メディアの輪郭

更新するだけ健康になれる気がしています

『ヒットの崩壊』が発売から半年経っても売れ続けているワケ

『ヒットの崩壊』の反響

少し前になりますが、担当書『ヒットの崩壊』に関して、毎日新聞「キーパーソンインタビュー」欄で取り上げていただきました。著者の柴那典さんと一緒に担当編集としてもインタビューを受けました。

いま、書店やアマゾンなどには3刷などが流通しており、引き続きじわじわと売れ続けている本書ですが、音楽業界はもちろんのこと、メディア業界からの反響も大きさも発売直後から実感しています。

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メディア業界の先行指標という実感

キーパーソンインタビューの中の自分の発言を少し引用しながら、振り返ってみます。

 --小室哲哉さんが連発したようなメガヒットはないが、今は多くの選択肢をもって楽しむことができますよ、と。それを「ヒット崩壊」の最大の主題として受け止めました。

 佐藤さん あるマーケターの方は「ピコ太郎の出現を予測してくれた本だ」というブログを書いてくださいましたし、僕自身メディアの側にいるので、新聞・出版の方からの反響はよく聞こえてきた。彼らも音楽業界がメディア業界の先行指標になると何となく知っていたり話したりしますが、実感はしていない。僕もかつて腑(ふ)に落ちない部分があったのです。

 しかし2年前、オランダでブレンドルという「ジャーナリズム界のiTunes」を標ぼうするベンチャーのニュース配信サービスを取材した。ドイツの大手新聞社アクセル・シュプリンガーや米ニューヨーク・タイムズも出資しており、個々のユーザーに応じて表示する記事を変える、記事を一本単位で購入できるようにする、など面白い試みをしていた。その取材時、「ベンチマークしているサービスは何ですか?」と尋ねたら、「スポティファイを手本にしている」と言うのです。メディアのサービスを作るとき、音楽サービスの操作性やユーザー体験を参考にしているのだと感心しました。メディアの最先端ってそういう認識なんだと肌で感じました。

--オランダの新興ニュースメディア「ブレンドル」が、世界最大手の音楽配信サービス「スポティファイ」を手本にする。おもしろいですよね。見習おうとしているのは、スポティファイが得意とするお薦めリストといった機能ですよね。

 佐藤さん はい。(利用者一人一人の好みに合わせる)パーソナライズやリコメンド(お薦め)機能ですね。当時、コンテンツのテーマから出発するものがほとんどで、ユーザー体験を出発点にするメディアは少なかった。ニュースや新聞のユーザビリティー(使い勝手、使いやすさ)ってどうなのか、根本から考えるってないですよね。雑誌の創刊でも競合を調べて「ここのニーズが空いているから、これを作ろう」と考える。発想がまったく違うのが面白い。

 大事なのは、ユーザビリティーに優れることは若者がお金を払うことにつながる点。ブレンドルのユーザー層は20~30代に多く、登録した読者には2.5ユーロを付与している。なぜなら若者は記事にお金を払う経験がなく、「記事を買う」経験を作るところから始めているのです。取材時には、ジャーナリズムの世界には摩擦がなくスムーズに利用できるサービスが必要だ、と言っていました。そういう設計の部分はスポティファイをすごく参考にしているそうです。

もともとこのブログで海外メディアの最先端に触れているなかでも、音楽ビジネスの変遷は意識していましたが、ディア業界の先行指標としての音楽ビジネスというのを自分ごととして捉えることができたのは、2年前にオランダのメディアを取材しに行ったことでした。

多様な接点・流通を意識すること

また、cakesでの全文公開についてもお話しました。

近年では少しずつ増えているプロモーション手法ではありますが、発売後4ヵ月ほど経ってからカテゴリ1位を獲るきっかけとなるなど、その効果をたしかに感じることができました。

--同時進行で、本は書店に並んでいるが、ウェブ上でも無料公開が続いていたと。

 佐藤さん 新書は特に毎月各レーベルから新刊が出るので、書店で平積みされるのは1カ月だけ。その後は棚に入ってしまう。そうなるとお客さんとの接点が減って、賞味期限を終えてしまう。でも、今回のように定期的なペースで無料公開していくと、「ここが面白いから買う」といった接点が新たに生まれます。まさにチャンス・ザ・ラッパーの部分はものすごく読まれて、J-POP関連の書籍ランキングで1位になった。全文のウェブ公開は講談社現代新書で初の試みでした。

ネットで読める長さにしたり、タイトルを書籍とは変えたり、長期的に公開することで、書店とはまた違う多様な接点を作り出すことができました。接点、流通を意識することの重要性を改めて感じました。

メディアのこれから

最後には、生意気にもメディアのこれからについてお話しました。

基本的にあまのじゃくな性格なので、伝統的な記者観、編集者観を疑うことがまずは必要なのではないかと。現状維持、予定調和はなんとしてでも避けていきたい編集人生です。

--今後の活字メディアについて「こうなっていく」「こうすると面白いのでは?」というお考えを聞かせてください。

 佐藤さん 新聞は、単純に書き手の顔が見えないと、SNSやネット上では通用しないと思う。顔が見えず、だいぶ損をしているかなと。記者にファンが付くことで記事の面白さが増す面もある。いま各社に名物記者はいますが、普通の記者さんもファンを抱えるために顔を見せていく。出版社も同じで、編集者は「黒子であれ」でなく、もっと動きようがあるのではないか。つまり、伝統的な記者観、編集者観を疑っていくと面白くなるのではないかと思います。 

ひきつづき、『ヒットの崩壊』をよろしくお願いいたします!粘り強く売り伸ばしていきます!

SMAP、宇多田、ピコ太郎、紅白、君の名は。…2016年の統括と2017年の展望を語りつくすイベント

担当書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)の第2弾イベントを開催します。第1弾はデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミさんをゲストにおこないましたが、今回は音楽/映画ジャーナリストの宇野維正さんをお招きしての開催です。

SMAP、宇多田、ピコ太郎、紅白、君の名は。…音楽、カルチャー、そしてメディアにとって話題が盛りだくさんだった2016年の統括と、2017年の展望を語りつくすイベントになります。

【日時・会場】

日時:2017年1月10日(火)
   19:00開場/19:30開演/21:00終演予定
会場:講談社26Fレセプションルーム(東京都文京区音羽 2-12-21)
http://www.kodansha.co.jp/about/access.html
出演:柴那典(音楽ジャーナリスト)、宇野維正(音楽/映画ジャーナリスト)
料金:1500円(通常)、2000円(『ヒットの崩壊』1冊付き)
定員:40名

【イベント概要】

「2016年は、おそらく後から振り返ったときに、日本の音楽シーンの「時代の変わり目」として思い出される年になるのではないかと思っている。
SMAPが年内いっぱいでの解散を発表した。宇多田ヒカルが久しぶりの新作『Fantôme』でカムバックを果たし、本人も予想していなかったアメリカのiTunesチャートでのTOP3入りを記録した。
映画の世界では、新海誠が監督を、RADWIMPSが音楽を手掛けた『君の名は。』が、まさにブロックバスター的なヒットを実現した。そして、世界各国で音楽マーケットを刷新してきたスポティファイが、ようやく日本上陸を果たした」(『ヒットの崩壊』より)

2016年は「激動」の1年でした。上記の出来事のほか、ピコ太郎「PPAP」が世界を斡旋し、CD時代のヒットの作り方が終わりを告げようとしています。同時に「所有」から「アクセス」へ、「モノ」から「体験」へといったシフトが進んでいる過渡期でもあります。

2020年に向けて、リオ五輪閉会式での「トーキョーショー」も大きな注目を集めました。年末にはラインナップが話題となった紅白歌合戦があります。このイベントでは、いろいろなことがあった2016年という年を統括するとともに、2017年の音楽とカルチャー、メディアの展望を語ります。

登壇するのは、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)著者で音楽ジャーナリストの柴那典さんと、『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)著者で音楽/映画ジャーナリストの宇野維正さん。どちらも2016年に出版された本です。

『ヒットの崩壊』は、「ヒット」という得体の知れない現象について、小室哲哉さんやいきものがかり水野良樹さんといったヒットメイカー、ヒットチャート、テレビ、カラオケ、レコード会社、マネジメントなど多種多様な取材を通じて掘り下げた1冊。ヒットとは何か? その方程式はどう変わったのか? 音楽以外の業界・ビジネスにも応用できる内容です。

『1998年の宇多田ヒカル』は、史上最もCDが売れた1998年──宇多田ヒカル椎名林檎aiko浜崎あゆみという偉大な才能がそろって出現した奇跡の年──と、4人それぞれの歩みや関係性を、「革新・逆襲・天才・孤独」をキーワードに読み解いた1冊。2016年1月の発売以降、「予言の書」としても各所で話題と評価を集めています。

過渡期を経た2017年、音楽や映画などのカルチャー、そして改めて問われているメディアの意義や役割…これらについて縦横無尽に語り尽くします。2017年はどんな年になるのか? この時代に対する解像度がグッと上がる時間になるはずです。ぜひご来場ください。

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『ヒットの崩壊』刊行記念イベントを開催しました

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『ヒットの崩壊』イベントまたやる予定です

11月15日(火)、担当書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)の発売日に刊行記念のイベントをスマートニュースのイベントスペースにて開催しました。

「テクノロジーは音楽をどう変えたのか?」と題して、『ヒットの崩壊』著者で音楽ジャーナリストの柴那典さんと、世界のデジタル音楽の最前線に詳しいデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミさんが縦横に語り合うというもの。

書籍1冊込みで参加費1000円ということもあり、当日は100名弱の参加者が来場してくださいました。音楽業界の方はもちろん、メディアやIT業界の方の参加がとても多かったです。

このイベントで語られたことは、後日、柴さんのブログでも掲載予定です。すでにブログやツイッターなどでイベントの模様を発信してくださっている人もおり、とてもうれしいです。今後も『ヒットの崩壊』関連のイベントを開催予定です。乞うご期待!

イベントのご感想など

『ヒットの崩壊』出版記念イベントに参加しました
http://lineblog.me/shigekixs/archives/04127.html

#ヒットの崩壊 に感じたメディアの崩壊
http://lineblog.me/georgek/archives/04502.html

「ヒットの崩壊」刊行記念イベントの話
http://triverk.hatenablog.jp/entry/2016/11/16/084210

『ヒットの崩壊』のリリイベに行ってきました
http://tutti31.hatenablog.jp/entry/2016/11/16/104705

インタビューと対談が出ました

書評が出ました

ライターの武田砂鉄さんがサンデー毎日で、『ヒットの崩壊』の書評を書いてくださいました。ぜひご一読ください。

武田 砂鉄・評『ヒットの崩壊』柴那典・著http://mainichi.jp/articles/20161122/org/00m/040/036000c

エンタメとカルチャー「激動の時代」を仮説・検証する〜『ヒットの崩壊』ができるまで

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ヒット曲は時代を映し出しているか?

歌は世につれ、世は歌につれ──。
かつて大瀧詠一は「ヒット曲は聞く人が作る」と語った。
果たして今、ヒット曲は時代を映し出しているだろうか?

11月15日に編集担当書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)が発売になります。著者は音楽ジャーナリストの柴那典さん。1月に最初の最初くらいの打ち合わせをし、3月に企画会議を通り、半年の取材・執筆を経て、このたび完成しました。

激変する音楽業界の中心にいる方々に取材を行いながら、著者の20年近くの取材・批評の知見を加えて執筆したルポルタージュ「ヒット」という得体の知れない現象から、音楽ビジネスの激変や新しいヒットの方程式、さらにはエンタメとカルチャー「激動の時代」の一大潮流を解き明かす、という内容です。

「ヒットの崩壊」とは?

タイトルの『ヒットの崩壊』は読者の方にとっていろんな意味にとっていただけるかと思います。ヒットチャートの崩壊、メガヒットを生み出すための環境の崩壊、ヒットを生まなければいけないという概念そのものの崩壊……。

しかし、「崩壊」としておきながらも、本書で書かれていることはむしろポジティブなことが大半を占めています。それはなぜか?

もともと途中までは『J-POPの未来』といった仮タイトルで進めていたことが大きかったと思います。最初から「崩壊」と付いたタイトルだったなら、かなりラディカルになっていたかもしれません。

そして、「ヒット"曲"の崩壊」としていないのは、これは音楽に限った話ではないからです。あらゆるエンタメやカルチャー、もっといえば社会全体で「ヒットの崩壊」が起きているということもできるでしょう。

仮説と検証で時代に向き合う

もちろん"音楽を通じて"ではありますが、主に2000年以降、特に2010年代以降の社会と人々の変化について、様々な角度から明らかにしています。そのアプローチは非常にシンプル。仮説と検証です。

著者の柴さんが20年近くのジャーナリストの経験から抱いていた仮説を、その対象や現象の当事者や近くにいる人に取材し、検証していく。結果、仮説をもとにした評論などではなく、仮説をもとに事実を積み上げたルポになりました。

書店に行くと、「いまの時代はこんなキーワードで表現できます」というコンセプトありきで時代をなんとなく分かった気にさせてくれる本はたくさんありますが、そういうものとは違う、強度のある本ができたと思っています。

『ヒットの崩壊』では仮説を検証しているので、取材のたびに仮説に対する間違いや違う角度からの知見を得て、都度内容や構成を調整したり大きく変えたりしてきました。本のゴールを決めつけず、各方面の取材から浮かび上がったことを通じていまの社会や時代をめぐる落とし所を探していったのです。

音楽"だけ"の本にしない

本書のインタビューで、いきものがかり水野良樹さんはこういう発言をされていました。

「ヒット曲が少ないことが意味するのは、つまり、音楽という存在が社会に対して与える影響が弱くなったということだと思うんです」

社会への影響、というのはひとつのキーフレーズとなっています。そもそも音楽が社会に影響を与えるべきなのかどうかという議論も出るでしょうが、そういうところも含めて様々な議論のたたき台としても機能する本になっているかもしれません。

編集者として意識していたのは、「音楽だけの本にしない」ことです。タイトルに「音楽」や「J-POP」という言葉を使っていないことはそういう意図の表れでもあります。

J-POPの未来、ヒットの未来、そして社会の未来――。こうしたことを考えるうえで、長い射程を持ち得る本になっていれば幸いです。

「これだけきちんと検証されている本、丁寧な本は久しぶりです」――本書に「生き証人」として登場いただいた音楽プロデューサー・牧村憲一さんがさっそくツイートしてくださっていました。

ジャーナリスト・津田大介さんと牧村さんの共著『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ、2010年)以来の決定打的な本になっているならば、編集者として本望です。

テクノロジーは音楽をどう変えたのか?

本書の内容は2週間にわたり、cakesで先行公開していました。小室哲哉さん、水野良樹さんへのインタビュー、そしてヒットチャートを運営する企業取材などを配信しましたが、本が発売される前に反応が見れるのは貴重な機会でした。

最後に、発売日の15日には「テクノロジーは音楽をどう変えたのか?」と題したイベントをスマートニュース イベントスペースにて開催します。第6章「ヒットの未来、音楽の未来」のその先についてのトークになる予定です。本書で書けなかったテーマも扱うと思いますので、ぜひご参加いただけたら嬉しいです。

『ヒットの崩壊』概要

 激変する音楽業界、「国民的ヒット曲」はもう生まれないのか?

宇多田ヒカルの登場はJ-POPをどう変えたのか?
小室哲哉はどのように「ヒット」を生み出してきたのか?
いきものがかり水野良樹が語る「ヒットの本質」とは?
オリコンは「AKB商法」をどう受け止めているのか?
●なぜ「超大型音楽番組」が急増したのか?
●「スポティファイ」日本上陸は何を変えるのか?
●なぜBABYMETALは世界を熱狂させたのか?
SMAP解散発表で広がった購買運動の意味とは?

「ヒット」という得体の知れない現象から、エンタメとカルチャー「激動の時代」の一大潮流を解き明かす。

テレビが変わる、ライブが変わる、ビジネスが変わる。
業界を一変させた新しい「ヒットの方程式」とは…?

雑誌『編集会議』に「2017年、Webメディアの潮流を読む」を寄稿しました

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雑誌『編集会議』2016年秋号に「2017年、Webメディアの潮流を読む」という記事を寄稿しました。「Webメディアがなくなる日」という小見出しから書き出し、潮流を読むところまでたどり着きませんでしたが、もしご関心あれば手に取ってみてください。

ジャーナリスト/ノンフィクションライターの木村元彦さんの「書くこと自体が好きかというと、そんなに好きでもないですから(笑)」という言葉に共感したり、ライターの武田砂鉄さんが「書き手から見た『優秀な編集者』の条件」という依頼されたテーマを解体していく感じが愉快だったりしました。

 

また、「若手編集者・ライターのための推し本」というコーナーでは、チェコ好きさんが書かれた『旅と日常へつなげる ~インターネットで、もう疲れない。~』をプッシュさせていただきました。

この本はテーマも、語り口も、エピソードも好きで、なおかつ力まずに読めるのでおすすめです。もともと編集者として、『閉じこもるインターネット』や『弱いつながり』などの本が積み上げてきたテーマを常に考えているので、そんな自分にフィットした本でした(「ネットに疲れた」「Webメディアにそんなに長くいたくない」とよく言っているくらいなので……)。

閉じこもるインターネット』の中で出てくるフィルターバブルは、実は11月15日発売の担当書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)の裏テーマのひとつでもあります。

とはいえ、ぼくはうまく言語化できないことも多くあります。一方、チェコ好きさんは実際に国内外を移動し、ご自身なりの思考をされているので、旅と日常へつなげる』はぼくがふわふわと考えていることのはるか先を明るく示してくれたように感じています。

 

そうそう、『ヒットの崩壊』についてKAI-YOUさんがニュース記事として発信してくださっています。ぜひ目次だけでも読んでみてください。

kai-you.net

「激変する音楽業界」と「新しいヒットの方程式」を探る本『ヒットの崩壊』

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編集を担当した『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)が11月15日に発売されます(新書版240ページ)。Kindle版も昨日から予約がはじまりました

著者は音楽ジャーナリストの柴那典さん。「激変する音楽業界」と「新しいヒットの方程式」をテーマに半年以上かけて取材と執筆、ようやく完成しました。

どんな本なのか?

激変する音楽業界、「国民的ヒット曲」はもう生まれないのか?

  • 宇多田ヒカルの登場はJ-POPをどう変えたのか?
  • 小室哲哉はどのように「ヒット」を生み出してきたのか?
  • いきものがかり水野良樹が語る「ヒットの本質」とは?
  • オリコンは「AKB商法」をどう受け止めているのか?
  • なぜ「超大型音楽番組」が急増したのか?
  • 「スポティファイ」日本上陸は何を変えるのか?
  • なぜBABYMETALは世界を熱狂させたのか?
  • SMAP解散発表で広がった購買運動の意味とは?

「ヒット」という得体の知れない現象から、エンタメとカルチャー「激動の時代」の一大潮流を解き明かす。

テレビが変わる、ライブが変わる、ビジネスが変わる。
業界を一変させた新しい「ヒットの方程式」とは…?

誰に取材したのか?

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【目次】

第一章 ヒットなき時代の音楽の行方

1 アーティストもアイドルも「現役」を続ける時代

  • 「音楽不況」は本当か?
  • CDは売れなくともアーティストは生き残る
  • 「ブームはいつか終わるもの」だった90年代
  • 「遅咲きバンドマン」が武道館へ
  • 終わらなかった「アイドル戦国時代」
  • 音源よりもライブで稼ぐ時代
  • 失われた「ヒットの方程式」
  • 10年代の前提条件

2 みんなが知っている「ヒット曲」はもういらない?

  • 小室哲哉はこうしてヒットを生み出した
  • タイアップとカラオケがもたらしたもの
  • 「刷り込み」によってヒットが生まれた
  • 宇多田ヒカルの登場と20世紀の大掃除
  • AKB48SNSの原理
  • 動員の時代
  • いきものがかり水野良樹が語るJ-POPの変化
  • 音楽は社会に影響を与えているか
  • バラバラになった時代を超えるために
  • 「共通体験」がキーを握る

第二章 ヒットチャートに何が起こったか

1 ランキングから流行が消えた

  • 異様な10年代の年間チャート
  • オリコンチャートからは見えない「本当の流行歌」
  • 「音楽は特典に勝てない」
  • オリコンはなぜ権威となり得たか
  • 「人間の対決」が注目を集める
  • ヒットチャートがハッキングされた
  • そもそもCDを買う意味とは
  • オリコンの未来像

2 ヒットチャートに説得力を取り戻す

  • ビルボードが「複合チャート」にこだわる理由
  • 「ヒット」と「売れる」は違う
  • ランキング1位の曲を思い出せるか
  • 懐メロの空白
  • カラオケから見える10年代の流行歌
  • 定番化するカラオケ人気曲
  • 「J-POPスタンダード」の登場
  • ヒット曲が映し出す「分断」

第三章 変わるテレビと音楽の関係

1 フェス化する音楽番組

  • 東日本大震災が変えたテレビと音楽の歴史
  • 各局で超大型音楽番組が拡大中
  • フェス文化を取り入れて進化を遂げた
  • 「入場規制」が人気のバロメータ
  • スマホでフェスは好相性
  • 制作者の意識はどう変わったか
  • 「メディアの王様」ではなくなった
  • 「音楽のお祭り」を作る

2 テレビは新たなスターを生み出せるか

  • 狙いは「バズる」こと
  • 人気を測る尺度が複数になった
  • テレビの役割は「紹介」になった
  • 『ASAYAN』以降の空白
  • 世界的なスターは今もテレビから生まれている

第四章 ライブ市場は拡大を続ける

  • ライブビジネスが音楽産業の中心になった
  • 「聴く」から「参加する」へ
  • 「みんなで踊る」がブームになった時代
  • 時間と空間を共有する
  • 前代未聞の「事件」がもたらしたもの
  • アミューズメント・パーク化したフェス
  • スペクタクル化する大規模ワンマンライブ
  • ピンク・フロイドユーミンがライブを「総合芸術」に変えた
  • ライブの魅力は「五感すべて」の体験
  • メディアアーティストがライブの未来を作る

第五章 J-POPの可能性――輸入から輸出へ

1 純国産ポップスの登場

  • 洋楽コンプレックスがなくなった
  • J-POPの起源にあった「敗北の意識」
  • ニッポンの音楽の「内」と「外」
  • 演歌も「舶来文化」から生まれた
  • 『風街ろまん』が日本のロックの起点になった
  • はっぴいえんどイノベーション
  • アメリカへの憧れと日本の原風景
  • 洋楽に憧れない世代の登場
  • J-POPが「オリジン」になった
  • なぜカバーブームが起こったのか
  • ブームの仕掛け人は誰か
  • 大瀧詠一の「分母分子論」

2 新たな「日本音楽」の世界進出

第六章 音楽の未来、ヒットの未来

  • 過渡期の続く音楽業界
  • 所有からアクセスへ
  • 拡大するグローバル音楽産業
  • 世界の潮流に乗り遅れた日本の音楽業界
  • 変化を厭い「ガラパゴス化」していた
  • この先に何が訪れるのか
  • 音楽を“売らない”新世代のスター
  • アデルの記録的成功
  • 「ニッチの時代」は来なかった
  • ロングテールとモンスターヘッド
  • サブカルチャーとしての日本音楽
  • 小室哲哉の見出す「音楽の未来」
  • unBORDEの挑戦
  • 健全な「ミドルボディ」を作る
  • 水野良樹が語る「ヒットの本質」
  • 「歌うこと」が一番強い
  • 音楽シーンの未来 

というわけで、『ヒットの崩壊』をよろしくお願いいたします!

本書内では、個人的にずっと関心を寄せている、インターネットやソーシャルメディア普及後の世界的な課題である「フィルターバブル」にも触れています。

ヒットという得体の知れないものに向かい合ったルポルタージュなので、コンテンツを生み出す側、楽しむ側どちらにも発見がある読み物になったと思っています。 

メディア激変の10年〜スマホとSNSがルールを書き換えた

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という内容の原稿を「クーリエ・ジャポン」のメディア特集に寄せました。

スマホSNSがメディアの世界をどのように書き換え、今はどのような時代で、これからはどういったことがやってくるのか。そういったことを1万2千字くらいで綴っています。

以前書いた「2016年の『メディア進化論』~プラットフォームのニュース争奪戦と伝統メディアの必死の抵抗」よりもう少し時間軸を長めにとっているので、また違ったおもしろさがあるかもしれません。 

2005年以降のプラットフォームやテクノロジーによって駆動されるメディア世界については、もう少し精緻かつ大胆に書けるようにまた切り口を練ってみたいと思います。

 

2015年以降の「メディア激変」を統括する

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 (内容とはまったく関係ありませんがお気に入りの写真です)

 

2015年以降の「メディア激変」を統括する、といった内容の短期連載がはじまりました。ブロガーのイケダハヤトさんのnoteマガジンに掲載されるものです(月1ペースで全4回くらいを想定しています)。

個人的にブログでやろうと思っていたテーマなのですが、なかなか今年に入ってからは更新できておらず、ちょうどよいタイミングで依頼を受けたので書いてみました(本当は2005年からのスマホSNSの普及を踏まえた統括がしたいのですが、時間的にむずかしく、いつかどこかでできたら……)。

第1回は2万字超になってしまいましたが、毎回1万字は超えるくらいになるだろうと思っています。メディアやコンテンツ、プラットフォームなどに関心のある方や、最近の潮流を一気に押さえておきたい方にとって少しでも参考になれば幸いです。

第一回:2016年の「メディア進化論」~プラットフォームのニュース争奪戦と伝統メディアの必死の抵抗

https://note.mu/ihayato/n/n13b60529f3bf

ユーザーに嫌われる「ツイッター字数制限1万字」がメディアを救うか?

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文字数拡大はスクリーンショットがきっかけ?

Twitterの文字数制限が1万字に拡大か」といった報道が出ていました(初出はRe/code)。実装するとなれば、早くとも3月あたりになるそうです。

2015年9月にも一度、140字の文字数制限を撤廃するというニュースが流れましたが、ポジティブな反応はかなり少なかったように思います。

今回の報道に対しても同様でした。

そんななか、ジャック・ドーシーCEOは長文テキストのスクリーンショットを投稿していました。

ツイッター利用者の行動を見ていくとテキストのスクリーンショットがツイートされており、仮にそれが本物のテキストであれば検索もハイライトも可能になります。このツイートをみる限り、字数制限の拡大の一要因はスクリーンショットだと捉えることもできます。

わざわざリンクに飛ばす意味がなくなる

昨今のメディア環境では、分散型――ウェブサイト外(ソーシャルメディアやアプリ経由)でのコンテンツ閲覧――がふつうになりつつあるなか、スクリーンショットもそうした動きを加速させています。

バズフィードは2014年12月に「The Rise Of The Screenshort™」という記事を公開している。多くのツイッターユーザーがテキストのスクリーンショットを投稿するようになったというものだ。

テキストを140字に制限したツイッターで情報の共有手段としてスクリーンショット(画像)が使われるという流れは興味深い。となると、ウェブページの「リンク(に飛ばすこと)」についても問い直す時期なのかもしれない

(「これからの報道に自社サイトは必要なくなるのか? 脱中心・分散型メディアの可能性」より)

ただ、スクリーンショットが増え、その影響が大きくなったからといって、ここまで大きな機能変更をおこなうのかというとやや疑問が残ります。

フェイスブックとスナップチャットへの対抗策

そこでいろんな意見を見ていくと、納得感のあるツイートに出会いました。

2015年はフェイスブックの「Instant Articles」やスナップチャットの「Discover」が発表され、流通の勢力図が見えた1年でした。それらのサービスにはすでに数十の大手・新興メディアが参加しています。

一方のツイッターはニュースタブの設置やキュレーション機能の追加にとどまり、決定打がありませんでした。そこで文字数制限を拡大し、メディアと提携したうえで、コンテンツ(記事)をホスティングする狙いがあるのではないか、というのが上記ツイートの指摘です。

関連する動きとして、同じく2015年にグーグルがモバイルでのWebページ読み込みの高速化を目的とした「Accelerated Mobile Pages(AMP)」を発表しました。ツイッターや大手メディアが参加しています。

これを踏まえてホスティングサービスを開始するとしても、媒体社をパートナーに迎えるためには、どのような収益モデルなのかも重要です。特にどのように広告を表示して媒体社に売上を還元していくのかは課題となるでしょう。

ところで、2015年のピューリサーチ調査によれば、ニュース取得のためにツイッターを利用する人が63%、フェイスブックと比べて速報ニュースに強みを持っていることが明らかになっています。

今回の1万字への拡大計画が実現すれば増えるだろう長文テキストは速報ニュースとは違う性質なので、ツイッター利用者としても気になるところです(報道によればフェイスブックのように「続きを読む」形式だそうですが)。

今回報道のあった「ツイッター字数制限1万字」の計画はツイートを(投稿したり読んだりすること)目的とするユーザーにとっては不必要かもしれません。それでも、媒体社からすればフェイスブックとスナップチャットに並ぶコンテンツ流通・新規の読者開拓の新たな場所となる可能性を秘めているのではないでしょうか。

流通の勢力図が見えたメディア業界、2016年は「融合」がキーワード?

「いま、新聞などジャーナリズムが危機にあるのは、ユーザー体験を考え抜いたサービスがないからだ」

こんな声を聞いたのは、2015年8月にオランダに渡り、メディアを取材したときのこと。発言の主は、「Blendle(ブレンドル)」というプラットフォームの国際担当だ。どういうことか?

「若者はコンテンツにお金を払わない」を覆す

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(ブレンドルのトップページ)

端的にいえば、無料コンテンツが大量にあふれたとしても、ユーザーの利便性にかなったサービスがあれば、有料モデルは機能するということだ。

たとえば音楽をみたとき、多くの人がYouTubeを通じて無料で音楽を聴いている一方、聴き放題サービスの代表例「Spotify」には7500万人以上のアクティブユーザー、2500万人以上の有料ユーザー(月額9.99ドル)がいる。iTunesで音楽を買う人だっているだろう。

ブレンドルはまさにジャーナリズム業界に現れたiTunesだ。創業者含め20代中心のチームでつくられている。

若者はコンテンツにお金を払わない――。ブレンドルはそんな根強い定説をユーザー体験の考慮によって覆そうとしている。

すでにオランダの主要媒体がすべて参加しており、そこで記事を1本1本ワンクリックで購入できる仕組みを提供している。広告はブロックされる時代に少額の課金のハードルを設けるのはありだろう。

また、各新聞や雑誌のWeb版のペイウォールにいちいち登録するよりも、ひとつのプラットフォームで記事の購入や閲覧を済ませることができれば、それに越したことはない。

極め付けは、一度買った記事を「返品」できることだ。「どうせ返品できるなら、買ってみようかな」と思えれば、記事を買う体験ができる。最初からペイウォールで月1000円となれば、少しの思い切りが必要だ。

また、著名人やキュレーターが記事をおすすめし、友だちが買った記事もわかるため、ソーシャルの結びつきから記事の購入にもつながることがある。これは紙媒体ではできなかったことだろう。

ブレンドルのように、記者やジャーナリスト自身がユーザー体験の向上をカギとして、Web時代におけるジャーナリズムの持続可能性を考えることが重要になる。

実際、そうして運営されるブレンドルで購入される人気記事は調査報道やロングインタビューといった「ちゃんとした」ものなのだ。

流通をめぐる話題・議論が多かった2015年

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(Instant Articles参加メディアの一部)

2015年を振り返ると、「どう」届けていくのかという議論が盛んだった。要するに強大な力を持ちすぎたプラットフォームに引きずられた、流通をめぐる環境の話が多かったのだ。

フェイスブックの「Instant Articles」やSnapchatの「Discover」、アップルが「Apple News」のいずれも今年発表された。でも、そこにどんな「ニュース」が流れるのか、という話はほとんど上がらなかった。

2016年は、どう届けるのかという環境が整ったうえで、「だれが」「なにを」という議論が活性化するのではないかと思う。コンテンツの外側の議論はそれはそれでワクワクする。

しかしながら、なぜメディアをやるのか、なぜそれを伝えるのか。「広く浅く」のメディアから「狭く深く」もしくは「広く深く」のメディアが盛り上がり、よりメディアやジャーナリズムをめぐる本質な方向に動いていく年になるだろう。

2016年、さまざまな「合流」や「融合」が起きていくと思う。

大企業とスタートアップの協業や買収などによる人材やカルチャーの合流、マネタイズでいえば広告と課金、広告とイベント、課金とコミュニティなど手法の融合、紙とWebの融合……2015年に流通の勢力図の見通しが良くなったからこそ、2016年の具体的な中身をめぐる議論に注目したい。

 

2015年、いちばん印象強くエグられた記事/佐藤慶一 #HyperlinkChallenge2015 #孫まで届け

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みんなの「これだ」という1本が知りたい

先日、「北欧、暮らしの道具店」の長谷川賢人さん、「サイボウズ式」の藤村能光さん、「隠居系男子」の鳥井弘文さんとWeb編集者飲みをしているなかで、誕生した企画が「ハイパーリンクチャレンジ2015」です。ひとことでいえば、Webコンテンツのアワードになります。

特にSNSが普及して、記事に接する機会は増えましたが、以前に見た記事を思い返したり、ストックとして整理したりすることはあまりないように思います。そこで、いろんな人が印象に残った記事を1本挙げていったらそれ自体おもしろく、また、ストックとしても意味があるものになるのではないかというわけです。

ハイパーリンクチャレンジ2015 開催概要

【開催趣旨】
SEOでは計れない、価値がある。」
「ウェブだって、すごいんだぞ!」
「ウェブメディアだって、むくわれたい。」

現状ではウェブメディアに対するアワードがない。しかし、作り手は日々葛藤しながら多くのコンテンツを作り出している。それらが時代の流れに乗って刹那的に消費されるだけではなく、その年ごとの記録を残すことで、資料的価値を持たせる(映画の「日本アカデミー賞」、ユーキャンの「流行語大賞」、書店員が決める「本屋大賞」をあわせもったイメージ)。
アワード形式にすることで、担当編集者・ライターを表彰することも目標のひとつ。

【概要】
・その年(前年12月〜本年11月)までに公開されたウェブコンテンツから印象に残った記事を2本だけピックアップする。1本は自らが執筆・制作に関わった記事、もう1本は他媒体で公開された記事とする。
・参加者はそれぞれの記事を選んだ理由を、ブログやSNS等にまとめて発表する。選考した理由もあることが望ましい。また、次にチャレンジを受けてもらいたい人物、印象に残った記事を聞いてみたい人物も2人〜3人程度指名する。なお、指名がなくとも、開催趣旨への理解があれば自発的な参加も歓迎する。
・記事制作後、次のハッシュタグを付けてTwitterにて報告ポストを投稿する → #HyperlinkChallenge2015 #孫まで届け
・なお、「孫まで届け」には、いずれ日本のソーシャルヒーロー孫正義さんまで参加してくれたら嬉しい、孫の代まで読まれていきたい、参加していただいた方に“ソン”はさせない、という気持ちが込められている。
・投票は、12月20日を持って集計〆切とする。

評議会
本年は(言い出しっぺの)下記4名により評議会を開催。有効得票数による部門別アワード(※予定)と、印象に残ったコメントをピックアップして(何らかの形で)報告する。
長谷川賢人
・藤村能光
・鳥井弘文
佐藤慶一 

今年いちばん印象に残った記事

ぼくが選ぶのは、慎泰俊さんがnoteに書かれた「歯」という文章です。

ぼくは 「うんうん、わかるわかる」という感じよりも、「(いまの自分では)わかるようでわからない」文章が好きです。この文章は、まずたった1文字のタイトルで惹きつけられ、淡々とした筆致で徐々に引き込まれ、最後まで読んでしまいました。

(独身の)いまはこの文章の意味をうまく捉えることはできないけれど、結婚したり子どもを持つようになったりすると、じわじわと自分のなかに吸い込まれてくるのではないかと感じました。数年後も読み返すことになりそうです。未読の方は、完読すると違和感なのか共感なのかそれ以外なのか……なにか強く感じるものがあると思います。 

上の記事を選ぶ際に、最後まで悩んだ記事も箇条書きで共有します。以下のどれも、それぞれのかたちで強く印象に残っています。

自分が関わったなかで、いちばん印象に残っている記事

自分が書いたなかでは、夏にオランダのメディアに取材にいったときのことが印象に残っています。全部でレポートを4本書いたのですが、「無料情報があふれても、若者は記事を買う! ジャーナリズムに足りない「ユーザー体験」の考慮 「Blendle」国際担当に聞く」を選びます(現代ビジネスの設計上、会員以外は1ページ目しか読めないようになっています、、、)。

20代のジャーナリストたちがテクノロジーを味方につけながらジャーナリズムを持続可能にしようと取り組む姿がとてもカッコよかったです。また取材に行きたいです。ほかのオランダ取材レポートは以下になります。

このブログでいえば、自分の原点を見つめ直す「『メディアの輪郭』のつくりかた——リサーチをはじめた理由とこれまでを振り返る」というエントリーが印象に残っています。海外メディアに詳しくなった背景には、地方、途上国、NPOでのそれぞれの原体験があることを書き記しました。

今年印象に残った記事を聞いてみたい3人

一人目は、「ギズモード・ジャパン」元編集長でいまは「healthy living」という新メディアを準備中の大野恭希さん。Web編集者として先輩ということもありますが、なによりガジェット好きな大野さんの1本はぼくが見えていない領域になんじゃないかと勝手に予測しています。ちなみに、新メディアやコンテンツマーケティング支援に向けて編集者などを募集しているとのことです。

二人目は、牧浦土雅(ドガ)くん。途上国や教育分野での活躍のほか、ニューズピックスのプロピッカーのひとりとしても知られています。ただ個人的にはそういった派手目な側面よりも、彼が毎日、地道に大量の情報を収集していることにいちばん注目しています。そんなドガくんのチョイスはまったく予想できません。

三人目は、三宅瑶ちゃん。 インドにいたり、タイにいたり、渋谷にいたり、いまはなにをしているか詳しくはわからないのですが、言葉へのこだわりとか広告への関心とか好奇心の強さとか、自分にはない視点や姿勢が素敵だなあと思うので、ぜひ1本選んでほしいです。

突然振ってしまいましたが、もしご興味があれば参加してくださるととても嬉しいです(お忙しいなかすみません...!)。現状、「ハイパーリンクチャレンジ2015」にはすでに多くの方が参加してくださっています。

もちろん、自主的な参加も大歓迎です。ブログでもツイートでもお気軽に投稿していただけたらと思います(この企画が始まってから、想像をはるかに超えて、いろんな方の印象に残った記事を知るのはとても刺激的だと実感しています)。このブログをここまで読んでくださった方は、ぜひ「これだ!」という1本を教えてください〜。

ショートカット化する日本/ムダも余裕も隙もない"最適化"社会へ

大人になってから、「最初はパー」で勝ち急ぐ人はめっきり見かけなくなりました。勝負は目の前の瞬発的なものだけでないと気付いてくるからかもしれません。

ふとそんなことを思いながら家まで歩いて帰る途中で、2015年ユーキャン新語・流行語大賞の候補語50語が発表されたことを知りました。公式サイトによれば、選ばれる基準はある程度定まっているようです。

1年の間に発生したさまざまな「ことば」のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶとともに、その「ことば」に深くかかわった人物・団体を毎年顕彰するもの。(新語・流行語大賞より)

スマホの画面でサイトにアクセスし、ランダムに目に入った50語。そのいくつかには規則性があるような気がしました。違和感というかつっかかるようなものを明確な理由もなく感じたのです。

  • ドラゲナイ
  • はい、論破!
  • 結果にコミットする
  • I AM KENJI
  • I am not ABE
  • レッテル貼り
  • 早く質問しろよ
  • とりま、廃案
  • ミニマリスト
  • ルーティン
  • フレネミー
  • おにぎらず

全部をいちいち取り上げませんが、「はい、論破!」「とりま、廃案」にはこの先のコミュニケーションを想像するのが難しいですし、「レッテル貼り」「I am not ABE」などは勝手に相手や自分の性質や立場を決めてイメージが固定されてしまう。「早く質問しろよ」というのもなんだか決められたプロセスを最短距離で行きたい思惑がみてとれます。

「結果にコミットする」「ルーティン」なんかも無駄のない動きを定める必要性、「ミニマリスト」は持たない暮らし。「おにぎらず」は握らないおにぎり。握るプロセスを省いても見た目がいい感じになります。クックパッドも「時短和食の新定番」とするほど。1991年に『クッキングパパ』で紹介されていたレシピなのにこの2015年に多く流れる言葉になったのは、いまの社会を反映していると思いました。

こういった言葉やそれを通じたコミュニケーションが凝り固まり、最適化されていくなかで、先日取材したライターの武田砂鉄さんの言葉が頭に残っています。 

「文章を書くうえで、こうやったら読者にわかりやすいだろうと、交通整理をしすぎるべきではない、と感じています。誰しも自分の頭の中で考えていることは混沌としているし、その瞬間ごとに飛躍を繰り返しているはずです。今回の本では、その変化をそのまま文章に落とし込んでみる方法を探索しました。

読む人に配慮して、サービス精神ばかりが目立つ文章は、尖っている言葉を丸くする行為にも思えます。『これくらいなら分かってくれるでしょ』と読者をナメていると感じることも多い。世の中にいたずらにあふれる言葉を考察するこの本では、考察を展開していくときに、『1』の次に必ずしも『2』が来ないような構成を徹底しました」(武田砂鉄さん)

武田砂鉄と藤原新也が語る「わかりやすさ」への抵抗感 〜現在を躍進させる「言葉」を取り戻せ! | 現代ビジネス [講談社]

フラット・シェア・オープンといったネットの特徴のもとに設計されたメディアは浅く広くページビューを獲得してきましたが、最近では「狭く深く」に向かう雰囲気があるように思います。これまでネット時代に築かれてきたビジネスモデルから脱却することで、そのような新しいメディアの姿も生まれてくるのでしょう。

今回の新語・流行語大賞の候補語を知ったとき、なんだか窮屈な気分がしました。

新しい言葉や今年受容された言葉を讃える賞があるならば、「代理店が一生懸命流行らせようとしたけれど流行らなかった言葉大賞」みたいな賞があってもいいかもしれません。半分冗談ですが、もう少し言葉についてしつこく考え、ムダも余裕も隙も許容されるような(むしろそれらが楽しい)社会を想像していきたいと思いました。

日本版バズフィード編集長が発表されたけれど、他国版の編集長は一体どんな人たち?

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10月16日、日本版バズフィード(媒体名は未定)の創刊編集長に元朝日新聞記者の古田大輔さんが就任したことが発表されました。リリースは今冬を予定。古田さんは東南アジア特派員、シンガポール支局長を経て、朝日新聞デジタルの編集者になった人物。「withnews」でニュースアプリやネットメディアについて精力的に取材・執筆をされていました。 

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(日本版バズフィード創刊編集長・古田大輔さん)

伝統的なメディアの最良の部分とインターネットの文化やテクノロジーを融合させる。そして、良質なニュース&エンターテインメントを世界中のより多くの人々に提供し、シェアしてもらう。これがBuzzFeedの目標です。日本の編集部から国内のみなさんにコンテンツを届けるだけでなく、世界にも発信していきたいと思います(古田さんのコメント)

バズフィードは、月間訪問数2億人を数え、動画の再生数も月間15億回を超えるネットメディア。プレスリリースには「オリジナルニュース、エンターテインメントコンテンツやビデオコンテンツの制作、配信を行うグローバルメディア企業。広告の領域においても、ソーシャルメディアへの最適化とテクノロジーに基づいたコンテンツ重視の制作方針を明確にし、新しい広告のあり方を提唱しています」と書かれています。

2006年の創刊以来、バズフィードはアメリカ、イギリス、オーストラリア、ブラジル、カナダ、ドイツ、スペイン、フランス、インド、メキシコに展開。バズフィード編集長はポリティコ出身のBen Smithさんです。おかげでネコ記事やリスト記事が多かったバズフィードにニュース記事が増えていったのです。

このブログ記事では、世界に広がるバズフィードの各国編集長(Founding Editorや地域によってはEditorを含む)がどんな人たちなのかを見ていきたいと思います。

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バズフィードより)

イギリス:Janine Gibson 

2015年6月、イギリス版編集長に就任したのが元ガーディアン米国版編集者のJanine Gibsonさん(1972年生まれ)です。ガーディアン時代にはスノーデン報道にもかかわっていました。

イギリス版自体は2013年3月のスタートでしたが、編集長を置くことで多くの読者を取りに行く、グローバル展開への注力が明らかに見える発表でした。編集長就任時にイギリス版は月間1800万訪問数という規模感です。50名ほどのスタッフをたばねる編集長が女性というのがいいですね。

オーストラリア:Simon Crerar

2013年9月にオーストラリア版編集長となったのがSimon Crerarさんです。News Corpオーストラリア版にてビジュアルストーリーエディターからの転身です。紙もネットも経験しています。

ちなみにオーストラリアは人口2300万人ほどのうち、フェイスブック利用者が1400万人を超えており、この高普及率から、バズフィードと相性のよい国ということができそうです。

ドイツ:Juliane Leopold

イギリス版に続いて2014年にローンチしたドイツ版も女性編集長です。Juliane Leopoldさんは、ドイツ最大規模の週刊紙「Die ZEIT」のオンライン版「ZEIT ONLINE」にてソーシャルメディアエディターを務めていた人物。ドイツ版の規模は月間300万訪問数を超えています。

フランス:Cecile Dehesdin

フランス版編集長も女性。さらには20代です。ルモンドやポリティコなどのインターン、Slateのフランス版などを経てバズフィードへ。フランス版は現状、およそ月間200万訪問数です。

カナダ:Craig Silverman

2015年4月にカナダ版の編集長になったのがCraig Silvermanさん。コロンビア大学のジャーナリズム研究機関を経て、メディア好きにはおなじみのメディア「Poynter」などにも寄稿しています。『Mafiaboy』『Regret the Error: How Media Mistakes Pollute the Press and Imperil Free Speech』などの著書もあります。

スペイン:Alfredo Murillo

スペイン語版の創刊編集長はAlfredo Murilloさん。Hail! Popというカルチャーサイトの編集をしていた人物です。バズフィードではスペイン語版のローンチをすすめる一方で、南北アメリカ大陸やカリブ海などスペイン語圏に向けてサイトはすでにあります。

このリージョナルディレクターを務めるのは、Conz Pretiさん。1983年生まれの女性です。コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールを終了後、UnivisionやMashableなどのニュースサイトで経験を積みました。

メキシコ:Javier Aceves

2015年3月からメキシコ版の創刊編集長にはJavier Acevesさんが就任しています。コピーライター、編集者、コンテンツディレクター経験をもち、フリーランスとしても長く活動してきました。ヴァイスなどでもコラムを書いているとのことです。

ブラジル:Manuela Barem

ブラジル版は2013年からあり、語学学習プラットフォーム「Duolingo」を活用して運営されてきました。いまでは新聞社「Jornal O Estado de Mato Grosso do Sul」やいくつかのネットメディアで経験を積んだManuela Baremさんが編集長を務めています。そんなブラジル版はアメリカ版とイギリス版に次ぐ規模感だそう。

インド:Rega Jha(editor)

インド版の編集をしているRega Jhaさん。20代半ばの女性編集者として、バズフィード以前にはコンデナストやTime Out New York、The New Yorkなどでインターンを経験するなどうらやましい経歴です。

インドはハフィントンポストやクオーツなども進出しているほかScoopWhoopなど有力なバイラルメディアも出ています。もちろん人口が多いですが、それだけ各社が読者を取りにきている国でもあるのでバズフィードがどのように展開するのかも調べてみたいです。

 

以上、アメリカ含む10カ国の編集長/編集者を紹介しました。バズフィードのアクセスの半数ほどは米国以外からというデータもあります。引き続き、今後の国際展開(中国やナイジェリアには進出するそうですが)に注目したいです。

コンデナスト社、音楽メディア「Pitchfork」を買収〜若い読者と新しい収益源を求めて

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驚きました。

ファッション誌『Vogue』『GQ』やテクノロジーカルチャー誌『WIRED』などをもつコンデナスト社が音楽メディア「Pitchfork(ピッチフォーク)」を買収したのです。

1995年にひとりの高校生の手によってスタートしたピッチフォーク。当初はレビューからはじまり、ニュースやインタビュー、特集、フェス、さらに2014年には紙媒体も発行するまでになりました。

20年目を迎えるにあたって、コンデナストに合流したピッチフォークの特徴や哲学はどういうものなのでしょうか。

ピッチフォークはインディーロックをコアとするメディアだが、ジャンルへのこだわりはない。編集長のリチャードソンは、「何を取り上げるかの基準はあるようでない。自分たちの勘に従っている」と語る。現在1カ月に100枚ほどのアルバムを取り上げるが、そのジャンルはブラックメタルからヒップホップ、ジャズ、フォーク、エレクトロニカと多岐にわたる。そしてほかの音楽メディアにはない強みとして以下の3つを挙げる。「インディペンデントなマインド、それぞれが高い専門性をもちながらも自由なマインドをもった書き手とスタッフ、そしてテキストのレヴェルの高さだね。ある作品を批判的に取り上げるときでも、ちゃんとエンターテイニングに書けるのが強みだよ」。

現在ピッチフォークは40人ほどの書き手を抱えている。3年ほど前に一般公募した際には、5,000人もの応募があったというからそのレヴェルの高さがうかがい知れる。ただ、専門性は高くとも専門化はさせない、というのが彼らのスタイルだ。「いまの読者はジャンルにもはやこだわらない。インターネットの時代になってそれはますます加速している。ぼくらが理想としている読者は、あるひとりのアーティストや特定のジャンルではなく、音楽全体で起こっていることに興味があって楽しめる人だね。メタルだろうが、ヒップホップだろうが、そこでいま起こっている面白いものに首を突っ込みたくなる、そういう『音楽ギーク』であってほしいんだ」。

アメリカでは現在毎月2,000もの作品がリリースされているという。その膨大な音楽の海から毎月100枚をセレクトし評価することで、リスナーに選別の基準を与えることがメディアのひとつの役割、とリチャードソンは言う。

(中略)

 「ぼくらにとって理想のレヴュー記事というのは、その作品を聴いたあとに読んでも意味のある記事なんだ。単によし悪しを評価するだけでなく、その音楽を聴いたリスナーに、自分では気づかなかったような発見をもたらす。これはリコメンエンジンやアルゴリズムにはできないことだと思う」

理想の音楽レヴューとは何か? 「Pitchfork」編集長が語る音楽メディアの未来

世代によって移り変わってきた音楽メディア。ローリングストーン誌、スピン誌ときて、現代(ミレ二アル世代の)ピッチフォーク。Similarwebによれば、月間訪問数は約1000万人です。

このメディアの編集の妙による「世代を代表する声」に集まってきた熱狂的で若い男性読者。これが今回の買収のひとつの理由でもあるようです。つまり、『Vogue』『GQ』など女性メディアでは大成功してきましたが、若い男性読者を捕まえられていなかった。そこにハマり、かつ強力なブランドをもつ貴重なメディアがピッチフォークだったのではないでしょうか。

コンデナストはこれまでもさまざまなイベントやカンファレンスを開催し、近年ではロンドンにファッション・スクール「Condé Nast College of Fashion & Design」を構えるなどウェブだけにとどまらない収益化を図ってきました。

そして今回のピッチフォーク買収。音楽フェスは媒体の存在感やブランドを高めるとともに、強力な収益源になります。多ブランドをもつメディアカンパニーとしては、テクノロジードリブンでもあるVox Mediaと比較されますが、両者については引き続き目を向けるべきでしょう。

スナップチャットはメディアをどう変えるのか?

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(photo credit: Snapchat via photopin (license)

今年8月にニュースレターをはじめました。まだたった5通ですが、500名弱の方々が受け取ってくださっているようです。改めていまだに多くの人が使うメールというメディアのおもしろさを実感しています。

今回はそんなニュースレターから「スナップチャットはメディアをどう変えるのか?」という4000字コラムを転載します。今後は徐々にニュースレターに移行していけたらなあ、と考えています(もちろんブログもゆるく続けていきますが)。 

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スナップチャットは(アメリカ)メディアをどう変えるのか?

これは個人的にいちばん気になっているトピックです。しかし、日本で流行ってないこともあるのか語られることがほとんどありません。スナップチャットは2011年にスタートした、写真や動画を送ることができるメッセージアプリ。送信者が10秒以内の閲覧時間を設定、受け手はその時間以上コンテンツを見ることができないのが特徴です(後述しますが「リプレイ」機能はあります)。

毎日1億人以上が利用し、月に40億回の動画再生がおこなわれるスナップチャットのCEO・エヴァン・シュピーゲルはなんと1990年生まれ(同じ年というのが恐ろしいです!)。今年は「Forbes 400」入りし、世界最年少のビリオネアとなっています。

そんな新世代がつくる革新的なサービスについてくるのはやはり若者です。comScoreの調査によれば、ユーザーの71%が18〜34歳。それでも少しずつ上の世代は増えているようです。こういったユーザー状況にも合わせるように、瞬間的なメッセージのやりとりに加えて、24時間だけ友人にコンテンツを公開できる「Stories」といった機能もできました。

1メディアに1日100万人が訪問

スナップチャットの概要を簡単に紹介しました。いまメディアが気にかけなければいけないのは「Discover」という機能でしょう。今年1月にはじまり、各メディアのコンテンツが24時間限定で閲覧できるページです。

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現状、バズフィードやCNN、ヴァイス、ナショナル・ジオグラフィックなどWebメディアや雑誌、放送ネットワークなど新旧かつ多様なジャンルから14媒体集まっています(フェイスブックによる記事のホスティングサービス「インスタント・アーティクルズ」は30媒体以上が契約。最近ではワシントン・ポストがすべての記事を載せることを発表)。

たまにDiscoverを使っているのですが、記事や動画を超えて新体験といった感じで、「記事とはなんだったのか」みたいなことを思ってしまいます。観ているとちょくちょく動画広告が入るので、すばやくスワイプでかわしていきましょう。

AdAgeによれば、Discoverのなかには1日平均2.5個の広告が入っているようです。リンク先の記事には、参加媒体のストーリー数と広告数のグラフがあるので関心ある方はぜひ見てみてください。媒体社のコンテンツは1日平均110本とのこと(各社で1日5〜17個と幅があります)。

1媒体あたりの訪問数は1日100万人ほどですが、チャンネルを見てみると媒体によって力の入れ具合がクオリティに良くも悪くも反映されていると感じます。これにはスナップチャットに特化したコンテンツを制作できる人材が(特に大手)メディア側にいないからでしょう。

バズフィードのアクセス、5分の1がスナップチャット経由

そのため、企業やメディアではまずはスナップチャットに慣れ、使いこなせるようにがんばっているようです。ツイッターフェイスブックにも効果的な使い方などについての講座や研修があるように、スナップチャットにも同じ流れが来ています。

チームがSnapchatを完全に理解することができるようになる方法について私は考えた。

そして思いついたのが、会社で「Snapchatデー」を開催することだった。1営業日のメール、IM、チャット、テキストメッセージ、Trelloでのコメント、Githubのバグ対応、更には電話も含め、全ての社内コミュニケーションを禁止した。代わりに、全ての社内コミュニケーションをSnapchatで行うのだ。

「Snapchatデー」の出だしは困難なものだった。Snapchatは、効率的な社内コミュニケーションツールとして設計されていないことは明らかだし、それを実感した。ただ、一日の半分が過ぎたころには、チームの全員、このプラットフォームでのメッセージの送受信が上手くなり、操作方法をある程度学ぶ必要のあるインターフェースの基本的な使い方を覚えていた。Snapchatでどのようにバグ対応を連絡するかって?コミット画面の写真を撮って送っていた。
(「Snapchatのような最新テクノロジーを理解できない大人がすべきこと」より)

いままでにないユーザー体験をもった「Snapchat」は、利用することでのみ理解を深めることができる。ニューヨーク・ブルックリンに本社をもつヒュージが「Snapchat」研修を従業員に課す理由も、そこにある。同社は今年の夏を「Snapchatに完全に対応するためのシーズン」だと位置付け、社内研修「夏の飛躍の日」に「Snapchat」講習を組み込んだ。また、ヒュージの「Snapchat」のアカウントで、休日の様子を投稿することを奨励した。

ハヴァスでも、同様の取り組みをしている。アプリ内で全米オープンゴルフの無料チケットを入手できる社内イベント「『Snapchat』トレジャーハント(宝探し)」を開催したのだ。

「マーケターとして、われわれは最新のプロダクツやテクノロジーに習熟しておかねばならない」と、ヒュージのソーシャル・ディレクターであるジョー・マカフィー氏は語る。「ソーシャルチームの全員が、すべてのプラットフォームの専門家になることを期待している」。

BBDOニューヨークでは、この夏にユニークなゲームに興じた。オフィスの全員を「Snapchat」に精通させようと、日々の日課に組み込ませたのだ。「Snapchat」の24時間消えない「ストーリーズ機能」を使って、毎日異なるお題に関する体験談やエピソードを投稿する試験を実施。このテストには100人超の従業員が参加し、最終的に「BBDOストーリーズ」と呼ばれた1本のハイライト映像にまとめあげられた。
(「『Snapchat』研修」を社員に課すエージェンシー。プラットフォーム攻略で主の心を掴む」より

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海外メディアのなかにはジャーナリストやデータアナリストに並んでスナップチャット用のコンテンツをつくれる人材を募集することが増えてきました(Mashableではすでにスナップチャット専任が10名ほどいるそう)。縦型のストーリーや動画への対応に備えて、先述のDiscoverにまだ参加していないメディア企業(たとえばVox Mediaなど)でも人材獲得が急務となっています。

スナップチャットの影響力が上がっていることは、バズフィードの流入経路を見ても明らかです。同メディアCEOのジョナ・ペレッティがRe/codeに明かしたところによれば、27%がフェイスブック動画、23%が直接もしくはアプリ、21%がスナップチャットという順番となっており(グーグル検索はたった2%)、トラフィックの5分の1がスナップチャット経由からなのです。

また、スナップチャットの縦型動画のほうが横型よりも9倍のエンゲージメント率を記録するなど、メディアにとって外せない存在となりつつあります(USA TODAYより)。

動画と若者に強み、収益化が課題

それでも課題はあります。たとえば、企業の動画広告がほぼゼロ秒でも再生カウントされていること。再生数に応じて料金が発生するメニューのため、このビューアビリティ基準については今後議論になるでしょう。ただ、「約70%のユーザーは3秒で動画広告をスキップしている」というデータもあり、個人的には10代を中心としたユーザーたちが3割も視聴完了しているのはすごいと思います。

エンタメ寄りだけでないコンテンツをどれだけ増やして存在感を出していくのかも課題のひとつ。スナップチャットのニュース部門トップには元CNN政治記者を引き抜き、「Live Stories」の動画ニュースを制作・配信に注力しているところです。

Live Storiesは1日に平均2000万回閲覧されるようで、多いときは4000万回再生されるシリーズもあったのだとか(音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」に関するもの)。動画に強く、若者にリーチできるプラットフォームとして、スナップチャットは徐々に社会性も帯びてきています。

ほかのメディアを振り返ってみても、たとえば、ネコのリスト記事やクイズなどで急成長してきたバズフィードは政治メディア・ポリティコ出身のベン・スミスを編集長に迎え、調査報道をはじめとする硬派な側面を強めてきました。フェイスブックのデータを用いて選挙と感情の関係性について特集記事を出していたこともあります。

スナップチャットは2016年の大統領選に向けてニュースチームを強化中です。いまのところ動画再生数でフェイスブック(4月に40億回超え。スナップチャットは9月に40億回超え)に次いでいますが、若者に政治・社会トピックを届けられる場所としてさらに価値は上がっていくでしょう。

ここまでメディアにどのような影響があるのかを見てきました。ただ、今後どのように収益化していくのかはとても大きな課題です。9月にはリプレイ機能を有料化し、さらなる売上を図ります。これまでも1日1回は無料でリプレイできましたが、これからは99セント支払うことで3回リプレイできるようになったのです。

ビジネスインサイダーによれば、年間1億ドルの売り上げも見えてきたとのこと。広告と課金による収益化と新しいストーリーテリングの発明に期待したいです。