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「狙ったターゲットに役立つ情報を届ける雑誌はWebに取って代わる」——紙雑誌生き残りのヒント

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『編集会議』2015年春号を読みました。マーケティングに活かす「編集者」的発想法という特集タイトルで、企業のコンテンツマーケティングから雑誌編集長の対談、編集者とライターの打ち合わせ公開、プロの書き手6名のインタビューなど盛りだくさんです。

なかでも紹介したいのは、『Harper's BAZAAR』編集長の森明子さんと『WIRED』編集長の若林恵さんの対談。それぞれハーストとコンデナストというグローバルメディア企業の雑誌としての立ち位置は同じです。二誌にまず共通していたのは、ネタの豊富さ。海外版もあるため、日本にいながら世界中の情報を得ることができるということです。WIREDのウェブ版をみると、おもしろい翻訳記事が多いですよね。

ローカライズする際の工夫として若林さんは1万字くらいあるロングフォームのインタビュー記事をそのまま掲載することを挙げています。「『海外では、こういうスタイルは普通なんだぜ』という、内容だけでなく雑誌としての見せ方も含めて伝えたいんです」という言葉がありました。一方、森さんは掲載時に写真を切り取ったりレイアウトを変えることが厳しい規則があり、結果として海外のものをそのまま伝えるようにしていると別の理由を語っています。

紙とWebの編集体制については、どちらとも同じチームでやっているそう。若林さんは「紙とWebの読者層は、意外とかぶらないんです。極端にいえば、Webで読んだ記事を、雑誌で読んでも同じだと認識しないこともあるんじゃないか」という重要な指摘を示しています。

さらには紙とWebでは期待するほどのシナジー効果はなく、別チャンネルとして割り切っているとのこと。ただ、広告に関してクライアントにとっては両媒体で見せ方を変えて効果を見込むという意味ではシナジーがあると述べています。

ターゲティングについては、「『WIRED』の読者は、『WIRED』に掲載されている情報に興味がある人」と若林さん。「ターゲットを決めてしまうと、誌面の情報が単なるノウハウになってしまう」「"狙ったターゲットに役立つ情報を届ける"という機能性だけの雑誌はWebに取って代わる」といった理由からだそうです。

偶然にも前のページの対談に登場する『SPA!』編集長の金泉俊輔さんも「人間って合理性の高いだけのものに関して、感動したり怒ったりしないんですよ。そのためにも情報コンテンツのつくり手は、常識だと思うものを徹底的に疑ってほしい。常識がひっくり返ったところに喜怒哀楽があります。これは機械にはできない、人間だからできることです」といった発言をしていました。

そのほかにも「読者を信用すること」「若者が雑誌を買わないのは、雑誌を読んだらおもしろかったという体験がないから」など興味深いキーワードが出てきている今号の『編集会議』はおもしろかったです。