メディアの輪郭

更新するだけ健康になれる気がしています

「ニッチ狙い」「素人活用」「ガチ感」——テレビ東京がおもしろい理由

f:id:kana-boon:20150104024123p:plain

2014年12月の総選挙時には「池上彰の選挙スペシャル」がいつものように話題となったテレビ東京。「ゴッドタン」や「YOUは何しに日本へ?」「逆向き列車」などエッジの利いた比較的新しい番組もあれば、「TVチャンピオン」「ASAYAN」などの素人の才能発掘系の番組も昔にはありました。

放送は終わっていますが、個人的に最近好きだったのは「藤原竜也の一回道」です。素の姿のみにフォーカスしたなんともいえないゆるさと行き当たりばったり感が好きでした。さて、このような話をするのは、雑誌『ケトル』のVOL.22を読んだからです。テレビ東京を特集した号でした。

「『コンテンツ』を生むのはクリエイターではなく、素人である」

冒頭にはライター・速水健朗氏による「最新コンテンツビジネスはテレ東に学べ」という企画。「すき間狙い」「素人の活用」という2つを追求したテレ東のコンテンツづくりが、いまのネットやコンテンツ市場でも重要になってくるのでは、という内容で、テレ東50年史などもまとめられていて勉強になります。

「『コンテンツ』を生むのはクリエイターではなく、素人であるという時代」としてTVチャンピオンなどを例示。しかし、テレビ以外のメディアも影響力を持ち出しているなか、低予算を余儀なくされていた状態こそが重要だったという見方も紹介されています。 

加えて、かつて放送免許の審査のために一定期間、全番組の内容を当時の郵政省に報告する義務があったため、きわどい内容の番組にも「視聴者を啓蒙・教育すること」を結びつけていた経緯もあり、このこともおもしろい番組づくりに寄与しているようです。

今までに見たこともないような切り口で勝負したいっていう野心があるよね

また、空港で外国人をつかまえ密着ロケをおこなう「YOUは何しに日本へ?」の紹介ページでは、番組づくりの大変さも語られています。

現場をよく知る水野亮太ディレクターによると、「オンエアできるのは30分の1。ゴールデンで放送するためには10組ほど必要なので、毎回300組以上は取材している計算になる」そうです。(29ページ)

撮影部隊は3名と少なめで、空港からの密着に向けてスピード感を重視しているとのこと。このライブ感やガチ感はテレ東らしさにもつながっていますね。

本誌のなかでは、テレ東で番組を持っていた著名人らのインタビューも多々掲載されています。なかでも水道橋博士が語るテレ東の魅力が印象的でした。

テレビって共同作業だから合議制じゃない。だから最大公約数になっていくもんだけど、テレ東はスタッフもタレントも予算もないところでアイデアをふり絞るからディレクターの個性も反映するし、番組に独自の匂いもある。社風のドキュメンタリー精神を受け継ぐと思う。今までに見たこともないような切り口で勝負したいっていう野心があるよね。テレビ界の辺境にいるからこそニッチで比類なきスタンスを貫けるんだろうね(35ページ)

この点はウェブメディアにも通じるところがありそうです。バイラルやキュレーションが盛んになると既視感のあるコンテンツや同じようなフォーマットを多く目にします。そのような状況のなかで、「今までに見たこともないような切り口」や「辺境にいるからこそのニッチさ」、そして「独自の匂い」といったこと意識するウェブメディアが輝くようになるのではないでしょうか。

切り口については、「出没! アド街ック天国」の紹介ページでも担当プロデューサーが「ニーズよりも切り口を大切にしている」と語っています。もちろんある程度は意識するものの、視聴者が求めるニーズに振り回されないようにしているそうです。

このほかにも「モヤモヤさまぁ〜ず2」プロデューサーの伊藤隆行氏と「ゴッドタン」プロデューサーの佐久間宣行氏の対談も収録されています。2人の考えるこれからのテレ東なども語られていておすすめです。

お金の配分を変えることで見たことない番組を生む

この特集を読んでいるなかでNHK出版のサイト「ジレンマ+」でテレ東についての記事を読んだことを思い出しました。

テレビ東京制作局プロデューサー・ディレクターの高橋弘樹氏へのインタビューを通じて、テレビ東京がなぜおもしろいのかという話に触れられています。関心ある方はぜひご覧になってみてください。

高橋 僕は、特別変わったことをしているわけではないと思うんですが、「お金の配分を変える」ということは意識しています。

(中略)

高橋 今まで企画をやってきた中で大きいなと思うのは、金のバランスを変えるということは、テレビ東京の番組作りの上で重要なことで、これがよくテレ東らしい、テレ東らしいと言わることの根本なのではないかなと思っています。簡単に言うと、何かを大胆に削って、何かを大胆に増やすということです。うちは予算が少ないので、やむにやまれぬ理由で出てきた手法なのですが、見たことない番組を作るためのヒントになるんじゃないかな、という気はしています。

今、テレ東が面白い理由―低予算が生む違和感とガチ感:高橋弘樹 | 考えた | ジレンマ+

「テレビ局はインターネットをマス的にしか使ってこなかった」ーーメディア仕掛け人たちが語る「テレビの未来」

f:id:kana-boon:20140531151555j:plain

テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略」という記事でも書いた、メディア・シンポジウム「『テレビ・イノベーション』~テレビの歴史が変わる日~」の内容の続きです。

メディア人3名によるパネルディスカッションの様子を紹介します。登壇者は、氏家夏彦氏(TBSメディア総合研究所社長)、倉又俊夫氏(NHK報道局報道番組センター チーフ・プロデューサー)、佐々木紀彦氏(東洋経済オンライン編集長)です。

タイムフレームで見ると、テレビもネットも似ている

テレビのこれからに対して倉又氏は、「テレビの共通プラットフォームをつくる際、全局がそろわないと意味がない(NHKだけしか視聴できないアプリなど)。ユーザーは煩雑さに対して敏感だ」と答えました。

ここでも全局で新しいプラットフォームを生まないとネット発の動画プラットフォームにはなかなか勝てないということと、視聴者ではなくユーザーという捉え方で発言。

基本的にはこれまでずっとビジネスモデルが変化していないテレビ。視聴率取るということが大きな命題だったため、それほど経営は必要なかったという。いまになってようやく経営が必要になったと氏家氏。佐々木氏は、テレビの外から見たテレビの未来について語りました。

「これからテレビで起きようとしている未来は、新聞や雑誌とほとんど同じ。いまは雑誌が特に苦しんでいるだけであって、テレビにも近いうちに来る。『プラットフォーム』はキーワード。ヤフーが活字メディアについて影響力をもっていた時代だったが、コンテンツをつくるためのお金をまわすエコシステムはつくれなかった(佐々木氏)」

このようなこともあり、いいコンテンツよりも軽いコンテンツが増えてしまったきらいがあるのかもしれません。では、より深い、濃いコンテンツをつくることができる環境やエコシステムをどのようにつくっていくのでしょうか。

佐々木氏は「プラットフォームは技術が必要になるので、コンテンツを創っていた人がプラットフォーム側にいく必要がある」と述べた(自身も7月からはユーザーベース社にてNewsPicksに関わる)。

ネットメディアのエコシステムについては、まだまだ不十分なのですが、一方でテレビはどうなのでしょうか?

「タイムフレームで見ると、テレビもネットも似ている。テレビは昔、海外の映画を買って流していたし、オリジナルのコンテンツをずっとつくっていたわけではない。戦うためのツールやプラットフォームをつくらないといけない時代(倉又氏)」

テレビの広告、ネットのバナーは、メディアに最適化した広告ではない?

話は変わり、動画の話題に。今年は動画元年や動画広告元年と言われることもありますが、現状、それほど動画広告を掲載する器(メディア)がなかなかありません。

たとえば、佐々木氏が編集長を務める東洋経済オンラインでは「動画サイト」をつくり、企業のブランディングにも活用できる場を用意しました。

「クライアントも動画広告を出したい、ユーザーも動画コンテンツ見たいという状況だけれども、メディア側のネックが大きい。コンテンツをメディア側がつくらない(つくれない)(佐々木氏)」

一方で、氏家氏は「動画広告はテレビ広告以上に力を入れないとスキップされる。作り方が全然変わってくるはず」、倉又氏は「テレビにおける広告、ネットにおけるバナーというのは、実はメディアに最適化した広告ではなかったのではないか」と指摘をしました。

ウェブメディアでは、ネイティブ広告が注目を集めています。その動画版ネイティブ広告をどのメディアがシェアをとっていくのか、という点も重要になってきそうです。

最後に、倉又氏が「テレビ局はインターネットをマス的にしか使ってこなかった」という言葉が印象的でした。パーソナライゼーションやオープン、ロングテールなど、ネットならではの思想をテレビ側が取り入れていくことで、真のメディアサービス企業になっていくのではないでしょうか。

テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略」の記事とあわせて読まれると、テレビ業界の課題認識やソリューションについて、知ることができると思います。

テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略

f:id:kana-boon:20140531141321j:plain

先週末に「『テレビ・イノベーション』~テレビの歴史が変わる日~」というメディア・シンポジウムに参加してきました。普段はウェブメディア編集者ということもあり、テレビ業界のことはほとんど知らないので、勉強も兼ねてといったところでした。

この記事では、TBSメディア総合研究所社長の氏家夏彦氏のプレゼンで述べられていたことをいくつか紹介したいと思います。

広告費、視聴率、視聴時間が低下するテレビ

一番印象的だったのは「放送局からメディアサービス企業へ」という転換が求められているということ。これはテレビのみならず、ウェブメディアにおけるプラティッシャーやテクノロジードリブンの重要性の議論とも通じるところでした。 

「テレビの限界」として挙げられたデータは、テレビの広告費がリーマンショックの影響で3200億円減となっている一方で、2005年以降のインターネット広告費が2.5倍となっていること。また、いわゆる「テレビ離れ」として、視聴率低下、テレビのリアルタイム視聴時間の低下も紹介されました。

さらには、スマホの普及もテレビ業界に影響を与えているとのこと。20代は9割、30代は8割近い人がスマホを所有する中で、SNSやゲームなどとの時間を取り合う戦いとなっているのです。

競合がごく少数で、テレビの壁に守られてきた地上波テレビ。その枠組みの中にとどまっていては、なかなか成長の余地がなく、一方で、ニコニコ動画Youtubeなどテレビの外では動画(市場)が成長しています。

テレビのイノベーション、4つのキーワード

そんななかテレビ業界のイノベーションを考える際のキーワードはどのようなものなのでしょうか。

氏家氏は、①視聴者はユーザーになった、②テレビはサービスだ、③巨大なトラフィック誘導、④テレビのビッグデータという4点を紹介しました。

「①視聴者はユーザーになった」に関しては、ユーザーというものは「いつでもどこでも検索して、ソーシャルメディアで知ったり発信したり、高度なUIで動画を楽しめる」ことが当たり前だと思っている。たとえば前述のニコニコ動画Youtubeとテレビを(ほとんど)一緒だと思っていると述べました。

「②テレビはサービスだ」については、テレビ放送がはじまってから60年間、サービスの基本形(視聴者が自宅にいて、その時にだけ見られる)を変えていないことで、「不便で時代遅れのサービス」になっていると紹介。

そのため、リアルタイム視聴の促進や録画視聴(全局全番組見逃し視聴サービスの実現に向けて注力しているとのこと)なども考えなくてはなりません。しかしながら、このような視聴スタイルが広がっていくことは、地上波テレビのビジネスモデルが崩壊することも意味するのです。

「③巨大なトラフィック誘導」については、インターネット上のテレビに関する情報を「全局全番組見逃し視聴サービス」でトラフィックを促すことで、テレビ回帰できるのではないかと氏家氏は提言。番組の特定のシーンを探すことができたり、新しい視聴スタイルを生み出すことができるきっかけにはなりそうです。

「④テレビのビッグデータ」に関しては、テレビのメタデータとユーザーのログデータの2つがあり、前者では企業のマーケティングや販促に使ってもらい、CM以外でマネタイズの可能性を摸索し、後者においては、どんな人がどんな番組をいつ見たのか、どこで見るのをやめたのか、ユーザーの行動をすべて分析し、ECなどとコラボして、購買データともシナジー生めるのではないかと紹介しました。

このようにして、テレビの視聴行動と消費行動の関連性が可視化されることで、テレビ局の新しいビジネスモデルが生まれていくことは楽しみです。

「インターネットの世界ではテレビ局1社では完全に力不足」

一方で、これまで紹介したようなテレビのイノベーションを実現するには、やはり全キー局の協力体制やオープンな思想であったり、放送局ではなくメディアサービス企業として生まれ変わっていく必要があるとのこと。

「インターネットの世界ではテレビ局1社では完全に力不足。放送だけでなく、インターネットサービスをつくり、サービスデザインによる、高い満足度の体験(UX)の提供をしていかなければいけない」と述べられていたのが印象的でした。

テレビが未来に向かっていく中で、ビジネスモデル開発やメディアサービスという立ち位置、ビッグデータ活用など、ウェブメディアとも考え方が重なる部分も多くあり、大変勉強になったお話でした。