メンバーズ、元アトコレのMiner Studio買収――若手起業家がつくるメディアの未来
ソーシャルメディア活用支援やWebサイト運用などを提供するメンバーズが9月29日、株式会社マイナースタジオ(元・株式会社アトコレ)の買収・子会社化を発表しました。買収額は公表されていませんが、複数の関係者によれば数億円規模だそう。
アトコレは「みんなの美術館 アトコレ」の運営から事業をはじめ、ニュース解説サイト「The New Classic」やお出かけ情報サイト「Banq」など複数のWebメディアを5名ほどのチームで運営しています。
マイナースタジオ社の原型となったアトコレはクラウドワークス取締役副社長・成田修造さんやMERY運営のペロリ代表・中川綾太郎さんや河合真吾さんが在籍していたことでも知られています。資金関連では2011年、Samurai Incubate Fundより約450万円の資金調達を実施。その後もともと代表をつとめていた成田さんが退任され、チームが一新して1年半前から本格的に再スタート、今回の売却に至りました。
「メディアよりもサービスが伸びていた」
今回の件に関して、マイナースタジオ代表の石田健さんに少しお話を伺うことができました。月間200〜300万訪問数に到達していたこともあるThe New Classicが評価されたのかと思っていましたが、どうやらBanqやその他オウンドメディア構築・運営/コンテンツマーケティング関連の知見が大きかったようです。
「実はメディア運営よりもサービスのほうが伸びていたんです。コンテンツをつくり、メディアに落とし込み、流通や分析までおこなうサービスを提供しており、メンバーズグループに入ることでいまのチームが活きるのではないかと思いました」
現在いくつかのオウンドメディア運営にかかわっており、その売り上げが伸びていたとのこと。このあたりには、短期間で複数メディアを数百万UUまで成長させてきたノウハウが生きているのでしょう。
仕組みを意識したインバウンドメディアをつくる
メンバーズでは中長期的に訪日外国人向けのインバウンドメディアに注力したいとの考えがあり、アトコレが運営してきたローカルなお出かけ情報メディア「Banq」がその部分を担っていくようです。
同メディアはリニューアルをおこない、他言語展開を視野に入れて成長させる計画だそう。アトコレではここまでに書かれていないメディアも水面下で運営していましたが、今後はBanqに集中させていくとのこと。
「オウンドメディア運営に関するコンテンツ制作や流通で得た資金を新たなインバウンドメディアに投入していくようなイメージを持っています。チームとしてもワンプロダクトを伸ばすよりも、コンテンツの制作や流通の仕組みをどう活かしていくのかに関心がありました。
また、既存のインバウンドメディアの多くは日本のいいところを紹介するところに寄っていて――ぼくもそこに関心はあるのですが――それなりの数の読者を獲得していくには、仕組みを意識したメディアづくりが大切になると考えています」
「複雑なものを複雑なまま伝えたい」
ところで、石田さんは個人として海外メディア動向を伝えるメディア「メディアハック」を運営していたり、The New Classic時代にはいくつかの重要かつ本質を突く(超)長文記事を執筆するなど、書き手としても精力的に活動しています。
個人的にはThe New Classicのコンセプトやアプローチが好きで、海外メディアにおけるVox.comやBusiness Insider、Quartzあたりの影響が見え隠れしています。このあたりのアプローチを咀嚼して実践している日本のメディア運営者は石田さんくらいしか思い浮かびません。そのコンセプトや狙いについては過去のインタビューなどでも話されています。
石田:複雑なものを複雑なまま伝えたい、という意味では、編集の方針はむしろ時代に逆行しているとも思うんです。どんなにニュークラでふざけた画像を出しても、その分で、重めにコミットしている人をちゃかすことはしません。複雑なことを複雑なまま届ける、それがいちばんやりたいことです。
(中略)
石田:「世界に世界を説明しよう」を掲げています。これはフランスの歴史家リュシアン・フェーヴルの言葉です。「世界に世界を説明する」。これはとても難しくて、とてもクールなことだと思っています。
たとえば「戦争が起きました」。では「なぜそれが起きたのか」、これを実証しようと思ったらコストも時間もかかるわけです。今のところ、それは大学が担保しようとしていますが、本来的には、大学だけじゃなくて色んなところが担うものだと思っています。新聞なんかもそのひとつですね。
とはいえ、そうした実証はお金や人材がいないとできません。たとえばある人が「第二次世界大戦においては、メディアの影響が大きかった」と語りたいのなら、しっかりとリサーチデザインをして、仮説を立てて…という作業をする必要があります。しかし、そういうコストは一人のブロガーではまかない切れません。ニュークラはそういう情報を生産できる場になればいいな、と考えています。
(「イケハヤマガジン増刊号 Vol.1:MEDIA-MAKERSムーブメントは起こるのか!? メディア野郎への道標」より)
過去には「インターネット界隈の事を調べるお」にて「数年後『アトコレマフィア』とか呼ばれるかもしれない若手起業家達」というブログ記事も出ていたアトコレ(現・マイナースタジオ)。先述のとおり、コアメンバーは多方面で活躍しています。今回の買収は、若手メディア起業家のひとつの成功として重要な出来事だといえそうです。