エンタメとカルチャー「激動の時代」を仮説・検証する〜『ヒットの崩壊』ができるまで
ヒット曲は時代を映し出しているか?
歌は世につれ、世は歌につれ──。
かつて大瀧詠一は「ヒット曲は聞く人が作る」と語った。
果たして今、ヒット曲は時代を映し出しているだろうか?
11月15日に編集担当書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)が発売になります。著者は音楽ジャーナリストの柴那典さん。1月に最初の最初くらいの打ち合わせをし、3月に企画会議を通り、半年の取材・執筆を経て、このたび完成しました。
激変する音楽業界の中心にいる方々に取材を行いながら、著者の20年近くの取材・批評の知見を加えて執筆したルポルタージュ。「ヒット」という得体の知れない現象から、音楽ビジネスの激変や新しいヒットの方程式、さらにはエンタメとカルチャー「激動の時代」の一大潮流を解き明かす、という内容です。
「ヒットの崩壊」とは?
タイトルの『ヒットの崩壊』は読者の方にとっていろんな意味にとっていただけるかと思います。ヒットチャートの崩壊、メガヒットを生み出すための環境の崩壊、ヒットを生まなければいけないという概念そのものの崩壊……。
しかし、「崩壊」としておきながらも、本書で書かれていることはむしろポジティブなことが大半を占めています。それはなぜか?
もともと途中までは『J-POPの未来』といった仮タイトルで進めていたことが大きかったと思います。最初から「崩壊」と付いたタイトルだったなら、かなりラディカルになっていたかもしれません。
そして、「ヒット"曲"の崩壊」としていないのは、これは音楽に限った話ではないからです。あらゆるエンタメやカルチャー、もっといえば社会全体で「ヒットの崩壊」が起きているということもできるでしょう。
仮説と検証で時代に向き合う
もちろん"音楽を通じて"ではありますが、主に2000年以降、特に2010年代以降の社会と人々の変化について、様々な角度から明らかにしています。そのアプローチは非常にシンプル。仮説と検証です。
著者の柴さんが20年近くのジャーナリストの経験から抱いていた仮説を、その対象や現象の当事者や近くにいる人に取材し、検証していく。結果、仮説をもとにした評論などではなく、仮説をもとに事実を積み上げたルポになりました。
書店に行くと、「いまの時代はこんなキーワードで表現できます」というコンセプトありきで時代をなんとなく分かった気にさせてくれる本はたくさんありますが、そういうものとは違う、強度のある本ができたと思っています。
『ヒットの崩壊』では仮説を検証しているので、取材のたびに仮説に対する間違いや違う角度からの知見を得て、都度内容や構成を調整したり大きく変えたりしてきました。本のゴールを決めつけず、各方面の取材から浮かび上がったことを通じていまの社会や時代をめぐる落とし所を探していったのです。
音楽"だけ"の本にしない
本書のインタビューで、いきものがかりの水野良樹さんはこういう発言をされていました。
「ヒット曲が少ないことが意味するのは、つまり、音楽という存在が社会に対して与える影響が弱くなったということだと思うんです」
社会への影響、というのはひとつのキーフレーズとなっています。そもそも音楽が社会に影響を与えるべきなのかどうかという議論も出るでしょうが、そういうところも含めて様々な議論のたたき台としても機能する本になっているかもしれません。
編集者として意識していたのは、「音楽だけの本にしない」ことです。タイトルに「音楽」や「J-POP」という言葉を使っていないことはそういう意図の表れでもあります。
J-POPの未来、ヒットの未来、そして社会の未来――。こうしたことを考えるうえで、長い射程を持ち得る本になっていれば幸いです。
「これだけきちんと検証されている本、丁寧な本は久しぶりです」――本書に「生き証人」として登場いただいた音楽プロデューサー・牧村憲一さんがさっそくツイートしてくださっていました。
柴那典著『ヒットの崩壊』講談社現代新書。これだけきちんと検証されている本、丁寧な本は久しぶりです。手前味噌になりますが、津田さんと僕の共著以来の、信用できる音楽本です。それで僕が今取り組んでいるのが、いや苦みながら書いているのは、ヒットの生まれ方に関する本という(^^;; pic.twitter.com/f3EvU4wLzE
— マキジイ(牧村G) (@makiji) 2016年11月12日
ジャーナリスト・津田大介さんと牧村さんの共著『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ、2010年)以来の決定打的な本になっているならば、編集者として本望です。
テクノロジーは音楽をどう変えたのか?
本書の内容は2週間にわたり、cakesで先行公開していました。小室哲哉さん、水野良樹さんへのインタビュー、そしてヒットチャートを運営する企業取材などを配信しましたが、本が発売される前に反応が見れるのは貴重な機会でした。
最後に、発売日の15日には「テクノロジーは音楽をどう変えたのか?」と題したイベントをスマートニュース イベントスペースにて開催します。第6章「ヒットの未来、音楽の未来」のその先についてのトークになる予定です。本書で書けなかったテーマも扱うと思いますので、ぜひご参加いただけたら嬉しいです。
『ヒットの崩壊』概要
激変する音楽業界、「国民的ヒット曲」はもう生まれないのか?
●宇多田ヒカルの登場はJ-POPをどう変えたのか?
●小室哲哉はどのように「ヒット」を生み出してきたのか?
●いきものがかり・水野良樹が語る「ヒットの本質」とは?
●オリコンは「AKB商法」をどう受け止めているのか?
●なぜ「超大型音楽番組」が急増したのか?
●「スポティファイ」日本上陸は何を変えるのか?
●なぜBABYMETALは世界を熱狂させたのか?
●SMAP解散発表で広がった購買運動の意味とは?「ヒット」という得体の知れない現象から、エンタメとカルチャー「激動の時代」の一大潮流を解き明かす。
テレビが変わる、ライブが変わる、ビジネスが変わる。
業界を一変させた新しい「ヒットの方程式」とは…?