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テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略

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先週末に「『テレビ・イノベーション』~テレビの歴史が変わる日~」というメディア・シンポジウムに参加してきました。普段はウェブメディア編集者ということもあり、テレビ業界のことはほとんど知らないので、勉強も兼ねてといったところでした。

この記事では、TBSメディア総合研究所社長の氏家夏彦氏のプレゼンで述べられていたことをいくつか紹介したいと思います。

広告費、視聴率、視聴時間が低下するテレビ

一番印象的だったのは「放送局からメディアサービス企業へ」という転換が求められているということ。これはテレビのみならず、ウェブメディアにおけるプラティッシャーやテクノロジードリブンの重要性の議論とも通じるところでした。 

「テレビの限界」として挙げられたデータは、テレビの広告費がリーマンショックの影響で3200億円減となっている一方で、2005年以降のインターネット広告費が2.5倍となっていること。また、いわゆる「テレビ離れ」として、視聴率低下、テレビのリアルタイム視聴時間の低下も紹介されました。

さらには、スマホの普及もテレビ業界に影響を与えているとのこと。20代は9割、30代は8割近い人がスマホを所有する中で、SNSやゲームなどとの時間を取り合う戦いとなっているのです。

競合がごく少数で、テレビの壁に守られてきた地上波テレビ。その枠組みの中にとどまっていては、なかなか成長の余地がなく、一方で、ニコニコ動画Youtubeなどテレビの外では動画(市場)が成長しています。

テレビのイノベーション、4つのキーワード

そんななかテレビ業界のイノベーションを考える際のキーワードはどのようなものなのでしょうか。

氏家氏は、①視聴者はユーザーになった、②テレビはサービスだ、③巨大なトラフィック誘導、④テレビのビッグデータという4点を紹介しました。

「①視聴者はユーザーになった」に関しては、ユーザーというものは「いつでもどこでも検索して、ソーシャルメディアで知ったり発信したり、高度なUIで動画を楽しめる」ことが当たり前だと思っている。たとえば前述のニコニコ動画Youtubeとテレビを(ほとんど)一緒だと思っていると述べました。

「②テレビはサービスだ」については、テレビ放送がはじまってから60年間、サービスの基本形(視聴者が自宅にいて、その時にだけ見られる)を変えていないことで、「不便で時代遅れのサービス」になっていると紹介。

そのため、リアルタイム視聴の促進や録画視聴(全局全番組見逃し視聴サービスの実現に向けて注力しているとのこと)なども考えなくてはなりません。しかしながら、このような視聴スタイルが広がっていくことは、地上波テレビのビジネスモデルが崩壊することも意味するのです。

「③巨大なトラフィック誘導」については、インターネット上のテレビに関する情報を「全局全番組見逃し視聴サービス」でトラフィックを促すことで、テレビ回帰できるのではないかと氏家氏は提言。番組の特定のシーンを探すことができたり、新しい視聴スタイルを生み出すことができるきっかけにはなりそうです。

「④テレビのビッグデータ」に関しては、テレビのメタデータとユーザーのログデータの2つがあり、前者では企業のマーケティングや販促に使ってもらい、CM以外でマネタイズの可能性を摸索し、後者においては、どんな人がどんな番組をいつ見たのか、どこで見るのをやめたのか、ユーザーの行動をすべて分析し、ECなどとコラボして、購買データともシナジー生めるのではないかと紹介しました。

このようにして、テレビの視聴行動と消費行動の関連性が可視化されることで、テレビ局の新しいビジネスモデルが生まれていくことは楽しみです。

「インターネットの世界ではテレビ局1社では完全に力不足」

一方で、これまで紹介したようなテレビのイノベーションを実現するには、やはり全キー局の協力体制やオープンな思想であったり、放送局ではなくメディアサービス企業として生まれ変わっていく必要があるとのこと。

「インターネットの世界ではテレビ局1社では完全に力不足。放送だけでなく、インターネットサービスをつくり、サービスデザインによる、高い満足度の体験(UX)の提供をしていかなければいけない」と述べられていたのが印象的でした。

テレビが未来に向かっていく中で、ビジネスモデル開発やメディアサービスという立ち位置、ビッグデータ活用など、ウェブメディアとも考え方が重なる部分も多くあり、大変勉強になったお話でした。

米テックメディア「GigaOM」がゲスト投稿ポリシーを変更した理由

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米テックメディア「GigaOM」がゲスト投稿ポリシーを変更したことを発表しました。外部寄稿者からのコラムなども多く掲載している同メディアですが、しかしながら、完全に投稿をなくすというわけでもありません。

理由としては、サービスのPRやマーケティングとして使われることも多くなったため。寄稿者はメールなどから問い合わせ、審査後、寄稿することができましたが、あまりにPR寄りのものが多く、ちゃんとした寄稿を見つけるのに時間もかかっていました。

そこで、どのような記事を寄稿として受け付け、投稿するのかを定めています。

すでにGigaOMに書いているライターの推薦や、GigaOM主催のイベントの登壇者、そしてこれまで通りメールで通過した寄稿者などが記事を投稿することができるのです。 

たとえば、パブリッシャーがプラットフォームに向かっていく時に、 コンテンツ数を増やしていく際なんかには今回のGigaOMのような問題を抱えることもあるのかもしれませんね。また、PR寄りの問い合わせをどのようにスポンサードコンテンツにつなげていくのかも重要になってきそうです。

 

【参考】

We’re updating our policies toward guest posts on Gigaom. Here’s why — Tech News and Analysis

「テレビ局はインターネットをマス的にしか使ってこなかった」ーーメディア仕掛け人たちが語る「テレビの未来」

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テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略」という記事でも書いた、メディア・シンポジウム「『テレビ・イノベーション』~テレビの歴史が変わる日~」の内容の続きです。

メディア人3名によるパネルディスカッションの様子を紹介します。登壇者は、氏家夏彦氏(TBSメディア総合研究所社長)、倉又俊夫氏(NHK報道局報道番組センター チーフ・プロデューサー)、佐々木紀彦氏(東洋経済オンライン編集長)です。

タイムフレームで見ると、テレビもネットも似ている

テレビのこれからに対して倉又氏は、「テレビの共通プラットフォームをつくる際、全局がそろわないと意味がない(NHKだけしか視聴できないアプリなど)。ユーザーは煩雑さに対して敏感だ」と答えました。

ここでも全局で新しいプラットフォームを生まないとネット発の動画プラットフォームにはなかなか勝てないということと、視聴者ではなくユーザーという捉え方で発言。

基本的にはこれまでずっとビジネスモデルが変化していないテレビ。視聴率取るということが大きな命題だったため、それほど経営は必要なかったという。いまになってようやく経営が必要になったと氏家氏。佐々木氏は、テレビの外から見たテレビの未来について語りました。

「これからテレビで起きようとしている未来は、新聞や雑誌とほとんど同じ。いまは雑誌が特に苦しんでいるだけであって、テレビにも近いうちに来る。『プラットフォーム』はキーワード。ヤフーが活字メディアについて影響力をもっていた時代だったが、コンテンツをつくるためのお金をまわすエコシステムはつくれなかった(佐々木氏)」

このようなこともあり、いいコンテンツよりも軽いコンテンツが増えてしまったきらいがあるのかもしれません。では、より深い、濃いコンテンツをつくることができる環境やエコシステムをどのようにつくっていくのでしょうか。

佐々木氏は「プラットフォームは技術が必要になるので、コンテンツを創っていた人がプラットフォーム側にいく必要がある」と述べた(自身も7月からはユーザーベース社にてNewsPicksに関わる)。

ネットメディアのエコシステムについては、まだまだ不十分なのですが、一方でテレビはどうなのでしょうか?

「タイムフレームで見ると、テレビもネットも似ている。テレビは昔、海外の映画を買って流していたし、オリジナルのコンテンツをずっとつくっていたわけではない。戦うためのツールやプラットフォームをつくらないといけない時代(倉又氏)」

テレビの広告、ネットのバナーは、メディアに最適化した広告ではない?

話は変わり、動画の話題に。今年は動画元年や動画広告元年と言われることもありますが、現状、それほど動画広告を掲載する器(メディア)がなかなかありません。

たとえば、佐々木氏が編集長を務める東洋経済オンラインでは「動画サイト」をつくり、企業のブランディングにも活用できる場を用意しました。

「クライアントも動画広告を出したい、ユーザーも動画コンテンツ見たいという状況だけれども、メディア側のネックが大きい。コンテンツをメディア側がつくらない(つくれない)(佐々木氏)」

一方で、氏家氏は「動画広告はテレビ広告以上に力を入れないとスキップされる。作り方が全然変わってくるはず」、倉又氏は「テレビにおける広告、ネットにおけるバナーというのは、実はメディアに最適化した広告ではなかったのではないか」と指摘をしました。

ウェブメディアでは、ネイティブ広告が注目を集めています。その動画版ネイティブ広告をどのメディアがシェアをとっていくのか、という点も重要になってきそうです。

最後に、倉又氏が「テレビ局はインターネットをマス的にしか使ってこなかった」という言葉が印象的でした。パーソナライゼーションやオープン、ロングテールなど、ネットならではの思想をテレビ側が取り入れていくことで、真のメディアサービス企業になっていくのではないでしょうか。

テレビは限界なのか? 変化するメディア環境とイノベーション戦略」の記事とあわせて読まれると、テレビ業界の課題認識やソリューションについて、知ることができると思います。