メディアの輪郭

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新しいマスの発見か、濃い信者コミュニティか? これからのメディアが生き残るための2つの方向性

これからのメディアのあり方、生き残り方。スマートフォン時代にメディアが成立していたさまざま前提が変容しているなか、お金まわりを含めた(Web)メディアの持続可能性のようなことを最近考えたり、いろんな人と話すことが増えたような気がします。

先月、下北沢の本屋B&Bで若手編集者のトークイベントではバズフィードのような各プラットフォームへの最適化をしてネイティブ広告で収益を上げるメディアかコミュニティが支えるメディアであったり、有料サロンのようなものが有効なのではないか、といったことも話したりしました。

つい先日「佐藤詳悟×佐渡島庸平×古川健介×宇野常寛×【司会】高宮慎一 『クリエイティブの生存条件』」というヒカリエでのイベントを聴きにいったのですが、ここでは宇野さんが「これからのコンテンツはディズニーと地下アイドルに分かれていく」「カルトな固定客の共同体をいかに開くかのゲームをやるか、文化を趣味で消費する人を増やすしかない」と語っていました。

以下、メモの一部を記してみます。

インターネット時代、何に対してお金を払っているのか

インターネット時代、特にスマートフォンが普及してすきま時間にさまざまなエンターテイメントが消費されるようになり、コンテンツ自体へのマネタイズがむずかしくなってきました。一方、音楽業界ではCDよりもライブやフェスなどが好調で、体験にお金を払うようにはなっているのではないか、という視点もよく話題になっています。

佐渡島さんは「インターネット時代には何に対してお金を払っているのか」という問いを立てました。アマゾンのマーケットプレイスを例にとれば、価格ではなく便利さであったり。「『満足』というものに支払っているのではないか。ユーザーの実感値に応じてそれぞれが最大を払うということです」。

佐藤さんは「ネットでは課金のポイントがずれている。金払いが悪くなった部分、よくなった部分もあるのでは」と言っていました。「ソーシャルゲームが急成長して、ガムの売上が下がった」というエピソードから、スキマ時間の奪い合いには限界があるため、娯楽時間よりは、もっと生活に密着なところでの戦いが必要になるとの意見でした。

例に挙げられたのは「自己実現」。古川さんは海外でユーザー課金に成功しているメディアは自己実現を学ぶことができるようなサイトがあり、国内ではスクーがそういうポジションにあたると紹介しました。コンテンツ消費について佐渡島さんは(このメディアやコンテンツでなければいけないと)こだわりのある人は5%くらいで、残りの95%はなんとなく時間をつぶしていると捉えており、自己実現などで時間を奪っていくには参加型がカギだと述べました。「物販だけでは売れない。キャラクターのTシャツを売るなら、たとえば2種類用意して、みんなに投票してもらうなど物販自体を参加や応援、競争意識に変えていく必要がある」。

カルト的なコミュニティはメディアの突破口なのか

今回のイベントでは、「カルト的なコミュニティ」といった言葉が何度か聞かれました。つまり、クリエイターの信者が集まる濃いコミュニティにアウトプットを提供し、お金をもらう、といったマスメディアとは真逆の場所でしょうか。ただ、内輪化・タコツボ化してしまう恐れがあります。佐渡島さんは「タコツボ化したとしても時代のタイミングや普遍性をもってヒットしていくのではないか。その一回で顧客が生まれて、経済圏が発展していくこともありえる」との認識でした。

高宮さんからは、コンテンツをメディアに合わせて最適化する話が出ました。動画ではMCN(マルチチャンネル・ネットワーク)、グーグル時代の検索型の課題解決サイトではnanapiなど。ただ、高宮さんは「コンテンツをつくっても、またSNSごとにつくりかえないといけない」と指摘。サイト向けのコンテンツがそれぞれのSNSにとって最適なかたちでないことがあるからです。

古川さんは海外の動画ニュースサイト「ナウディス」が自社サイトを持たず、ほかのプラットフォームに最適化している事例を共有しました。「今後は1時間の動画をつくってもYouTubeVineに合わせて自動的に適応するようになると思う。コンテンツをつくった人がこう見せたいというのが通用しない時代になっている」。

「固定ファンを囲うことは作家の表現にとって不幸なこと」

いちばん頭に残ったのは、佐渡島さんがいまの出版社にはコンテンツに興味のある人が入ってきているが、ビジネスモデルをつくった人たちはいなくなっているという点。

新聞や雑誌は当時のライフスタイルに最適な媒体でありビジネスモデルだとしたら、現在版へとアップデートする必要が生まれてきます。しかし、長らく同じビジネスモデルが通用してきた業界では、しばらくの間は中身をつくる人ばかり集まり、時代に呼応するビジネスモデルを発明できなくなっているのです。スマホのタップさえも面倒な時代というと極端かもしれませんが、現代の暮らしに適応したビジネスモデルやメディアのかたちづくりが早急に必要になってきています。

宇野さんは「新しいパブリックをつくること」が必要と発言。佐渡島さんは「各作家のコミュニティをつくる。それ以上は出てきていない」とまだ答えを出せていないようでした。古川さんは「かなりのコンテンツがコミュニケーションにとられてしまった。すごくおもしろい映画と彼氏からのメールが同じくらいの価値になってきている。ニコ動みたいに文脈と文化が生まれることでコミュニティをつくることが必要」と述べました。

ただ、カルト的なコミュニティでは才能やクリエイティブをつぶす可能性があることも議論されました。宇野さんは「固定ファンを囲うことが作家の表現にとって幸せなのか。不幸なことだと思う」、佐渡島さんも「カルト的なコミュニティからは新しいものが生まれない。ヒット曲をここでも歌ってとか、あの続編を書いてと言うファンだけではダメ」、高宮さんは「一度フォーマットができると、劣化版や類似のものが生まれ続ける。そうなるとクリエイティブの源泉となる作家を前線に出し続けられるかが問われる」とそれぞれの意見を交換しました。

別の角度から佐渡島さんは「映画はもともとはオリジナルに撮影したものだったが、マンガや小説などを原作にするようになってしまった。新人から育てることやクリエイターに危機感を与えるようなことが減ってきている」と現状の課題を提示。たとえば、別の新人が生まれたら、ほかの才能が休んで新しいチャレンジをしたり。「サザンオールスターズが何年も休めていたのは、アミューズがほかの才能を見つけて育てていたから」。才能たちが休んだり非連続な活動、または違う分野の知見を身に付けたりする期間は必要なのかもしれませんね。

ブログはファッション、ニコ動はパッション

新しい才能の発見において、はてなやnoteなど日本のブログサービス/メディアプラットフォームの問題にもつながるという宇野さんは「固有名詞が出てきていない」とその共通点をまとめます。「作品や人物名など固有名詞を出せたのはニコニコ動画。ブログは人単位だが、ニコ動は動画にファンが付いてコンテンツ単位のコミュニケーションが生まれていた。これがヒントになる」。

佐渡島さんはこれに対して「ニコ動はエンタメ分野の発信だったからできていたが、個人単位で同じようなジャンルを発信できる場所があれば変わってくるのではないか」と反論。宇野さんの「人単位でやっている限りコンテンツは鍛えられない。ドワンゴはお客さん(具体的な新しい日本人像)が見えていたのがよかった」という発言を受け、佐渡島さんは「お客さんが見えていることは、コンテンツづくりにとって大きい」と同意。「昔の雑誌では編集長やほかの作家がもっている熱がコンテンツ制作に影響を与えていたが、最近では雑誌からも消えてきている(カラーが弱まっている)」と続けました。また、宇野さんはニコ動ではランキングによってクリエイターの競争意識が生まれていたことが重要だった、と述べました。

宇野さんは最終的に、「カルトな固定客の共同体をいかに開くかのゲームをやるか、文化を趣味で消費する人を増やすしかない」という結論を出しました。だからこそ、文化を求めていない人にマンガや音楽などのコンテンツとの接点をつくり、楽しんでもらうための施策をひたすら考え続けなければいけなくなってくるのでしょう。佐渡島さんは「世の中が便利になればなるほど、面倒なことや非効率的なことに対して幸せを求めたりする。極端に面倒くさいコンテンツをつくることが挑戦になる」と語りました。

全体を通して、宇野さんが「日本の雑誌は戦後のカルチャー、特に中流のサラリーマンの文化と結びついている。これからは、新しい日本人のライフスタイルに入れこむチャレンジが必要」という旨の話していたことが印象的でした。スマホでのスキマ時間消費がさまざまなメディアのあり方を問い直し、存在自体が揺らいでしまう時代の(ビジネスモデルを含めた)メディアを発明するためのヒントがこのイベントの随所にあったように思います。また、佐渡島さんが準備中の「どんなものにもデータを宿すことができる」新アプリのデモもとてもワクワクするものでした。リリースが楽しみです。

イベントのほぼ全容が気になる場合は以下のTogetterまとめなどに目を通してみるとさまざまな気付きや発見があるかもしれません。

テックメディア「The Next Web」、さらなるマネタイズに向けてEコマース強化へ

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テックメディア「The Next Web」が広告以外のマネタイズ施策としてEコマース強化していくそうです。Digidayなどが伝えています。

サイトの規模はSimilarwebでみると月間1000万訪問数くらい。Comscoreでは男性が7割以上を占めるとのこと。そこでアプリやガジェット、ドローンなどををコマースで販売していこうというのです。

TNW Deals」というサイトをみると、iPhoneカバーやウェアラブルデバイス、ロボット、ヘッドフォン、スピーカー、シェーバーまで、さまざまなテック、ライフスタイルまわりのプロダクトが多く揃っています。

まだ、会社の収益の10%に届かないくらいとのことですが、今後はアプリはもちろん、Iot/ウェアラブルデバイスやドローン、ロボットなどの領域は盛り上がり、リアルとの接続が増えていくなか「テックメディア×コマース」という道もありえるのかもしれません。今後の結果も楽しみにみていきます。

Eコマースであれば、ジャンルは違えど、ファッション分野のスリリストなどは参考になりそうです。新興のテックメディアというところでは、Re/codeはカンファレンス事業The Infomationは月額課金などがさまざまなマネタイズに挑戦しています。日本ではテックメディアのTHE BRIDGEが会員制度を始めたりしていますね。

課金、イベント、広告、コマース・・・メディアのマネタイズ76の方法

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米メディア「Slate」がメディアのマネタイズ手法を76個挙げていました。


76 ways to make money in digital media: A list from Slate’s former editor.

基本的なものとしては広告や課金(有料会員)、イベントなどがあると思います。76個のうち、個人的にも注目しているものをいくつかピックアップしてみます。

ひとつはマイクロペイメント(小額)。「特集記事に寄付を募るーー海外メディア『Esquire(エスクワイア)』の事例」という記事や「メディア×クラウドファンディング」などにも通じます。

次に会員制度(メンバーシップ)。新聞購読料、デジタル収益以外の第三の収益の柱としても期待がかかります。先日、ガーディアンが導入したことでも話題となりました。

ガーディアン・メンバーシップ(Guardian Membership)と名付けられたこのプログラムは、無料で参加できるFriends(フレンズ)、年会費135ポンド(約24,000円。月額払いの場合は月15ポンド)のPartner(パートナー)、年会費540ポンド(約96,000円。月額払いの場合は月60ポンド)のPatron(パトロン)の3つに区分。それぞれ"メンバー"としてガーディアンを支える代わりに、会費額に応じて様々な特典が受けられる仕組みとなっています。2014年9月10日から2014年末まで英国限定のベータ版として運用され、2015年以降、米国やオーストラリアにも展開していく計画です。

読者を「メンバー」に! 英紙ガーディアン、創刊193年目の新たなチャレンジ

そして、なにかを販売するコマースもあります。年間1億ドルの利益を見据えるニュースレター企業「Thrillist(スリリスト)」のようなプレイヤーは注目です。男性のライフスタイルに関するメディアとコマースを提供する同企業の創業者は以下のように、男性ファッションを捉えています。

リリストの創業者、ベン・レラー氏は「男性はファッションが嫌いなわけではなく、女性向けに想定されている買い物が苦手なだけだ」と指摘。「若い世代の男性は買い物やお気に入りのブランドについて話すのが好きだし、外見にもとても気を使う」と話す。

男性買い物客の伸び、女性上回る-オンライン衣料品小売市場 - Bloomberg

イベントも注目のマネタイズになりそうです。Re/codeやQuartz、Texas Tribuneなどは有名ですが、ワシントン・ポストニューヨーク・タイムズBBCなどもイベントに積極的な姿勢を見せています。

そのほか、大学や財団からの出資や写真アーカイブ販売(ロイターの事例) 、リサーチやホワイトペーパーなども注目したいです。富豪からの寄付/出資なども挙げられていてアメリカらしいですね。

76個すべてチェックしたい方はぜひ「76 ways to make money in digital media」を読んでみてください。かなり細分化され、かつ整理されているのできっと保存版になります。

テックメディア「Re/code」、ネイティブ広告を開始

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8月25日、テックメディア「Re/code(リコード)」がネイティブ広告を開始することを発表しました。スポンサードコンテンツという呼び名で提供していくようです。

リコードは、ウォール・ストリート・ジャーナル傘下のテックメディア「AllThingsD」を立ち上げたウォルト・モスバーグ氏とカラ・スウィシャー氏の2人が今年1月に立ち上げたメディア。

カンファレンス事業でマネタイズを図っており、5月には「The Code Conference」を開催した。そのなかでのネイティブ広告ということは、時流に乗りつつ、さらなるマネタイズを摸索するといったところでしょうか。

さっそく、トップページの右カラムに青く「スポンサーコンテンツ」と書かれたコンテンツが目に入ります。リコードの場合は、編集部で広告記事を制作するのではなく、基本的に枠を提供し、第三者がコンテンツをつくるというかたちです。

今回の「コンテンツの未来」と題した記事は、セールスフォースのコンテンツ部門のシニアマネージャーの方による執筆となっています。とても読み応えありな記事です。

バズフィードの資金調達を含めた動向を紹介し、媒体としての価値がどこにあるのかということに言葉をおきつつ、 同メディアの流通戦略、そしてコンテンツの未来を再定義しているとまで書かれています。広告記事ではありますが、バズフィードの文脈や価値を紐解きながら、コンテンツの未来を考える、というだけでも読み物として価値があるのではないでしょうか。

また、ネイティブ広告については、「IAB ネイティブアド・プレイブック」などを参照されると理解が深まるのでおすすめです。

 

 

A New Advertising Format for Re/code | Re/code

NYタイムズの有料会員数は約80万人、日経は35万人、朝日は16万人

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photo credit: wallyg via photopin cc

2014年4月24日のニューヨークタイムズ社のプレスリリースによれば、同社のデジタル有料購読者は約80万人を記録したとのこと。昨年から4万人ほど購読者が増えています。

第一四半期においては、デジタルと紙の広告売り上げは合算で昨年同時期より3.4%増、広告以外も含めた売上は昨年より2.6%増え、3.9億ドル(約400億円)となっているようです。

以下のリンクから、様々なデータをのぞくことができます。また、メディアの取り組みについては、「ニューヨークタイムズの動きから見る、5つのメディアトレンド」を参考にしていただけたらと思います。

日本の新聞社の数字もいくつか見ていきましょう。

一番進んでいるのが、日経電子版でしょうか。2月のデータでは会員数が300万人を突破しました。

また、日本経済新聞日経BPのIDを統合し、500万人にも到達。有料会員は5月時点で、35万という数字を誇っています。

 ほかにも、朝日新聞は、先日のプレスリリースでは以下のような数字を示しています。

朝日新聞社の電子版「朝日新聞デジタル」は、5月18日に創刊3周年を迎えた。有料会員は16万人(select会員を含む)を突破。無料会員と合わせた総会員数は148万人超にのぼる。

「朝日新聞デジタル」、総会員数148万人/有料会員16万人突破 (1/1):MarkeZine(マーケジン)

今年に入ってから「ラストダンス」や「吉田調書」などマルチメディアを活用したコンテンツをつくるなど、そのデジタル戦略は光っていると思います。コンテンツ戦略はもちろん、会員増に向けた取り組みにも注目したいです。

 

ロイター、写真・動画アーカイブを販売する「Reuters Access」を開設

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3月25日、通信社のロイターが、写真や動画アーカイブを販売する「Reuters Access」を開設しました。

2700人以上のジャーナリストを擁し、世界200ヵ国以上の情報をカバーしており、様々なジャンルのニュースを提供しています。

そんなロイターが、米国限定ではありますが、中小メディアが写真や動画を活用できるように、それらを販売するEコマースをスタートしたのです。出版社はもちろん、ブロガーや教師、NPOなど幅広い利活用が期待されます。

通信社の写真や動画素材なので、高品質。このサイトではスタート時には、この15年間で撮影された26,000点以上の写真を用意し、動画については19世紀以降のものが6000本あるとのこと。

今後はもちろん他地域/他言語でも展開し、素材数も増やしてくのでしょう。オリジナルな素材を持っているメディアのマネタイズ戦略の一つとして注目したいです。 

ぜひ「Reuters Access」の紹介動画もご覧になってみてください。

 

Editorial Stock Photos, Editorial Pictures, Archival Video Footage | Reuters Access