メディアの輪郭

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これからのメディアづくりに重要となる「編集デザイン」という新しい武器

編集という言葉、デザインという言葉、どちらもよく見聞きする言葉ですが、「編集デザイン」という言葉は聞き慣れません。

この言葉を知ったのは、フィルムアート社から出版された『これからのメディアをつくる編集デザイン』という本を読んだことがきっかけです。

内容紹介には、「『コラボレーション(協働)』、『異なるものを結びつける(編集)』、『価値のデザイン(フィロデザイン)』、3つの要素をもった『編集デザイン』を初紹介。メディアのアマチュアとプロが一緒になって、『考え、まとめ、見せる力』を身につける。ボトムアップ型メディアの作り方が今、求められています」とあります。

これから編集やメディアにかかわるうえで、たずさえておいたほうがよい考えとなりそうです。とくに、コミュニティメディアやワークショップ、コラボレーションなどに関心を寄せる人にはぴったりです。

編集デザインとは、「自明とされていることを何度も疑い、いろんな異なる意見をコラボレーションでまとめ、言葉にし、その知をデザインし、動画とともに、面白いメディアにする行為」「外向きの表現」「これからのメディア」を目指すものです。(15ページ)

という表現もあるように、編集デザインは内で終わるメディアづくりではなく、ワークショップなどコラボレーションを通じて外にも情報やコンテンツを届けていきます。また、フィロデザイン=知のデザイン、という要素も重要視されており、ただ伝える、考えるデザインからの発展する「考えるためのデザイン」を提唱しています。

冒頭には、水越伸氏(メディア社会学者/東京大学放送大学教授)と仲俣暁生氏(『マガジン航』編集長)と苅宿俊文氏(ワークショップデザイナー/青山学院大学大学院社会情報学科教授)による対談も収録。メディアとコミュニティの関係やメディアの強さとは、といったことも語られています。

メディアがコミュ二ティを育み、コミュニティがメディアを維持・発展させる。特に地域社会のなかでそうした循環を意識しながらメディア共同体をつくっていく。(中略)世界各地にそういう動きがある。知識やアイディアを自分たちのものとして手に入れて、人に届けていく。それを「手渡し」していきます。(27ページ)

改めて編集というもの、その行為について整理できるような文章も多く掲載されています。たとえば、同質/異質な情報接続に関する部分。

同質な情報接続が「安定」「安心」を求めるとすると、異質な情報接続は「開放」「打開」を促進します。前者は、混乱や無秩序を「整頓」「整理」するのに向いており、後者は、考えが煮詰まった現場やクリティカル(危機的)な社会での「革新」「代案」として有効です。(88ページ)

後者は、編集デザインのひとつの要素でもある「異質なものをつなぐ」ということ、つまり編集なのです。

また、「発見」のない文章はおもしろくありません、という書き出しではじまるライティングを支援する編集デザインという章は文章そもものやインタビュー、校正など基本的な要素の再確認ができました。

発見するとは、捏造ではありません。誰も考えもしなかったことを無から生み出すことでもありません。むしろ現にリアリティをともなって存在し、誰もが実感しているけれども誰も適切な言葉ですくいあげ、話題として共有することができずに「うずうずしているものに名を与える行為」です。(121ページ)

最後のほうには、データビジュアライゼーションやインフォグラフィック、動画アーカイブなどの項目もあります。この本は、編集デザインの考えかたや事例をカバーしているという意味で貴重な立ち位置ですが、個人的にはもう少し、ウェブやデジタルテクノロジー、オンラインにおけるコミュニティなどに関する記述がほしかったなあと思います。

日本では、greenz.jpなどのコミュニティ志向のメディアやコミュニティデザインの実践例などを取り上げるマチノコトといったメディアがあります。このあたりのメディアが好きな人にはとくにオススメの本になるのではないでしょうか。