Yahoo!ニュースはどのように記事の価値を判断するのか? ソーシャル&スマホ普及がもたらす「ニュースの変容」
ヤフートップには1日100本のニュースを掲出
先日、スクーにて「何が『ニュース』なのか Yahoo!ニュースに学ぶ価値判断と『見出し力』」という授業が開講されていました。登場したのはヤフーのニュース編集部リーダーの伊藤儀雄さん。編集部の体制やトピックス編集方針・判断基準のみならず、ニュースとはなにか、といったことを改めて考えるきっかけになる授業でした。
Yahoo!ニュースのトップは1日約100本の記事が掲載されるそうです。300以上の提携メディアから毎日4000本以上のニュースが届くなかで、人が読めるものは限られているため、記事の重要性と本数のバランスがとれているのが現状100本程度とのこと。
1996年7月にスタートし、いまでは月間約100億PV超え、スマホからのトラフィックが半数。2014年のブラジルW杯がきっかけで、スマホ経由が伸びていったのは興味深いことです。東京、北九州、大阪、八戸の4ヵ所体制・4交代制(24時間シフト)の編集部は約25名で構成されているそう。トップの編成は30分に1回(1〜3本)ほど変更され、約2時間でトップ記事8本がすべて変わるといったやり方。
見出しの閲覧だけで、政治知識の学習に効果
やはりエンタメとスポーツがよく読まれるそうですが、硬派なニュースも掲載しているYahoo!ニュース。ヤフーと国立情報学研究所による共同調査によれば、見出しを閲覧するだけでも、政治知識の学習に効果的という結果が出ています。
- Yahoo! JAPANのトップページに掲載される「Yahoo!ニュース」のトピックス見出しを閲覧するだけで、個別の見出しをクリックして記事自体を読まなくても、政治に関する知識の学習効果が認められました。これは、「Yahoo!ニュース」が政治に関する知識を社会に広く伝達するという重要な役割を担っていることを示しています。
- 「Yahoo!ニュース」の閲覧は、政治的関心の高い層と低い層の、政治に関する知識差の縮小に効果があります。特に、政治に関心の低い層が政治的リーダーのパーソナリティについて学習する場として機能しました。
- これらの結果は、ニュースをタイムリーに整理・選定し、バランス良く掲載することで新たな価値を生んできた「Yahoo!ニュース」とその特性、および編集姿勢がもたらした結果であるといえます。
編集方針は、公共の利害にかかわる重要な出来事である「公共性」と世の中の多くの人が知りたいと思っている事象「社会的関心」の2つのバランスを重要とし、7つの観点からニュースの価値を判断しているとのことでした。
7つとは、1. 速報性/時事性/今日性、2. 真実性/信頼性、3. 新奇性、4. 公益性、5. 認知度、6. 表現力、7. 品位。どんなニュースが価値があるんだろう、と思ったときに、こういったポイントで考えてみるのは有用だと感じました(もちろん価値あるニュースだからといってすべてのポイントが含まれるというわけではないです)。
ニュースを変える「ソーシャルとスマホ」
また、伊藤さんはニュースの変容について「ソーシャル&スマホ化」という点を挙げ、発信者、受信者、環境という3つに対して変化が起きていると説明していました。
- 発信者の変容:担い手の爆発的増加、ニュースの種類や質が多様化
- 受信者の変容:メディア接触回数の増加、情報ニーズの多様化
- 環境の変容:情報消費のサイクルが加速、確度や質の高い情報が流通拡散
新聞雑誌テレビなどマスメディア全盛の時代に比べて、現在のスマートフォンとソーシャルメディアが普及する時代においては、友人からの通知などのほうがニュースといったことも言えそうです。そういう意味では、メディアの役割のひとつであるアジェンダセッティング(議題設定)をどのように機能させていくのかは大きな課題になるなと思いました。
Yahoo!ニュースによる授業はこれ以外にもあるようですので、メディアにかかわる方はチェックされるとよいかもしれません。伊藤さんが書かれている「ソーシャル時代の『ニュース』と格闘する」というコラムも合わせて読むとさらなる理解につながるのではないかと思います。
個人サイトとしてはじまった「ViralNova」の躍進——20名体制で月間訪問数「1億」超え
2013年の終わりに「立ち上げ半年で3000万PVのメディア『ViralNova(バイラルノバ)』は1人体制らしい」という記事を書いたことがあります。バズフィードやアップワーシーなどバイラル/キュレーションメディアが注目を集め、その後追いサイトが多くでてきたころで、バイラルノバもその一つでした。
最近、このサイトにフォーチュンなどの海外メディアが再び焦点を当てています。先述の記事では「運営1人/月間3000万PV」ということで十分キャッチーでしたが、その後も成長を続け、月間1億訪問数とのこと(ちなみにバズフィードは2億)。
2013年冬には売り先を探していたようですが、いまでは外部からCEOも雇い、メディア企業として生まれ変わりました。個人で運営していたときのオハイオからニューヨークに移動し、オフィスを開設。20名以上のスタッフが加わり、規模拡大に成功しました(バズフィードは900名弱)。スタッフはTumblrやYouTube、Reddit、Imgur、Twitterなどに張り付いて話題を拾っているとフォーチュンの記事でも言及されています。
バイラルノバはネイティブ広告に本腰を入れ、さらなる収益化に向かいます。トップ画像においても右下の記事はスポンサードコンテンツとなっているように、ところどころ広告が入っていることを確認できます。昨年は1000万ドル(12億円)の売上を記録したようですが、今年は倍増を計画しているとのこと。
メディアの規模としてもさらなる飛躍を目指します。DIYやサイエンス、動物など特定のジャンルも強化しており、それぞれにフェイスブックページを開設。バイラルノバのメインのフェイスブックページには200万以上のいいね!が集まっていますが、それぞれのジャンルでも潜在的なファンを囲っていくのはバズフィードなどもやってきたやり方でもあるので、今後の伸びも楽しみです。
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バズフィードの最近の動向ーー新社長就任、資金調達、ゲーム参入など
今年5月、バズフィード社長ジョン・スタインバーグ氏が退任するというニュースがありました。ついに新社長が決まったようです。
新社長のグレッグ・コールマン氏はアドテク系のエキスパートで、ヤフーを経て、AOLへの売却前のハフィントンポストの広告事業を成長させたキャリアを持っています。組織経営はもちろん、ネット広告のスペシャリストとしてビジネス成長にも注力していくようです。
バズフィード社の公式発表によれば、「ハフィントンポストやクリテオ(コールマン氏のアドテク企業)で業界を変える一助となっていた。そしていま、ソーシャル広告はグローバルで拡大し、ブランドのマーケティング戦略に欠かせないものとなっている」と、バズフィード共同創業者のペレッティ氏。「この3年で業界を変えてきたバズフィードの有能なチームに加わることができて嬉しい」とコールマン氏は述べています。
Capital New Yorkの記事では、コールマン氏への短いインタビューを掲載しています。バズフィードとハフィントンポストではどちらも急成長したメディアではあるものの、手法が違うこと、10億ドルでディズニーが買収を試みていたことに対しては、インディペンデントなメディアという部分へのこだわりも見せているなど、今後の方向性についても垣間見えるものとなっています。また、直近では5000万ドルの資金調達もおこなっています。
資金調達の動きはITmedia ニュースをはじめ、さまざまなメディアで取り上げられていましたね。ライフスタイル部門、動画部門、ソーシャルメディア専門コンテンツの制作、ネイティブ広告、グローバル展開と抜かりないです。
米バイラルメディアのBuzzFeed10+ 件は8月11日(現地時間)、米ベンチャーキャピタル大手Andreessen Horowitzから5000万ドル(約51億円)を調達し、同VCのクリス・ディクソン氏を取締役に迎えたと発表した。
資金は日本を含む海外への進出、動画コンテンツの強化、主要な収入源であるネイティブ広告部門の拡充、企業買収などに活用する。
ソーシャルカンパニー市川さんもいち早く、バズフィードの動きを伝えていました。資金調達やグローバル展開以外の最新の動向は以下になります。
・月間訪問者数:約1億5000万人
・サイトへのソーシャルメディアからの流入比率:75%
・猫の写真やセンセーショナルなリスト記事(○○すべき26の○○など、クリックせずにはいられなくするようなタイトル記事)で知られているメディア企業がジャーナリストを大量に採用し伝統的なメディア企業に対抗すべく次々と手を打っている
・社員数550名でありながらスタートアップのような企業文化を維持している。
・ネイティブ広告に力を入れており、75名ものスタッフを擁する専門のチームがブランド企業のための洗練された動画コンテンツやリスト系の記事を作成している。(2014年上半期の売上げは2013年の既に2倍を超えており、2014年を終える迄には3桁台の売上げを見越しているとのこと(約100億円以上)
月間訪問者1億5千人、ソーシャル流入75%、市場価値850億円、勢いが止まらないBuzzFeed
日本にも年内に上陸とのことですが、どのタイミングで、どのような体制、どのような目的で現れるのか楽しみですね。
先日、「BuzzFeed(バズフィード)が4000本もの記事を削除した理由」でバズフィードが規律を持った、よりジャーナリスティックなメディアに変わろうとしている動きの一部をお伝えしましたが、どのようなメディアとなっていくのでしょうか。
最近では、ゲーム業界にも参入するという記事がありました。現在、ウェブ/モバイルゲームの開発者を募集しています。自社のゲームなのか広告主などのためのゲームなのか分かりませんが、バズフィードの新展開としては興味深いところです。
また、バズフィードの今後に向けた発想については「“バイラル”の次にくるもの/「分散型 BuzzFeed」構想の衝撃」という記事が参考になります。ウェブサイトもアプリもいらないかもしれない、というのはかなり驚きですが、分散型・配信型というのは真剣に考えるべきテーマとなっていくのでしょう。
海外事例から捉えるバイラルメディアについての資料もぜひご覧になってみてください。
BuzzFeed Hires Huffington Post Veteran As Its New President | Business Insider
モバイル・ソーシャルに振り切る英新聞社「Trinity Mirror」の戦略
「伝統メディアも踏み出す、バイラルメディア立ち上げ」という記事でも紹介した、英新聞社「Trinity Mirror(以下、ミラー)」。モバイル・ソーシャルに焦点を当てた複数のメディアを運営しています。
4つの実験的なメディアで読者&売上も増えた
一番最初に手がけたのは、2013年5月に立ち上げた「Us Vs Th3m」というサイト。ユーモアやエンタメ色の強いコンテンツを展開し、若者読者に訴求することを目的としています。すでに300万人以上の読者が集まり、ネイティブ広告でマネタイズをおこなっているとのこと。
2つ目は、バイラルジャーナリズムの実験をおこなうメディア「ampp3d」。データやインフォグラフィックなどを用い、モバイルやソーシャルでも目につきやすいコンテンツを発信しています。こちらは2013年12月につくられたもので、ページを極力なくし、スクロールで読めるウェブデザインを採用。
そして、スポーツに特化したサイト「Mirror Row Zed」もあります。リスト記事などでモバイル・ソーシャル時代のコンテンツづくり、情報の届け方を摸索。また、新聞『The Sunday People』のデジタル展開も「thepeople.co.uk」というサイト上でおこなっています。
昨年5月から今年8月までの15ヵ月にわたる4つの実験的なサイトを運営してきたミラー。この半年のデジタルの売上は47.5%増の1490万ユーロ(約2510万ドル)となり、平均の月間ユニークユーザー数についても、91%増の6130万人を記録しています。
モバイル・ソーシャル・若者読者の獲得が新聞社の課題
若年層へのリーチ、モバイル読者へのリーチというミラーが抱えていた課題を解消するアプローチとして、実験的なサイトを打ち出してきましたが、新聞社だからこそこのようなことをやる意義が増しているのかもしれません。新聞のパッケージや、いわゆる「一面」も機能する機会は減っているでしょう(特に若者に対して)。
価値観や視点の多様さや、パーソナライゼーションが広がってきたいま、世論や共通の認識や常識が形成しづらくなっているような気がします。そのため、新聞の機能や意義が漸減しているかなと。
このような状況下では、新聞がその機能を果たしていくには、流通(読者)を確保することがひとつの答えになると思います。特に若年層であり、スマホユーザーでもあり、ソーシャルメディアに触れているような読者を獲得するには、キュレーションやニュースアプリ、まとめ記事(リスト記事)、クイズなどもヒントになるのかもしれません。
先日、日本新聞協会が発行する雑誌『新聞研究』8月号に「ニュース体験を考慮した発信を──今後の取り組みが戦略の『常識』をつくる」というコラムを寄稿させていただく機会がありました。そこでも少し、新聞社のモバイル対応について書きました。
ミラーでは、ソーシャル・モバイルに最適化するために、バイラル系の手法をとっていますが、多くの海外の新聞社はアプリでソーシャル・モバイル経由の読者を獲得しようとしています。またの機会にアプリなどについても取り上げたいと思います。
Trinity Mirror sees digital experimentation pay off | Digiday