メディアの輪郭

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「豊かなメディア環境」やジャーナリズムの明日を探るいくつかの議論

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最近、メディアやジャーナリズムの未来を考える系のイベントが多くなっているような気がします。新しいメディアが生まれたり、大手も色んな実験をやっていて面白い時期です。

昨日は、現代ビジネスでもメディア関連のイベントを行いました。モデレーターは津田大介氏(メディアアクティビスト)、パネラーには佐々木紀彦氏(『NewsPicks』編集長)、菅谷明子(ジャーナリスト)、長澤秀行(『メディアの苦悩』著者、社団法人インターネット広告推進協議会常務理事)、古田大輔朝日新聞記者)、瀬尾傑(『現代ビジネス』編集長)という6名が登壇しました(多いですね)。

ニコ生でも中継していたので、参加できなかった方はチェックされると良いかと思います。印象的な部分をいくつか紹介します。

「ジャーナリズムは何人くらいが適正?」

津田氏から、古田氏への質問でした。プロパブリカは50名ほどのスタッフで、調査報道やデータジャーナリズムで活躍しています。

ピューリッツァー賞も受賞し、市民に価値ある報道を続けているプロパブリカだが、規模はそれほど大きくないことは意外だ。プロパブリカの年間報告書によれば、月間133万ページビュー、月間訪問者数は56万人ほど、メーリングリストについても6.4万人といった規模である。

このような規模でも調査報道を続けられている理由は、他のメディアでは真似できない毎年1000万ドルほど集まる寄付だ。日本で調査報道メディアをつくるには、運営資金の部分についてはあまり参考にならないかもしれない。

データジャーナリズムアワードに多数ノミネート! プロパブリカのデータジャーナリズム事例

また、スノーデン事件で脚光を浴びた、元ガーディアン紙のグリーンウォールド記者は、ほぼ単独で世界的なスクープを取り、現在ではイーベイ創業者の新メディア「The Intercept」でNSAの盗聴活動を伝え続けています。あまり適正人数について考えたことがなかったので、興味深かったです。

「豊かなメディア環境」とはなにか?

菅谷氏の発言で「豊かなメディア環境」という言葉がありました。ジャーナリズムは民主主義と深い関わりがあり、市民には情報をきちんと与えられて、それを判断して、政治に反映していかなければいけない。

そのようななかで、考えなければいけないことは「栄養バランス」だと言います。軽いコンテンツのようなデザートだけではなく、ビタミンやたんぱく質、鉄分のような政治記事を含めた堅い記事も摂取しないと、ということです。

ジャーナリズムにおける商業性と公共性の割合は?

こちらも興味深い問いでした。既存メディアと新興メディアによって違いますが、話の中で出たのは、「メディア単体で稼ぐのは難しい」ということ。

出版社や新聞社が不動産事業をやっている例を挙げ、「ポートフォリオをうまく組むことが大事」と佐々木氏は述べていました。実際、同氏が移籍したユーザベースでは、「SPEEDA」という企業・産業分析のデータベースを提供しています。

そういう意味で、新聞社の社長が記者出身なのではなく、ビジネスサイドから見ることができる人材登用の必要性もあるのでは、という議論となっていました。

また、稼ぎ方についてはネイティブ広告についても多く語られました。古田氏は、ニューヨークタイムズネットフリックスを広告主に迎えて、制作したネイティブ広告が素晴らしかったと語りました。

女性受刑者に関するドラマのプロモーションですが、現状を取材し、社会問題を広く伝える記事となっています。そして、もちろんマネタイズにもつながるというので、新しいやり方だと思います。

記事にコストを明記する?

余談ですが、「コロンビア大学の学生が記事を書くときに、記事にかかったコストを明記する事例」などもとても面白いと感じました。海外のメディアは、「コスト&ベネフィット」をちゃんと提示して、支持を得ており、お金の流れを可視化した上でジャーナリズムを行っているのが素晴らしいです。

 

そのほか、たくさん論点は出ましたが、僕が興味深いと感じたのは、おおよそ今回取り上げた点です。メディアやジャーナリズムに関心のある方はぜひ、セッションも模様もご覧になってみてはいかがでしょうか。