文章が書けない理由は「遅い」「まとまらない」「伝わらない」――ナタリーに学ぶ、"完読される"ライティング術
「書くことはあとからでも教えられるが、好きになることは教えられない」
とても久々にライティングの本を読みました。手に取ったのは『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』。著者はナタリー運営のナターシャ取締役の唐木元さん。コミックナタリーやおやつナタリー(現在は終了)、ナタリーストアなどを編集長として立ち上げ、現在はメディア全体のプロデュースを担当されています。
「書くことはあとからでも教えられるが、好きになることは教えられない」というナタリーの採用ポリシーがあることから、ライティングや記者経験のない人も多くいるのだとか。そういった新人に向けて唐木さんは「唐木ゼミ」という社内での新人向けトレーニングを繰り返してきました。
書けない理由は、「遅い」「まとまらない」「伝わらない」のどれか、もしくはそのすべて、と説く本書を読むことで「書く前の準備」の大切さを改めて実感することができます。
この本では「完読される文章が良い文章」であるとしています。
たとえば、「適切な長さで、旬の話題で、テンポがいい文章。事実に沿った内容で、言葉づかいに誤りがなく、表現にダブりがなく変化の付けられた文章。読み手の需要に即した、押し付けがましくない、有用な文章」(17ページ)。ここではラーメンを例にとり、食べきれないラーメンってなんだろう、という身近な話題から完食(完読)を考えています。
構造シートをもとに伝わる文章を書く
そもそも文章は、事実→ロジック→言葉づかいの3つの層から積み上げられています。特にロジックについては、書き始める前に「主眼」と「骨子」を立てることを強調しており、テーマ(主眼)についてなにを(要素)、どれから(順番)、どれくらい(軽重)書くかを決める。主眼と骨子を持つことを、構造的記述と呼んでいます。
本書で紹介されている「構造シート」はぼくも取り入れようと思ったことのひとつ。長いインタビューなどを書いていると、どうしても要素にダブりが生じたり、構成で迷ってしまうことが多かったからです。
構造シートでは、手書きで話題を列挙し、主眼を見定め、順番を考えて番号を振ります。次に別の紙にあらためて決まった主眼を書き、話題を順番に並べ、それぞれに優先度をつけていくというもの。本書ではナタリーの文章を例に紹介・説明されているので、実物を読んでみると良いかと思います。
また、推敲については、意味、字面、語呂の3つの観点でブラッシュアップ、さらには単語、文節、文型、段落、記事レベルで重複チェック。文章のソリッドさについては、「という」と代名詞を削るのが、自分には必要だと思いました。
このほかにもいくつか削るべき言葉や冗長になりがちな表現が挙げられています。「インタビューの基本は『同意』と『深堀り』」(188ページ)の項目も印象的でした。
自分のクセを再確認し、徹底する
ぼくは文章チェックをしてもらうと、ほとんどの場合「〜すること」が多い、と指摘を受けます。これは完全にクセになってしまっているのですが、164ページに「便利な『こと』『もの』を減らす努力を」として書かれていたので、できるだけ具体的な名詞で書くように心がけたいです。
なぜ「〜すること」を多用してしまうのかというと、おそらく英語学科出身で翻訳文体に慣れていたためかなと感じています(これも100ページに「翻訳文体にご用心」という項目があります)。
『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』では、基礎的なことが淡々と書き記されています。ただ、本書で挙げられているすべての項目を徹底できているWebメディアは多くないのではないかと思います。
「特別なことはひとつもありません」と書かれたまえがきは、そのとおりでした。文章力の低いぼくにとって、目を背けたい項目もありましたが、それでも一つ一つ向き合っていこうと前向きな気持ちで読み終えました。
唐木さんの経歴や仕事、ナタリーの運営哲学については、「ナタリーがニッチ分野で成長し続ける理由、唐木元さんに全部聞きました。」という記事でよく知ることができます。あわせてご覧になってみてください。