メディアの輪郭

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米国におけるデジタルメディアの動向とは? QUARTZ発行人 ジェイ・ローフ氏のプレゼンを聞いた

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QUARTZ(クオーツ)」という新興ビジネスメディアがあります。そのメディアの革新性について、海外では多く報道されているものの、日本での認知はほとんどありません。

メディアの輪郭では、注目するメディアのひとつとして、その特徴や細かい動向についてなど、これまで何度も取り上げてきました。

先日、クオーツのパブリッシャー兼プレジデントを務めるジェイ・ローフ氏が来日しており、そのプレゼンを聞いてきました。米国におけるデジタルメディアの動向と広告の潮流についての発表で参考になりました。いくつか情報をシェアしたいと思います。

もしそのニュースが重要なら、ニュースのほうが私を見つけるだろう

WIREDのパブリッシャー、アトランティックのパブリッシャーを経て、アトランティックメディアが2012年に新設したQUARTZのパブリッシャーになったローフ氏。自然とページが変わるデザインやネイティブ広告でも注目される同メディアは、現在、月間550万UUを記録しています。

ローフ氏はさまざまなデータを紹介し、ニュースをとりまく環境変化を伝えました。決まった時間にニュースを見る人は2002年の49%から、2012年には37%に減少する一方、すきま時間に見る人は2002年には49%、2012年には57%に増加しているとのこと。

そして、2006年、Twitterの登場をきっかけにさらに環境は変わりました。当時流行った「“If the news is that important, it'll find me.(もしそのニュースが重要なら、ニュースのほうが私を見つけるだろう)」という言葉も紹介。スマホやソーシャルの普及により、新聞のようなプル型メディアから、プッシュ通知などをはじめとするプッシュ型メディアに大きく変わっているとしました。

(アメリカでは)61%がニュースの閲覧にモバイルやタブレットを使用(41%がモバイル、20%がタブレット)、そしてPCが30%と、構図が逆転しているのです。新聞含め、紙メディアやウェブメディア初期は一面やホームページが機能していたけれど、いまでは60%のトラフィックがソーシャル流入なため、アンバンドル化が進んでいます。また、91%のエグゼクティブがニュースをシェアをしているという興味深いデータの紹介もありました。

500語よりも短い記事と、800語よりも長い記事に特化

QUARTZは、シェアとエンゲージメントに適応したコンテンツということも意識しているようです。500~800ワードはあまり読まれない/シェアされないという「クオーツカーブ」も紹介しました。

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アメリカの新聞の平均的な記事の長さは、紙面の上から下までの一段の記事で、語数にして700語台である(日本語に訳すと2千数百字になる)。だが、『クオーツ』は、500語よりも短い記事と、800語よりも長い記事に特化している。

この哲学に行き着いたのは、トラフィックを分析したところ、デジタルでよく読まれるのは短い記事か長い記事のどちらかだという分析結果を得たからでもあり、700語台の記事は無駄が多いと考えるからでもある。

アメリカで躍進中のビジネスニュースサイト『クオーツ(QUARTZ)』 その編集方針と経営戦略を聞いた

短いものでは、インフォグラフィックや短編動画で記事を構成し、長いものはストーリーテリングやシリーズものの報道といったものになっています。クオーツカーブのように、データをもとに、メディア環境の流れをコンセプトに昇華できるのはすごく魅力的なことだなと思います。

「53%の消費者が、バナー広告よりもネイティブ広告を見ている」

デザインに関しては「Radically Simple」「Responsive Design」の言葉を挙げていました。バナーやハイパーリンクなどを入れず、コンテンツに集中してもらうことでエンゲージメントを高めるようにしていたり。だからこそ、ネイティブ広告も活きてくるのでしょう。

続いてローフ氏は、ROI(投資利益率)、モバイル、ソーシャルインプリフィケーション、デジタル、エンゲージメント、パブリッシャーなどの要素がネイティブ広告を後押ししたと紹介。「53%の消費者が、バナー広告よりもネイティブ広告を見ている」といったデータもあるそう。

効果的なネイティブ広告には、質、関係性、目立たないこと(Unobtrusive)、デバイスに最適化すること、透明性などの要素が挙げていました。質に関する実例としてゴールドマン・サックスが提供する「Macroeconomic outlook for 2014」を紹介していました。 

プレゼン後の質疑応答セッションでは、本題にあまり関係ないけれど、クオーツのひとつの強みであるデータビジュアライゼーションツール「チャートビルダー」について聞いてみました。データジャーナリズムサイト「FiveThirtyEight」のネイト・シルバーをはじめ、著名なジャーナリストも活用しているようです。

チャートビルダーのおもしろいのは、Github上にソースがアップされ、オープンな活用を進めていること。日本だと誰か活用されているメディアやジャーナリストはいるのでしょうか。

会が終わったあとにも3つほど聞いてみました。

「バズフィードをはじめ、バイラルやキュレーションメディアについてどのように捉えていますか?」

「いまのところ英語圏を攻めていますが、スペイン語やフランス語、ポルトガル語などへの展開は考えているんですか?」

「現在、月間550万UUとのことで、グローバルエリートの読者獲得に成功していると思います。ここからのグロースがなかなか難しいと思いますが、どうなのでしょうか?」

公式での見解ではないので、ここでは回答の紹介を控えますが、これからのグロース戦略に関する考えは興味深かったです。

最後に、クオーツのネイティブ広告は体験としてまさに「ネイティブ」を体現するものであり、日本のトップブランドが海外向け広告の出稿先として、クオーツを選択する機会は増えていくのではないでしょうか。立ち上げ時は35名だったクオーツは今年には90名で運営する体制になるとのこと。今後の拡大にも注目です。