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海外の大手ウェブメディアが手探る未来 〜12の実験的事例から見えるもの〜

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いま、海外メディアの動向を見ると、新興メディアの勢いを感じます。先日、「海外における新興ウェブメディアの隆盛 〜12のメディアから見えてくるもの〜 」という記事で注目のプレイヤーについてまとめました。

しかしながら、今回取り上げるのは、大手メディアです。特に新聞社や雑誌社は苦しんでそうなイメージもありますが、実験的な取り組みを実施している事例も多くあります。

この記事では、大手メディアの12の実験的事例からウェブメディアの今後の方向性などについて書いてみたいと思います。取り上げる実験例は以下のものです。

  1. Washington Post : Knowmore
  2. Atlantic Media : Quartz
  3. The Guardian : GuardianWitness
  4. The Guardian : #guardiancoffee
  5. The Guardian : Long Good Read
  6. The New York Times : TimesMinite
  7. BBC : BBC Worldwide Labs
  8. CNN : Scenes From the Field
  9. CNN : CNNBuzzFeed 
  10. The Mirror : Us Vs Th3m
  11. The Mirror : Ampp3d
  12. Condé Nast : COLLEGE OF FASHION & DESIGN

1. Washington Post : Knowmore

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ワシントンポスト紙は、1990年代以降のネット普及によって、新聞は売れなくなり、この6年間を見ても新聞部門は44%もの営業利益の減少という現状。さらには、オンライン版も今年のデータだけでも7%減少となっています。

そんな状況で、2013年10月7日に新しいキュレーションメディア「Know More」を立ち上げました。ワシントンポストの政策ブログ「Wonkblog」のスピンオフメディアとしてはじまったのです。 

知識や好奇心の入り口となるようなメディアとなっていて、チャートやグラフ、写真に少しのテキストを加えたものがコンテンツとなっています。運営はWonkblog編集のEzra Klein(エズラ・クライン)氏とライターのDylan Matthews(ディラン・マシューズ)氏の2名体制です。

基本的に外部の媒体からキュレーションしてきたもので、詳しく知りたいときは「Know More」ボタンで外部サイトに行き、別に知りたくない場合は「No More」ボタンで記事を閉じることができます。シンプルな1枚のコンテンツで、ツイートボタンとシェアボタンのみの設置でソーシャル上へのシェアを促すような設計になっています。

11月にはライターのマシューズ氏が、ワシントンポスト発行人からの「Publisher’s Award」を受賞。「Know More」はワシントンポストのブログの中でもトップレベルのアクセスを稼いているそうです。

しかし、クライン氏やマシューズ氏がワシントンポストを去り、デジタルメディアを手がける「Vox Media」に移籍し、新メディアを立ち上げることが発表されました。これからどのようになっていくのかは気になるところです。

Know More

2. Atlantic Media : Quartz

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Atlantic Mediaが2012年に打ち出した新しいビジネスメディアが「Quartz(クオーツ)」です。

ストリーム(タイムライン)型を採用している点や、ネイティブ広告でマネタイズを行っている点、パラグラフごとにコメントができる点など特徴的な部分が多くあります。また、速報はアグリゲーションでカバーし、特集記事に注力している魅力的なメディアです。

『クオーツ』は「オブセッション」という方式を取っている。常時、重要トピックを1ダースほど設定し、集中的に詳しく伝えている。これは雑誌スタイルとも言える。そしてまた、「クオーツ・カーブ」という編集哲学に基づき、記事を送り出している。

アメリカの新聞の平均的な記事の長さは、紙面の上から下までの一段の記事で、語数にして700語台である(日本語に訳すと2千数百字になる)。だが、『クオーツ』は、500語よりも短い記事と、800語よりも長い記事に特化している。

この哲学に行き着いたのは、トラフィックを分析したところ、デジタルでよく読まれるのは短い記事か長い記事のどちらかだという分析結果を得たからでもあり、700語台の記事は無駄が多いと考えるからでもある。

アメリカで躍進中のビジネスニュースサイト『クオーツ(QUARTZ)』 その編集方針と経営戦略を聞いた(現代ビジネス)

以前、記者に「専門分野」は求められなくなるのか? 「Quartz」が志向する未来のメディア像という記事でメディアの掲げる思想の一つを取り上げましたが、メディア設計やメディア体験について参考になることの多いメディアです 。

Quartz

3. The Guardian : GuardianWitness

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ガーディアン紙が2013年春にオープンジャーナリズムのプラットフォームとしてリリースしたのが「GuardianWitness」です。読者を含め、一般市民からの情報提供を受け、それをニュースにするというもの。

ガーディアン側のテーマに沿って、利用者が画像や動画などを投稿することで、市民ジャーナリズムを摸索しようとしていました。やはりリアルタイム性をもったニュースソースや多様な視点などが得られる点でも素晴らしい仕組みでした。

しかしながら、現在はおそらくサービス提供が終わっているのが残念です。国内でも、「8bitnews」などは非常に近いミッションを掲げているように思います。

 

GuardianWitness

4. The Guardian : #guardiancoffee

#guardiancoffee from MohawkHQ on Vimeo.

2013年5月にガーディアン紙が手がけたのは、ロンドンにカフェ「#guardiancoffee」をつくるということでした。ジャーナリストや編集者、写真家などが集まり、仕事や打ち合わせなどを行うスペースとして活用されているそうです。

かつてのコーヒーハウスではないですが、「メディア×場(づくり)」は今後増えていくかもしれませんね。日本でも、本の街神保町のワーキングラウンジ・イベントラウンジEDITORYなどは先進的だと思います。

Guardian Coffee - Nude Espresso - London, United Kingdom

5. The Guardian : Long Good Read

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こちらもガーディアン紙の取り組み。個人向けの(電子)出版サービスを提供している「Newspaper Club」とコラボし、自動のニュース収集でつくる無料新聞「The Long Good Read」を発行したのです。

これは、発行1週間前までにガーディアンに掲載されているインタビューなどを含めた長めの記事を中心に、自動でニュースを収集。その中から、特定アルゴリズムに基づいてレイアウトも決定し、小規模でプリントされるというものです。

第1号は2013年11月4日に発行されました。実際に上で紹介したカフェでは、毎週月曜日に24ページほどの無料タブロイド版として手に入れることができるとのこと。

この取り組みの背景には、毎日数えきれないニュースが生まれている中で、長文記事(ロングフォーム)どうしてもが過ぎ去っていく状況がありました。そのコンテンツを再利用するというシンプルなものです。

過ぎ去っていくニュースの中でも、紙の新聞でも手にとって読んでもらいたい、そのようなコンテンツを「The Long Good Read」では提供しているようです。

自社のコンテンツを自動で収集し、プリント、配布まですることは、将来的なアグリゲーションの可能性を考える上でも重要な取り組みだと思います  

The Long Good Read

6. The New York Times : TimesMinite

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2013年秋、ニューヨークタイムズ(以下、NYT)が1分動画ニュース「The New York Times Minute」をスタートしました。1日のニュースをまとめて1分で観ることができるというもので、3本に絞られてた重要なトピックを知ることができます。

流れる時間は平日の朝6時、昼12時、そして夜6時。NYTの編集者の方も動画が急激に伸びていることや動画が報道において重要なこと、さらにはユーザーがすぐニュースを把握したいというニーズもしっかり認識しているようです。

デジタルメディアとして今後さらに増えているスマホタブレットユーザーに対するコンテンツとしても1分であればありかもしれません。スタート時のスポンサーには、マイクロソフト社がつき、バナー広告と動画広告を展開しています。 

The New York Times News Minute - NYTimes.com

7. BBC : BBC Worldwide Labs

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2013年秋にBBC Worldwideがスタートした「BBC Worldwide Labs」。テック系系スタートアップ企業に対して事業支援するプログラムです。BBC Worldwide社内外のリソースやネットワークを活用し、事業支援をするというもの。

オフィスを無償で利用できたり、月に1度メンターからアドバイスをもらえたりと、大手メディアのスタートアップ支援という興味深い形がうまれています。

BBC Worldwide LABS | DIGITAL MEDIA START-UP ACCELERATOR

8. CNN : Scenes From the Field

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CNNは、世界中の取材班やジャーナリストがInstagramに投稿した画像を掲載するプラットフォーム「Scenes From the Field」を立ち上げました。CNNのニュースで取り上げないような現地の風景などを利用者が見ることができ、違った形での情報発信・現象理解を狙っています。

将来的には、画像だけでなく、動画もキュレーションしていくとのこと。CNN以外でもBBC Newsも今年に入ってInstagramを積極的に利用し始めています。大手メディアのVineInstagramはより盛んになっていくことでしょう。

Scenes from the field - CNN.com

9. CNN : CNNBuzzFeed 

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CNNでは2013年春から、月間読者1.3億人以上を抱えるBuzzFeed(バズフィード)とタッグを組み、YouTubeチャンネル「CNNBuzzFeed」を開設しています。そこでは、毎週1本のペースでコンテンツをアップされています。

登録者は3万人を超え、約600万回再生を突破。1分ほどのニュースサマリーから、30分を超えるようなインタビューまで、多様なコンテンツを実験しています。これは旧メディアと新メディアの融合として注目ですが、BuzzFeedはオリジナルのチャンネルも持っているのです。ネットワークの合計は7億回再生を超えるほどです。

CNNBuzzfeed - YouTube

10. Trinity Mirror : Us Vs Th3m

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100年以上の歴史を持つ「Trinity Mirror」が、2013年5月に立ち上げた実験的なメディアが「Us Vs Th3m」でした。若い読者層(18〜30歳)を取り込むため、ユーモアやエンタメ色の強いコンテンツを展開しています。

「Us Vs Th3m」は、BBCやガーディアンにいたMartin Belam(マーティン・ベラム)氏やMSN Internationalの編集者だったTom Phillips(トム・フィリップス)氏、そして「B3ta」というユーモアサイトをつくったRobert Manuel(ロバート・マニュエル)氏らによって立ち上げられました。 

モバイルやタブレットで読んでもらうことを想定しており、コンテンツなどはBuzzFeedなどを参考にしているとのこと。SEOは意識せず、ビジュアル重視、ストリーム型、そして実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)などをコンセプトの中心に据えています。

2013年10月には300万人以上の読者が集まるメディアに育っているのだとか。バナーではなく、ネイティブ広告がマネタイズの手法となっていくようです。また、Tumblrを使っているところも実験的なポイントかもしれません。

Us Vs Th3m

11. Trinity Mirror : Ampp3d

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こちらもTrinity Mirrorがリリースしたメディア「ampp3d」です。バイラルジャーナリズムの実験としてつくられたメディアで、データやインフォグラフィックなどを用いた情報発信を行っています。

12月にできたばかりですが、着想から2カ月ほどでできたそう。キレのいいタイトルや、感情的なコンテンツもあり、シェアを多く狙っているようです。

データジャーナリズムの実験、そして実践の場として機能しそうなメディアでとても注目しています。

ampp3d

12. Condé Nast : COLLEGE OF FASHION & DESIGN

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WiredやGQ、VOGUEなどの雑誌を発行していることでも知られるコンデナスト社。2013年春には、「コンデナスト・カレッジ・オブ・ファッション&デザイン」という学校をロンドンでスタートしました。

特にファッション分野で多様で専門的な知識を持っている同社がファッション教育に参入していくことは驚くことではないかもしれません。1期生は45ヵ国の学生から応募があり、最終的に23ヵ国から入学する生徒が集まりました。

修了生には「Vogue Fashion Certificate」という修了証明書が発行されるので、今後さらなる注目が集まっていくことでしょう。メディアのマネタイズ手段としての「スクール」は増えていくと思います。

The Condé Nast College - London's Newest Fashion College

 

大手ウェブメディアの実験から何が見えるのか?

以上、海外における大手メディアの12の実験的事例を見てきました。今回取り上げた実験の要素に関しては、おおよそ以下のあたりにまとめることができそうです。

  • バイラルメディア
  • ストリーム型
  • オープンジャーナリズム
  • メディアコミュニティ
  • 短い動画ニュース
  • 自動ニュース収集
  • メディアスタートアップ支援
  • 新興メディアとのコラボ
  • データジャーナリズム
  • スクール

12の事例だけでも、海外の大手ウェブメディアが手探る未来が少し見えてくるような気がします。もちろん上記の要素は大手メディアだけでなく、新興メディアなどこれから立ち上げるメディアにとっても重要な視点となることでしょう。

この記事が何かしらのヒントになれば幸いです。