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コンデナスト社、音楽メディア「Pitchfork」を買収〜若い読者と新しい収益源を求めて

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驚きました。

ファッション誌『Vogue』『GQ』やテクノロジーカルチャー誌『WIRED』などをもつコンデナスト社が音楽メディア「Pitchfork(ピッチフォーク)」を買収したのです。

1995年にひとりの高校生の手によってスタートしたピッチフォーク。当初はレビューからはじまり、ニュースやインタビュー、特集、フェス、さらに2014年には紙媒体も発行するまでになりました。

20年目を迎えるにあたって、コンデナストに合流したピッチフォークの特徴や哲学はどういうものなのでしょうか。

ピッチフォークはインディーロックをコアとするメディアだが、ジャンルへのこだわりはない。編集長のリチャードソンは、「何を取り上げるかの基準はあるようでない。自分たちの勘に従っている」と語る。現在1カ月に100枚ほどのアルバムを取り上げるが、そのジャンルはブラックメタルからヒップホップ、ジャズ、フォーク、エレクトロニカと多岐にわたる。そしてほかの音楽メディアにはない強みとして以下の3つを挙げる。「インディペンデントなマインド、それぞれが高い専門性をもちながらも自由なマインドをもった書き手とスタッフ、そしてテキストのレヴェルの高さだね。ある作品を批判的に取り上げるときでも、ちゃんとエンターテイニングに書けるのが強みだよ」。

現在ピッチフォークは40人ほどの書き手を抱えている。3年ほど前に一般公募した際には、5,000人もの応募があったというからそのレヴェルの高さがうかがい知れる。ただ、専門性は高くとも専門化はさせない、というのが彼らのスタイルだ。「いまの読者はジャンルにもはやこだわらない。インターネットの時代になってそれはますます加速している。ぼくらが理想としている読者は、あるひとりのアーティストや特定のジャンルではなく、音楽全体で起こっていることに興味があって楽しめる人だね。メタルだろうが、ヒップホップだろうが、そこでいま起こっている面白いものに首を突っ込みたくなる、そういう『音楽ギーク』であってほしいんだ」。

アメリカでは現在毎月2,000もの作品がリリースされているという。その膨大な音楽の海から毎月100枚をセレクトし評価することで、リスナーに選別の基準を与えることがメディアのひとつの役割、とリチャードソンは言う。

(中略)

 「ぼくらにとって理想のレヴュー記事というのは、その作品を聴いたあとに読んでも意味のある記事なんだ。単によし悪しを評価するだけでなく、その音楽を聴いたリスナーに、自分では気づかなかったような発見をもたらす。これはリコメンエンジンやアルゴリズムにはできないことだと思う」

理想の音楽レヴューとは何か? 「Pitchfork」編集長が語る音楽メディアの未来

世代によって移り変わってきた音楽メディア。ローリングストーン誌、スピン誌ときて、現代(ミレ二アル世代の)ピッチフォーク。Similarwebによれば、月間訪問数は約1000万人です。

このメディアの編集の妙による「世代を代表する声」に集まってきた熱狂的で若い男性読者。これが今回の買収のひとつの理由でもあるようです。つまり、『Vogue』『GQ』など女性メディアでは大成功してきましたが、若い男性読者を捕まえられていなかった。そこにハマり、かつ強力なブランドをもつ貴重なメディアがピッチフォークだったのではないでしょうか。

コンデナストはこれまでもさまざまなイベントやカンファレンスを開催し、近年ではロンドンにファッション・スクール「Condé Nast College of Fashion & Design」を構えるなどウェブだけにとどまらない収益化を図ってきました。

そして今回のピッチフォーク買収。音楽フェスは媒体の存在感やブランドを高めるとともに、強力な収益源になります。多ブランドをもつメディアカンパニーとしては、テクノロジードリブンでもあるVox Mediaと比較されますが、両者については引き続き目を向けるべきでしょう。