と言われることもありますが、現状、それほど動画広告を掲載する器(メディア)がなかなかありません。

たとえば、佐々木氏が編集長を務める東洋経済オンラインでは「動画サイト」をつくり、企業のブランディングにも活用できる場を用意しました。

「クライアントも動画広告を出したい、ユーザーも動画コンテンツ見たいという状況だけれども、メディア側のネックが大きい。コンテンツをメディア側がつくらない(つくれない)(佐々木氏)」

一方で、氏家氏は「動画広告はテレビ広告以上に力を入れないとスキップされる。作り方が全然変わってくるはず」、倉又氏は「テレビにおける広告、ネットにおけるバナーというのは、実はメディアに最適化した広告ではなかったのではないか」と指摘をしました。

ウェブメディアでは、ネイティブ広告が注目を集めています。その動画版ネイティブ広告をどのメディアがシェアをとっていくのか、という点も重要になってきそうです。

最後に、倉又氏が「テレビ局はインターネットをマス的にしか使ってこなかった」という言葉が印象的でした。パーソナライゼーションやオープン、ロングテールなど、ネットならではの思想をテレビ側が取り入れていくことで、真のメディアサービス企業になっていくのではないでしょうか。

テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略」の記事とあわせて読まれると、テレビ業界の課題認識やソリューションについて、知ることができると思います。

テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略

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先週末に「『テレビ・イノベーション』~テレビの歴史が変わる日~」というメディア・シンポジウムに参加してきました。普段はウェブメディア編集者ということもあり、テレビ業界のことはほとんど知らないので、勉強も兼ねてといったところでした。

この記事では、TBSメディア総合研究所社長の氏家夏彦氏のプレゼンで述べられていたことをいくつか紹介したいと思います。

広告費、視聴率、視聴時間が低下するテレビ

一番印象的だったのは「放送局からメディアサービス企業へ」という転換が求められているということ。これはテレビのみならず、ウェブメディアにおけるプラティッシャーやテクノロジードリブンの重要性の議論とも通じるところでした。 

「テレビの限界」として挙げられたデータは、テレビの広告費がリーマンショックの影響で3200億円減となっている一方で、2005年以降のインターネット広告費が2.5倍となっていること。また、いわゆる「テレビ離れ」として、視聴率低下、テレビのリアルタイム視聴時間の低下も紹介されました。

さらには、スマホの普及もテレビ業界に影響を与えているとのこと。20代は9割、30代は8割近い人がスマホを所有する中で、SNSやゲームなどとの時間を取り合う戦いとなっているのです。

競合がごく少数で、テレビの壁に守られてきた地上波テレビ。その枠組みの中にとどまっていては、なかなか成長の余地がなく、一方で、ニコニコ動画Youtubeなどテレビの外では動画(市場)が成長しています。

テレビのイノベーション、4つのキーワード

そんななかテレビ業界のイノベーションを考える際のキーワードはどのようなものなのでしょうか。

氏家氏は、①視聴者はユーザーになった、②テレビはサービスだ、③巨大なトラフィック誘導、④テレビのビッグデータという4点を紹介しました。

「①視聴者はユーザーになった」に関しては、ユーザーというものは「いつでもどこでも検索して、ソーシャルメディアで知ったり発信したり、高度なUIで動画を楽しめる」ことが当たり前だと思っている。たとえば前述のニコニコ動画Youtubeとテレビを(ほとんど)一緒だと思っていると述べました。

「②テレビはサービスだ」については、テレビ放送がはじまってから60年間、サービスの基本形(視聴者が自宅にいて、その時にだけ見られる)を変えていないことで、「不便で時代遅れのサービス」になっていると紹介。

そのため、リアルタイム視聴の促進や録画視聴(全局全番組見逃し視聴サービスの実現に向けて注力しているとのこと)なども考えなくてはなりません。しかしながら、このような視聴スタイルが広がっていくことは、地上波テレビのビジネスモデルが崩壊することも意味するのです。

「③巨大なトラフィック誘導」については、インターネット上のテレビに関する情報を「全局全番組見逃し視聴サービス」でトラフィックを促すことで、テレビ回帰できるのではないかと氏家氏は提言。番組の特定のシーンを探すことができたり、新しい視聴スタイルを生み出すことができるきっかけにはなりそうです。

「④テレビのビッグデータ」に関しては、テレビのメタデータとユーザーのログデータの2つがあり、前者では企業のマーケティングや販促に使ってもらい、CM以外でマネタイズの可能性を摸索し、後者においては、どんな人がどんな番組をいつ見たのか、どこで見るのをやめたのか、ユーザーの行動をすべて分析し、ECなどとコラボして、購買データともシナジー生めるのではないかと紹介しました。

このようにして、テレビの視聴行動と消費行動の関連性が可視化されることで、テレビ局の新しいビジネスモデルが生まれていくことは楽しみです。

「インターネットの世界ではテレビ局1社では完全に力不足」

一方で、これまで紹介したようなテレビのイノベーションを実現するには、やはり全キー局の協力体制やオープンな思想であったり、放送局ではなくメディアサービス企業として生まれ変わっていく必要があるとのこと。

「インターネットの世界ではテレビ局1社では完全に力不足。放送だけでなく、インターネットサービスをつくり、サービスデザインによる、高い満足度の体験(UX)の提供をしていかなければいけない」と述べられていたのが印象的でした。

テレビが未来に向かっていく中で、ビジネスモデル開発やメディアサービスという立ち位置、ビッグデータ活用など、ウェブメディアとも考え方が重なる部分も多くあり、大変勉強になったお話でした。

メディア仕掛け人たちが語る「新たなメディア」ーー11のキーフレーズを紹介

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G1サミットで「現代ビジネス・瀬尾氏×スマートニュース・藤村氏×ユーザベース・梅田氏 メディア・イノベーションがもたらす社会」というセッションがあったようです。セッション紹介文は以下のものです。

既存メディアが軒並み苦戦を強いられる中、WEBメディアやニュースアプリは、今や百花繚乱の相を呈している。ソーシャルメディアの台頭によって、無数の個人が情報発信を行うようになり、情報源のロングテール化は、メディアに求められる役割を変容していく。スマホタブレットの普及が進む中、新旧メディアはどのように融合し、情報伝播の形はどのようにその姿を変えるのか。「SmartNews」、「NewsPicks」「現代ビジネス」--話題のメディアの仕掛け人たちが語る「新たなメディア」。

GLOBIS.TVでその模様を観ることができたので、印象的だったフレーズを11個紹介します。

発見と理解の欲求(梅田氏) 

経済ニュースに特化したアプリとして人気を得ている「NewsPick(ニューズピックス)」。発見と理解の欲求を満たすアプリとして設計されているため、現状では有意義なコメントが多くついて、ニュースに対して色んな視点で理解することができます。 

埋没した問題と新しい才能の発掘(瀬尾氏)

ジャーナリズムの2つの役割として挙げられた「問題の発掘」と「新しい才能の発掘」。問題の発掘でいうと、調査報道ができるウェブメディア、才能の発掘では若い書き手や組織に入っている人を起用することなどがポイントになってくるのでしょうか。 

稼げるジャーナリズム(瀬尾氏)

(マス)メディアの信頼性の危機やビジネスモデルの危機がある中で、稼げるウェブメディアをつくるということは重要です。有料課金やイベント(カンファレンス)などはカギになってくるかもしれませんね。以下の記事も参考にしてみてください。

アグリゲーションとキュレーション(藤村氏)

ニュースアプリ「SmartNews(スマートニュース)」の強みは「あふれるコンテンツのなかで、読むべきコンテンツを選び出すこと。アグリゲーションとキュレーションで独自のポジションを獲得している」と藤村氏は語ります。

プラティッシャー(プラットフォーム+パブリッシャー)の議論にもつながりますが、どちらだけではなく両方兼ね備えていることが重要になりそうです。

ヤフトピの次(津田氏)

スマホ時代のコンテンツ流通では「ヤフトピの次」はキーワードになってくるでしょう。実際にスマートニュースやグノシー、ニューズピックスなどの流入はかなりのものですし、今後も増えてくる一方だと思います。強力なアグリゲーターやキュレーターが増えてくることが楽しみでなりません。  

独自の編集部をつくる(梅田氏)

これまで国内のニュースアプリではなかった独自の編集部づくり。プラットフォーマーから少しずつパブリッシャーの機能も備えていくということです。

どのような編成、どのようなコンテンツ戦略をとっていくのか、非常に楽しみなチャレンジだと思います。 

課金とネイティブ広告(梅田氏)

ニューズピックスが考えている2つのマネタイズ手法。日本のウェブメディアでなかなか(成功)事例が少ない課金とネイティブ広告ですが、サステナブルなメディア運営を考える上では、ここを確立していくことができるかどうかは注目です。 

良いコンテンツをつくることとコンテンツを届けることの社会的価値がイコールになりつつある(藤村氏)

これまでメディアというと、どうしても記者やライター、編集者などコンテンツの作り手(良質なコンテンツをつくること)が重視されてきましたが、結局いくら良質でも読者に届いていないコンテンツを目にすることもあります。

そこでスマートニュースのような、良質なコンテンツやユーザーが求めているコンテンツを適切に確かに届けるサービスの価値が上がってきているのです。「良いコンテンツをつくることとコンテンツを届けることの社会的価値がイコールになりつつある」という認識はメディアに関わる人は頭に入れておきたいことの一つだと思います。 

投資の対象としてのニュースメディア(瀬尾氏)

海外では大手新聞社からの独立や、IT起業家たちのメディア立ち上げが盛んです。日本でもニュースアプリへの投資は盛んですが、ニュースメディアへの投資も増えてくると、このメディア転換期が面白くなってくると思います。

数字に縛られないモデルを(瀬尾氏)

テレビは視聴率、新聞は発行部数、ネットはPVといったように指標が固定化されてしまっている中で、海外ではバイラルメディアのUpworthyが新しい指標を置く取り組みも行っています。PV以外の指標を重視したままで、メディアとして稼ぐことのできるモデルが生まれてくれば、変わってくるかもしれません。 

これまでは、ユニークユーザー数やページビュー、サイト滞在時間などを元に測っていましたが、これからはユーザーエンゲージメントだと言うのです。そのユーザーエンゲージメントを測る指標として挙げられるのが「アテンション時間」(attention minutes)と呼ばれるものです。

アテンション時間は、Google アナリティクスが提供する測定値で、動画が再生されたか、今開かれているのはどのブラウザタブかというようなデータを元にしているので、ページ滞在時間よりも正確にユーザーの満足度が分かります。

急成長するバイラルメディア「Upworthy」が採用する、ユーザー満足度を測る新しい基準とは : ライフハッカー[日本版]

経済メディアとして「深さ」で勝負する(梅田氏)

ニュースアプリの中では珍しく専門分野で勝負しているニューズピックスですが、深さで勝負するという言葉は印象的でした。これはアプリのみならず、ウェブメディア(特にバーティカルなメディア)でも必要な要素になります。もちろん、中途半端でなく、新しいメディアをつくるものとしての矜持を持ってとことん深い専門性を届けていくことが大事になるのでしょう。

 

デジタルメディアの未来について考えたいけど、まだ書けていない下書き10選

メディアの輪郭では、基本的に自分が知りたいことや読みたいことを好奇心のまま書いています。海外の新興メディアの情報はなかなか日本語では少なく、参考になることが多いです。

この記事では、最近更新頻度が落ちている中、今後書くかもしれない下書きを10本紹介します(今後書かない可能性もありますが)。

1. 海外におけるウェブメディアの買収事例15選

タイトルの通り事例の紹介を中心に、買収背景はどのようなシナジーを生んでいるのか、そもそも買収されるウェブメディアとは、といったことです。 

2. 2014年、メディアとジャーナリズムが未来に向かうための52の提言

Nieman Journalism Labの翻訳ベースで書こうと思っていましたが、量が多くて賭けていない下書き。かなり価値はあるので、近いうちに書きます。

3. ウェブメディアが紙雑誌を出すということ

海外のウェブメディアでは紙雑誌を出すところが増えています。昨年の政治メディアのポリティコの紙雑誌リリースなどは話題となっていました。このあたりも考えてみたいところです。 

4. 紙雑誌はインタラクティブ広告で生き返る

紙雑誌の広告に関心があります。以前、レクサスの事例を書いたことがあるのですが、インタラクティブな広告が好きということもあり、記事ネタに入っていました。

5. ニューヨークタイムズのユニークな取り組みまとめ

ニューヨークタイムズは実験的な取り組みを多数行っていて、一番印象的なのは以下のゲームの事例。何回も遊んだ記憶があります。

6. バズフィードがどのようにしてバイラルを実現しているのか? 〜小手先と本質を兼ね備えるいうこと〜

バズフィードについては、「バズフィード編集長が語る、未来のジャーナリズムのポイント5つ」「海外ウェブメディアの最前線を進む「バズフィード」が実践する4つのポイント」という記事でも十分に紹介していますが、その本質に迫るような長い記事を書こうと思っています。

7. 検索流入とソーシャル流入の戦い

SEOは今後あまり重要でなくなるんでは?という内容。バイラルメディアや動画の流れを汲んで書く予定です。

8. ハフィントンポストとバズフィードを共同創業したメディアメーカー・ジョナ・ペレッティ氏の発言から未来のウェブメディアを考える

またまた、バズフィードのネタ。ジョナ・ペレッティは結構メディア露出もしているのですが、日本語でその内容を紹介しているところがないので、書こうと思っています。

9. デジタルメディア時代に見ておきたい5つのスライド

東洋経済オンラインの記事でも話題となっていたスライド「Innovations in Digital Journalism: 5 Lessons Learned」などを中心にいくつかまとめる予定です。

10. 海外の大手メディアが続々とリニューアルする理由

ニューヨークタイムズもデザインリニューアルをしたばかりですが、ガーディアンやフォーブスなどその他の大手についても触れながらメディアのトレンドなどを見ていきたいです。

 

今回紹介した下書きを近いうちに書けるようにがんばります。 

海外の大手ウェブメディアが手探る未来 〜12の実験的事例から見えるもの〜

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いま、海外メディアの動向を見ると、新興メディアの勢いを感じます。先日、「海外における新興ウェブメディアの隆盛 〜12のメディアから見えてくるもの〜 」という記事で注目のプレイヤーについてまとめました。

しかしながら、今回取り上げるのは、大手メディアです。特に新聞社や雑誌社は苦しんでそうなイメージもありますが、実験的な取り組みを実施している事例も多くあります。

この記事では、大手メディアの12の実験的事例からウェブメディアの今後の方向性などについて書いてみたいと思います。取り上げる実験例は以下のものです。

  1. Washington Post : Knowmore
  2. Atlantic Media : Quartz
  3. The Guardian : GuardianWitness
  4. The Guardian : #guardiancoffee
  5. The Guardian : Long Good Read
  6. The New York Times : TimesMinite
  7. BBC : BBC Worldwide Labs
  8. CNN : Scenes From the Field
  9. CNN : CNNBuzzFeed 
  10. The Mirror : Us Vs Th3m
  11. The Mirror : Ampp3d
  12. Condé Nast : COLLEGE OF FASHION & DESIGN

1. Washington Post : Knowmore

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ワシントンポスト紙は、1990年代以降のネット普及によって、新聞は売れなくなり、この6年間を見ても新聞部門は44%もの営業利益の減少という現状。さらには、オンライン版も今年のデータだけでも7%減少となっています。

そんな状況で、2013年10月7日に新しいキュレーションメディア「Know More」を立ち上げました。ワシントンポストの政策ブログ「Wonkblog」のスピンオフメディアとしてはじまったのです。 

知識や好奇心の入り口となるようなメディアとなっていて、チャートやグラフ、写真に少しのテキストを加えたものがコンテンツとなっています。運営はWonkblog編集のEzra Klein(エズラ・クライン)氏とライターのDylan Matthews(ディラン・マシューズ)氏の2名体制です。

基本的に外部の媒体からキュレーションしてきたもので、詳しく知りたいときは「Know More」ボタンで外部サイトに行き、別に知りたくない場合は「No More」ボタンで記事を閉じることができます。シンプルな1枚のコンテンツで、ツイートボタンとシェアボタンのみの設置でソーシャル上へのシェアを促すような設計になっています。

11月にはライターのマシューズ氏が、ワシントンポスト発行人からの「Publisher’s Award」を受賞。「Know More」はワシントンポストのブログの中でもトップレベルのアクセスを稼いているそうです。

しかし、クライン氏やマシューズ氏がワシントンポストを去り、デジタルメディアを手がける「Vox Media」に移籍し、新メディアを立ち上げることが発表されました。これからどのようになっていくのかは気になるところです。

Know More

2. Atlantic Media : Quartz

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Atlantic Mediaが2012年に打ち出した新しいビジネスメディアが「Quartz(クオーツ)」です。

ストリーム(タイムライン)型を採用している点や、ネイティブ広告でマネタイズを行っている点、パラグラフごとにコメントができる点など特徴的な部分が多くあります。また、速報はアグリゲーションでカバーし、特集記事に注力している魅力的なメディアです。

『クオーツ』は「オブセッション」という方式を取っている。常時、重要トピックを1ダースほど設定し、集中的に詳しく伝えている。これは雑誌スタイルとも言える。そしてまた、「クオーツ・カーブ」という編集哲学に基づき、記事を送り出している。

アメリカの新聞の平均的な記事の長さは、紙面の上から下までの一段の記事で、語数にして700語台である(日本語に訳すと2千数百字になる)。だが、『クオーツ』は、500語よりも短い記事と、800語よりも長い記事に特化している。

この哲学に行き着いたのは、トラフィックを分析したところ、デジタルでよく読まれるのは短い記事か長い記事のどちらかだという分析結果を得たからでもあり、700語台の記事は無駄が多いと考えるからでもある。

アメリカで躍進中のビジネスニュースサイト『クオーツ(QUARTZ)』 その編集方針と経営戦略を聞いた(現代ビジネス)

以前、記者に「専門分野」は求められなくなるのか? 「Quartz」が志向する未来のメディア像という記事でメディアの掲げる思想の一つを取り上げましたが、メディア設計やメディア体験について参考になることの多いメディアです 。

Quartz

3. The Guardian : GuardianWitness

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ガーディアン紙が2013年春にオープンジャーナリズムのプラットフォームとしてリリースしたのが「GuardianWitness」です。読者を含め、一般市民からの情報提供を受け、それをニュースにするというもの。

ガーディアン側のテーマに沿って、利用者が画像や動画などを投稿することで、市民ジャーナリズムを摸索しようとしていました。やはりリアルタイム性をもったニュースソースや多様な視点などが得られる点でも素晴らしい仕組みでした。

しかしながら、現在はおそらくサービス提供が終わっているのが残念です。国内でも、「8bitnews」などは非常に近いミッションを掲げているように思います。

 

GuardianWitness

4. The Guardian : #guardiancoffee

#guardiancoffee from MohawkHQ on Vimeo.

2013年5月にガーディアン紙が手がけたのは、ロンドンにカフェ「#guardiancoffee」をつくるということでした。ジャーナリストや編集者、写真家などが集まり、仕事や打ち合わせなどを行うスペースとして活用されているそうです。

かつてのコーヒーハウスではないですが、「メディア×場(づくり)」は今後増えていくかもしれませんね。日本でも、本の街神保町のワーキングラウンジ・イベントラウンジEDITORYなどは先進的だと思います。

Guardian Coffee - Nude Espresso - London, United Kingdom

5. The Guardian : Long Good Read

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こちらもガーディアン紙の取り組み。個人向けの(電子)出版サービスを提供している「Newspaper Club」とコラボし、自動のニュース収集でつくる無料新聞「The Long Good Read」を発行したのです。

これは、発行1週間前までにガーディアンに掲載されているインタビューなどを含めた長めの記事を中心に、自動でニュースを収集。その中から、特定アルゴリズムに基づいてレイアウトも決定し、小規模でプリントされるというものです。

第1号は2013年11月4日に発行されました。実際に上で紹介したカフェでは、毎週月曜日に24ページほどの無料タブロイド版として手に入れることができるとのこと。

この取り組みの背景には、毎日数えきれないニュースが生まれている中で、長文記事(ロングフォーム)どうしてもが過ぎ去っていく状況がありました。そのコンテンツを再利用するというシンプルなものです。

過ぎ去っていくニュースの中でも、紙の新聞でも手にとって読んでもらいたい、そのようなコンテンツを「The Long Good Read」では提供しているようです。

自社のコンテンツを自動で収集し、プリント、配布まですることは、将来的なアグリゲーションの可能性を考える上でも重要な取り組みだと思います  

The Long Good Read

6. The New York Times : TimesMinite

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2013年秋、ニューヨークタイムズ(以下、NYT)が1分動画ニュース「The New York Times Minute」をスタートしました。1日のニュースをまとめて1分で観ることができるというもので、3本に絞られてた重要なトピックを知ることができます。

流れる時間は平日の朝6時、昼12時、そして夜6時。NYTの編集者の方も動画が急激に伸びていることや動画が報道において重要なこと、さらにはユーザーがすぐニュースを把握したいというニーズもしっかり認識しているようです。

デジタルメディアとして今後さらに増えているスマホタブレットユーザーに対するコンテンツとしても1分であればありかもしれません。スタート時のスポンサーには、マイクロソフト社がつき、バナー広告と動画広告を展開しています。 

The New York Times News Minute - NYTimes.com

7. BBC : BBC Worldwide Labs

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2013年秋にBBC Worldwideがスタートした「BBC Worldwide Labs」。テック系系スタートアップ企業に対して事業支援するプログラムです。BBC Worldwide社内外のリソースやネットワークを活用し、事業支援をするというもの。

オフィスを無償で利用できたり、月に1度メンターからアドバイスをもらえたりと、大手メディアのスタートアップ支援という興味深い形がうまれています。

BBC Worldwide LABS | DIGITAL MEDIA START-UP ACCELERATOR

8. CNN : Scenes From the Field

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CNNは、世界中の取材班やジャーナリストがInstagramに投稿した画像を掲載するプラットフォーム「Scenes From the Field」を立ち上げました。CNNのニュースで取り上げないような現地の風景などを利用者が見ることができ、違った形での情報発信・現象理解を狙っています。

将来的には、画像だけでなく、動画もキュレーションしていくとのこと。CNN以外でもBBC Newsも今年に入ってInstagramを積極的に利用し始めています。大手メディアのVineInstagramはより盛んになっていくことでしょう。

Scenes from the field - CNN.com

9. CNN : CNNBuzzFeed 

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CNNでは2013年春から、月間読者1.3億人以上を抱えるBuzzFeed(バズフィード)とタッグを組み、YouTubeチャンネル「CNNBuzzFeed」を開設しています。そこでは、毎週1本のペースでコンテンツをアップされています。

登録者は3万人を超え、約600万回再生を突破。1分ほどのニュースサマリーから、30分を超えるようなインタビューまで、多様なコンテンツを実験しています。これは旧メディアと新メディアの融合として注目ですが、BuzzFeedはオリジナルのチャンネルも持っているのです。ネットワークの合計は7億回再生を超えるほどです。

CNNBuzzfeed - YouTube

10. Trinity Mirror : Us Vs Th3m

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100年以上の歴史を持つ「Trinity Mirror」が、2013年5月に立ち上げた実験的なメディアが「Us Vs Th3m」でした。若い読者層(18〜30歳)を取り込むため、ユーモアやエンタメ色の強いコンテンツを展開しています。

「Us Vs Th3m」は、BBCやガーディアンにいたMartin Belam(マーティン・ベラム)氏やMSN Internationalの編集者だったTom Phillips(トム・フィリップス)氏、そして「B3ta」というユーモアサイトをつくったRobert Manuel(ロバート・マニュエル)氏らによって立ち上げられました。 

モバイルやタブレットで読んでもらうことを想定しており、コンテンツなどはBuzzFeedなどを参考にしているとのこと。SEOは意識せず、ビジュアル重視、ストリーム型、そして実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)などをコンセプトの中心に据えています。

2013年10月には300万人以上の読者が集まるメディアに育っているのだとか。バナーではなく、ネイティブ広告がマネタイズの手法となっていくようです。また、Tumblrを使っているところも実験的なポイントかもしれません。

Us Vs Th3m

11. Trinity Mirror : Ampp3d

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こちらもTrinity Mirrorがリリースしたメディア「ampp3d」です。バイラルジャーナリズムの実験としてつくられたメディアで、データやインフォグラフィックなどを用いた情報発信を行っています。

12月にできたばかりですが、着想から2カ月ほどでできたそう。キレのいいタイトルや、感情的なコンテンツもあり、シェアを多く狙っているようです。

データジャーナリズムの実験、そして実践の場として機能しそうなメディアでとても注目しています。

ampp3d

12. Condé Nast : COLLEGE OF FASHION & DESIGN

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WiredやGQ、VOGUEなどの雑誌を発行していることでも知られるコンデナスト社。2013年春には、「コンデナスト・カレッジ・オブ・ファッション&デザイン」という学校をロンドンでスタートしました。

特にファッション分野で多様で専門的な知識を持っている同社がファッション教育に参入していくことは驚くことではないかもしれません。1期生は45ヵ国の学生から応募があり、最終的に23ヵ国から入学する生徒が集まりました。

修了生には「Vogue Fashion Certificate」という修了証明書が発行されるので、今後さらなる注目が集まっていくことでしょう。メディアのマネタイズ手段としての「スクール」は増えていくと思います。

The Condé Nast College - London's Newest Fashion College

 

大手ウェブメディアの実験から何が見えるのか?

以上、海外における大手メディアの12の実験的事例を見てきました。今回取り上げた実験の要素に関しては、おおよそ以下のあたりにまとめることができそうです。

  • バイラルメディア
  • ストリーム型
  • オープンジャーナリズム
  • メディアコミュニティ
  • 短い動画ニュース
  • 自動ニュース収集
  • メディアスタートアップ支援
  • 新興メディアとのコラボ
  • データジャーナリズム
  • スクール

12の事例だけでも、海外の大手ウェブメディアが手探る未来が少し見えてくるような気がします。もちろん上記の要素は大手メディアだけでなく、新興メディアなどこれから立ち上げるメディアにとっても重要な視点となることでしょう。

この記事が何かしらのヒントになれば幸いです。

動画・要約・直感でニュースを届ける個性的なアプリ3選

2013年はGunosyやSmartNews、Vingow、NewsPicks、LINE NEWSなどニュース関連アプリやサービスなどが盛り上がったように思います。

一方海外ではどのようなニュースアプリがあるのでしょうか。自分もニュースアプリを使うのが好きですが、その中でも定期的に利用している海外のニュースアプリを3つ紹介します。

1. wibbitz

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来年は、「読むニュースから、聞く・観るニュースへのシフト」が少しずつ起こっていくのかもしれません。

まず紹介するイスラエル発の「wibbitz」は、一言で言えば動画ニュースアプリです。元々存在するウェブメディアの記事を音声で読み上げるとともに、きれいな動的なビジュアルもあるので、ニュースを耳と目で理解することができます。

配信しているニュースに関しては、メディアとパートナーシップを結んでおり、5万以上のメディアから記事提供を受けているのだとか。それらを独自のアルゴリズムを用いて動画にしているので、毎月2000万本もの動画ニュースを配信することができるとのこと。

60〜120秒程度のニュースが多いので、スキマ時間に利用できるアプリです。日本でもこのような動画ニュース分野は空いているところではないでしょうか。

あ、あとは「Umano」なんかも近いところでは、とてもおすすめのアプリです。

Wibbitz - Your News in Motion from Wibbitz on Vimeo.

2. circa

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次に紹介するのは「Circa」です。このアプリは、ニュース要約が特徴で、簡単に記事ソースまで読むことができます。

また、気になるニュースはフォローすることで、続報を知ることもできるようになっています。

めくり方なんかも少し独特なので、面白いです。動画もチェックしてみてください。

3. futureful

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毎日のニュースを追いかけるのに疲れている人には、「futureful」が合うかもしれません。ずばり、直感的なニュースアプリです。

単語がいくつかバブル状で現れ、それらをつなぎ合わせることで、ニュースを出会うことができます。読みたい記事がある人は面白くないかもしれませんが、意外なニュースやトピックスとの遭遇を楽しみたい人はハマると思います。

futurefulはフィンランド発のアプリですが、あまりに個人的に気に入っているので、北欧から生まれるアプリやサービスが気になるところです。

 

以上3つのニュースアプリでした。

どのアプリも資金調達をこれまでに実施していて、「wibbitz」は230万ドル、「Circa」は75万ドル、「futureful」は150万ドルとなっています。

今回紹介したのは、動画・要約・直感とどれもニュースの価値や接点を変えるものばかり。個人的には「読むニュースからの脱却」が進むのかどうかに注目しています。

日本でもニュースやメディアはじわじわとした変革期を迎えていると感じるので、2014年、どのようなニュースアプリが生まれて来るのか、とても楽しみです。

雑誌『WIRED』のゲストエディターにビルゲイツ氏ーー途上国の諸問題を解決に導くイノベーションを特集

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途上国イノベーションをキュレーションする

世界で最も影響力のあるテクノロジーメディアの一つ『WIRED』。その12月号でビルゲイツ氏がゲストエディター(主にトピックのキュレーションなどを担当)に迎え入れられています。

この号では、データやデザイン、テクノロジーを通じた途上国の課題解決など、広くイノベーションについて扱っています。ゲイツ氏は2013年4月から動き始め、半年以上をかけたものがようやくでき上がりました。

ポリオの撲滅やマッピングプロジェクトなどのイノベーションのほか、元アメリカ大統領クリントン氏との対談も動画で収録されているようです。

ゲイツ氏のポリオの知識は雑誌に反映

実在しないけれどもゲイツ氏があったらいいなと思うガジェットのプロトタイプをつくって、雑誌に掲載したり、彼のポリオに対する深い理解と知識が特集にも反映されていたり、ゲイツ色のしっかり入った号のようです。

また、今回の雑誌発行に際して、ゲイツ氏はWIREDにエッセイを寄せています。彼の頭の中にある途上国問題、そして世界の救い方にいたるまでが書かれています。

実現味のありそうな彼のプランをのぞいてみてはいかがでしょうか。

  • Bill Gates: Here’s My Plan to Improve Our World — And How You Can Help

http://www.wired.com/business/2013/11/bill-gates-wired-essay?mbid=synd_gfdn

また、デザインファームIDEO代表のティムブラウンも今回の号にあたり、寄稿記事を執筆しています。

  • In the Developing World, Smart Design Can Make the Difference Between Life and Death

http://www.wired.com/design/2013/11/design-for-the-developing-world?mbid=synd_gfdn

ちなみにWIREDでは過去に、映画監督のジェームズキャメロンやJ・J・エイブラムスなどをゲストエディターとして迎えたこともあります。

 

【参考記事】

  • Working With Bill Gates Changed Us. Now, Let’s Change the World

http://www.wired.com/magazine/2013/11/21-12-from-the-editor/ 

  • Bill Gates Is Now a Magazine Editor

http://mashable.com/2013/11/13/bill-gates-wired-editor/

  • How I Became the Editor of WIRED (for One Issue)

http://www.thegatesnotes.com/Personal/How-I-Became-Editor-of-WIRED

 

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